検索ワード:韓国/301件ヒットしました

  • Thumbnail

    記事

    日韓ガチンコ勝負、竹島問題「へそ曲がり」のススメ

    舛添要一(前東京都知事) 北方領土、尖閣諸島と並んで、竹島をめぐる韓国との係争はわが国の「領土問題」である。韓国では「独島(トクト)」と呼称し、日本との間で領有権が争われているが、現在は韓国が占拠し実効支配を続けている。 問題の解決は容易ではない。少し「へそ曲がり」の考え方かもしれないが、幾つかの視点を提示してみたい。今の日本では「竹島は日本固有の領土である」と主張して「徹底的に韓国と戦うべきだ」と言わない限り、今の政府方針と違えるし、世論からも袋だたきに遭うことは必定である。 一方、韓国ではこの主張の「竹島」を「独島」に、「日本」を「韓国」に言い換えて、『独島はわが地』という歌を歌いながら激しく主張する。そうしなければ非国民扱いである。2018年2月、韓国・江陵で行われた北朝鮮の「三池淵管弦楽団」の公演で歌唱する団員。公演では、玄松月楽団長が「独島もわが祖国」と北朝鮮歌謡の替え歌を披露した(共同) このように両国とも自らの主張を譲らない「ガチンコ勝負」となっており、解決の見通しは全く立たない状況である。問題なのは、両国政府とも竹島(独島)が自らの領土であることを主張するのに都合の良い資料を持ち出したり、牽強(けんきょう)付会とも言える恣意(しい)的な資料解釈を行ったりして、不利になる資料には一切触れないという態度を取っていることである。 そこで第一に必要なのは、日韓双方が最新の歴史学に依拠した正確な事実認識からスタートすることである。一般の国民はもちろん、有識者といわれる人々も、竹島の歴史についてあまりにも無知なことが多い。意図的な資料解釈もまかり通っている。 そのような中で、新書で簡単に入手して読める名古屋大の池内敏教授の『竹島-もうひとつの日韓関係史』(中公新書)を勧めたい。この本は文献に基づき、また多角的な資料分析を行って、日本政府と韓国政府の公式見解の問題点を摘出している。 例えば、江戸時代から竹島は日本領だったのか。池内氏の著書によると、徳川幕府は「竹島(現在の鬱陵島)」と「松島(現在の竹島)」は一体のものとして認識しており、二島とも朝鮮のものだと考えていたとある。ちなみに、日本が先占の事実により竹島を自国の領土に編入したのは、日露戦争中の1905(明治38)年1月のことである。むろん、この手続きは国際法にのっとった正当なものである。関心だけなら強い韓国人 次に、韓国の公式見解であるが、韓国政府は1696(元禄9)年に鳥取藩に渡来した安龍福(アン・ヨンボク)らが「鬱陵島と竹島は朝鮮の領土だ」と言ったというが、池内氏はその主張を肯定していない。 以上は一例だが、このような史実が池内氏のような研究者によって積み重ねられており、多くの両国の国民が知る必要がある。ところが、両国民とも最新の歴史学の成果について学ぼうとしない。しかも、その度合いは、韓国人よりも日本人の方が弱いかもしれない。知識は韓国政府の公式見解をそのまま踏襲しているとはいえ、『独島はわが地』を合唱する韓国人の方が、まだ関心だけなら強いのである。 第二に、領土を持つということがどんな意味を持つかを真剣に考えるべきである。まずは、国民が生産し、生活する場所を持つということである。2016年春から使われた中学校教科書の検定結果を受け、尖閣諸島など領土をめぐる問題について多く記載されている各社の教科書(大西正純撮影) つまり、シベリアやサハラ砂漠のように、いかに広くても生産や生活に適さない所がある。そのような領土を持つことは経済合理性を欠く。ただし、そこに石油などの天然資源が埋蔵されていれば、富を得ることになるので、話は別である。尖閣諸島の周辺に石油などの鉱物資源が眠っているという報道がなされると、中国がにわかにこの島々の領有権を主張し始めたことはその代表例だ。 さらに、海の場合は排他的経済水域(EEZ)にも関わり、漁業資源の獲得という経済的プラスもある。また、領土問題はナショナリズムを高揚させる道具として使うことができる。 また、重厚長大から軽薄短小へと産業構造が変化している今日、経済活動のために広大な土地は必要ない。だからこそ、領土が生み出す富と領土を管理するコストを冷静に比較する必要がある。 具体的な歴史的経験を振り返ってみよう。第二次世界大戦で日独伊は負け、米英仏は勝った。しかし、負けた方も繁栄している。敗戦によって広大な領土を失ったおかげである。 もし、大日本帝国が存在していたら、海外領土の維持管理に莫大(ばくだい)なコストがかかっていたはずである。私は東京大学ではなく、ソウル、台北などの帝国大学で教鞭(きょうべん)をとっていたかもしれないし、警察官は東南アジアのどこかの交番で勤務していたかもしれない。むろん強大な軍事力も維持し続けねばならなかったであろう。相手の土俵に乗る必要などない 一方、戦勝国のフランスは戦後、アルジェリアなどで植民地独立戦争に悩まされ、多くの犠牲を払った。英国もコモンウェルス(旧英連邦)との関係で同じような経験をした。第二次大戦後の米国は「世界の警察官」として、平和維持のために巨額の予算を使っている。 いわば「住居」と同じであり、広大な邸宅の維持管理コストは大きい。こぢんまりとした家の方が掃除の手間もかからないというわけだ。 日独伊は敗戦のおかげで、領土維持や軍備のためのカネとエネルギーを経済活動に注ぐことができたのであり、それが戦後の繁栄を生んだといえよう。まさに「敗戦のススメ」であり、「戦争は負ける方がよい」「広い領土は持たない方がよい」と言えることもあるのである。 第三に、第二次世界大戦の戦後処理についてみると、1951年9月8日に調印されたサンフランシスコ平和条約では、竹島が日本の放棄する領土とはなっていない。これは当時、ディーン・ラスク米国務次官補も韓国政府に対して明言していることだ。 したがって、1905年以降は国際法上、竹島は日本の領土である。それを近代以前、例えば20世紀以前から「日本固有の領土だ」などと言わない方がよい。江戸時代の資料から主張に反する解釈があることが分かっているからであり、相手の土俵に乗る必要はあるまい。 結局、日韓両国とも自分に都合の良い主張ばかりを繰り返し、問題解決の糸口すら見いだせないので、竹島問題は「棚上げ状態」に陥っている。 江戸時代の1695(元禄8)年12月25日、老中阿部豊後守正武は鬱陵島や竹島について、対馬藩家老の平田直右衛門に「鮑(あわび)取りに行くだけの無益な島のごときで、日本と朝鮮の両国関係がもつれてしまい、ねじれた関係が解けずに凝り固まって、これまで継続してきた友好関係が断絶するのもよくなかろう」と喝破している。 1962年10月、韓国の金鍾泌(キム・ジョンピル)中央情報部長は、池田勇人首相や大平正芳外相との会談の席で「カモメが糞(ふん)をしているだけの竹島など爆破してなくしてしまおう」と提案したという。ともに領土問題をめぐる係争のデメリットを正確に認識した発言といえよう。1998年11月、鹿児島市内での会談前に小渕恵三首相(右)と握手する韓国の金鍾泌首相「…『緊急情報です』というラジオのニュース。アナウンサーが震える声で、『北朝鮮が発射したミサイル数発が標的を誤り、竹島に命中、島は岩一つ残らず海中に沈んでしまいました』と繰り返した」。金正恩の独裁体制を分析する論文を書きながらうたた寝したら、思わずそんな夢を見てしまった。

