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新型コロナで激変する「パラダイム」
世界を襲った新型コロナウイルスは、政治や経済に限らず、文化や社会の在り方まで完全に変えてしまう勢いだ。これまで当たり前だったこと、すなわち「パラダイム」の激変は避けられない。艱難辛苦の世の中だが、前に進むにはどうすればいいのか。そこで今回は、多様な視点でアフターコロナについて考えたい。
世界を襲った新型コロナウイルスは、政治や経済に限らず、文化や社会の在り方まで完全に変えてしまう勢いだ。これまで当たり前だったこと、すなわち「パラダイム」の激変は避けられない。艱難辛苦の世の中だが、前に進むにはどうすればいいのか。そこで今回は、多様な視点でアフターコロナについて考えたい。
コロナ後をめぐる米中の争い
現在、世界中で新型コロナウイルス後の世界が議論されている。それらの意見を総合すると、以下の4つのシナリオにまとめることができる。
(1)米国と中国の覇権争いが継続する「米中新冷戦」の世界。
(2)米国が覇権国として主導する世界。
(3)中国が覇権国として主導する世界。
(4)国際政治学者のイアン・ブレマー氏が主張する、Gゼロの混沌(こんとん)とした世界(=世界の諸問題の解決に責任を持つ国家も組織も存在しない世界)。
武漢ウイルスの発生以降、米国も中国も致命的な失敗をしてしまった。その結果として、米中新冷戦が加速したとも言える。
まず、ドナルド・トランプ米大統領は、自らを「戦時の大統領」と称したが、結果的に「戦時の大統領」としての適格性を欠いていることが明確になった。つまり、科学的な知見に基づかない思い込みのために、ウイルスの脅威を甘く見過ぎて、その感染拡大の阻止に失敗し、米国を世界最大の被害国(4日時点の感染者は約182万人、死者は10万人以上)にしてしまった。

2020年6月5日、米ホワイトハウスでの記者会見に臨むトランプ大統領(右)(ゲッティ=共同)

中国の失敗は2つある。1つは、武漢ウイルス発生初期に情報を隠蔽し、世界的大流行(パンデミック)を引き起こしたにもかかわらず、謝罪をしないで、中国に感謝しなさいという「感恩外交」を展開してしまった。次いで、中国に批判的な国などに対して、プロパガンダを中心とする宣伝戦や「戦狼外交」を展開したことだ。そのために、欧米諸国や台湾をはじめとする多くの国々の怒りに油を注ぐ結果になってしまった。
コロナ後の4つのシナリオに戻ろう。
米国は、国力が相対的に低下し続けているために、中国を完全に押さえて世界をリードするシナリオ(2)(米国が覇権国として主導する世界)の可能性は高くはない。また、中国の致命的な失敗のために、欧米諸国を中心として「反中国の包囲網」を形成しやすい情勢であり、中国が米国などを総合力で圧倒するシナリオ(3)(中国が覇権国として主導する世界)の可能性は低い。
米国と中国のミスにも関わらず、政治・経済・軍事・科学技術力などの点で両国が日本を含む他の諸国を凌駕しているのは明らかだ。そのため、シナリオ(1)(米国と中国の覇権争いが継続する『米中新冷戦』の世界)の可能性は高い。そして、米国が引き続き「アメリカファースト」を貫くと、シナリオ(4)(Gゼロの混沌とした世界)が継続する可能性もある。
日本は、いかなる世界でも「名誉ある国家」として生き延びなければいけない。日本の実力が問われている。(元陸上自衛隊東部方面総監・渡部悦和 zakzak 2020.06.06)