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    コロナ禍克服のヒントは福知山にあり

    新型コロナの第3波は無情にも地方観光を再び苦境に陥らせている。こうした逆境の中で「何ができるか」を模索しているのが光秀ブームに湧く京都府福知山市だ。民間企業が発案した全国初の「非接触自動スタンプラリー」に協力し、官民による実証実験に取り組んでいる。そこにはコロナ克服と地方創生のヒントがある。

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    「民間活力に報いてこそ」福知山市長、大橋一夫が抱く未来志向

    大橋一夫(福知山市長) 福知山市はNHK大河ドラマ「麒麟がくる」の主人公、明智光秀にゆかりが深いことから、福知山城を中心に多くの方々に来ていただいています。その一方で新型コロナ禍に見舞われ、観光誘致と感染対策を並行して行わなければならない事態になりました。 こうした中で、主に自治体PRなどを担う「クロスボーダー」(東京都台東区、佐藤泰也代表取締役)が企画した「非接触自動スタンプラリー」は、観光庁による誘客多角化を目的とした実証事業に採択され、IoT(モノのインターネット)を使って、withコロナ時代に感染防止と誘客を両立させるという日本で初めての取り組みということで、非常に期待をしています。 事業は2020年12月~21年1月末ですが、スタートまでの期間が非常に短かった中で、クロスボーダー社をはじめ、関係する民間事業者の方々の尽力で実現でき、大変感謝をしています。 コロナ禍は、いずれは終息するとは思いますが、今回の事業は新しい生活様式におけるツーリズムの手法の一つになっていくでしょう。 最も評価している点は、スマートフォンにアプリをダウンロードして実施する方法は事例があるでしょうが、貸与された専用カードだけで可能という簡便さですね。スマホやアプリと言われても、高齢者のみなさんの中には対応できない方もおられるだけに、子供も含めて気軽に参加できますからね。 ですから、このシステムをきっかけに、多数ある福知山の魅力を一人でも多くの方々に知っていただきたい。特に福知山は肉やスイーツを中心に良質な商品を提供する事業者が多く、きっと満足していただけると自信を持っています。 また、ただ来ていただくだけでなく、魅力を発信してもらい、地元の特産品などのEC(電子商取引)などに派生するといった、経済効果にも期待しています。 要するに民間活力によって地方経済の活性化を実現できれば非常に理想的なわけです。当然ですが、行政だけが全部丸抱えできることは限られますし、これからは民間の力と知恵を借りなければ真の対策はできません。 街づくりというものは、行政が旗を振って先頭を進んでいくのではなく、市民のみなさんが頑張ろうとするその意志にしっかり寄り添うことが重要です。今回の非接触自動スタンプラリーもそうですが、民間活力が貴重かつ不可欠なんです。「非接触自動スタンプラリー」や地方創生の在り方などについてインタビューに答える福知山市の大橋一夫市長=2020年12月、同市役所(西隅秀人撮影) 福知山市だけの問題ではありませんが、今、地方は大変厳しい状況です。人口減少を筆頭に、気候変動問題のほか、コロナ対策は喫緊ですね。ただ、福知山市は基礎自治体ですから、医療や介護、子育てといった福祉、それから教育施策の充実などが要諦であることは間違いありません。こうした中で、福知山市にはたくさんの強みがあります。抜群の地の利 特に福知山市は、「教育の町」としてやってきた一面があり、現在、私立高校3校、公立高校3校と高校は計6校、さらに福知山公立大学があります。大学の設置者は市ですが、2020年から情報学部を開設するなど、教育に関わる環境が充実しています。また、医療分野に関しても、重篤患者に高度医療を提供できる三次救急を担う市民病院もあります。 一方で、雇用面に関しても、国内有数の内陸工業団地があります。そもそも福知山市は交通の結節点として発達してきた街で、京都はもちろん、大阪や神戸といった都市部に1時間半ぐらいあれば行けるという地の利は抜群です。 そして、何より大河ドラマ「麒麟がくる」の舞台としても注目されている点ですね。光秀は福知山にとっては善政をひいた良君という評価ですが、その光秀が福知山の街づくりの礎を築いてくれたという歴史があります。 シンボルとなる福知山城の来場者は、当然ながら大河ドラマが決まってから急増しました。もともと、福知山城の天守閣は、市民のみなさんによる「瓦一枚運動」で再建された経緯があり、自分たちの街を自分たちで盛り上げていくマインドがあるんです。 こうした中で、目下の課題はコロナ禍による経済低迷をどう克服するかは言うまでありませんが、大河ドラマブームが去った後、どうやって魅力を維持し、発信していくかも重要になります。 これはまさに地方創生をどうやって現実的なものにするかということにつながります。そして福知山の強みも説明しましたが、魅力については、実は市民のみなさんも気が付いていない部分も多々あるんです。 どこでもそうですが、自分たちの日常というのは、市民からすれば当たり前ですが、外部の人たちから見たら意外にも大きな魅力だったりするんですよね。こうした部分をもう一度見直して、磨き上げていくことが必要だと思っています。NHK大河ドラマ「麒麟がくる」ブームで来場者が絶えない福知山城=2020年12月、京都府福知山市(西隅秀人撮影) 今回の非接触自動スタンプラリーに賛同してくれた店や施設を中心に、福知山には「名店」「名所」といえる優れたものが多数あるんです。例えば、長年続けてきた店などは、伝統を守っていながら、常に新しいものを創造し続けています。「もうこれでいいや」という発想はなく、時代に合わせて改良や新しいものを模索しているわけです。こうしたチャレンジ精神が持続している秘訣でしょうね。「弱み」も浮き彫りに 今の時代に前例踏襲主義ではやっていけません。コロナ禍もそうですが、環境の変化やそれに伴うリスクなどを乗り越えて初めて持続可能になります。要するに、しなやかで強靭な街づくりが求められているということです。 ですから、実証実験として実施した今回の非接触自動スタンプラリーは、その分析結果に応じて、福知山のウイークポイントはどこにあるのか、どこに課題があるのかも教えてくれるでしょうね。 例えば福知山城はたくさんの人が訪れたけど、ほかの光秀ゆかりの場所はイマイチだったとか、お店も同じですよね。その理由が、いわゆる距離的な問題なのか、PRがうまくいってなかったのかなどが見えてくると思います。 さらに、今回は観光面でやっていただいたわけですけど、IoT自体は決して観光だけに生かすものではないですから、それが福祉や農業の活性化につながっていくでしょう。非接触自動スタンプラリーは1月末で終了しますが、コロナ禍の経験から、観光分野だけでなくほかの分野での応用も含めて活用を検討したいですね。 先にも触れましたが、そもそも福知山の強みは観光ではなかったわけです。そこに、大河ドラマという追い風が吹いて、さらにコロナという逆風が吹いたわけです。未来というものは、何が起こるか分からない面が大きいですが、今を生きている私たちだけではなく、未来を生きる人たちの両方を考えていくことが必要です。 こうした中で、コロナ禍もあって、ローカルシフトの話がよく言われるようになりました。東京一極集中の解消は本格的になるでしょうね。とはいえ、ローカルシフトといっても受け皿がなくては意味がありません。 そこはまず地方が努力すべきかと思いますが、もう少し国としてもローカルシフトしていけるような形を作っていただきたいですね。当然ですが、地方レベルでできることと、国がやらなければできないことがあります。古くから交通の要衝として栄えた福知山市=2020年12月(西隅秀人撮影) 国が本当に東京の一極集中を排して、ローカルシフトを進めようと思うなら、今このタイミングの中で推進できる政策をしっかりやってほしいですね。そうしていただければ、もちろんですが、われわれも協力や努力を惜しみません。それがコロナ禍の克服や地方創生、ひいては日本の未来のためになるわけですから。(聞き手、編集、iRONNA編集部) おおはし・かずお 福知山市長。1954年生まれ。立命館大法学部卒。裁判所職員として勤務後、2007年4月の京都府議選に出馬し初当選し、3期務めた。その後、16年6月の福知山市長選に無所属で出馬し、現職を破って当選。現在2期目。

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    コロナ対策と観光誘致、相反課題に挑む福知山の「理想形」

     東海道新幹線からJR京都駅で山陰線の特急はしだてに乗り継ぎ、京都府福知山市へ向かったのは2020年12月上旬。福知山といえば、NHK大河ドラマ「麒麟がくる」の主人公、明智光秀が戦国時代に平定した丹波国として注目される地方都市の一つだ。 光秀が丹波国へ向かったとされるおよそ450年前に思いを馳せつつ、車窓から色づいた紅葉を楽しんでいると、1時間20分ほどで福知山駅に到着した。 福知山市を訪れた理由は、光秀ブームだけではない。全国初の観光施策「非接触自動スタンプラリーin福知山」がスタートし、新型コロナ禍に苦しむ地方観光の克服策として注目されていたからだ。 スタンプラリーは本来、観光名所などを巡る過程で、各地のスタンプを押していくものだが、不特定多数が触れる方法はこの時世においては敬遠される。そこで、文字通り「非接触」でやれないかと企画したのが、国内外で地方自治体のPRコンサルティングなどを展開する「クロスボーダー」(東京都台東区、佐藤泰也代表取締役)だ。 「IoT(モノのインターネット)技術を使った日本初の街中回遊ゲーム」として、もともと大規模工場内などで従業員の動きを把握する目的でSocial Area Networks(東京都中央区、森田高明代表取締役)が開発したシステムを、クロスボーダー社がスタンプラリーへの転用を発案した。 これを基に、報道発表やパブリシティ活動など基本的なPR活動に加え、フェイスブックを活用し、福知山のファンづくりを実施したり、管理栄養士が福知山の「食」を解説した記事を投稿したりするなど、「日本初の街中回遊ゲーム」をフックに、訪問できない人にも魅力を伝える工夫を凝らした。特に、福知山市の鹿肉などジビエの流通を拡大するため、Stayway(東京都渋谷区、佐藤淳代表取締役)と連携してネット販売を実施し、観光誘致とともに食も売り込む、コロナ禍における観光プロモーションの一つの在り方を示している。 非接触自動スタンプラリーの仕組みは非常に分かりやすい。JR福知山駅の観光案内所で専用カードを借り(無料)、スタンプラリーに賛同した市内50の店や寺社仏閣を訪れるだけで自動に記録され、各地に設定されたポイントの数が貯まれば、その数に応じた特典がもらえる。京都府福知山市で全国初となる「非接触自動スタンプラリー」スタート前に行われた記者会見。(左から)クロスボーダー取締役の菅原豊氏、Social Area Networks代表取締役の森田高明氏、クロスボーダー代表取締役の佐藤泰也氏、Stayway代表取締役の佐藤淳氏=2020年11月、東京・丸の内(西隅秀人撮影)  注目すべき点は、もう一つ。スマートフォンなどにアプリを入れる方法は簡単だが、特にスマホの扱いが不得手な高齢者にとっては困難だ。カードを所持しておくだけで簡単に参加できるといった利便性も考慮したという。 企画の背景には、光秀ブームに湧き、そのシンボルである福知山城とその関連施設の来場者が急増しただけに、「もう一カ所足を延ばしてもらえないか」という思いもあったからだ。重要なのは「民間活力」 福知山は、光秀ゆかりの地だけでなく、「肉とスイーツのまち」として、その評価は年々高まっている。だが、コロナ禍に見舞われ、感染防止と観光誘致は相反する。とはいえ、せっかくの光秀ブームを生かさない手はない。そこで、相反する二つを同時に実現する施策を模索したわけだ。  こうした視点から企画されたこの施策は、観光庁が推進する「あたらしいツーリズム」の実証事業に採択され、福知山市や各店、寺社仏閣、観光施設などの協力を得て実現することになった。  さらに、コロナ禍克服のヒントとして特筆すべきは、「民間活力」だ。先に触れたように、アイデアやシステム、スタンプラリーの協力店舗など大半は民間である。そこに、観光庁や福知山市といった行政がバックアップするという理想的な関係が構築されている。 福知山市の大橋一夫市長は「街づくりは、行政が旗を振って先頭を進んでいくのではなく、市民のみなさんが頑張ろうとするその意志にしっかり寄り添うことが重要だ。今回の非接触自動スタンプラリーは象徴的であり、民間活力が非常に大切だ」と意義を力説する。 そして最終的に重要になるのは、各店舗の魅力だ。これが欠けていれば意味がない。ただ、大橋市長が自信ありげに語った「市民が頑張ろうとするその意志」の背景にあったのは、まさに個々の事業主のこだわりとポテンシャルにほかならない。 福知山市の中心部にある新町商店街の一角に、カフェ「まぃまぃ堂」がある。こぢんまりとした店内は、電球の明かりがやさしく灯り、まさに癒しの空間といった雰囲気だ。手作りのケーキやクッキーのほか、ドリンクもゆず茶やすももソーダといった自家製のメニューが多数あり、原材料の多くはオーガニック(有機農産物)を使う。 カフェである一方、量販品ではなく個性的な作家による靴や靴下のほか、フェアトレード(開発途上国で作製され、適正な価格で販売して生産者らの生活を守る)商品なども多数販売。また、戦時中の女性を描いた漫画「この世界の片隅に」の作者である、こうの史代さんオリジナルの「おみくじ」など、店内は驚きにあふれている。 このカフェの店主は、地元で生まれ育った横川知子さん(51)だ。東京都内の大学に進学後、大阪府内の大手電機メーカーに就職したが、年々活気が失われる商店街を盛り上げ、子供のころからの夢だった洋菓子店を開きたいとの思いから、12年ほど前、かつて呉服や洋服店だった実家の空き店舗を活用してカフェを開いた。こだわりの商品が並ぶカフェ「まぃまぃ堂」店主の横川知子さん=2020年12月、京都府福知山市(西隅秀人撮影) 横川さんは、「都会の生活は刺激的でしたが、ただ流れていくという感じでしたね。福知山はそこそこ街があって、そこそこ田舎で、山や海も近い。田舎ならではの人と人とのつながりもあり、求め過ぎなければ、本当に住みやすい。お店をやるからには、いろんな方々の役に立つことをしたい」と、福知山の魅力に加え、オーガニックやフェアトレード商品を扱う意義を教えてくれた。「どうやればできるか」 一方、「肉とスイーツのまち」と言われる「肉」のゆえんは、福知山の歴史にある。肉食が一般家庭にも普及した明治末期、市内に「山陰常設家畜市場」が開設され、西日本三大家畜市場の一つとして栄えた。こうした経緯で市内には良質の肉を扱う焼肉店や精肉店が今も多数ある。 「焼肉の高木屋」も昭和35年から続く、肉店が経営する。現在も1階で精肉店、2階で焼肉店として地元客だけでなく、旅行者の人気も高い。 高木屋取締役の高木須万子さん(66)ら地元の食肉業者たちには、ある目標があるという。それは福知山一円のブランド牛「天田牛」の復活だ。かつては自慢の黒毛和種「天田牛」の良質な肉を扱っていたが、経費がかさむことなどから、今は途絶えている。 それでも地元の焼肉店などは、「天田牛」のプライドがあるだけに、現在も良質な肉にこだわりながら、安く提供する店として続けている。高木さんは「何とか天田牛を復活させて、肉のまち福知山を今まで以上に盛り上げたい」と語った。 コロナ禍の現状を見れば、終息が見えず、都市部の店舗はもちろん、人口の絶対数が少ない地方はなおさらだ。だが、だからといってあきらめるわけにはいかない。延期となった東京五輪・パラリンピックの開催に是非があるが、「できないではなく、どうやればできるか」を模索することは重要だ。  これは大打撃を受けている地方観光も同じだろう。それだけに民間の発想と各事業者の努力、そしてそれを支援する行政という、理想的なコラボレーションが福知山で生まれた形だ。福知山城天守閣=2020年12月(西隅秀人撮影) もちろん、非接触自動スタンプラリーは「小さな一歩」かもしれない。だが、その一歩こそが、コロナ禍の克服と、かねてから日本の課題として模索してきた「地方創生」のヒントになるはずだ。 クロスボーダー社でこのスタンプリーを企画した菅原豊取締役は「コロナ禍はいつ終息するのかは分かりません。その中で観光と物産の売り込みなども感染対策をしながら同時にできるように、SNSなどを使って情報を多角的に発信していけるよう企画しました。来ていただける方はもちろん、それが無理な方にはネット販売などにもつながっていければと思います。ぜひ、ほかの地方でも試していただきたい」と呼びかけている。(iRONNA編集部) 