  • Thumbnail

    記事

    「タコ一味から独島を守るアシカ」韓国、幼児洗脳アニメの正体

    ナリスト) 「アシカが『独島守備隊』になって『独島』を守る」。昨年、こんな内容の幼児向け国策アニメが韓国で製作され、全国の幼稚園・小学校などに配布された。当時、日本でも一部の好事家(韓国ウォッチャー)の間で話題になったが、実際に鑑賞する機会がなかったためか、今では韓国でこうしたアニメが製作されたこと自体、忘れられている。最近、筆者は実際にこのアニメを全編鑑賞する貴重な機会を得た。以下、この「幼児洗脳」を目的とした反日アニメの内容と、その製作の背景について述べてみたい。 タイトルは『独島守備隊・カンチ』。「カンチ」とはアシカのことである。このアニメは3Dで製作され、10分余りの5つのチャプターがつながった1時間ほどの短編アニメである。対象である幼児を退屈させないための配慮もあるのだろう。あらすじは次の通りである。 厳然たる大韓民国の領土、独島。この島を守るのはカモメの「独島守備隊」。しかし、独島は侵略の危機に瀕(ひん)していた。独島周辺の「燃える氷(メタン・ハイドレード)」を狙って、タコの化け物が襲撃を繰り返していたからである。島の守り神・古木の聖霊が「独島を守るために、神秘の石を持っているアシカを見つけろ!」と述べたことから、カモメたちは神秘の石を持つアシカを探すために旅立つ。カモメたちは場末のサーカス一座で芸をするアシカが、実は母譲りの神秘の石を持っていることを知り、アシカを独島に連れてゆく。自らの使命に目覚めたアシカは、独島を守る覚悟を決めて、友人たちとともにタコ一味と対決する。タコ一味の卑劣な策謀によって一時は危機に陥るものの、島の中心部に埋蔵されていた巨大な神秘の石の魔力によって、敵を撃退。独島を侵略から守ったアシカと友人たちはそのまま島にとどまり、独島の守備警護に当たるのだった…。 このアニメは、慶尚北道文化コンテンツ振興院という自治体の機関とピクセル・プレイネットという企業が共同製作したもの。企画は政府機関である海洋水産部(日本の農林水産省に当たる)と慶尚北道が共同で行っており、事実上の「国策プロパガンダ映画」と見ていいだろう。報道によれば、「2015年から2年間、各分野の専門家が丹精し、徹底した企画とストーリー構成を行った」とあり、確かに随所で高度な映像技術が用いられている。 ただ、いかんせんアニメの内容が、ジブリ映画『天空の城ラピュタ』にそっくりなのである。主人公がそれと知らずに「神秘の石」を持っていたり、神秘の石が光を発して独島のある方角を指し示したり、ストーリーの最後で島の内部に埋蔵された巨大な石の力によって奇跡が起こったりするシーンは『ラピュタ』そのままである。韓国内の反応がいまひとつなワケ 作中では明示されていないが「悪役のタコ一味」はもちろん日本人である。当然、分かりやすく醜悪で卑劣なキャラクターとして描写されている。たとえ、悪役が日本人だと明示されていなくても、独島やアシカ(これについては後述)がモチーフになっている以上、韓国人なら悪役のタコが日本人を意味することくらい、瞬時に判断できるだろう。何しろ、韓国人は幼稚園・保育園の年頃から「独島は韓国の領土である」という、いわば「絶対不滅の真理」を耳にタコができるほど聞かされ、育っているからである。「日本人が海洋資源や地下資源を狙い、虎視眈々(たんたん)と独島の侵略をたくらんでいる」というのも、韓国ならではのお約束。そう思っていない韓国人は「親日派」、つまり「売国奴」である。 それでも、企画・製作サイドはこのアニメが反日感情を煽るためではなく、あくまで教育的な目的で製作されたものだと主張する。チュ・ガンホ監督はメディアの取材に対し「子供たちが今回のアニメーションを通して独島を知る契機になってくれたらと思う」「独島の自然環境と海の中の環境表現に心血を傾け、アシカを通して独島広報の役に立ってくれたらと思う」などと無邪気に語っている。アニメ『独島守備隊・カンチ』のポスター 言うまでもないが、幼稚園の園児や小学校の児童に、複雑極まりない竹島をめぐる領土紛争の経緯や、日韓両国の主張の正当性を吟味する判断能力があるとは思えない。そうした思慮分別のない園児や児童に、国策をもってこうした一方的な内容を教え込み、自国の主張を絶対的に正当化し、日本や日本人に対する敵愾心(てきがいしん)を煽り立てている。そら恐ろしい限りである。しかも、かわいらしいアニメのキャラクターを使ってである。 このアニメは昨年4月に試写会で公開され、一部の映画館でも上映され、テレビの地上波やケーブルテレビでも放映された。ただし、当初からこのアニメは劇場公開よりも幼児に対する「洗脳教育」に重点が置かれていたようである。後に慶尚北道はこのアニメのDVD1万5000枚を韓国全土の幼稚園や小学校に配布している。 ただし、昨年は話題の反日映画『軍艦島』が公開されたこともあってか、『独島守備隊・カンチ』はほとんど話題にすらならなかった。内容が説教じみている上に、ストーリーがテレビの幼児番組並みに単純でつまらなかったせいであろう。韓国のマスコミは「独島守備隊カンチ・韓国全土を強打!」といった扇情的な煽り文句で、あたかもこのアニメが全国の幼児から大好評を得ているかのような記事を掲載したが、これは事実に反すると言わざるを得ない。その後、このアニメは昨年11月に開かれた「ホーチミン・慶州世界文化エキスポ」なるイベントでも上映され、初の海外進出を果たしたそうである。主人公がアシカである理由 さて、このアニメの主人公はなぜアシカだったのか。これには、意外と深い来歴がある。実は、日本ではまったく知られていないが、韓国では「独島周辺のアシカを絶滅させたのは日本だ」という都市伝説が語り継がれており、日本糾弾のネタとして、しばしば使われている。韓国での報道を総合すると、「19世紀末まで、鬱陵島や独島周辺にはアシカが生息していたが、1904年から1911年まで日本が独島周辺で1万5000匹ものアシカを乱獲した。乱獲は1950年代まで続き、その結果アシカは絶滅した」というのである。 また、ごく少数残っていたアシカも1950年7月に独島がアメリカ軍の砲撃演習の目標となったため絶滅した、ということになっている。韓国はなぜそこまでアシカにこだわるのか。それは、日本が竹島(独島)に対する領有権を主張する根拠の一つが「日本人による竹島を拠点としたアシカ漁」だったからである。つまり、1905年に竹島(独島)が島根県に編入される以前から、日本人がこの島を根拠地としてアシカ漁を行っていたことは、既にさまざまな資料によって立証されている。これに対して韓国は説得力のある反論ができないでいる。そこで、日本の主張を逆手にとって「日本が独島のアシカを乱獲し絶滅させた!」と主張し、日本を糾弾するネタとして利用しているのである。 こうした火種があったところに、2014年12月、日本の内閣官房領土・主権対策企画調整室が、隠岐の漁師と竹島のアシカとの関わりを描いた絵本「メチのいた島」(「メチ」とは現地の方言でアシカのこと)の読み聞かせ動画を公開し、これが韓国を刺激した。韓国はこれに対抗して竹島にアシカの像を置こうとしたが実現せず、2015年8月になって竹島の船着場近くにアシカのレリーフを設置している。竹島と日本人と関わりを描いた絵本「メチのいた島」を出版した杉原由美子氏 また、韓国の海洋水産部は2014年9月、「滅亡したアシカの生息を復元する」という事業計画を公表している。もちろん、これは単なる自然保護が目的ではなく、「韓国政府が自国の領土である独島の生態系復元に努力している」ということを国際社会にアピールし、領土紛争で有利な地歩を確保しようとする下心からである。「独島守備隊・カンチ」の企画が立案され、製作が開始されたのは、まさにこの時期だったのである。日本人がアシカを絶滅させた説 さて、アニメが公開されて2カ月ほどたった6月中旬、韓国の地方紙が「日本人が独島のアシカを絶滅させた」という説がまったくのデタラメであったことを報じた。2016年6月13日、韓国の慶尚毎日新聞(ネット版)は「1950年代半ば、独島に駐在していた独島義勇守備隊の複数の隊員から『当時、アシカは最小限700頭余りが生きていた』という証言が得られた」「1960年代に独島に駐在していた海洋警察隊員と漁民が『数百頭のアシカが棲息(せいそく)していた』と証言している」「1970年代初頭に工事のため独島に渡った韓国・欝陵島の住民が『当時、アシカ数百頭が生きていた』と証言している」と報じたのである。島根県の竹島で捕獲されたニホンアシカの幼獣を撮影した最も古い写真とみられる絵はがき(島根県竹島問題研究会提供) 同紙は、アシカ絶滅の背景について「アシカからは漢方薬として重用されていた海狗腎(かいくじん、アシカの生殖器)と肉を得られた」「独島を警備していた隊員が(アシカを狙って)機関砲を撃ち、射撃訓練をしていた」「隊員の中には『海狗腎を政府の高官や軍の上層部に上納していた』と証言する者もいた」「独島周辺では韓国によるイカ漁などの漁業が盛んになり、集魚灯近くにアシカが出現すると魚が逃げるため、漁師らが追い払った」とも報じている。つまり、1970年代まで独島にアシカは生息しており、その後韓国側の乱獲や漁労行為によって絶滅したことを意味するのである。もっとも、この報道は「独島守備隊・カンチ」ほどの関心さえ呼び起こさなかった。韓国人は自らに都合の悪い、かつ日本を利する恐れのある「不都合な真実」に対しては、徹底して目をつぶる傾向が強いのである(現在、この記事は削除されてしまって読むことはできないが、記事の概要を記した新たな記事もアップされており、その概略だけは把握することができる)。 以上、反日国策アニメ『独島守備隊・カンチ』の内容と背景を見渡した。日本には、竹島にも、アシカにも、もちろん「竹島の日」にも、まったく関心がない、という人が多いことは筆者も承知している。ただし、日本人がそう思っているからといって、韓国人も同様などと考えることは大きな誤りである。 韓国には、幼少時からこうした国策反日アニメで洗脳され、事実に反する誤った歴史認識を注入され、日本に対する敵愾心を燃え立たせている国民が数多くいることを認識しておかなければならない。『独島守備隊・カンチ』は、韓国人の本性を理解するための、ある意味で良き教材でもある。領土問題に関する限り、日本人も韓国に対する甘い想念を捨て、覚悟を決める時が来ているようである。