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    JLAA地方創生アワード受賞!若者も惹きつける立科町の本気度

     新型コロナウイルス禍によって社会はあらゆる面でこれまでの常識や価値観が覆され、「新たな生活様式」が定着しつつある。最たるものは「働き方」だろう。長時間で苦痛を伴うラッシュ時の通勤からの解放、勤務時間という束縛、社屋や事務所の不要論といった大転換が起きている。 もちろん、新型コロナ禍による経済的打撃は深刻であり、国力の低下まで懸念される事態だが、まさに「追い風」といえる分野がある。長年、日本が頭を抱えてきた地方創生だ。企業は都市部に事務所を構える必要があるのか、「テレワーク」が可能なら自宅はどこでもいいのではないか。この先、これらの概念が一気に広がるに違いないからだ。 こうした中、まるでこの価値観の変革を予測していたかのような自治体がある。それは長野県立科町だ。 東京から北陸新幹線でおよそ1時間、立科町の中心部は佐久平駅から車で30分ほど。道中、抜けるような青空と特産品の一つであるリンゴ園に広がる赤のコントラストを楽しんでいると、旧中山道沿にあるかつて宿場町として栄えたことを物語る古い建物が目に入ってくる。 立科町は人口約7千人。高原地域を中心に、有名な白樺湖やスキー場など、魅力的な観光資源を有する。高度経済成長期やバブル時代は多くの観光客でにぎわったが、長引く不況の中で、圧倒的な知名度のある軽井沢で観光や避暑目的の人々の足は止まりがちになった。 また、全国の地方の課題であり、立科町だけの問題ではないが、若い世代の進学や就職による流出が続き、少子高齢化が深刻化している。ただ、立科町はこの苦境を漫然と受け入れているわけではなく、若者のUターンや移住、地元産業の活性化など、あらゆる分野で対策に取り組み、その本気度が極めて高い。 その一つが「タテシナソン」だ。元来、地域課題の解決や地方産業の活性化などをテーマに異分野の人たちがチームをつくって提言する「アイデアソン」という取り組みがある。「アイデア」と「マラソン」をかけ合わせたものだが、これを立科町が独自に実行性のあるものにしたのが「タテシナソン」だという。 「アイデアソン」によってさまざまな提言がなされるものの、やはり具体的にそれを取り入れ、活性化につながるケースは少ない。そこで立科町は「リアルガチ」をキャッチフレーズに、実際に地元事業者に経営課題を出してもらい、大学生(高校生も含む)を中心に全国から参加者を募る。実用化することを前提としたうえで、売り上げ増などに寄与することも目的とした施策としてバージョンアップさせた。かつて中山道の宿場町として栄えたことを物語る長野県立科町の街並み(同町提供) 2018年2月に第1回目を実施した際は、白樺高原でソフトクリームなどを製造販売する「牛乳専科もうもう」が名乗りを上げた。近隣自治体の高校生のほか、関西や首都圏の大学生15人が参加。5人一組のチームが28時間(1泊2日)で、事業所などを訪問して実態を把握し、提言をまとめた。永住希望者も 「牛乳専科もうもう」では、夏を中心としたシーズンだけではなく、雪深くなる冬季も含めて年間通じた営業を可能にする対策が課題だった。実際に考案されたアイデアは「飲むヨーグルト」の新規販売やラスクなどのパッケージを牛柄に変更するなど多岐にわたり、実用化した結果、新たなパッケージ商品の販売量は前年比で20%増となった。 同社は創業が1969年ですでに50年を超えるが、牛乳消費量の激減や人手不足などの苦境の中で、乳製品にシフトして事業を持続させてきた。 2代目の同社代表、中野和哉さん(50)は「長年ここで生活しているだけに立科の良さを意識できていませんでした。ですが、学生さんと交流したことで改めて魅力を再認識できたことで、今まで以上に意欲が湧いてきましたね」と振り返った。 「タテシナソン」は、その後も木材建材業者やアクティビティ施設運営事業者の課題に取り組み、すでに計3回実施。2020年はコロナ禍のため中止したが、回を重ねるごとに応募学生は増え、19年9月の第3回は定員20人に、九州や関西、首都圏の学生36人の応募があり、抽選となったほどだ。 こうした実績が評価され、「タテシナソン」は、日本最大の広告会社ネットワークである一般社団法人日本地域広告会社協会(略称JLAA、後藤一俊理事長)が地方自治体の取り組みを表彰する「第4回JLAA地方創生アワード」の最優秀賞に輝いた。 「JLAA地方創生アワード」は2017年に創設され、JLAAの会員社がサポートする自治体のさまざまな施策を表彰。この取り組みは、地方創生関連施策のノウハウが全国的に共有されることを目指している。 ただ、「タテシナソン」の注目すべき点は、事業者支援だけではない。参加する大学生は問題意識が高いだけに立科町での思い出を今後の職業などに生かしてもらう将来も見据える。参加学生たちはいずれ卒業を迎え、大半は就職する。その後、就職企業はさまざまだろうが、「タテシナソン」の経験から魅力を知った若者に何らかのかたちで立科町を活用してもらえれば、人口増や関係人口増につながるといった視点だ。 実際、「タテシナソン」に参加した長野大2年生の山内梨帆さん(20)は、「インバウンド(訪日外国人客)に関して興味があり、ペンション経営などで、外国の方々の受け入れなどに関われるなら、永住して取り組みたい」と語った。「タテシナソン」に取り組んだ長野大の学生たち。後列左から、今西健太さん、山内梨帆さん。前列左から、細田菜々子さん、中村春斗さん、竹花日和さん=2020年10月、長野県立科町(iRONNA編集部、西隅秀人撮影) また、立科町の施策は「タテシナソン」にとどまらない。特筆すべきは、コロナ禍などまったく想像もつかなかった2015年度からテレワークへの取り組みを始めていたことだ。際立つ志の強さ 企業誘致などは現実的に困難なことから、テレワークによる雇用創出を目的に検討を始め、福祉的要素を加えるなどして18年度に総務省の「ふるさとテレワーク推進事業」に認定された。昨年度に立科町の施設でテレワークセンターを開設し、企業進出や住民のテレワーク就労支援が本格化している。 雇用創出といった基幹施策に取り組む立科町企画課の上前知洋主任(39)は「地方の人口減問題解決は非常に難しい課題ですが、コロナ禍で地方が見直されている今、まさにチャンスですね」と意欲を見せた。 そもそも上前氏自身が異色の経歴を持つ。出身は兵庫県西宮市だが、信州大に進学したことで長野県職員として就職した。農林関係の仕事を任じられ立科町に派遣された際、基礎自治体の現場の苦悩を実感。「県庁で政策を立案するより、現場で貢献したい」という思いから県職員を辞め、正規試験を経て立科町職員として転職したという。 一方、観光政策の面でも時代の変化に応じた見直しが進められている。先にも触れたが、立科町は白樺湖と女神湖といった美しい自然の観光資源を持つ。かつては、団体旅行だけでなく、ペンションブームもあり盛況だった時期もあった。 だが、特にペンションは、個室に籠らず他の宿泊者やオーナーとの交流を重視する独特の文化が、時代と共に徐々に敬遠されるようになった。それに加えてオーナーの高齢化による後継者不足なども相まって、苦境に立たされている。 ただ、コロナ禍が追い風になり、ワーケーションなどの価値観が生まれたことで、ペンションはIT企業の社員の長期貸し切りといった新たなニーズが生まれつつあるという。 一般社団法人「信州たてしな観光協会」の渡邉岳志企画室長(44)は、「30年前、ペンションの様式は最先端のブームでした。それが時代の流れで、テレワークやワーケーションが最先端ならそれに合わせた戦略を立てなければいけません。ペンションオーナーにリスクを感じるならサブスクリプション(定額で一定期間の利用権利を持つ)オーナーという道もありますからね」と、現状をこう指摘した。長野県立科町の観光戦略などについて語る「信州たてしな観光協会」の渡邉岳志企画課長=2020年10月(iRONNA編集部、西隅秀人撮影) コロナ禍はインバウンドに依存した観光業界のビジネスモデルのリスクを露呈した。だからこそ、これを機に新たな時代に即し、持続可能な政策にどう取り組むかが重要になる。人口7千人あまりの立科町だが、危機感を抱き、コロナ禍をチャンスに変えようとする志の強さが際立っていた。 大都市圏の人口集中に伴い、地方の人口減といった課題は「手の施しようがない」というあきらめの声も多くある中で、今、果敢に立ち向かうか否かが30年、50年先の命運を左右するのではないだろうか。(iRONNA編集部) 【関連コンテンツ】 ◎「タテシナソン」公式ウェブサイト ◎「タテシナソン」ドキュメンタリー動画 ◎「立科WORKTRIP」(開発合宿・ワーケーションを立科で)

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    若者が選ぶ地方へ、立科町の「リアルガチ」

    地方の人口減に歯止めがかからない中、この困難に果敢に立ち向かう自治体の一つに長野県立科町がある。働き方や生活様式の大転換をもたらした新型コロナ禍以前から、テレワークやワーケーションの拠点として動き出していたのだ。「若者からも選ばれる地方」に向け、立科町を心底愛する人々の熱き思いとは。

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    立科町長、両角正芳の決意「コロナによる価値観の転換見逃さない」

    両角正芳(立科町長) 立科町の魅力は言うまでもなく、この豊かな自然です。そして首都圏から気軽に行ける絶妙な距離感でしょうか、片道2時間弱で行き来できますからね。避暑地といえば、軽井沢というイメージが強いかと思いますが、立科町は軽井沢以上に湿度が低く夏のさわやかさでは負けません。 また、特産品の「立科りんご」は糖度が高く、おいしいとかなりの評価をいただいています。里地域でも標高が700メートルほどありますから、昼夜の寒暖差が高品質なリンゴの育成に適しているんです。「蓼科牛」もありますし、立科町のブランド産品は非常に高品質で、自然環境と農畜産物は私たちの強みですね。 町長就任前には町議を務めていましたが、特産品の首都圏販売に関するプロジェクトに取り組んでいた際に大変評価していただきました。ただ、そこで立科町の弱みも同時に認識しましたね。「立科」はあまり知られていなくて、「蓼科」の方が有名なんです。厳密に言うと「蓼科高原」はお隣の茅野市なんですよ。立科町は「白樺高原」ですからね。 いずれにしても立科町周辺もすばらしい場所なので、多くの人が観光などで来てもらえればいいのですが、やはり「立科」をもっと知ってもらえるように努力しなければならないと実感しています。 発信すべき魅力はたくさんありますが、立科町の現状は非常に厳しいものがあります。近年は毎年平均すると90人ぐらい人口が減っています。もちろん、少子高齢化は立科町だけの問題ではありませんが、全国の市町村の中でも厳しさは上位でしょうね。1995年に8700人超だった人口は、すでに7千人を割る事態です。 地域が活力を失えば自ずと若者は地元を離れていきます。そしてさびれてしまえばUターンする人もいなくなり悪循環です。やはりそこをなんとかしたいという思いは強いですから、主要政策として取り組んでいくつもりです。 そこで、先ほど言いましたが、立科町の強みは豊な自然環境なわけですから、それを守る意味でも、議会で二酸化炭素(CO2)排出をなくすために「2050年ゼロ宣言」をしました。気候変動で強みの自然環境が失われれば、それこそ死活問題ですから。インタビューに答える長野県立科町の両角正芳町長=2020年10月、同町役場(iRONNA編集部、西隅秀人撮影) これは立科町だけでやっても効果があるわけではありません。よく周辺自治体との合併議論が出てきますが、そうではなく、環境問題も含めて、広域連携が今まで以上に進めていけば、合併が必要とはなりません。立科町の魅力を向上させつつ、医療や教育、産業などと共に広域的視野で取り組んでいくべきでしょう。民活の前提は「政治判断」 昨今の地方創生という議論の中で、国の機関の地方移転などがありますが、なかなか実現しません。言葉だけで「地方の時代だ」と言うのは簡単ですが、実行するのは難しい。一気に国の行政機関を移すのはそこで働く人や関係する人たちから反発もあるでしょうし、現実は難しいでしょう。ただ、医療や教育といった地方にあったほうがいい分野もあるわけですから、そういう分野から少しずつ進めていく必要があると思います。 一番ネックになるのが、4大都市圏に集中する大学です。地方から進学して、そこで就職してしまうので若者が戻ってこないのは当然です。だからこそ、地方にあってしかるべきものを移して、受け皿になる部分を創生していかなければならない。こうした現実的な部分を国政できちんと議論していただきたいと思っています。 最終的には政治的な判断次第でしょうね。政治判断がすべてだとは言いませんが、民間活力を動かすには、まず政治判断あってこそですからね。地方と国の関係も同様で、まず国の判断なくして地方は動きづらいわけです。菅義偉(すが・よしひで)首相がデジタル化を推進していますが、国と地方で格差が出てしまうようでは不安しかないですからね。 話を戻しますが、私は立科町が自立していくことに自信を持っています。もちろん、簡単ではありませんよ。ですが、きめ細かい行政サービスのメリットがあるからです。合併なども生き残る道ですが、大きな自治体になれば隅っこは見えなくなるでしょう。 新型コロナ禍に関する定額給付金も都市部では、なかなか届かない。でも、小さな自治体はすばやく対応できるわけです。これはある意味、地方であることの強みと言ってもいいでしょう。 具体的な立科町の施策については、私が町長に就任する前からスタートしていますが、全国から学生を募って地元事業者の課題実現のためのアイデアを立案してもらう「タテシナソン」に期待をしています。タテシナソンでテーマを提供した「牛乳専科もうもう」の牧場=2020年10月、長野県立科町(iRONNA編集部、西隅秀人撮影) これはもともと「アイデアソン」という取り組みがあって、「アイデア」と「マラソン」をくっつけた造語ですが、これを立科町独自にもっと実用的なものにしたわけです。「タテシナソン」のよい部分は、地元事業者の弱みを分析して、何が足りないのかを認識した上で、学生たちのアイデアを生かそうという点ですね。 地元にいて事業をやっていると、どうしても視野が広がらない部分があります。そこを克服するために全国から学生たちを募って、しかもそのアイデアを実行するというところまで徹底するわけです。価値観の転換に対応 そしてもっと広い視野でとらえれば、先に話した人口減という課題克服に結果的に寄与するんです。「タテシナソン」のプログラムは28時間(1泊2日)という限られた時間でチームでアイデアを立案することになっていますが、長野県内の学生も県外の学生も参加したきっかけで立科町をより深く知るわけです。 すぐに効果があるものではないですが、将来的に仕事や移住、観光も含めて立科町に戻ってきてくればいいわけです。ありがたいことに、この「タテシナソン」は一般社団法人「日本地域広告会社協会」(略称JLAA)の「第4回JLAA地方創生アワード」の最優秀賞も受賞しました。すでに3回実施しており、今年はコロナの影響で中止しましたが、来年以降、感染対策をしっかりとした中で、もっと充実させて継続していきたいですね。 今年は何と言ってもコロナ禍が深刻化し、あらゆる生活様式の転換を余儀なくされました。みなさんが大変な思いをしているのですが、ある意味地方は強みをアピールする最大のチャンスであることは言うまでもありません。素晴らしい自然環境と首都圏からの距離、そして何より「密」を避けることができますからね。 立科町はコロナ禍の前からテレワークに関する取り組みを始めていましたから、これを機に他の地域に先駆けて、受け入れができる態勢づくりをしていくつもりです。 また、今は、インバウンド(訪日外国人客)はストップしていますが、いずれ戻ってくるでしょう。ゆえに今は立科町の魅力を発信するときだと強く思っています。諸外国の方々も今は日本に行けないですが、情報はいくらでも入手できるので、可能になったら立科町に行こうと思ってもらうアピールをしっかりしておく必要があります。 コロナ禍のために国内観光が活発になってきているのも見逃してはならないですね。海外旅行に重きを置いていた方々が、国内旅行で魅力的な穴場を探すようになってきています。これもチャンスととらえれば、地方観光の活性化につながりますからね。町内各地で見られる特産品のリンゴ園=2020年10月、長野県立科町(iRONNA編集部、西隅秀人撮影) テレワークに加え、ワーケーションという概念も定着しつつあります。今は、これまでの価値観が180度といっていいほど変わりつつあるだけに、地方もこの価値観の転換を的確にとらえて、民間活力が存分に発揮できるベースづくりを進めたいですね。 知恵を絞って、それを発信する。基本的なことかもしれませんが、まさに今はチャンスだと思っています。(聞き手、編集、iRONNA編集部) もろずみ・まさよし 長野県立科町長。1953年、立科町生まれ。高校卒業後、東京都内の出版社で勤務。その後、立科土地改良区、農事組合法人勤務を経て、2015年に町議選で初当選。19年の町長選に立候補して現職町長を破り初当選し、現在1期目。 【関連コンテンツ】 ◎「タテシナソン」公式ウェブサイト ◎「タテシナソン」ドキュメンタリー動画 ◎「立科WORKTRIP」(開発合宿・ワーケーションを立科で)