  • Thumbnail

    記事

    南北統一旗が逆に世界に知らしめた「日本の竹島」

    てオリンピックを利用したのだろうか。「三池淵管弦楽団」と「美女応援団」を派遣し、独島(トクト、竹島の韓国名)を描いた統一旗で応援させたのは、南北の融和を図るための対南工作ともいえるからだ。 事実、2月11日、ソウルで開催された公演で、南北統一を謳(うた)う『白頭と漢拏は我が祖国』を歌唱した玄松月(ヒョン・ソンウォル)団長は、歌詞の「済州島漢拏山も我が祖国」を「漢拏山も独島も我が祖国」と替え、韓国側の歓心を買った。北朝鮮にとっても独島は、「神聖な我国の領土」だからである。 その独島が描かれた「統一旗」が登場したのは2月4日、女子アイスホッケーの強化試合で、韓国と北朝鮮の合同チームがスウェーデンと戦った会場である。この独島が描かれた「統一旗」については、国際オリンピック委員会でも「政治的に使うことは不適切」との理由で、使用を認めていなかった。それを北朝鮮の「美女応援団」は、独島が描かれた「統一旗」を使ったのである。アイスホッケーの試合で統一旗を掲げる金正恩朝鮮労働党委員長のそっくりさん=2018年2月 そこで菅義偉官房長官は翌日、「旗は竹島の領有権に関するわが国の立場に照らして受け入れることができず、遺憾だ」とした。これに対して北朝鮮の「労働新聞」は、「日本が手段と方法を選ばず、国際オリンピック委員会が、北と南が、独島が表記されていない統一旗を使用する決定を採択するための陰湿な陰謀」と報じたとして、15日付の韓国の『中央日報』(電子版)が伝えている。 だが、今回の北朝鮮による「統一旗」騒動は、「策士、策に溺れる」結果となった。英国の日刊紙『タイムズ』が「統一旗」と関連し、「独島は日本の所有」と報じたことに韓国側が抗議したことから、2月12日付の同紙の訂正記事では、竹島を「係争中の島、独島」として竹島問題が日韓の懸案である事実を明らかにしたからだ。 ただ、今回の「統一旗」騒動で明確になったことは、韓国と北朝鮮では竹島問題に対して共通認識を持っているという事実で、それは将来的に竹島問題が、南北の外交カードの一つになるということである。これまでも南北では民族の同一性を強調し、神話に登場する檀君(だんくん)の遺骨が北朝鮮で発見されたとした際も、韓国側が呼応した。平昌オリンピックとパラリンピックのマスコットの虎と熊は、その檀君神話にも登場する。現在、韓国の歴史教科書では、檀君を古朝鮮の建国者として教え、中国とはその古朝鮮の疆域を巡って争っている。そのため南北の接近は、今後も続く可能性がある。形式的な抗議で済まない竹島問題 江原道の崔文洵(チェ・ムンスン)知事は17日、2021年の第9回冬季アジア大会の南北共同開催を提案したが、平昌オリンピック施設の活用と、スポーツを通じ南北交流と和合を継続するための案だという。 しかし、北朝鮮と韓国とでは、社会体制が全く違う。今の北朝鮮は、朝鮮時代とほぼ同じ社会状況にある。宮中(金正恩氏の財布)と府中(北朝鮮政府)が分離しておらず、近代的な国家とは距離がある。その南北が接近すれば、竹島問題をはじめ歴史問題は共通の対日外交カードとなる。これは日本にとっては、願ってもないことだ。竹島は歴史的に朝鮮領であった事実はなく、北朝鮮の竹島研究も韓国側とは大同小異である。 それに今後のスポーツ大会などで独島を描いた「統一旗」を使えば、それは政治利用となる。実際の独島を「統一旗」に描くと、縮尺の関係で竹島は確認ができないほどの大きさにしかならない。それを大きく象徴的に描けば、それは政治的目的と判断され、「統一旗」を排除する理由になる。平昌五輪の開会式で統一旗を先頭に合同で入場行進する韓国と北朝鮮の「コリア」選手団=2018年2月9日 独島を描いた統一旗は、これからも登場する。韓国では、歴史の事実よりも政治的判断が優先される傾向があるからだ。数年前、「東北アジア歴史財団」では政府事業として、歴史地図の編纂をすることになった。だが縮尺の関係で独島が描かれないと、それを理由にその事業は頓挫(とんざ)してしまった。それは民間も同じで、李氏朝鮮時代の地理学者、金正浩(キム・ジョンホ)の『大東輿地図』を刊行することになったが、そこには原典にはない竹島が描き込まれていた。これは改竄(かいざん)である。 韓国と北朝鮮が接近すれば、必ず日本に歴史問題で攻勢をかけてくる。日本にその備えはあるのだろうか。近年、日本では『学習指導要領』に竹島を載せ、「領土・主権展示館」を開館したが、その内容は2007年に島根県が開設した「竹島資料館」の展示内容にも及ばない。 外務省では島根県の竹島研究の最終報告書を受け、2008年に『竹島問題を理解する10のポイント』を刊行し、今も使っている。だが韓国側ではすでに反論し、2011年には独島教材『独島を正しく知る』を開発して、小・中・高での独島教育に使用されている。 「統一旗」に竹島が描かれ、それを形式的な抗議で済ませるようでは、竹島問題の解決はおぼつかない。韓国側の竹島研究の不備を衝(つ)き、戦略的に対処できるくらいの見識がなぜ、日本にはないのだろうか。2月22日は「竹島の日」である。

  • Thumbnail

    記事

    韓国「独島研究者」の主張を私が論破する

    主権展示館」を東京の日比谷公園内に開館した。この展示館の開館については、竹島問題で日本と対立している韓国側も当然強い関心を持ったようだ。韓国のハンギョレ新聞(インターネット日本語版)は開館当日に展示内容を取材し、その日に記事を掲載した。その記事の中には、韓国側の領土問題理解のレベルを示す面白い一文がある。次の文章だ。 展示には、1877年明治時代に日本の最高行政機関だった太政官(だじょうかん)が江戸幕府と朝鮮政府間の交渉(鬱陵島爭界)の結果「竹島外一島(一嶋・独島)は、日本と関係ないということを肝に銘じること」を内務省に指示する「太政官指令」など日本側に決定的に不利な史料は展示していない。 この「太政官指令」というのは、明治10(1877)年3月に明治政府の最高国権機関である太政官を代表する右大臣岩倉具視が、内務省からの問いに対して「伺之趣竹島外一島之儀本邦関係無之儀ト可相心得事」(伺いの趣旨の竹島ほか一島の件は本邦とは関係の無いものと心得るべし)と指示した指令文のことである。この指令が出されたのは、明治9(1876)年10月、島根県が「日本海内竹島外一島地籍編纂方伺」と題する文書で、隠岐の彼方にある「竹島外一島」(「竹島」あるいは「磯竹島」と「松島」)を島根県の地籍に入れたいと内務省にお伺いを立てたのが契機だ。2018年1月、「領土・主権展示館」の開館式で、展示の説明を受ける江崎領土問題相(左端) このとき、島根県が提出した文書に添えられた補足説明書や絵図面(磯竹島略図)を見れば、「竹島あるいは磯竹島」は朝鮮の鬱陵島であり、「松島」が今日の日韓間で領土紛争が継続している竹島であることをわれわれは容易に知ることができる。だから、太政官指令について調べた大抵の人は、太政官が鬱陵島と今の竹島を本邦とは関係無いと判断したと思ってしまう。ハンギョレ新聞の記事も、また韓国の「独島(トクト、竹島の韓国呼称)」に関する多くの研究論文も、そういう理解の上に立って書かれている。 その結果、太政官指令の意味は「日本によって独島に対する韓国の領有権が認められていた」と考えられている。さらに、1905年2月に日本が竹島を無主地として島根県に編入したことについても、「無主地という主張が偽りだということは、何よりも太政官指令により立証される」という結論に結び付けられている。 ある韓国の大学教授はこんな主張までしている。「今まで日本政府が製作したどんな広報資料にも太政官指令に関する内容はありません。独島は日本の固有領土という彼らの主張を正面から否定しているからでしょう。まさにこの点を強調すれば日本政府の主張を無力化できます」。日本政府を論破できる超強力な証拠? 要するに、太政官指令の存在によって、日本政府の主張は虚偽であることが明らかになっていると韓国側はみているのである。竹島問題で日本政府を論破できる超強力な証拠を掴んだという思い込みが、韓国政府や韓国の「独島」研究者、マスコミ、さらにはそれらの影響を受けた韓国国民に広がっているのだろう。  ところが、「事実は小説よりも奇なり」ということわざがあるが、この問題、実は太政官が今の竹島を本邦とは関係の無いものと判断したことを全く証明できない。それどころか、太政官が「松島」と捉えていた島が、実際は鬱陵島だったことが明らかなのである。 今、多くの人が「言っていることが矛盾している」と感じられたかもしれない。この結論について、筆者が過去にiRONNAへ寄稿した「太政官指令「竹島外一島」の解釈手順」「太政官指令「竹島外一島」が示していたもの」という二つの文章で詳説したことがあるので、ここでは繰り返さない。要するに、明治10年太政官指令は、今の竹島を対象として発されたものではないし、何の判断も下していないのだ。 韓国側の論者たちの史料分析ではそういうことには全く思考が及ばないのだが、ここではひとまず置いておく。筆者が本稿で述べたいのは、仮に韓国側の言うように、明治10年太政官指令が今の竹島のことを「本邦とは関係の無いものと心得るべし」との指示だった場合、現在の竹島領有権論争にどのような影響を及ぼすかということだ。 現代の領土紛争を判定するとき、国際法がその基準となる。領土紛争に関する判決を多数下している国際司法裁判所は、領土紛争は、その土地は紛争発生の時点でいずれの国の領土だったかということが判断の軸になると示している。つまり、その土地をどちらの国が正式・公式に、また適法に領土として実効支配していたかどうかが鍵になる。 そういう国際法的な基準から考えた場合、本来、日本側が言うべきことはそんなに多いわけではない。既に政府(外務省)の『竹島問題10のポイント』などに簡潔にまとめられていることだが、ごく簡単に言えば、竹島は江戸時代(江戸時代には松島と呼ばれていたが)に朝鮮国から何の異議も受けることなく日本人が利用していた時期がある。そのときから日本の領土と言える状態にあったが、さらに明治38(1905)年に閣議決定と島根県告示によって竹島を公式に島根県の区域として日本領土に編入して、その後、領土としての実効支配を継続的に行って来ており、これらのことはいずれも明確な史料があって裏付けられている。そういう史料が「領土・主権展示館」にも展示されているのだろう。鬱陵島のすぐ東に韓国が竹島と主張する「于山」が描かれた地図 その間、韓国側には、日本政府が「韓国側からは、日本が竹島を実効的に支配し、領有権を再確認した1905年より前に、韓国が同島を実効的に支配していたことを示す明確な根拠は提示されていません」と説明するように、竹島を実効支配していたことを示す証拠は全くない。「于山島」とか「勅令41号の石島」などが韓国の「独島領有権」の根拠として主張されるが、これらはいずれも虚偽であり朝鮮または韓国が竹島を実効支配していたという史実は全く証明されない。竹島論争における太政官指令の意味 その後、竹島の日本領土としての地位の変化について注意を要するのが、サンフランシスコ講和条約である。日本の戦後処理を定めたこの条約で、戦後の日本の新しい領土範囲も決定された。日本は朝鮮や台湾など大日本帝国時代の領土のかなりの部分を放棄したものの、竹島は日本が放棄すべき領土の範囲に指定されず(条約第2条a項)、日本の領土であるという地位は変わらなかったのである。ところが、条約発効を待つばかりだった昭和27(1952)年1月、韓国政府がいわゆる「李承晩ライン」を設定してその中に竹島を取り込む事件が発生した。これに日本政府が抗議したのが竹島紛争の発生と目される。 