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    高岡伸夫×小倉正男対談 コロナ禍に負けない企業トップの在り方とは

    高岡伸夫(アジア経営者連合会理事長)小倉正男(経済ジャーナリスト) 小倉 新型コロナウイルスの感染拡大は、ビジネスにおいて日本がかなり変わるきっかけになるなという感じがしています。例えば企業と経営、そして社員の在り方ですね。従来は上司から会社や酒席で説教されることもオンザジョブ教育で、中にはトヨタじゃないですが、会社の運動会みたいなものもありました。そういう非常に村社会的なものを包含していたのが日本でした。 80年代、90年代、2000年代とグローバル化の中で変化を遂げてきましたが、やはりここで大きな転換が図られるでしょうね。コロナ禍と言っていますが、「禍福は糾(あざな)える縄の如し」で、「福」の部分もあるかもしれない。会社と社員の新しい関係が生まれてくるのかなという感じがします。 高岡 そうですね。これまでは無駄なことというのか、何か努力をしていることに意義があると勝手に思い込んでいた感があります。アメリカに住宅リフォームで有名なザ・ホーム・デポという企業がありますが、商談なんかさせてくれません。とりあえずあいさつなんてないんですよ。「とにかく先に登録してください」と言われる。すべて登録した上で商談を始めましょうと。 日本では考えられないかもしれませんが、それはもうグローバルスタンダードなんですよ。日本だけですよ、とにかく上司を連れて行って、「よろしくお願いします」と言うのは、何がよろしくなのか分からないということですよ。 国会においてもITについて理解が浅い方がまだまだいるのではないかと思います。どうやらこのコロナ禍の中で、経済人が先行していくのではないかと思います。もう政治と経済は完全に分離していって、われわれは経済人としてグローバル化の中で素早く展開していかないと生き残れないという認識で、それがもう目の前に来たということです。 小倉 そうですね。結局、企業は生き残らないと、サバイバルしなきゃいけないですからね。企業は危機管理やビジネス環境への変化対応に強くないと生き残れません。 高岡 だから常に挑戦しないといけない。今までは物のイノベート(革新)、さらにサービスのイノベートをしてきました。ですが、今回のイノベートはやっぱりDX化と呼ばれていますが、デジタルトランスフォーメーションなんです。 いわゆるデジタルをどういう風に組み合わせて、新しく組み換えて力を持つ、独自性を持たせるかという、そのDX化をどこも積極的に取り組んでいますが、実はコロナが始まるまでは他人事のような話だったんですね。 特定のIT関連企業だけが非常に力を入れて売り込もうとしていましたが、むしろわれわれのような会社も気づけば、社内はデジタル化のものばかりですよ。情報もネットワークも。だからそれをもう一度再生、つなぎ合わせて新たなビジネスモデルが作れるわけです。高岡伸夫氏(西隅秀人撮影) 小倉 なるほど、そうですね。企業は常に結果も出さなければならないわけですから。コロナで会社が前進! 高岡 私が経営するガーデン・エクステリアの製造販売をしている「タカショー」の話になりますが、全国11カ所にショールームを持っています。ですが、ここでネット上にショールームを作ろうということになりました。プラットフォームのようなところをつくって、VR(バーチャルリアリティ)でショールームを見ることができ、このWEBショールームでほぼすべて完結できるんです。 それを考えると、今までものすごい作業量でやっていたことに気づきました。商談して売り込んでみて、相見積もりをかけられて、何度も見積りし直して。10時間もかかっていたものが、ほとんど時間をかけずに可能になる、そういう仕組みがスタートしました。ほんの2カ月半ですよ。 だから各社がリアルとネットをどう活かすかということです。ネットだけでもだめなんですよ、われわれのビジネスは。リアルとネットをどう融合させていくかが重要で、この数カ月でずいぶん会社は前進しました。 小倉 ある大阪の大手Yシャツメーカーですが、アメリカの顧客がスマートフォンのアプリで首回りや腕回り、色などオーダーシャツを注文する。その注文がアメリカから大阪のメーカーに入って、その情報をバングラデシュの協力工場に送り、縫製をそこでやるそうです。完成したシャツをアメリカの顧客に物流(配送)するというビジネスをやっています。 高岡 まさにドイツの第4次産業ですよね。いわゆるマスカスタマイゼーションという、カスタマイズを大量販売型に持っていくという、その典型事例ですよね。 小倉 ベンチャー型の企業ではなく、わりと古いタイプの会社からそんなことが始まっている。ちょっと私もびっくりしましたね。変化対応というか、ここまできているのかと。そういうことがおそらくこれから出てくるだろうと思いますね。 高岡 そうですね。われわれ「アジア経営者連合会」は、アジアの各地に支局を持ちながらワンアジアの実現を目指し、各国で仕事の分担もあるんですよ。これをどう組み合わせながらビジネスをしていくかというのが重要で、単なる集まりではなくビジネスをしようということなんです。これらを実践している方々がこの後、オンラインでの開催は初めてですが、各セッションに登場していただきます。 小倉 アジア各国に進出してビジネス展開するグローバル化はすでにやってきたことですが、IoT(モノのインターネット)、オンラインなどビジネスの現場で遅れていたものが一気に日常化しているわけですね。小倉正男氏(右)と高岡伸夫氏(西隅秀人撮影) 高岡 それと並行していくのが5G(第5世代移動通信システム)ですよね、この容量とスピードが物を言うでしょう。でも逆にITではない部分も重要です。それは、コロナ禍でまさに重要性が明らかになった健康です。健康と幸せという今まで当たり前だったことがそうでなくなり、課題として目の前にきたわけです。これからは、何にお金を使うかということなんです。 国連の機関が出している「世界幸福度報告書」の世界幸福度ランキングでは、常にベスト3に北欧の国が入っている。一方で、日本は2020年版では、なんと62位ですよ。今後、おそらくコロナを機に、本当に自分にとって何が大事なのかという部分をマーケットが考えるようになるでしょう。これだけたくさんの人が自分の健康や家族を守るという意識になったわけですから、大きな変化になるはずです。未来を見据えるのがトップ 小倉 コロナ禍によるデジタル技術の進歩は、よい意味で大きな変化をもたらす気はしますよね。 高岡 今の若い世代はあまりテレビを見ないし、新聞も読まない。だけどその新聞の裏にあるコンテンツはしっかり見ています。むしろわれわれより情報収集をしている。だから情報が素早く、グローバルに誰でも手に入れることができるようになったことで、新しい組織づくりが欠かせないわけですよ。 小倉 今の若い人たちのやり方を見ていると決算短信、IR情報などもそうですが、あらゆる情報がネットから入ってきますから、そうした情報収集力は長(た)けています。ただ、ネットからの情報も受け手を誘導しようという面もありますね。情報収集・分析と同時に経営者がどういう思考でビジネスをどうしようとしているか、そうしたことも察知していかなければならないでしょう。 高岡 重要なのは経営者がどう考えているかということです。経営者がどういうビジョンを持って、世の中でどんなミッションを担っているかを明らかにするのが記者ですから、一番大事な仕事をされていると思います。未来を見据えてどんどん進んでいく経営者と、もう過去と今の話しかしない経営者は多いと思うのですが、コロナでかなり変わったでしょうね。 小倉 そうだと思います。これからの変化は劇的になるでしょう。確かにフェイストゥフェイスで会うこと、対面での交渉などは日本では重んじられてきましたが、対面ももちろん重要ですが、対面以外のところでビジネスが作られていくようなケースも増えてくるのでしょうね。 高岡 その一つはオンライン会議ができる「Zoom」のようなシステムは、ほぼ世界共通になりました。ところで、上方落語協会会長の笑福亭仁智さんとお話する機会があって、7月1日から天満天神繫昌亭(大阪市北区)で落語が再開されたとのことですが、若い落語家はネット配信していると聞きました。要するに世界中で落語を楽しめるようになったわけです。 これはこれまではあり得ない話です。やはりトップに立つ人たちの行動は早い。270人という上方落語協会の会員の中には若い人が多いだけではなく、高学歴の人もいる。そういう人たちがチームを組んで実はイノベートしているわけです。そしてネット配信でそれなりの収益を上げているそうです。少ない投資でマーケットを世界に広げているんですね。 小倉 やはりバーチャルというかデジタルを使わざるを得なくってますよね。さっきも話になりましたが、デジタルというかVRでどういう形で世界に発信するかを考えないともうやっていけなくなってきていますね。新型コロナウイルスの影響で常態化しつつある自宅でのテレワーク=2020年4月、東京都世田谷区(鈴木健児撮影) 高岡 だからそういうマーケット情報を掴んでさえすれば、あとはもうVRで中に入って、完成予想まですべてソリューションできる。今までの展示会では、実際にそこでは名刺の交換ぐらいしかできませんでした。 結局改めてもう一度足を運ぶ必要がありましたが、ネット上で完結できるわけです。逆に言うとチャンスですよね。ネット展開すれば今まで予想もしなかったお客さんから注文がとれるということになりますから。仕事の本質とは? 小倉 会社や本社というものが、銀座や日本橋にあるとかっていうようなことはもはや重要ではないですね。デジタル技術でバーチャルなテリトリーができて、そこで商談が世界的に行われるようになりましたよね。 高岡 そうです、日本は東京を中心にやっぱり一極集中しすぎですよ。これはある意味リスクですね。海外に行くと世界を狙う会社は大きな空港の傍にあります。世界をマーケットにするなら私は、会社は地方でいいと思います。金融などは東京である必要もあるかと思いますけどね。 さまざまな分野においてこれからは、地方から世界に出ていくパターンが増えると思います。実際に通勤はそもそも仕事ではありませんし、往復するのに時間をかけることがどれだけ無駄か明らかになりました。コロナの感染の危険性云々以前の問題で、仕事の本質がどこにあるのかを考えなければいけない。従来のままなら、日本の生産性が悪くて当然ですよ。 小倉 言い尽くされたことですが、東京はやはり集中しすぎですね。バブル崩壊後に一度衰退しかけたけど、容積率のアップなどで結局また集中してしまって。ですからこれがまた防災上も問題になっています。 高岡 そうですね。最も危険ですよね。 小倉 政府関係も東京に集中しすぎているわけですから、これを分散するなり、規制緩和で地方に分散する施策を早く進めるべきでしょう。 高岡 そこで、アジア経営者連合会が最も大事にしているのは関西、または福岡です。なにしろアジアに一番近いわけですから。そのアジアで考えた場合、どこに中心があるかと。もちろん日本の中心は東京なので、今は東京に連合会の本部があってこれだけ企業が集まっていますが、実際、当会の会員は関西出身の方が多い。 私はこれから地方で、アジアをはじめ、世界に通じる企業が出てくると思います。だからもう少し地方の規制を緩和して、企業がそこに拠点を置けばシンガポールのようにメリットがあるようになればいいですね。シンガポールの市街地(鳥越瑞絵撮影) 小倉 ですから税による財源を地方に与えて、自治の名に値するいろんな政策を打てるようなインフラを作っていく必要もあります。 高岡 私の会社は鳥取県にソフトウェアのオフィスを置いて、今そこで6人ぐらいですけど、どんどんと作り込みを進めています。仕事を作り出すことが地方創生の肝ですから。 地方創生は政治に任せるものではありません。われわれ経済人がしっかり仕事をそこで創出することが地方創生のスタートでしょう。それはアジアにおいても同じで、アジア経営者連合会が「ワンアジア」という概念の中でどう展開していくかということなんです。「ワンアジア」こそ不可欠 小倉 そうですね。アジアや世界の視点に立てば、東京でなくていいわけですから。今、米中貿易戦争というような流れの中で、中国はまた強硬に反発をしていくでしょう。そもそも中国にそのサプライチェーンが集中しすぎているのが問題だという世界的な政治問題もあります。自然にその中国だけに依存するのではなく、アジア全域に仕事が分散されていければ、これはまた一番いい形にはなります。 高岡 ただ、そうした中で中国にむしろ出ていくっていう手もありますよ。これは何かというと、中国が掲げる「一帯一路」構想で、なおかつ中国国内の成長する市場に参入する戦略もありますよね。または、今おっしゃったように中国をメインから外していきながら、アジア各国に自分の会社はどんなビジネス、政策でいくかというところとそれぞれの会社の戦略によって変える必要があると思います。 小倉 なるほど、コロナ禍というものを転じさせて、いかに日本のビジネスにプラスに転換していくかが重要ですね。 高岡 その視点で言えば、一つは単純ですけど、現地化ですよね。ご存じの通り、車がまた注目を浴びています。今回コロナ禍で、中国もそうですが、車はまだまだ伸びます。ただ課題は環境問題で、やはりそこはトヨタがすごいなと思ったのはハイブリッドの技術を開放しましたよね。そういうことをしながらトヨタは中国では戦略、いわゆる現地化をとっていくというやり方です。 小倉 トヨタはコロナ禍にテレワークを恒常化すると発表した。かつては最も日本的な企業でしたが、世界企業に飛躍する中で大きく変わってきていますね。 高岡 それは品質にこだわってきたという日本が一番持っている力を最大限出したのが、トヨタだと思うんですよ。これから日本がしっかりとした会社、国を作っていくのであれば日本人の特性をどう広げていくかが問われます。 それは感覚的なアートの世界や品質を維持することに、日本は世界の中でも長けていると思います。とはいえ、マーケットも必要だし、作るコストも必要で、それはグローバル化する中で特にアジアが世界の中でもう圧倒的な力を持っている。未来に向かって取り組めばやはりアジアは欠かせません。高岡伸夫氏(左)と小倉正男氏(西隅秀人撮影) 各国の平均年収が上がっていくと同時にコストが上がり、それにつれてある程度国を移動していかなければいけません。もともと会社が大事にしている価値観を残しながら時代のニーズに合わせて変化させ、どう成長させるか。これらを考えられるよう、われわれアジア経営者連合会のようなところでいち早く情報を得て、それを実行できる会社がこれからも飛躍的に発展し、社会の役に立つと私は思います。これを「ワンアジア」でアジア経営者連合会のみなさんとやっていきたいというのが、私の強い想いなのです。(構成・iRONNA編集部) たかおか・のぶお タカショー代表取締役社長、アジア経営者連合会理事長。昭和28年、和歌山県海南市生まれ。大阪経済大卒。商社勤務を経て、55年に同社設立。現在、一般社団法人日本ガーデンセラピー協会理事長、一般社団法人美しく老いる会理事も務める。 おぐら・まさお 経済ジャーナリスト。早稲田大法学部卒。東洋経済新報社で企業情報部長、金融証券部長、名古屋支社長・中部経済倶楽部専務理事を経て現職。著書に『M&A資本主義』『トヨタとイトーヨーカ堂』(ともに東洋経済新報社)など多数。

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    コロナに勝つ!アジア経営者連合会の挑戦

    新型コロナウイルス感染拡大の終息が見えない中、「withコロナ」という新たなフェーズを迎え、企業の模索が続いている。ただ、経営トップの本領は、こうした苦境にこそ問われるものだ。いかにして闘うか。日本経済を牽引する「アジア経営者連合会」加盟の精鋭たちが示す、コロナに負けない術とは?