以上、日本の「竹島領有史」を踏まえて、もし韓国側の言うように明治10年の政府が今の竹島について「本邦とは関係の無いものと心得るべし」と指示していたとして、どういう影響を及ぼすかというと、何の影響もないのである。 そう言える理由は、明治10年太政官指令が、内務省からの質問に対して太政官が回答したという「日本政府内部のやり取り」だからである。これが、紛争相手である外国に対して回答したのであれば、禁反言の原則によって、後になってから「いや、あれはやっぱり日本のものです」などと言い出すことは通用しない。しかし、太政官指令は、質問の出どころである島根県を含めても、あくまで日本国の内部の話なのだ。だから、後になって「これは日本のものだ」と言っても外国との関係では別に問題は生じない。 また、明治10年太政官指令は、仮に韓国側の間違い解釈によるとしても、今の竹島を日本の領土ではないと太政官が「思った」から、それを下級機関に指示したに過ぎない。太政官が何かを「思った」からといって、それだけで竹島の客観的な史実に何かの変化が生じるわけではないのである。 例えば、前項で「日本によって独島に対する韓国の領有権が認められていた」という韓国側の主張を紹介したが、日本の太政官が「その島は日本の領土ではない」と考えたからといって、自動的にその島が現実に外国の領土になるわけではないのは当然だ。重要なことは、客観的な史実として見た場合に竹島がどういう位置づけを経て来たのかという実体的な問題の方であって、それが領有権論争において考慮されるべきことなのだ。 現実は、竹島は朝鮮・韓国の領土であった史実はないし、日本もそれまで竹島を公式に領土扱いしていたわけではなかったので、1905年に日本政府が竹島を領土編入する前に調査して「無主地」と判断したのは正しかった。したがって、無主地を前提とした日本による竹島の領土編入は、明治10年の太政官が何を思っていたにせよ、有効であることに変わりはない。 さらに、太政官指令の存在と、現代の日本政府の「竹島は日本固有の領土」という言い方は矛盾するという韓国側からの指摘がある。だが、明治10年の太政官が今の竹島について「日本の領土ではない」と考えたとしても、先述したように竹島の歴史を通覧すれば、江戸時代の日本人による竹島(松島)の利用実績という史実が変化することはあり得ないし、太政官指令後の日本領土への編入やそれに引き続く実効支配に何の傷をつけることもない。太政官指令は領有権論争とは無関係 その間に竹島が現実に韓国の領土であったという史実が何一つ証明されない以上、「竹島は日本固有の領土」という事実は何も変化しない。岩倉具視の主観が客観的な史実を変えることなどないのだ。明治10年の太政官が仮に今の竹島について「日本の領土ではない」と判断したとしても、竹島の客観的な歴史においてそれはほとんど何の意味もないということをご理解いただけるだろうか。以上を要すれば、まず「明治10年太政官指令は今の竹島を日本とは無関係と指示した」という韓国側の理解自体が誤りであって、そもそも彼らの主張は成り立たない。 ということで、明治10年太政官指令は、そもそも日本の竹島領有権を否定も肯定もしない領有権論争に関係のない史料なのだ。だから、日本政府がそういう領有権に関係のない史料を展示しないのは当然だと筆者は考える。 太政官指令が「日本側に決定的に不利な史料」だというのは、表面に見える磯竹島略図だけに気をとられて領有権に影響しないことをさも重大事件であるかのように主張しているに過ぎない。しかも、韓国の政府や研究者、マスコミは史料の分析の方法も分からず、国際法上の領有権確定の理屈も分からないという二重の間違いを犯している。日本政府がそんなものを相手にする必要はさらさらないのだ。韓国・鬱陵島の独島(竹島)博物館からケーブルカーで行ける独島(竹島)展望台。韓国側は、ここから87.4キロ先に竹島が見えると主張する。眼下に見えるのは道洞(トドン)港 もっとも、もし将来、竹島問題が国際司法裁判所で審理される事態が生じ、その中で韓国政府が明治10年太政官指令を持ち出すなら(間違いなく持ち出すだろうが)、そのときには日本政府としても何らかの応答をするのだろう。だが、韓国政府が問題解決に向けた何の動きも示さない現状で、日本政府がバカな議論に付き合って領有権に関係のないことまでわざわざ説明したり資料を展示したりするなら、それは先走り過ぎということになるのではないだろうか。 韓国側の論者たちが「日本政府は自分に決定的に不利な太政官指令については知らないふりをしている」などと批判するときには、日本側としては「あなたたちの言うことが嘘でも本当でも、日本の領有権には別に影響しませんからね」とでも言って涼しい顔をしていればいいのだろう。参考として紹介しておきたいが、「仮に今日の竹島が明治10年の太政官指令の対象であり日本政府がこの時点で領有意思を有していなかったことが知られるとしても、後年、領有意思を持ち、国際法上の領土取得方法に則して当該島を領有することが妨げられることはない」という基本的な指摘が、国際法に詳しい日本の研究者から既に今から5年近く前に説明されている(『島嶼研究ジャーナル』第2巻2号(2013年4月30日)掲載論文「元禄竹島一件をめぐって―付、明治十年太政官指令」)。 だが、韓国の研究者たちはこういう指摘について検討することはない。筆者は太政官指令に言及した韓国の「独島研究者」たちの論文にかなり目を通して来たつもりだが、上の指摘に対する反論は見たことがない。そして、5年近くたっても冒頭に紹介したような記事を書くのが彼らの問題認識の現実だ。 竹島の領有権論争は「実効支配」の実績がいずれの国にあるかを軸として、いずれの国家がその土地をいかに具体的に領土として取り扱って来たのかということをめぐって議論されるべきだ。日本政府のそういう主張はいずれも史料の裏付けがあることなので、韓国側は否定しようがない。具体的な領土取り扱いと無関係な史実は、本来、竹島領有権論争で取り上げられるべきではないのだが、現状の日韓の論争ではこの太政官指令問題を含めて領有権に関係のない歴史的事件が実に多く議論されている。しかし、それは韓国側の研究者たちが裏付けのある日本政府の主張を否定することができないために、ごまかしで何でもかんでも「独島領有権」にこじつけて主張して来るという自転車操業をやめないだけだ。日本側としても、いちいちそれが間違いであることを説明することが必要になって反論しているだけで、本当に必要とされる領有権論争はとっくに決着はついているのである。 竹島を一日も早く日本に取り戻したいと思う日本側の人たちが、韓国の研究者・マスコミなどが自信満々のふうに述べるこれら本来無意味な言説に惑わされることなく、竹島奪還への歩みが着実に進んで行くことを望みたい。

  • Thumbnail

    記事

    竹島紛争で日本が「敵国」? 韓国海軍、驚愕の空母導入計画

    も」の空母への改修が決まれば、海上自衛隊の悲願である“空母保有”が現実のものとなる。 このような中、韓国の保守系有力オピニオン誌『月刊朝鮮』1月号が、「英『クイーン・エリザベス』が目標とする空母のモデル」と題する、韓国海軍の空母建造計画をすっぱ抜いた。 同誌によれば、韓国海軍は朴槿恵政権であった2015年4月、北朝鮮の脅威と日中の空母保有に対応するため、韓国の大手造船会社「大宇」などに、空母建造に関する検討を依頼した。同誌は大宇などが作成した597ページに及ぶ報告書を入手したという。韓国の空母導入計画 周知のとおり韓国は、日本と同じく米国と軍事同盟を結んでおり、また、日本とも「日韓秘密軍事情報保護協定」(日韓GSOMIA)を締結している。日韓はいわば、準同盟国ともいえる関係だが、韓国海軍に提出された報告書には、空母の必要性の一つとして日本との戦闘が挙げられているのだ。 報告書には、「日本と領有権紛争が生じた際には、編隊級(2〜4機)以上の戦闘機を出撃させて、敵の攻撃編隊群の形成を妨害する任務を遂行する。この任務を遂行するためには、空母に30機以上の艦載戦闘機を搭載しなければならない」と、対日戦を想定した任務と要望性能が記載されている。 日本との領有権紛争とは、竹島を巡る争いを指す。竹島は現在、韓国が不法占拠しており、「独島警備隊」という対空砲まで装備した武装警察が警備し、韓国軍は年に2回、陸海空軍海兵隊と海洋警察まで動員する大規模な「独島防衛訓練」まで行っている。 日本が、中国の海洋進出と北朝鮮の核・ミサイルに対処しなければならない情勢の中で、準同盟国と位置付けられる韓国に紛争を仕掛けると本気で考えているのだろうか。もし、そうであれば、現状認識が根本的に間違っているといわざるを得ない。 報告書に記載された空母保有の必要性は、対日戦だけではない。第一の理由として、朝鮮半島有事に際して、黄海と日本海に進出し、北朝鮮の指導部や主要施設を攻撃する「戦略的麻痺戦」の実行を挙げ、次に、朝鮮半島有事に中国軍が介入してきた場合の航空阻止作戦を挙げている。 そして、これら任務を遂行するためには、イギリス海軍が2017年2月から実戦配備した空母「クイーン・エリザベス」を目標とする空母を建造・保有する必要があると説いている。日米英が保有する最新の“空母”と韓国が導入を検討する空母のモデルを比較したものが下表だ。※ 「いずも」の諸元は就役時のもの、搭載戦闘機数は改修後の予想(著者作成) 韓国海軍が、日米英という第2次世界大戦当時からの海軍大国を凌駕する、あるいは一挙に肩を並べる空母の保有を検討していることが分かるだろう。だが、果たして皮算用通りに事が運ぶのだろうか。 韓国の空母導入計画が明るみ出たのは、今回で3回目。最初は1996年に竹島を巡り日本との対立が深刻化すると、金泳三大統領が計画を承認した。次は2013年に軍人最高位の合同参謀本部議長が、空母保有の検討計画を発表したが、いずれも予算面の問題で頓挫している。海軍力の土台がない だが筆者は、仮に予算の問題をクリアして建造にたどり着いていたとしても、韓国海軍が空母を作戦配備することはできないのではないかと考える。 韓国海軍は、海上自衛隊に刺激されたためなのかは定かではないが、次々に新型艦艇を導入するなど近代化に躍起になってきた。しかし、日韓間での政治的摩擦にまで発展した強襲揚陸艦「独島」は、レーダーや武器管制システムに欠陥があるまま就役し、2015年の韓国独立70周年を記念する竹島への派遣には、スクリューの故障で参加できないという失態を犯した。また、韓国初の国産潜水艦の「孫元一」型は燃料電池の不具合で数日間しか潜行できず、基準値よりも大きな水中雑音を発するため、まともに作戦行動がとれないとも伝えられている。 韓国が空母保有を検討しているという報道を受けて、前出の関係者に連絡してみたところ、彼は「絵に描いた餅」と一笑に付した。 「海軍力の整備は、国家の技術力と国民の海洋への関心、海軍の練度を土台として、100年単位で培っていくもの。経済力をつけた韓国は、“先進国クラブ”への仲間入りの象徴として空母を持ちたいのだろうが、日米英と比肩する土台にそもそもない。海上自衛隊観艦式に参加した韓国海軍の艦船=2015年10月18日午後、神奈川県沖の相模湾(酒巻俊介撮影) そして、空母は1隻建造したところで、無用の長物でしかない。護衛艦や潜水艦と『空母打撃群』(CGS)を編成してはじめて、空母の持つ攻撃力を投射できる。だが、海上自衛隊であってもCGSを維持することは予算的・人的に困難。韓国海軍が仮に空母を持ったところで、“岸壁の守り神”よろしく巨大な広報施設になるだけだろう」(前出の関係者) 報告書では、韓国海軍が空母を保有した時の期待効果として、「国威宣揚」を挙げている。艦載戦闘機を含めて1兆円近い予算を投じなければならない韓国空母は、建造されれば国民のプライドを満足させる効果はあるだろう。 しかしながら、米軍のTHAAD(終末高高度防衛)ミサイル配備を受け入れただけで、中国から経済的に干される仕打ちを受けた韓国が、朝鮮半島有事に際して、北朝鮮を空爆し、中国軍戦闘機の接近を阻止するための空母を黄海に投入できるのであろうか。この一点だけを取り上げても、韓国海軍の空母保有計画が前提から破綻していることがうかがえる。  韓国誌が暴露した韓国海軍の空母保有計画が教えてくれたことは、韓国の反日姿勢が「従軍慰安婦」などの歴史的・政治的問題のみならず、軍事的にも同様であるという警告だ。