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    アジア経営者連合会の精鋭が本音で語った「コロナ禍のサバイバル術」

     戦後最大の危機とされる新型コロナウイルス禍による経済的打撃は世界規模で襲いかかり、いまだ出口は見えない。だが、このまま座して死を待つわけにはいかないのが現実だ。 とはいえ、コロナ禍でよく耳にする「ピンチをチャンスに」は、まさに言うは易し行うは難しであり、実践は困難を極める。ただ、この困難を乗り越えるべく、果敢に挑む経営者集団がある。それが「アジア経営者連合会」だ。 アジア経営者連合会は7月2日、初のオンラインイベント「アントレプレナーズビジョン~コロナ禍の経営者のリアル~」を開催した。タカショー社長で同会理事長、高岡伸夫氏が総合司会を務め、会員企業のトップら計8人が「緊急対談」として臨んだ。 緊急対談は、全国に発令されていた緊急事態宣言が解除になり、「アフターコロナ」や「withコロナ」という新たなフェーズを踏まえ、まさにリアルな経営状況と、それに対峙する企業の在り方などについて議論。2人ずつ、4セッションで構成され、今回は会員だけでなく、広く一般の経営者や企業役員などに開放し、延べ約500人が視聴した。 セッション1は、MS-Japan社長の有本隆浩氏とティーケーピー社長の河野貴輝氏。 セッション2は、ベネフィット・ワン社長の白石徳生氏と武蔵精密工業社長の大塚浩史氏。 セッション3は、ビジョン社長兼CEOの佐野健一氏とベクトル代表取締役の西江肇司氏。 セッション4は、マネーフォワード社長CEOの辻庸介氏とサーキュレーション代表取締役の久保田雅俊氏。 8人はいずれも1960年代~80年代生まれの若手リーダーとして名を馳せる。コロナ禍以前から、常識や枠にはまった経営方針をとらず、そのカリスマ性と独自の経営理論を打ち立て、業界で一目置かれる精鋭たちだ。上段左から、有本氏、河野氏、白石氏、大塚氏。下段左から、西江氏、佐野氏、辻氏、久保田氏。 有本氏は、主に管理部門の人材紹介業を展開する自身の企業について、余儀なくされたリモートワークの利点として、かえって業績を伸ばした社員が現れたことを強調。リモートの方がむしろ仕事がやりやすいと感じる社員が多数いるといった現状を報告した。 一方、レンタルオフィスや貸会議室の運営管理に取り組む河野氏は、コロナによって大幅なキャンセルが相次いでいる現状を明らかにした。2008年のリーマン・ショックも経験し、今回はそれを上回る状況だが、出社して「密」を避けるためのリモートワークは自宅に限定されていない点を指摘。「自宅近くでリモートワークができる場所の提供といった新たなニーズが生まれ、そこにビジネスチャンスがある」と語った。「コロナ禍が学びになった」 サービスマッチングなどを主とする白石氏は、「ピンチはやはりチャンスとらえるべきだ」と断言。コロナによる自粛があったからこそさまざまな思考をめぐらせることが可能になったと振り返り、「改めて考えれば、元来、感情的に行動するのが人類の共通項だ。商品開発やマーケティングにおいては、人の感情に訴えるモノづくりが最後に勝つ。これを原点に今後の戦略に生かしたい」と話した。 これを受けて、輸送用機械器具の製造販売会社を経営する大塚氏は、コロナ禍でスポットライトが当たった医療従事者をはじめ、スーパーといった物販や物流に関わるエッセンシャルワーカーに注目したことを明らかにした。そのうえで、エッセンシャルカンパニーを目指す考えを示し、「ライフラインに関わるような企業になりたい。これからはどれだけ社会に貢献できるかが重要で、大きな価値観として社会に望まれる企業になれるかがカギだ」と決意を述べた。 PR事業を展開する西江氏は、採用に関して、現状は人の数はあまり求められておらず、経理的な部分を外注などすれば一人でも経営が可能になっている例を紹介。多数の人を必要とせずに新規事業を起こせるとし、「利益を上げている会社が必ずしも従業員が多いとは限らない。十人程度で新規上場している企業もある。著名な人は一人で発信しても、それを受ける側が100万人だったりする。考え方を変えていかなければならない」と訴えた。  情報通信サービスを提供する佐野氏も、労働集約型を改め、知的生産性を重視していると強調。「かつては従業員が多い企業が社会貢献していると思われがちだったが、今はそうではない。いろいろなテクノロジーを活用して価格競争力を上げる企業が称賛されつつある。大量に採用するより、一人のパフォーマンスを上げることに注力している」と語った。 また、主に中小企業向けのクラウドなどを手掛ける辻氏は、コロナ禍の初期段階だった2~3月に「平時」から「戦時」モードに自身の認識を切り替え、融資の段取りやコスト削減を進めたことを振り返った。 そのうえで、経営の優先順位を明確にできたことに触れ、まずは社員の健康や命、次に顧客に何ができるかが重要だと指摘。特にリモートワークが難しいとされる経理は命を懸けて仕事するのかという懸念に対応できるコンテンツが重宝されたといい、社員が自発的に顧客ニーズを掘り起こしていくようになり、「むしろ会社が強くなった」と胸を張った。マスク姿で通勤する人々。「withコロナ」時代を迎え働き方も変わりつつある=2020年6月、JR品川駅 さらに、プロフェッショナルな人材のシェア事業を主とする久保田氏は、厳しい状況の中で経営者としての「アドレナリン」がわき、どう生き残るのかをむしろ楽しむような心境だったと述べた。有事にこそ情熱や打てる施策の豊富さが再認識でき、まさに「ピンチをチャンスに」の実践であり、戦術を変えるチャンスになったことを力説。「コロナ禍は経営者として学びになった」と前向きにとらえた。「メリットの大きい連合会に」 このようにアジア経営者連合会の会員企業のトップの多くが、このコロナ禍においてプラス思考を維持していることがうかがえる。その背景にあるのは、やはり、同連合会の設立の経緯や理念だ。 同連合会は、2008年9月にエイチ・アイ・エス会長兼社長の澤田秀雄氏を中心に設立された。そもそも設立時からIT技術や世界を結ぶ航空路線の充実といった目覚ましい変革の荒波に加え、まさにリーマン・ショックに見舞われ、先行きの不透明感も強かった。国内に限れば人口減という市場がシュリンクする厳しい環境下で、アジアを一つの商圏とする「One Asia」をテーマに、新ビジネスの創出に寄与。同連合会が謳う入会のメリットは以下の4点だ。・グローバル市場でビジネスを展開するアジア人創業経営者との人脈構築・アジア各国、各地のビジネス情報とビジネスノウハウ獲得・上場企業や注目の創業経営者から気付きや刺激を得、事業成長を実現する勉強会・会員間交流によるビジネスチャンスや仲間づくり すでに会員企業は約400社にのぼり、情報交換や連携を深めることで、グローバル経済の先頭に立って日本経済をけん引する一翼を担ってきた。それだけに、今回のコロナ禍においても経営者同士のつながりが、危機を乗り越える原動力として欠かせない。 同連合会はこれまで年2回の例会を中心に、各分科会などを積極的に実施してきたが、コロナ禍を機に、今回初めてオンラインによる対談形式のイベントを企画して実行した。 イベント終了後、同会理事長の高岡氏は、個人の価値観で経営をよりよいものに変えていける時代になったことを強調。「業界によって規模に差はあっても、どう学んでいくかが重要だ。今回、さまざまな分野の人から情報を得て、一番適正なものを自分たちの業界に取り込んでいくべきであることを学べた。ゆえに、もっと会員を増やし、これまで以上にメリットの大きい会にしていきたい」と語った。アジア経営者連合会理事長の高岡伸夫氏 冒頭で触れたように、ビジネスの在り方や働く環境、価値観は「ビフォーコロナ」に戻ることはない。ゆえに、常に新たなビジネスの創出と逆境での思考の転換に対応してきた同連合会の会員企業の闘いぶりは、「アフターコロナ」「withコロナ」を生き抜く術として、大いなるヒントになることは言うまでもないだろう。(iRONNA編集部)

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    なぜ「移住するなら高崎市」なのか

    日本の喫緊の課題として「地方創生」が叫ばれて久しいが、子育てや介護、そして職といった根本に不安が残れば進みようがない。では、生き残る地方とは何なのか。子育てや介護に加え、教育や中小企業支援、街づくりに異例の施策で取り組み、全国から注目される群馬県高崎市。「移住先」のモデル都市がここにある。

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    生き残る地方は何が違う?群馬県高崎市と海の京都DMOの挑戦

    小倉正男(経済ジャーナリスト) 1987年前半のことだが、住友不動産の安藤太郎会長(当時・故人)に取材した。通称「アンタロー」と呼ばれた不動産業界の重鎮である。 87年は「円高不況」といわれていた時期だった。85年のプラザ合意後に日本を襲ったのは大幅な円高だった。1ドル=240円の為替レートは87年には1ドル=120円になっていた。メディアは「円高不況」と騒いでいたものだ。不動産価格も落ち着いていた。 しかし、87年8月頃に突然不動産バブルが爆発した。行き場のない過剰流動性が不動産、株式に流れ込んだわけである。安藤会長に取材したのはバブル勃発の数カ月前だった。 取材が終わると、たまたま「特別な部屋」を通り過ぎることになった。その部屋には東京都の地図が貼られており、地図に赤、白、青などカラーボッチのピン針が集中的に刺されていた。カラーのピン針は、「ここは今オフィスビルを建てている」「ここは今地上げをしておりいずれオフィスビルになる」などを一目瞭然で示すものだった。 「霞が関には中央官庁があり、この霞が関、虎ノ門の周辺地区のオフィスビルは有望だ。高い家賃が保証される。銀行の頭取などの給料、ボーナスは霞が関の役人が決めているようなものだ。だから霞が関や虎ノ門の周辺地区はオフィスビルとして有望だ。霞が関から離れているところは高い家賃は取れない」 安藤会長は、住友銀行(当時)副頭取から住友不動産社長に転じたキャリアを持っている。少し荒っぽい話だが、銀行頭取を例にして霞が関周辺不動産の潜在価値を語ったものである。 安藤会長は、国土審議会会長として「四全総」(第4次全国総合開発計画)を策定した。東京一極集中か、多極分散か、「四全総」は揺れ動いた。安藤会長には激しい毀誉褒貶(きよほうへん)がある。だが、経営者としては、今の東京、さらに今の地方の姿を捉えていたのは間違いない。東京都心の地図に刺されていた色とりどりのカラーボッチのピン針がそれを示している。住友不動産会長などを歴任した故安藤太郎氏 1987年夏にバブル勃発、1991~92年のバブル崩壊、2000年代は金融恐慌・再編成を経て、未曾有の長期停滞「失われた時代」を経験した。世界では、その92年を起点に今の「グローバリゼーション」が拡大し、中国があっという間に「世界の工場」にかけ上がった。「グローバリゼーション」の激変がもたらしたのは、かつて世界を制覇していた日本の製造業の「空洞化」だった。 日本の製造業は、国内に閉じこもってひたすら「垂直統合」型でモノづくりを行ってきた。「ジャパン・アズ・ナンバーワン」と謳(うた)われ、世界的な成功を収めてきたシステムである。下請けを含めてグループ化、系列化で囲い込んだ閉鎖的なサプライチェーンが特徴だった。この「ニッポン株式会社」と揶揄(やゆ)された強力なビジネスモデルがあっさりと崩壊した。 世界のモノづくりは、中国を中心にした「水平分業」型のグローバルサプライチェーンに雪崩を打って変貌を遂げた。 日本の家電製品などアセンブル(組み立て)工場はほぼ絶滅した。「ニッポン株式会社」は過去の成功体験に縛られ、パラダイム転換に対応できなかった。「やれることは何でもやる」 日本の製造業は、工場の海外移転などを経て、かろうじて中国、韓国、台湾向けに電子部品、製造装置などのサプライヤーとして生き残っている。サプライヤーとしての競争力は強力である。だが、工場は「最適配置」ということで、中国、ベトナムなどに移転が進行している。 首都圏の工場跡地は高層オフィスビル、高層マンションなどに再開発された。地方の工場跡地は大型ショッピングセンターなどに姿を変えた。地方経済は、一般に製造業(工場)に依存していたため、工場が消えた影響は小さいものではなかった。地方は雇用を喪失し、街から人の姿が見えなくなり活気を失った。 人口オーナス(高齢化など人口構成の変化が経済にマイナス作用すること)期の今の日本、生産労働人口の男女の多くは地方から東京に持っていかれている。地方は「衰退」を超えて「消滅」の危機を迎えている。東京は金融などサービス経済で繁栄を継続してきたが、地方はシャッター通りが増加する一方となっている。 その中でも生き残りに奮闘する地方、地域などのケースもないわけではない。地方や地域もそれぞれ個性があり一概に扱うことはできない。 地方や地域も結局は人であり、人の思いが生き残りに奮闘する原動力になっている。ここでは地方、地域のいくつかの生き残りのケースをたどってみたい。 群馬県高崎市、関東平野の北西部に位置する中核市である。人口約37万人と群馬県で最大を誇っている。 街なかは百貨店などに買い物客など若い人を含めて人出が見られる。日本の地方都市で一般的に見られる「シャッター通り」も駅から外れた旧商店街などにないわけではない。だが、トータルでは街に活気がある。その活気は何ともいえない程のよいものだ。 街づくりはかなり周到に行われており、全体としてきれいである。道路付けも広くレイアウトされ、整然としたものになっている。高崎芸術劇場や高崎アリーナと、音楽、スポーツのインフラも超一流クラスがそろっている。映画館は4軒ほど。ソフト(人々)とハード(店舗・劇場・アリーナ・道路など)のよいバランスを持った都市である。 その高崎市だが、東京都など首都圏を含めて他府県から移住・定住を勧めている。これはにわかにではなく、通常の政策として行われている。富岡賢治市長の独特の感覚がそうした政策を後押ししている。富岡市長はこう語っている。高崎市の富岡賢治市長(iRONNA編集部撮影) 「地方都市というと、街を人が歩いていない、シャッター街、人口減というのが三大話だ。高崎市は幸いそういう街ではない。高崎市をそうしたくない。高崎市がそうならないためにやれることは何でもやる。そうした危機感を持ってやっている」「国の政策を待つ仕事はしない」 富岡市長は、街の魅力を向上させる「まちなか商店リニューアル助成事業補助金」という独自の制度を実行している。店舗のリニューアル費用の2分の1、上限100万円まで助成するものだ。 「街が面白くない、エキサイティングではないと人は街に出てこない。街なかのお店のリニューアル助成に100万円を出すところはない。ほかの都市は高崎市の助成金にビックリしている」 富岡市長は、街なかのお店の内外装がリニューアルされて活性化していないと移住・定住といっても人々は集まってこないとしている。 この助成金では、内外装リニューアル工事の発注先、ショーケースなど備品の購入先は高崎市内の業者に限定されている。いわば、地元調達の“ローカルコンテンツ”も実施されている。このあたりも抜かりはない。高崎市の人口を減らさないどころか増やすには、日常的な街の魅力づくりから取り組んでいる。 富岡市長は持論なのだろうが、こう語っている。「国の政策を待って仕事はしない」。確かに、東京・永田町の政府や霞が関の中央官庁の動きを待っていては街が衰退することになりかねない。 高崎市では「まちなか商店リニューアル助成金」以外にも独特な政策が採用されている。「介護SOSサービス」「子育てSOSサービス」などがそれである。 「介護SOSサービス」は、24時間365日対応でヘルパー派遣、宿泊サービスを行っている。介護者の「介護離職」防止のほか、ストレスや気持ちの緩和を目的としている。 ヘルパー派遣は、見守りを必要としている人の身体介護、介護者の食事の準備・買い物など生活支援などとして提供する。利用料金は1時間250円と廉価だ。宿泊サービスは介護者が冠婚葬祭などで介護ができないケースを想定し、宿泊・食事・入浴を提供している。1泊2食付き2千円、1泊2食・送迎付き3千円でこれも廉価対応している。「子育てSOSサービス」を利用する市民とヘルパー(高崎市提供) 「子育てSOSサービス」は、妊娠中か未就学児の保護者など子育て世代を対象とするサービスだ。利用時間は午前8時~午後8時、利用料金はやはり1時間250円。育児や家事経験のあるヘルパーが食事の調理、掃除などの訪問サービスを行っている。 「介護も子育ても孤独なもので、食事の用意や部屋の掃除にしてもくたびれている。疲れているからヘルパーさんがお手伝いに来てくれると若い夫婦など涙を流して喜んでくれる」「地域資源をブラッシュアップ」 「介護SOS」「子育てSOS」のいずれも富岡市長の思いからの新事業だ。おそらく全国的に見てもほかに類例の少ない市民サービスといえるのではないか。こうした高崎市の新サービス事業の提供は、首都圏などから人の移住・定住を促進するインフラ構築にほかならない。 今は新型コロナウイルス禍で「観光立国」に水が差されてしまった。だが、この間のインバウンド(観光目的の訪日外国人)の隆盛で観光による地域振興の手法として定着しようとしているのがDMO(ディステネーション・マネジメント/マーケティング・オーガニゼーション)だ。 官民の連携で魅力的な観光コンテンツをつくって地域経済の活性化を促進する動きである。企業経営のように計数的なアプローチで地域づくりに取り組み、観光によって地域の「稼ぐ力」を引き出す試みだ。 「DMOというのは新しい組織だが、立ち位置はあくまで地域振興、地域づくりだ。インバウンド、観光は地域振興の一つの手法。地域のさまざまな資源をブラッシュアップして、地域が経済的にもやっていける仕組みをつくっていく」 そう語るのは「海の京都DMO」の櫻井晃人総合企画局次長兼プロモーション・サービス事業部長である。 「海の京都DMO」は、2016年にスタートした一般社団法人・京都府北部地域連携都市圏振興社の通称。京都府と京都府北部の日本海側に位置する福知山市、舞鶴市、宮津市、伊根町など5市2町の連携で設立された。 5市2町の枠組みを超えて統合されたDMOは全国でも珍しい。新しい観光コンテンツのブランド化を目指す試みといえる。櫻井次長の前職は舞鶴市(京都府)観光まちづくり室長で同市から出向している。 この3月、「海の京都DMO」(京都府)、「豊岡DMO」(兵庫県)、若狭湾観光連盟(福井県)などが府県を越えての連携でインバウンド向けに新しい観光コンテンツを打ち出した。「海のある北関西ドライブツアー」というコンテンツなのだが、兵庫県、京都府、福井県の日本海側をレンタカーで廻ってくれというものだ。京都府北部の5市2町連携どころか、1府2県の広域連携でこれまでにない新観光コンテンツを提案している。京都府北部の観光拠点でもある「天橋立」=京都府宮津市 東京、そして京都、大阪は、インバウンドでは「ゴールデン・ルート」といわれる。いわば日本の観光では定番ともいえるコンテンツだ。 関西では、大阪986万人(2017年、18年は未公表)、京都450万人(18年)のインバウンド客が宿泊している。これに対して18年の「海の京都」は6万6千人、「豊岡」は5万4千人と合計12万人の宿泊にとどまっている。「地域のよさを愛する」 「大阪、京都は宿泊客数で1400万人を超えており、海の京都と豊岡はその1%にも達してもいない。日本海に沿って北関西をクルマで移動する観光コンテンツを打ち出して、それを太い観光ルートにしていきたい。現状の合計12万人の宿泊客を2022年には22万人に増加させたい」。櫻井次長は、「海のある北関西ドライブツアー」という新ルート提案をそう説明している。 兵庫県、京都府北部、福井県の日本海沿いは、新幹線の空白地域である。インバウンド客は新幹線フリーパスなど恩典を使えない。つまりインバウンド誘客には大きなハンディを背負っている。そうした危機感から「海の京都DMO」が働きかけて1府2県の広域連携が実現した。宿泊は地域に対する経済効果が大きく、ホテル、温泉旅館、民泊、農泊などが受け入れる体制を整えた。 インバウンド客全体のうち、リピーターはすでに60%を大きく超えている。しかし、それでも東京、京都、大阪は定番として人気は強いものがある。観光コンテンツとして奥深いものを持っているからだ。ただ、ニーズの多様化、興味の深さなどから、定番としての東京、京都、大阪から離れる動きも徐々に増加傾向を見せている。 「京都、大阪に滞在する客についでに日本海沿いの北関西に来てくれといってもそう簡単には来てくれない。距離は近いので日帰りで来てくれることはあるが、宿泊はない。誘客できる観光コンテンツを周知させて、海のある北関西に長期滞在・宿泊してリピーターになってもらうことをあくまで目標としている」 櫻井次長は、聞き慣れない「北関西」というコンセプトを提示して、インバウンド客にアピールしている。あえて京都、大阪から周遊する客を狙うのではなく、ダイレクトに兵庫県、京都府、福井県の日本海沿いを目指す滞在客を増加させようというアプローチだ。 DMOの観光マーケティングがここまで進化・深化を見せたのは興味深い。全国で設立されているDMOは、国の政策に従って国から補助金を得るという動機で動いてきているところが少なくない。「海の京都DMO」もそうした試行錯誤を繰り返しながらようやくここに至っている。 「北関西」は、京都、大阪の陰に隠れたロケーションで関西人ですらなかなか遊びに行かない地域だ。だが、それだけに日本海を中心に都市化で汚されていない景観、日本の原風景といえる自然が残されている。酒蔵などの地酒やズワイガニといった海産物など食の魅力もある。 「この地域のよさを愛して地域のブランディングをつくっていく。広域に連携してこのエリアの価値を高めたい」舞鶴赤れんがパーク=京都府舞鶴市 櫻井次長は舞鶴市出身であり、京都府北部など日本海沿いの地域をブランディングするという行動は地域愛が原動力になっている。「海のある北関西ドライブツアー」が京都、大阪という定番のゴールデン・ルートとは異なる新しいリピーターをどれだけ発掘できるか。これまでにない新しい切り口で地域づくりに広域連携する動きが出ていることは見逃すことができない。

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    地方行政の常識を覆す、高崎市「子育て支援」はどれほど異例なのか

     「もう何十年も前のことですけどね、私自身、2人の子供を育てました。当たり前ですが、子育てというものは大変なんです。仕事だって息抜きなしでは無理がきます。だったら子育てだって、たまに息抜きをしたっていいじゃないですか」 こう語るのは、群馬県高崎市の富岡賢治市長だ。文部省(現文部科学省)官僚を経て、2011年4月に初当選。現在3期目で、やり手市長として知られるが、子育ての話題になると、柔和な父親の表情を見せた。 こうした富岡市長の思いを実現したのが、全国でも類を見ない施策として話題となった「子育てSOSサービス」だ。 「育児に追われて家事ができない」「仕事と家事で子供と遊んであげられない」「悩みを聞いてほしい」。こんな要望に電話一本で応えてくれるサービスを2019年4月からスタートさせた。 市内に居住している妊娠中や未就学児がいる家庭であれば、事前登録などは必要ない。専用ダイヤルに電話(受付午前8時半~午後6時、利用時間は午前8時~午後8時)するだけで、同市社会福祉協議会から子育てや家事経験の豊富なヘルパーが1時間以内に派遣される。しかも1時間250円という格安だ。 保護者の在宅が条件だが、食事の買い物や調理、片付けのほか、洗濯や清掃、乳児の入浴手伝い、おむつ替えなど、まさに家事全般をサポート。サービスを受けている間に子供と遊んだり、じっくり子供の話を聞いてあげたり、使い方はそれぞれ幅広い。 利用が多いのはやはり夕方以降。仕事から帰宅した際、家事ができる日もあれば、疲れてできないときもある。そんなときに「ちょっと手伝ってくれる人がいたら」というニーズが多いようだ。 食事の支度サポートは、料理は「おまかせ」のほか、希望の料理があれば味付けなども詳しく要望を聞き、臨機応変に対応してもらえる。こうしたサポートの合間に、本来は相談をするつもりがなかった悩みを吐露する利用者もいるという。 ささいな会話から深刻な問題を引き出すケースもあるといい、近年社会問題化している「孤立」防止にも一役買っている。 それだけに、昨年4月のサービス開始以降の利用件数は1846件(昨年12月末現在)にものぼり、1日平均7件と利用者は増加傾向にある。利用者の口コミで広がりつつあるようだ。「子育てSOSサービス」を利用する市民とヘルパー(高崎市提供) 高崎市にはそもそも「産後ママヘルプ」という事業を展開していたが、事前登録や予約が必須だったこともあり、それらを解消した上で迅速に派遣される新サービスとして「子育てSOS」が生まれたという。 すでに言い尽くされた感があるが、いまや少子高齢化は日本が越えなければならない最重要課題だ。ライフスタイルの変化で、夫婦共働きは増え、核家族化や地域住民同士の関係の希薄化など、子育て環境は様変わりしている。 その行き着く先に、社会問題となっている子供への虐待がある。シングルマザーが悩みを一人で抱え込んだり、仕事との両立に行きづまったり、要因の多くは無理をした結果であることが多い。キャッチは「がんばり過ぎない」 だからこそ、「子育てSOS」のキャッチフレーズは「がんばり過ぎない子育てのススメ」だ。また、虐待問題の根本には、人間関係の希薄化によって相談相手がいないばかりに、悲惨な結末になるといったケースもあり、「子育てSOS」はこうした問題解決にもつながるといえるだろう。 ただ、これだけで十分と考えないのが、富岡市長だ。「子育てSOS」に先駆け、「高崎市子育てなんでもセンター」が2017年4月にオープンした。市有地を活用して民間事業者が建設し、福祉と住居機能が一体となったビル「オアシス高崎」2階に拠点を置き、さまざまな子育てサービスを展開している。 託児ルームはもちろん、週末も利用可能な「交流・プレイルーム」のほか、子育て相談も受け付ける。託児ルームの利用については目的を問わない。「がんばり過ぎない」という実践として、保護者が映画やコンサート、美容院、買い物などを楽しみたいといった理由でも問題なく利用できる。 「保護者が遊び目的で託児所を利用することに罪悪感がある人は多い。でも我慢ばかりでは息が詰まって悪循環になる、そこを解消したいというのが富岡市長の思いなんです」と同センターの小石さち子所長は目的を問わない意義を強調する。 さらにこのセンターの特色は「就労相談」だ。同様の施設に「ハローワーク」の端末を設置しているケースはあるが、ここではハローワークやNPO法人の担当者が直接相談に応じるサービスも提供している。 富岡市長は「かつては近所づきあいや、地域のお年寄りが何かと手伝ってくれたものでした。でも、現代はそうはいきません。だからこそ、行政がサポートしなきゃいけない。子育ての悩みが解消されれば好循環が生まれるんです。ヘルパーの人数を増やすなど、これからももっと充実させていきたいですね」と力説する。「子育てなんでもセンター」で支援に取り組む小石さち子所長(中央奥)ら=2020年3月(iRONNA編集部撮影) 首都圏を中心とした都市部の人口一局集中という課題解消は一筋縄ではいかない。ただ、子育てに安心感が生まれれば、家族を持ちたいという思いは強まり、どこで子育てするのがよいかといった選択肢が増えるはずだ。 こうした高崎市の取り組みを一つのモデルケースとすれば、少子高齢化や地方創生といった課題解決の糸口になるのではないだろうか。(iRONNA編集部)【問い合わせ先】「子育てSOS」専用ダイヤル(027・384・8009)「子育てなんでもセンター」 (027・393・6101)「たかさき子育て応援情報サイト ちゃいたか」

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    全国が注目!高崎市「介護SOS」24時間365日サービス

     「人生100年時代」と言われるようになった今、高齢者すべてが健康であればよいが、そうもいかないのが現実だ。 近年では介護の必要な高齢者が、介護施設などで暮らすケースが増えたとはいえ、在宅での介護も少なくない。 親戚や知人の結婚式、または葬儀といった冠婚葬祭などがあっても、「おじいちゃんやおばあちゃんを一人自宅に残して出かけられない」という経験をした人は多いのではないだろうか。 人口約37万3千人の群馬県高崎市。2006年以降、周辺町村との合併などで人口は増えたが、65歳以上が約10万2千人と高齢化率は27・78%で、要介護等認定率は16・7%だ(2019年11月30日現在)。 こうした現状を踏まえ、高崎市は子育て支援に注力すると同時に、高齢者の介護支援でも極めて異例な施策に取り組んでいる。 それは2017年度から始めた「介護SOSサービス」だ。このサービスは、24時間365日、電話のみで介護専門のスタッフが駆けつける。高崎市に住民票のある65歳以上の高齢者が対象だが、介護者が市外に住んでいる場合でも利用可能で、サービスの依頼者は市民でなくてもかまわない。 冠婚葬祭などはもちろん、世話をする家族の急用や体調不良など、1時間単位(250円、利用は1カ月5回まで)の訪問サポートが主なサービスとなっている。一方、施設への短期宿泊サービス(一泊2食付きで2千円、送迎付きは3千円、利用は1カ月3回まで)もある。 自宅への訪問サービスは、制度上「宿泊」はないが、10時間利用などになれば、ヘルパーが交代で担うため、実質的に夜から朝までのサービスになるケースもある。 同サービスは、高崎市の企画に基づき、群馬県内で介護事業を展開する「ケアサプライシステムズ」が趣旨に賛同したことから、市の補助事業としてスタートした。2017年度の利用実績は「訪問」が963件、「宿泊」が65件だったが、18年度は「訪問」が1421件、「宿泊」が116件と急増しており、ニーズの高さがうかがえる。※写真は本文とは関係ありません  サービスの背景にあるのは、近年問題となっている「老々介護」だ。こんなケースがあった。高齢夫婦の世帯で、ある日の深夜、夫がベッドから起き上がろうとした際に転倒した。体格のよい夫だけに、妻一人では対処できずにいたところ、ケアマネジャーから「介護SOSサービス」を教えてもらい、早速電話したという。 「まさにSOSという事態でした。電話の後、すぐにスタッフが駆けつけてくれて、汗まみれだった夫の体を拭いて、着替えさせ、ベッドに寝かせてくれました」と、利用者は振り返る。きっかけは市幹部の介護離職 24時間365日対応するサービスは全国的にも極めて異例だ。介護支援は普通、介護を受ける高齢者が主なのは当然だが、「介護SOS」は介護に取り組む家族への視点も同等と考えている点が、従来のサービスと一線を画す部分だ。 ではなぜ、高崎市でこうしたサービスの企画が発案されたのか。それは富岡賢治市長の元で起きたある出来事がきっかけだった。 数年前、高崎市の課長級職員が親の介護を理由に退職したのだ。こうした介護離職は公務員に限らず、民間企業でも相次いでいる。また、介護離職を余儀なくされる世代は、重要な職務の立場にあることが多く、こうした現状に手を打たなければ、社会的な損失につながると富岡市長が考え、トップダウンで決まったという。 また、「介護SOS」に関する富岡市長のこだわりは他にもある。老々介護でなくても、子育て同様に目が離せない高齢者の介護に「休み」はない。ゆえに当初は、緊急性がなく計画的な用事を理由とした利用は認めていなかったが、現在では利用理由の幅を広げ、たとえ遊興などが目的でも利用可能とした。 さらに、「宿泊」サービスについては、依頼する家族の「罪悪感」を払拭するため、要介護者の宿泊施設を、福祉施設とホテルの2カ所用意。ホテルでは、介護を受ける高齢者も「ちょっとした非日常」を楽しむようなシチュエーションを提供できるという。 超高齢社会の中、こうしたサービスの意義は大きい。ゆえに、他の自治体からの視察が相次いでいる。 注目されるのは、やはり人材確保などの面でハードルが高いからだ。高崎市でも企画段階では、サービスを担える民間事業者の存在がカギだった。ただ、ケアサプライシステムズ社が、富岡市長の熱意に賛同し実現しただけに、どの自治体でもすぐにできるわけではない。高崎市役所の庁舎外観(同市提供) 今、自治体の多くが財政難と人材確保の両面で高齢者サービスに踏み切れず、アイディアがあっても新規事業に着手できない悩みを抱えている。 こうした現状を踏まえれば、高齢者の介護支援を中心に、その家族への支援、さらに行政と民間事業者との協力から実現するといった、深刻な社会問題に対応する「未来型」が高崎市にあるといえるだろう。(iRONNA編集部)【問い合わせ先】「介護SOSサービス」専用ダイヤル(027・360・5524)

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    なぜ「核のごみ」を地下に埋めるのか

    原発の運転から出た高レベル放射性廃棄物、いわゆる「核のごみ」を地下に埋めて処分する最終処分場の選定をめぐり、国が地震や火山の影響を受けにくい「科学的有望地」を示して選定を主導する基本方針に転換した。そもそも、核のごみはなぜ地下に埋めて処分するのか。地層処分の目的と課題について考えたい。

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    地下350メートルの世界 「核のごみ」はどう処分するのか

     地下350メートルとは、いったいどんな世界なんだろう。あの日本のシンボル、東京タワー(高さ333メートル)がすっぽり入る深さである。そんな地下奥深くで今、わが国のエネルギー政策の「未来」にかかわる壮大な実験と研究が続けられているのをご存じだろうか。現役大学生の論客、山本みずきとともに、北海道にある研究施設を訪れ「核のごみ」の最終処分について考える。 その場所は、北海道最北の地、稚内市から南へ約50キロ、酪農が主産業という幌延町にあった。施設の名称は「幌延深地層研究センター」。原子力発電所から出た使用済燃料を再処理した後に発生する高レベル放射性廃棄物(核のごみ)を地下深くに埋めて処分する「地層処分」の技術に関して、国立研究開発法人「日本原子力研究開発機構」が平成13年からこの場所で調査研究している。幌延深地層研究センター(北海道幌延町)提供:日本原子力研究開発機構 敷地面積19万平方メートルという広大な丘陵地に、2棟の研究施設と地下に通じる3本の立坑、ハコ型の排水処理施設、道路を挟んで少し離れた場所には掘削時に出た土を盛り土にしたズリ置き場がある。町の中心部からは4キロ離れているが、隣接地にはトナカイ観光牧場もあり、北海道の大自然を肌で感じられるイメージ通りの場所である。 今回は地下施設の取材ということで、さっそくヘルメットと長靴、軍手とつなぎ服に着替え、センター西側の立坑へ向かった。定員11人の工事用エレベーターに乗り、いよいよ地下350メートルの最深部へ。安全確保のため、鉄柵のゴンドラがゆっくりと動き出す。エレベーターの明かりを消すと、真っ暗闇の世界が広がる地下へと吸い込まれていく。息をのむような静けさと暗闇が緊張感をさらに増幅させる。到着までの4分30秒という時間がいつもより長く感じたのは気のせいか。ほぼ同じ高さの東京タワーを上ったときとは、まるで異なる感覚だった。 最深部へ到着し、エレベーターを降りると、そこは奥へと続く半円状のトンネル「水平坑道」の入り口だった。坑道の幅は約4メートル、高さは約3メートル。3本の立坑を「8」の字を描くように横に結んでつながっており、総延長は約800メートルにもなるという。ここでは坑道の掘削が周辺の地層や地下水に与える影響などを調査するほか、地震による長期的な影響の観測や、高レベル放射性廃棄物の処分を想定した模擬実験なども行う。エレベーターで地下350メートルへ。案内して頂いた日本原子力研究開発機構の棚井憲治さん 核のごみは、原発の運転により生じた使用済燃料から、燃料として再利用するプルトニウムやウランを取り出した後に残った廃液である。この廃液は放射能レベルが高く、元々の燃料の原料になった天然ウラン鉱石並の放射能レベルにまで下がるには数万年もの時間がかかるとされる。 このため、処分にあたっては廃液を融けたガラスと高温で混ぜ合わせてステンレス製の金属製容器(キャニスター)に入れ、冷やし固めて「ガラス固化体」にし、地下300メートルより深い地下の岩盤に埋める。その際、厚さ約20センチの炭素鋼(オーバーパック)に包んで、さらにベントナイトという粘土を主成分とした厚さ70センチの緩衝材で覆う「人工バリア」をつくり、火山活動や地殻変動などの影響が少ない安定した地質を選んで埋める考えだ。 地下350メートルの空間は、地上よりも少し蒸し暑い。坑道を進んで行くと、トンネルの壁から漏れ出た地下水が散見される。しばらくすると、トンネル内壁の一部分だけコンクリートが吹き付けられていない個所があった。「ここは見学者にこの辺りの地層を観察してもらうために、わざと窓のようにくり抜いています。およそ500万年前に堆積したと推定される泥岩の地質を見ることができます」。案内役を務めてくれた同機構研究計画調整グループの棚井憲治さんが説明してくれた。センターでは「幌延の窓」と呼んでいる場所だが、地質に詳しい人であれば、太古の昔、この辺りが海の底だったことが分かる地層らしい。事実、掘削工事に伴い、貝類の化石も多く見つかったという。「幌延の窓」実際の岩盤を見て触れることができる 幌延の地層には、地下水脈も多く、掘削工事中には地下水が溢れ、中断することもあった。平成25年2月には、毎時60立方メートルもの湧水量を記録し、一週間も工事の中断を余儀なくされている。大量の湧水が確認された場所は、今は止水対策により湧水が抑えられており、滴水を防ぐためにブルーシートが施されていた。なお、坑道を掘ると圧力差から必然的に地下水がそこに出てくるが、埋め戻すと地下水は元通りほとんど動かなくなるという。 核のごみの最終処分にあたって、地下水は人工バリアの劣化を助長し、長期保管する上で厄介な「敵」でもある。このため、核のごみを包むオーバーパックは、腐食に耐えられるよう十分に厚みを持たせている。 「約3センチ腐食するのにおよそ1千年はかかる。仮に地下水と接触しても、ガラスは水に溶けにくい性質がある。仮に溶けたとしても、地表に放射性物質が到達するまでには、地下深部の水の動きは非常に遅いといった理由により何十万年もの時間がかかり、結果的に地上の生活環境における放射線量は自然界に存在するよりもはるかに小さいレベルまで下がっている」。棚井さんは安全性をこう強調した。オーバーパックはガラス固化体と地下水との接触を防止する 坑道の入り口から数百メートル奥へ進むと、「試験孔」と呼ばれる大きな穴がある。直径2・4メートル、深さ4・2メートルの巨大な穴では、実物大のオーバーパックとそれを覆う緩衝材を使って実験している。センターでは放射性物質を使った実験は行っていないため、ガラス固化体の代わりに電熱ヒーターを内蔵した模擬オーバーパックを使用。これを緩衝材で覆って地中に埋めた後、埋め戻し材で坑道を埋め戻し、さらに「プラグ」と呼ばれる3メートルの分厚いコンクリートで蓋をする。実験では、地下水を送り込んで、人工バリアや周囲の岩盤の温度、水質、応力などの変化を設置した約200基のセンサーで計測し、地下水への影響や緩衝材の施工に問題が発生しないかなどを観測するという。地下水を注水しながら、模擬オーバーパックの腐食の状況を検証 安定した岩盤と人工物を組み合わせた「多重バリアシステム」。同機構が安全性の確保に絶対の自信をみせる地層処分だが、最終処分地はまだ何も決まっていない。 政府は今年5月、原発に伴い発生する「核のごみ」の最終処分をめぐり、基本方針を7年ぶりに改定した。国が前面に立って取り組むとして、具体的には、地層処分をするうえで科学的により適性の高い地域「科学的有望地」を示すこととした。国民的議論を喚起しようという狙いだ。 だが、世界を見渡しても最終処分地が正式に決まったのは、北欧のフィンランドとスウェーデンの2カ国だけ。いずれの国もこの問題の解決には苦慮しており、日本も例外ではない。 特に日本では、福島第一原発事故を契機に国民の多くが「原発アレルギー」に陥ったことが大きい。そもそも、既に生じた核のごみの最終処分と、原発再稼働をめぐる議論は別物のはずだが、この2つの問題をごちゃ混ぜにして多くの人が「原発」や「核」という言葉だけに過剰反応を示してはいないだろうか。いや、むしろ日本が直面する核のごみの処分という「至上命題」に対し、現世代が目を背けているだけで、未来世代に「解決」を先送りしているだけではないのか。 地下施設の見学が終わり、地上に戻ってくると、これまで抱いてきた疑問がふつふつと湧いてきた。「地震大国」の日本に地層処分は現実的ではないという否定的な見方もある。だが、最もあてにならないのは、戦争もすれば、テロも起こす「人間」だということも忘れてはならない。 たとえ今は平行線であっても、反対派、賛成派がそれぞれの立場で意見を出し合えばいい。国民一人ひとりが核のごみから目をそらすことなく、自分たちの身に置き換えて建設的な議論をしていくことこそ、いまできる唯一の解決策になるのかもしれない。(iRONNA編集長、白岩賢太)20歳の論客、山本みずきが考える「核のごみの最終処分」20歳の論客、山本みずきが考える「核のごみの最終処分」 わが国には、原発から出た「核のごみ」がどれだけあるかご存じだろうか。現在、使用済燃料は1万7千トンにも達している。この使用済燃料に由来する「核のごみ」をどう処分するのか。いま、日本が直面する大きな課題でもある。北海道幌延町にある国立研究開発法人「日本原子力研究開発機構」の幌延深地層研究センターを訪れた現役大学生の論客、山本みずきが「核のごみ」について考える。 ――政府は平成12年に「特定放射性廃棄物の最終処分に関する法律」を定め、核のごみを地下300メートルより深く安定した地層に処分する「地層処分」の方針を決めました。現在、核のごみをいかに安全に処分するか、技術的な検討が続いていますが、そもそも原発の運転から生じる核のごみについて、山本さんはどんなイメージをお持ちですか?山本 人間の身体に害のある、近づきがたいイメージがあります。核のごみに対するアレルギーが私の中で支配的になっているのも事実です。とは言っても、日常生活の中で放射性廃棄物というのは遠い存在であり、いつも恐怖心を抱いていることはありません。友人との会話の中で核のごみについて触れることなんてありませんし、なんとなくですが、悪いイメージだけが先行しているような気はします。 それでも今回の施設見学を通して感じたのは、原子力研究開発機構が安全面には非常に配慮した上で慎重に研究を進めているということが理解できました。ただ、核のごみを安全に処分できるかどうかの評価については、やはり私自身の知識が乏しいこともあり、「核のごみとは何か」という基礎をしっかり理解した上で、ゆっくり考えてみたいと思っています。 ――幌延深地層研究センターでは、地層処分の実験場所が地下350メートルという、普段の生活では立ち入らない場所を見学しました。実際、地下の調査坑道を見学してみて、どんな印象を持たれましたか?山本 当たり前ですが、めちゃくちゃ深いなと思いました(笑)。最深部に行くまでには工事用エレベーターを使って片道約4分ほどかかります。そして見学を終えて、また地上に戻る時には、東京ディズニーシーのアトラクション「タワー・オブ・テラー」に乗っていたような不思議な感覚でした(笑)。地下トンネルの中では、核のごみを包むオーバーパック、緩衝材といった「人工バリア」の施工工程を間近で見ることができましたが、とにかく安全性に配慮した設計と施工の段取りになっており、私の想像以上に安全面に気を使ったシステムになっているという発見もありました。 特に印象に残っているのは、私たちを案内してくれた担当者の方の「あくまで幌延町は研究開発拠点である」という言葉です。幌延の施設は、あくまで地層の研究と処分技術の開発を進める場所であり、最終処分場になることはないということも、改めて知ることができました。この点については、まだ多くの人が誤解していると思いますし、こういう機会を通して皆さんにもぜひ知っていただきたいとも思います。 ――現在の科学技術では、日本に限らず先進国も含めて、地層処分が最も妥当な手段であると考えられています。半面、技術は確立しても、核のごみを受け入れる場所の選定をめぐっては、北欧のフィンランドとスウェーデンの2カ国以外に決定した例がないのも事実です。実際に建設する地下坑道の総延長は、研究施設の300倍250キロメートルにおよぶ山本 現代の科学力で最適な方法が地層処分であるのならば、それは早い段階で実現に向けて動くべきだと思います。そもそも、高レベル放射性廃棄物をいずれ処分しなければならないことは、原発を動かす前から分かりきっていたことだと思います。国や電力事業者だけでなく、私たち国民一人ひとりがこの問題の解決を先送りにしてきたツケが回ってきたというのが今の状態なんだと思います。だからこそ、私たちはこの問題から目をそむけてはならないのではないでしょうか。 わが国では原発そのものに反対する方が多いと思いますが、それでもこれまでは多くの人が原発の恩恵を享受してきたという事実もあると思います。もちろん、東京電力福島第一原発の事故以来、国や電力事業者に対する不信感は今も強烈にあります。たとえ国の発信している媒体などで数値が提示され、理解を求められたとしても、「どこかに嘘が隠されているのではないか?」と思えるほどの不信感は、正直言って拭い去ることは難しいかもしれません。正しい情報を受け入れようとしないのは国民の責任とは言えないと思います。国は教育や広報活動などを通して、次世代と呼ばれる層も含めて、真摯にアプローチし、正しい情報を理解できる人を増やす努力を重ねるべきです。 ただ、原発再稼働と既に生じた核のごみをどう処分するかは、全く別の議論です。核のごみの最終処分という問題については、私たち現世代が現実から目をそらすのはあまりに無責任ですし、少なくとも私は自分より後の世代に問題解決を押し付けるようなことはしたくありません。 ――政府は今年5月、高レベル放射性廃棄物(核のごみ)の最終処分に関する基本方針を7年ぶりに改定しました。自治体からの応募を待つ従来の方式から、国が科学的により適性が高いと考えられる地域「科学的有望地」を示し、国民的議論を喚起しようとする方針に転換しました。近い将来、国からこの「科学的有望地」が提示される見通しですが、国民の理解が広がらなければ、一向に進展しない可能性だってあります。より多くの人に理解を深めてもらうにはどうすればいいのでしょうか?山本 この問題を理解するためには、当然のことながら国が積極的かつ丁寧に説明を続けることが不可欠です。ただ一方で、私たちも努力して勉強する必要があると思います。何が正しい情報なのか、何が誤った情報なのかを理解できるようにならなくては、理性的な判断を下すことができないと思います。国や電力事業者だけが努力をすればいいという話では決してありません。もちろん、反対や賛成の立場はそれぞれあるでしょうが、まずは私たち自身がこの問題について知ろうとする努力をしていかなければならないのではないでしょうか?両者の意見を聞いて比較検討し、もし反対するのなら現行の政策に対する代案を出すということまでしなければいけないと思います。これは地層処分に限らず全ての問題に対して言えることです。候補地が選定され、本格的に処分場が決定されるまでの18年以上の期間をつかって議論を深めるためには、国民一人ひとりが適確な判断力を身につけることが重要です。そのためにはもちろん専門的なことから、自分の意見を絶対的なものとせず、柔軟にさまざまな価値観に触れられる人材を形成していけるかが重要です。国や電力事業者からは、それを手助けする形で、何かしらアプローチがあるといいですね。 もう一つは、メディアにもこの問題を積極的に取り上げてもらう必要があります。私たちが自分たちの問題として核のごみの最終処分を考える、あるいは知ることのできる環境をつくっていくことが求められると思います。その上で、議論を深めるために、基礎的な知識を教えるような学校教育カリキュラムをつくったり、学校教育を終えた人々が今からでも学ぶためのシンポジウムを積極的に開催してみてはどうでしょうか? 知識を一方的に提供するだけではなく、地層処分の意義や問題点について、両方の立場の意見を聞ける場や発信できる機会が増えればいいなと思います。やまもと・みずき 慶應義塾大学法学部。1995年、福岡県生まれ。高校時代は生徒会長などを務め福岡市親善大使として活動する一方、ボランティア活動団体「Peaces」を設立。高校2年の時には、ジュネーブの国連欧州本部で世界的な軍縮を英語でスピーチした。2013年、「18歳の宣戦布告」(月刊正論2013年5月号)で論壇デビュー。現在は慶應義塾大学法学部政治学科に在籍する傍ら、国内外で講演・執筆活動に取り組む。iRONNA特別編集長としても活躍中。

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    地層処分は技術的に確立、不安の払拭と意義の共有が課題

    堀義人(グロービス・キャピタル・パートナーズ代表パートナー)松本真由美(国際環境経済研究所理事) 国は、今年7月、2030年度におけるエネルギーミックス(電源構成)の見通しの中で原子力発電の割合を20~22%程度と明記し、今後も活用していく方針を示した。エネルギー安定供給、経済性、地球温暖化対策などの面で、引き続き原発は必要との評価だ。こうした中、原子力発電の利用に当たり、使用済燃料に由来する高レベル放射性廃棄物の処分にも関心が集まっている。この問題をどう考えれば良いのか。グロービス経営大学院学長で、グロービス・キャピタル・パートナーズ代表パートナーの堀義人氏に、国際環境経済研究所理事の松本真由美氏が聞いた。核のごみ問題の解決が地球温暖化問題の解決に松本 日本では半世紀近くにわたり原子力発電を利用してきました。それに伴い、高レベル放射性廃棄物の最終処分という問題が生じているわけですが、堀さんはこの問題をどのようにお考えでしょうか。グロービス経営大学院学長でグロービス・キャピタル・パートナーズ代表パートナーの堀義人氏堀 ものごとは全体を俯瞰して考える必要があります。最終処分に道筋がついていない原子力発電所のことを『トイレなきマンション』と批判する方もいますが、私は二酸化炭素(CO2)を生む化石燃料利用こそが『トイレなきマンション』状態にあると思っています。今、世界の一番の脅威は地球温暖化です。化石燃料を燃やすことによって温室効果ガスの一つであるCО2が排出されて気温が上昇し、南極の氷河が溶けて海面上昇が起きています。気温上昇は台風の巨大化も誘発しているとされており、何千人もの死者を出す惨事にもなっています。原子力は確かに使用済燃料が出てきますが、きちんと管理することが十分可能であり、実際に世界中でそうなっています。そして、その量は、非常に小さなものなのです。「行き場のないごみ」と揶揄する方もいますが、管理や処分に必要とされる面積は、ほんの小さなものです。国民1人が一生の間に利用する電気に伴う高レベル放射性廃棄物は、ゴルフボール3個分程度のものでしかありません。原子力の利用を今やめれば、地球温暖化はさらに進行し、被害はより深刻化していくでしょう。そういった危機意識を、日本国民のみならず世界中の人たちが認識すべきだと思います。松本 地球全体の問題の解決策であり、廃棄物の問題だけで原子力を止める必要はないとお考えなのですね。廃棄物については、いずれにしてもすでに存在しているものであり、処分場を確保する必要があり、私たちがしっかり向き合って解決していかなければならないわけですよね。堀 原子力の恩恵を受けてきた私たちの世代で解決すべきことですし、解決できると思っています。原子力という有用な技術もしっかりと引き継ぎ、かつ、廃棄物の問題も解決していく。それが将来世代との関係で必要なことでしょう。松本 処分の方法としては、地下深くの安定した地層に埋設して処分する「地層処分」が、確実性や実現可能性の高い方法として国際的な共通認識とされていますが、この地層処分について、どのような見解をお持ちですか。堀 環境主義者として知られる英国の科学者、ジェームス・ラブロック氏は、高レベル放射性廃棄物を「自分の庭に埋めていいくらいだ」と言っています。地層処分の安全性や合理性を示すために、こうした発言をしたわけです。地層処分の技術的成立性は科学的にかつ国際的に検証済みです。ただ、そのことと、国民の不安を解消し理解を得ることとは同じではありません。科学的に大丈夫であっても、漠然とした不安が人々にはあります。このあたりをどうするか。地層処分は方法論としては確立していますが、問題の本質は政治的なものだと私は思います。松本 政治的、といいますと。堀 ある地域が処分場を前向きに検討しているとの情報が出てくるたびに、メディアや原子力発電に反対する人たちが押し寄せ、せっかく前向きに考えようとしていた自治体や住民の方々がしり込みをしてしまうことが何回か繰り返されてきました。こうした部分について、自治体などを矢面に立たせておくのではなく、国がしっかりと前面に立って、その地域や周辺地域の人々にきちんと説明し、地域の将来像を一緒に考えていくことが重要だと思っています。国が前面に立った「科学的有望地」の提示に期待国際環境経済研究所理事の松本真由美氏松本 最終処分は各国にとっても難しい問題であり、現在、処分地が決定している国はフィンランドとスウェーデンだけです。日本ではこれまで、自治体に立候補してもらい、国は受け身の立場でしたが、今年5月に政策を変更し、国が前面に立って、科学的により適性が高い地域、つまり「科学的有望地」を提示し、国民的議論の契機にしていく考えを表明していますね。堀 期待したいです。ただ、国が科学的有望地を提示すれば、それがどれだけ「検討の参考材料」のようなものだとしても、抵抗が起こる可能性があります。その際に、強力な“推進力”となるものが必要です。その一つが、この廃棄物の処分が進めば、地球温暖化問題も解決に近づく、ということへの国民の共通理解だと思います。ある地域が国家的な課題を引き受ける場合には、その地元の方々の理解はもちろん、国民的な理解を得ることがすごく重要になってくるでしょう。地元の方々が心の中では賛成でも、地元以外の人たちによる反対運動が活発化して大騒動になると、ほっといてくれ、静かにしておいてくれ、となってしまいます。調査を受け入れようとする地域が出てきた場合に、そのほかの地域の多くの人たちが拍手を送るような状況になるよう、国民的な議論の喚起が不可欠だと思います。将来世代のためにいま何をすべきか考え、声を上げていくことが重要松本 私は、全国各地のシンポジウムで議事進行役を務めることがありますが、多くの方々が地層処分に反対という会場もある一方で、この問題を自分の事として冷静に考えなければいけないと思っている方たちが比較的多くいらっしゃる会場もあります。堀 原子力発電に絡む問題として、高レベル放射性廃棄物の最終処分をどう考えますか―とそこだけを切り取って聞くと、多くの方々は問題だ、難しい、だから原発も反対だ、となってしまいがちです。しかし、この問題が解決しなければ、もっと大きな脅威がある、ということまで合わせて議論すると、前向きに解決していこうという方々が増えてきます。そうした全体論で考えることが大切です。松本 堀さんは各界のリーダー的な方々ともお付き合いがあります。そうした方々はオピニオンリーダーとして発信力もありますし、影響力もあると思うのですが、最終処分の問題に関して各界のリーダーに何を求めますか。堀 見識のあるオピニオンリーダーがこの問題についてしっかり考え、何が一番重要なのかを考え、逃げないで声を上げていくことが重要です。これは財界や学会の方々、そして政治家の方々も含め、ポピュリスト(大衆主義者)的に動くのではなく、100年後、200年後、500年後の将来世代のためにも、いま何をすべきか考え、声を上げていくことが重要だと思います。堀義人氏(左)と松本真由美氏松本 国とNUMOは、国民や地域の理解を得ながら最終処分問題の解決を進めていこうとしています。期待することは何でしょうか。堀 常に発信し、可能な限り多くの人を巻き込んでいくことが大切です。一番良くないのは黙ってしまうことです。私はソーシャルメディアが重要だと思っていますので、ツイッターやフェイスブックなどを活用したコミュニケーションをもっと多くやっていいと思います。特に主婦層を含めた女性がコミュニケーションしやすい方法で、なぜ最終処分が重要なのかを地道に発信していけば、必ず世論が変わってくると思います。松本 ビジネスマン層、高齢者層、そして主婦層、さまざまな対象の方がいらっしゃいますので、それぞれの層のご意見や質問にも応える形で、双方向のコミュニケーション活動を続けていく、こうした活動を積み上げていき、信頼を醸成していくことが大切ですね。本日はありがとうございました。ほり・よしと グロービス経営大学院学長、グロービス・キャピタル・パートナーズ代表パートナー。1962年生まれ。京都大学工学部卒、ハーバード大学経営大学院修士課程修了(MBA)。住友商事株式会社を経て、92年(株)グロービスを設立し代表取締役に就任。96年グロービス・キャピタル設立し、代表パートナー。2006年グロービス経営大学院を開学、学長に就任。著書に『創造と変革の志士たちへ』(PHP研究所)など。まつもと・まゆみ 国際環境経済研究所理事。大学卒業後、テレビ朝日報道局、NHK BS1のキャスターを経て、2008年度より東京大学の環境・エネルギー分野の人材育成プロジェクトに携わる。教育と研究を行う一方、講演、シンポジウム、執筆など幅広く活動。NPO法人国際環境経済研究所理事。東京大学教養学部客員准教授。

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    求められる「地層処分」の実現 国民的な議論を

    増田寛也(元総務大臣)竹内薫(科学作家)山本みずき 日本では、過去半世紀にわたる原子力発電の利用により、使用済燃料由来の高レベル放射性廃棄物が既に相当量発生している。この処分の方法としては、地下深部に埋設して人間の生活環境から隔離して処分する、いわゆる地層処分が国際的にも最良とされており、日本もその方針であるが、これまでの処分地選定が進んでこなかった。こうした状況を受け、本年5月、国が前面に立って取り組むことなどを柱とした新たな国の方針が示された。私たちはこの問題にどう向かっていくべきなのか―元総務大臣の増田寛也氏、科学作家の竹内薫氏、若い世代を代表し大学生の山本みずきさんに話し合ってもらった。現世代が向き合うべき課題 ――高レベル放射性廃棄物は既に発生している以上、確実に処分する必要があります。どう取り組むべきなのでしょうか。増田寛也氏増田 海外をみると、すでにフィンランドとスウェーデンが地層処分する場所を決定しています。私も現地を訪れて話を聞いてきましたが、両国とも20年、30年という長い時間をかけて地元との合意にこぎつけています。日本もこうした経験にならって、しっかり取り組みを進めていくべきだと思います。いま国内には、高レベル放射性廃棄物の処分の問題が解決していないのだから原発の再稼働をやめるべきだという意見があります。しかし、処分の方法や技術は既にあり、問題は処分場所を決めることですから、決して不可能なことではありません。既に廃棄物は発生しているので、再稼働する、しないにかかわらず処分は必要ともいえます。処分の問題は原発の再稼働の問題とは切り離して考えるべきでしょう。竹内 増田さんが指摘したように、原発の再稼働と高レベル放射性廃棄物の処分は、別個の問題として認識すべきです。何としてもそれを発生させてきた現世代で解決しなければならないということを、特にこれまでその恩恵に浴してきた世代が認識する必要があります。さもないと、若年世代、将来世代につけを回すことになります。ただし、これからも技術革新は目覚ましく進展するでしょうから、新しいテクノロジーが生み出されたら、それに柔軟に対応して処分をやり直せるような余地を残しておくことも肝要です。 ――地層処分への理解が国民の中で進んでいないように思えます。竹内 日本の場合、原発への関心は非常に高いのですが、地層処分については知らない人、無関心な人が多数を占めます。特に地層処分の科学的知見について知られていないように思います。知識がほとんどない中で、地層処分は漠然と怖いという受け止めがされているのかもしれません。 ――若い世代もそうなのでしょうか。山本 当然ながら恐怖心を抱いている人は一定数いますが、他方で、高レベル放射性廃棄物を地層処分する必要があることを認識している友人も一定程度います。なぜかといえば、原発事故を目の当たりにしたことで必然的に原発への関心が高まっているからです。ただし、私たちより年上の方々が、問題解決を私たちに委ねればよいという姿勢でいられると困ってしまいます。冷静に受け止めたい「科学的有望地」 ――こうした中で地層処分への理解を促すにはどうしたらよいでしょうか。増田 安全性・確実性が高いこと、そしてそのために慎重に調査や評価を進めていくということを、丁寧に説明していくことが重要だと思います。日本は地震国で火山国のため、地中に埋めるのは危ないのではないかと受け止められがちです。しかし、地層処分場に必要とされるのは数キロ四方ですから、その程度のスケールで安定した場所を探すことは十分可能と考えられています。私は人間が恒久的に管理する方が危ないと思うし、将来世代に負担を強いることは是非とも避けたいと考えています。竹内薫氏竹内 地層処分については、例えば活断層の存在が人々を不安にしているのかと思いますが、断層活動は過去数十万年にわたり同じ場所で起こっていることが分かっています。このように日本が蓄積してきた科学的知見を生かし、危険な場所を避けて埋設できることを丁寧に説明していくことが重要です。ただし、100%の安全が確保されることはあり得ません。リスクも説明し、それにしっかり対応していくという姿勢を示すことが、結果的に信頼獲得につながっていくと思います。山本 地層処分への理解を促すに当たって大切なのは、この問題が国民一人一人の問題であること、自身の問題でもあることを認識してもらうことではないでしょうか。私たち若者をはじめ、みんなの問題だということを、どう広められるかがポイントになるように感じます。また、学校教育を通じた人づくり、社会づくりが重要ではないかと思います。高レベル放射性廃棄物の処分は待ったなしの問題です。こうした局面では事実を客観的に受け入れ、理性的な判断をしていく必要があります。こうした難題はこの問題に限らず今後も私たちにふりかかってくるでしょう。先日、地層処分で先行するフィンランドを訪れましたが、基礎的な知識の土壌があるように感じました。 ――処分に向けた取り組みがなかなか進まない現状を打破するために国が打ち出した方策の一つが、科学的により適性が高い地域、つまり「科学的有望地」の提示です。増田 これは国が前面に出て、処分の実現に向けて責任を果たしていくという意思を明確にしたものであり、その点、適切な判断であったと評価しています。ただ、気を付けなければならないのは、国が候補地を指定するのではないということです。国が科学的有望地を示すことが地域で主体的に議論を始めるきっかけとなり、その議論を煮詰めて次のステップにつなげていく、そうとらえていただくことが重要です。大切なことは、地域で対話を積み重ね、合意形成を図っていくということなのです。この点について、地方自治体の首長の方々が拒否反応を示さずに、しっかり冷静に受け止めてもらえるかどうかがカギになると思います。丁寧な対話が重要 ――最後に地層処分を着実に推進する上で、重要だと思われることを教えてください。山本みずき氏増田 国や電気事業者、事業の実施主体が問題の解決に向けた積極的な姿勢を示し続けるとともに、国民や地域住民と対等の立場で議論し、合意形成へと議論を積み重ねていくことです。間違っても押しつけの姿勢であってはなりません。また、安全性について国民の納得感を得るには、規制当局の明確な関与が何より大事でしょう。北欧の成功からも学べる点であり、日本の規制当局にもコミットメントを求めたいところです。竹内 科学技術の話を社会科学的な側面も加え、複合的に丁寧に説明していくことが求められます。そうした人材を育てていく必要もあります。山本 すべての国民がこうした重要な問題への理解を深められるように、活発な議論の場をつくることが求められると思います。賛成する意見と反対する意見の双方を聞くこと、その上で冷静に比較検討し、少しずつ改善案を提示していくことが重要だと思います。 ――本日は多くの貴重な意見をありがとうございました。ますだ・ひろや 総合資源エネルギー調査会放射性廃棄物ワーキンググループ委員長。1951年、東京都生まれ。東京大学法学部卒、建設省入省。1995~2007年の12年間、岩手県知事を3期務め、環境政策を推進。2007~08年に総務大臣。現在は、野村総合研究所顧問、東京大学公共政策大学院客員教授を務める。たけうち・かおる サイエンス作家。1960年、東京都生まれ。東京大学理学部卒、マギル大学大学院博士課程修了。科学評論やエッセー、書評、講演など幅広い場面で、物理、数学、脳、宇宙など難解な分野でも親しみやすく読者に伝えている。やまもと・みずき 慶應義塾大学法学部。1995年、福岡県生まれ。高校時代からボランティア団体を設立するなど活躍、国連欧州本部で世界的な軍縮に向け英語でスピーチも行った。2013年「18歳の宣戦布告」(月刊正論2013年5月号)で論壇デビュー。

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    注目度高まる「核のごみ」 解決が求められる環境問題

    萱野稔人(津田塾大学教授、哲学者)開沼博(社会学者)春香クリスティーン(タレント) 原発再稼働の問題にあわせて、「核のごみ」に関する注目が高まっている。典型的な主張は、行き場のないごみをこれ以上増やすな、処分方法も決まっていないのに無責任、といったものである。しかし、実際には、原子力発電に伴って発生する廃棄物の量は非常に小さなものである。また、処分方法が決まっていないという話でもない。地下深いところに埋設して人間の生活環境から隔離するという方法が最善であり、技術的にも可能であるということは、国際的にも確立していると言える。しかし、こうしたことに国民の多くが納得しているという状態にはない。私たちはこの問題にどう向き合い、どのように解決を図っていくべきなのか、哲学者の萱野稔人氏、社会学者の開沼博氏、タレントの春香クリスティーンさんという独自の考えを持つ3名の論者に語り合っていただいた。原発利用の是非とは別議論萱野稔人氏萱野 高レベル放射性廃棄物の問題を原発再稼働に必要以上に結び付けようと考える人がいますが、賛成できません。再稼働してもしなくても、目の前にある廃棄物はなくなりません。既に存在している以上、その処分は今後の原発利用とは切り離して議論すべき問題です。開沼 廃棄物の処分が前に進んでしまうと原発が推進されてしまう、そういうことを恐れて、廃棄物問題についても慎重なスタンスをとろうとしている人が多いですね。春香 若い世代も、せいぜい「処分地の選定とかいろいろ大変だよね」というところ止まりで、その先の情報収集や議論にはなかなか至らない状況だと思います。この問題の解決に向けて真剣に取り組むと原発推進に見えてしまうことが、若い人がこの問題に関わる壁になっている気もします。開沼 議論の整理が必要です。過去を振り返って、これまでの取り組みに問題もあったのではないか、例えば行政や事業者の情報公開の不十分さは徹底的に反省し改善すべき。その上で、私たちも課題解決の道を模索すべきです。これまでどおり「信頼できない」と言い続けても廃棄物は増え続けるばかりです。国民的議論で合意形成を春香 スウェーデンとフィンランドでは、20年以上かけてようやく処分地選定に至りました。この問題は、解決までにとても時間がかかる問題です。だからこそ若い世代も今から考えていかなければならないですよね。萱野 一人ひとりが当事者意識を持ち、「自分だったらどうするか」という問いをみんなで共有することが大事です。しかも、具体的な候補地が出てこないうちから共有し、考えていくことが大事だと思います。今こそ、国民的議論を起こし、総論において合意を形成していくべき段階でしょう。開沼博氏開沼 この問題は福祉や増税の問題と実はよく似ています。前の世代がやってきたことの負の遺産が次の世代に押し付けられてきた。最初は見て見ぬふりができたけれど、いよいよどうにかしなければならないところまで来てしまったように思います。そのことが、福祉や増税ほど国民生活に直結しないので肌感覚で判りにくいだけで、構造は同じ。いま議論しないと後世につけを回すばかり。あまりに無責任です。春香 確かに、今の世代にしっかり取り組んでもらわないと、次の世代に問題が先送られることになります。誰かが解決するだろうと目をそらすのは、自分の子供や孫のためにも絶対にしてはならないことだと思います。萱野 メディアの役割としては、アジェンダセッティング(議題設定)が大事だと思います。今こういうことが問題になっていますということを社会にはっきりと示さなければならないということです。しかし、それは情報の受け手であるわれわれとの共同作業で成り立つものです。読者に関心がないとメディアも取り上げません。そういう点で、国が率先して取り組むという姿勢は評価できると思っています。今は、日本の中で適性が高い地域はどこか、「科学的有望地」を示すということが検討されているようですが、議論喚起の材料として期待したいですね。やはり政策として動かなければ、メディアも国民も動きにくいですから。開沼 これまで国が全く動いてなかったわけではないけれど、伝わってなかったことも多くあったでしょうね。国民から信頼と承認を得るために必要なのは、何があろうとも「国民への押し付けはしない」という原則を貫くこと。そして、国民も自ら民主的に解決する道を模索すること。この前提の上での両者の努力が必要です。時間かけ解決する問題春香クリスティーン氏春香 安全を裏付けるデータがあるということはわかっても、今はネットでいろいろ調べられるということもあって、批判的な意見などに触れると疑心暗鬼になる部分もあると思うんです。だからデータの提示の仕方も難しいですね。開沼 大事なのは、関心を持った人が簡単に情報にアクセスできる環境を用意しておくことだと思います。萱野 「いろんな方法がある中で地層処分がいかにベターであるか、われわれはこう考えていますが、みなさんはどう判断しますか」ぐらいのスタンスで臨んでも良いのでしょう。「これが最善策で、他に方法はない」というと、かえって受け入れにくいということもあるように思います。春香 それしかないと言われると、いや他にもあるはずだ、となりますからね。それと、賛成反対という極論が出すぎると、新しく関心を持ったり自分で発言したりすることをためらいがちになるので、ニュートラルな議論の場も必要だという気がします。萱野 こういう問題にはバラ色の解決策はないという認識を広げていくことも大事です。これだけの人口の人間が近代文明のもとで生存していくためには、ある程度のマイナスの影響はどこかで受けざるを得ないけれど、それを何とか最小限に抑えて持続可能なものにするにはどうすればいいかという姿勢や議論を広げる方が、理解が深まりやすいのではないでしょうか。エネルギーには特にそういう面があります。すべてに優れたエネルギー源というのは存在しません。廃棄物の問題も、そういう全体像の中で、時間をかけて解決していくべき問題です。春香 日々生活していると楽しいことがたくさんあって、こういう問題から目を背けようと思えば簡単に背けられます。だけど、考えることを止めてしまうと何も進みません。感情論にならないように、というのはなかなか難しいかもしれないけれど、この問題にはどういう事実があるかということを知り、一人ひとりが考えてみることから始めたいですね。かやの・としひと 哲学者。津田塾大学教授。社会哲学、社会理論専攻。早稲田大学卒業後に渡仏し、パリ第10大学で哲学博士号を取得。東京大学大学院国際哲学交流センター研究員を経て、現職。現在、衆議院選挙制度に関する調査会委員などを務める。かいぬま・ひろし 社会学者。福島大学うつくしまふくしま未来支援センター特任研究員。東京大学文学部卒。同大学院学際情報学府博士課程在籍。資源エネルギー庁総合資源エネルギー調査会原子力小委員会委員等を歴任。はるか・くりすてぃーん タレント。スイス・チューリッヒ出身。16歳で単身来日。国会議員の追っかけを趣味としており、「おもしろい政治ジャパン」などの著書がある。産経デジタルが運営する総合オピニオンサイトiRONNA(いろんな)で特別編集長として活躍中。

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    東京都市大学の学生記者が見た「地層処分」シンポジウム

     原子力発電所の運転で生じる高レベル放射性廃棄物の処分は、これまで原発による電力供給の恩恵を受けてきた、われわれにとって避けて通ることはできない問題だ。「原子力発電環境整備機構」(NUMO)は、原発の使用済燃料由来の高レベル放射性廃棄物を地下300メートル以上の深い地層(岩盤)に閉じ込めて安全に最終処分する事業を担っている。最大の課題は、最終処分場の建設場所の選定。NUMOでは、国民的な理解を得るため、さまざまな取り組みを行っている。東京都市大学で原子力を専攻する学生記者たちが、NUMOを取材した。全国でシンポ今月4日に開かれた「いま改めて考えよう地層処分」と題されたシンポジウム。約250人が参加し、活発な質問が出された 10月4日、東京都内で経済産業省・資源エネルギー庁とNUMOが主催して「いま改めて考えよう地層処分」と題するシンポジウムが開催された。東京を皮切りに、全国9都市で順次行われる。今年5~6月にも実施しており、第2弾となる。 NUMOは2000年に原発の使用済燃料由来の「高レベル放射性廃棄物」の最終処分を行うことを目的に設立された。全国の自治体からの公募で、「地層処分」を行う施設の建設場所を決めることにしているが、これまでの応募は1件で、これもその後、白紙撤回されたので、建設場所の選定は進んでいない。 今年5月には国が前面に立って取り組むことが基本方針の改定で決定された。シンポジウムは、この方針を説明し、最終処分問題の解決に向け参加者からの意見や疑問に答えるなど真の対話を目的としている。 東京でのシンポジウムには約250人が参加。まず専門家によるパネルディスカッションが行われた。その内容は(1)高レベル放射性廃棄物と処分方法(2)最終処分に向けた新たな取り組み(3)処分地の適性の考え方(4)段階的な処分地選定の進め方-の4項目。基本方針の改定を受け、国が前面に立ち取り組む方策として科学的有望地が提示されることとなったが、これは地域で主体的な議論を始めるきっかけになればと考えてのことであり、一方的に処分地を決めるわけではないことなど、丁寧な説明が行われた。活発な質疑応答 その後の質疑応答では、来場者から多くの質問が出された。その内容は、最終処分の問題についてしっかりと学び、考えていることをうかがわせるものだった。ある参加者は、原発のメリットとデメリットをしっかりと理解した上で、「地層処分が本当に最適な方法なのか」と質問。「最終処分施設の建設場所が決まっていない現状で、さらに放射性廃棄物を増やすことになる再稼働には反対だ」との意見も出された。また。東日本大震災に伴う東京電力福島第1原発事故後の経験から、処分施設が身近な場所に出来ることへの不安を口にする参加者もいた。地層処分を研究する地下300メートルの坑道 これに対し、登壇者から他の処分方法とのリスク比較や地層処分の有効性の説明を行ったほか、再稼働の是非にかかわらず、既に発生している廃棄物の処分は避けて通れない問題であること、安全性を最優先に技術開発を継続して行うことが説明されるなど、活発な質疑応答が行われた。若者が引き継ぐ シンポジウムの参加者は、年配の人が大半だったが、私たちとは別に5、6人ほど大学生と思われる若い人もいた。長い年月がかかる最終処分の問題は、私たちのような若い世代が引き継いでいき、関わっていくことが欠かせない。「知らないうちに処分地が決まっていた」という無関心は許されない。最近、多くの若者が安全保障関連法に関心を持ち、さまざまな活動をしている。最終処分をめぐる問題にももっと関心を持ち、議論に積極的に参加することが、これからを担う若者の責任ではないだろうか。 シンポジウムへの参加を通じ、私たちは高レベル放射性廃棄物という「原子力のゴミ」に向き合わなければならないと改めて感じた。原発の恩恵を多かれ少なかれ受けてきた世代は、後世に負担を先送りしないために、処分地を決めなければならない。すべての国民がこの問題を理解し、処分地の決定に納得することは難しいかもしれない。それでも今回のようなシンポジウムを通じて、一人でも多くの人に地層処分について興味を持ってもらい、知ってもらうことができれば、処分施設の建設場所の選定といった課題の解決に向けた、前進につながると感じた。入社4年目の技術者に聞く「興味を持ってもらえる情報発信が大切」 東日本大震災による東京電力福島第1原子力発電所の事故後、原発をめぐるさまざまな議論が活発化するなか、避けて通ることはできない高レベル放射性廃棄物の最終処分を前に進めるにはどうすればいいのか。「原子力発電環境整備機構」(NUMO)の入社4年目の技術者、藤本秋恵さんにインタビューを行った。安全性提示に意欲「説得」ではなく「理解」を目指したいと話すNUMOの藤本秋恵さん 技術部に所属する藤本さんは、「地層処分」の超長期の安全性について検討する業務に携わっているという。藤本さんは「地層処分に影響を及ぼす可能性があるさまざまな事態を想定したシナリオを設定し、安全性を評価している」と述べ、コンピューターシミュレーションによって地層処分の超長期の安全性を提示していきたいと意欲を示した。 安全性に不安を覚える人が多いが、一般の人に説明していく上で、どんなことを心がけているのだろうか。藤本さんは、「ホームページなどでの説明は一方通行なので誤解が生じることもあるため、対話活動が重要。実際、親族や友人に地層処分についていろいろと聞かれた際、対話することでお互い理解し合うことができた」と、エピソードを紹介。「相手の意見を聞き、不安の一つ一つに答えていくことで、理解と信頼を得たい」と語った。 NUMOでは地層処分について知ってもらうため、さまざまな取り組みを行っている。藤本さんは「まず興味を持ってもらうための情報発信が必要」、「移動展示車『ジオミライ号』のキャラバン活動も、その一つ。親子で楽しく理解できるよう、地層処分に関するアニメーション映像や簡単なクイズ、実験などの取り組みを行っている」と紹介した。将来につながる 「説得」するのではなく、「いろんな意見を聞いた上で、自分やNUMOが考えていることを正しく伝えたい」というのが、藤本さんの考え方だ。そのためにも、「どのような基準や条件に基づき、結論を導き出したのかを、理論的に説明するよう心がけている」という。 「放射性廃棄物の処分方法としては地層処分が最適である」という信念を持ち、「説得ではなく対話を通じた理解を目指していきたい」と語る藤本さんに、技術者としての誇りを感じた。 最後に藤本さんに、避けては通れない高レベル放射性廃棄物の処分をめぐる問題を前進させるため、将来を担う若者が何をすべきかを聞いた。 「自分たちの将来にも関係する問題だという観点から地層処分に興味を持ってほしい。大学での講義やシンポジウムなど身近にある考える機会をぜひ生かしてほしい」 藤本さんは、自分たちの問題として向き合う必要性を訴えた。地層処分 原子力発電所で使い終えた使用済燃料からウランやプルトニウムを取り出し、原発で再利用する過程で残る放射能レベルが高い廃液を、融けたガラスとともにステンレス製の容器に注入して固めて「ガラス固化体」にし人間の生活環境から長期に渡り隔離するため、地下300メートル以上の深さの地層(岩盤)の中に処分する方法。深い地層が持つ「物質を閉じ込める」という性質を利用したこの処分方法は、国際的にも共通した考え方となっており、すでにフィンランドやスウェーデンでは処分地が決まっている。《編集後記》 福島第1原発事故以降、原発をめぐるさまざまな議論が高まっているが、原子力という存在自体はなお一般社会と乖離しているように感じる。原子力を学ぶ学生の立場からは、原子力をエネルギーと言う大枠で捉えれば、その隔たりも解消しやすいのではないだろうかと考えている。このため、東京都市大学の学生が主体となり、科学体験教室や対話会を開き、エネルギー問題、特に原子力や放射線についての理解を促進する活動を行っている。NUMOの藤本さん(左)と意見を交換する学生記者 今回の取材を行った学生記者には、小学生時代に原子力発電所にあるPR館での体験がきっかけとなり、原子力工学を学ぶ道を選んだ者がいる。 地道なさまざまな広報活動を通じ、国民全体の科学への興味を高め、エネルギー問題に注目してもらうことが、原子力そして放射性廃棄物の最終処分問題に向き合うことにつながると感じた。取材・記事・写真:東京都市大学共同原子力専攻修士2年・北薗孝太、工学部原子力安全工学科4年・亀子湧生、同4年・島田優、同2年・川上達士