  • Thumbnail

    記事

    北朝鮮乗っ取り「平壌五輪」金正恩の真意

    平昌冬季オリンピックが平壌に乗っ取られるのではないかという懸念が現実味を帯びてきている。1月22日、韓国の国会議員会館で開かれた韓国の「党政協議会」で与党「共に民主党」政策議長の金太年(キム・テニョン)は「地球村の祝祭である冬季オリンピックが来月、平壌で開かれる」と発言し、周りが慌てる珍風景がテレビを通して伝えられた。国会議員すら平昌五輪を「平壌五輪」と勘違いするほど平和の祭典であるはずの五輪は南北の政治ショーの場に変わりつつある。 そもそも北朝鮮で五輪参加の資格を取得したのは2人。フィギュアスケート男女ペアのみだ。北朝鮮が2人のために140人の芸術団に229人の応援団、各種名目の支援チームなど500人にのぼる人員を送るわけがない。他の目的があるからだ。 時間稼ぎと国際世論の分断、韓国国内の攪乱(かくらん)、北朝鮮のイメージ改善などさまざまな目的もあるが、何より重要なのは国際社会の包囲網を崩すことだ。国際社会の制裁に苦しむ金正恩(キム・ジョンウン)政権は、平昌五輪を利用して制裁の包囲網崩しに取り掛かっているが、まずは一番もろい韓国にターゲットを絞ったとみられる。 その思惑は五輪が始まる前に既にはっきりと表れている。平昌五輪の前夜祭に芸術団を派遣すると表明した北朝鮮は1月21日、玄松月(ヒョン・ソンウォル)を団長とする実務者代表団を韓国に送り込んだ。韓国のホテルに到着した北朝鮮応援団とテコンドー演武団の一行=2018年2月(共同) 一時、金正恩委員長の「愛人」との報道がながれ、韓国でその名が知られるようになった玄の訪韓は、世界中の注目を浴びた。北朝鮮の存在感を遺憾なく世界中に知らしめた玄の訪韓は、韓国に「南南葛藤(韓国国内の世論を分断し、韓国人同士で喧嘩をさせること)」を誘発、反発を買う場面もあったが、なにより「5・24措置」(2010年、北朝鮮が韓国の軍艦を爆沈させ、40人の兵士が水死、6人が失踪した事件を受け、韓国政府が科した制裁措置)を無力化するという目的の一部は達成した。 現在南北をつなぐ陸路は主に三つ。南北軍事境界線沿いに設けられた南北共同警備区域の板門店を通るルート、金大中(キム・デジュン)大統領時代に着工、2004年に稼働をはじめた「開城工業団地」を経由して韓国の坂州市に至る京義線ルート、そして朝鮮半島東海岸沿いの金剛山観光のために開いたルートだ。 玄が韓国にやってきたのは開城工業団地ルートだったが、直後の1月23日、金剛山で行われる予定の文化行事(後にキャンセル)のための施設点検名目で北朝鮮を訪れる韓国代表団は金剛山ルートをつかった。これで制裁を課した三つのルートのうち二つが事実上、「開放」されたことになる。 北朝鮮は、当初、芸術団員140人は板門店ルートを通って韓国を訪問したいと持ちかけたが、土壇場(どたんば)になってルートを変えた。五輪開幕まで4日しかない2月4日夜、北朝鮮は唐突にも北朝鮮の芸術団「三池淵管弦楽団」を万景峰号にのせて海路を使って韓国に行くと通報してきた。 目的は韓国独自制裁を無力化するためだ。2010年5月以降、韓国は北朝鮮の船舶の韓国港へは接岸を禁止している。朴槿恵(パク・クネ)政権時代の2016年3月以降、韓国政府は北朝鮮に寄港したことのある船舶は180日間韓国の港に寄港できない措置を取った。そのような制裁措置を取り崩すために、いま南北が共に躍起になっている。南北の不透明な関係 三池淵管弦楽団一行が平壌を出発したのは2月5日、韓国政府の韓国政府が海路を使っての入国を許可するかしないかで「慎重に検討」している最中だった。文在寅(ムン・ジェイン)政権は「例外措置」として万景峰号の入港を認めると発表したが、事前合意があったとしか思えない。海路の利用は合意文書にはなかったが、水面下で南北は、北朝鮮代表団の訪韓につき、原則的に如何(いか)なるルートを通じてやって来ようが許容することにしたのではないか。警官隊と入港に反対する人たちが衝突する中、韓国東部・東海市の港に入港する北朝鮮の貨客船「万景峰92」=2018年2月(共同) 空のルートもそうだ。1月31日、韓国はチャーター便を借りてスキー選手を含む45人の代表団を北朝鮮に送った。韓国政府は、アジア最大規模を誇る馬息嶺スキー場で北朝鮮選手らと合同訓練を行うために選手団を送ると説明したが、目的は他にあったようだ。北朝鮮に送り込んだ選手らは平昌五輪の出場権を持っていない選手のみ。しかも訓練はたったの3時間ほどだった。 国連制裁決議「2270号」は、国連加盟国は、北朝鮮に航空機、乗務サービスを提供してはならないことになっている。しかもアメリカは北朝鮮に乗り入れした飛行機のアメリカへの入国を禁止する措置を取っているが、文政権は「例外措置」として北朝鮮へ航空機を飛ばし、閉ざされた空路を開けてあげたのだ。 平昌五輪が開幕する9日にソウルを訪問すると発表した北朝鮮の金永南(キム・ヨンナム)最高人民会議議長(名目上北朝鮮を代表する役職)は、世界中のほとんどの国が乗り入れを拒否する高麗航空を利用するとの情報もある。これも文政権は例外措置として認めるとみられる。 韓国の有力日刊紙「朝鮮日報」は7日付社説で「文政権は例外を乱発して対北朝鮮制裁の原則を取り崩し、効果が表れ始めた制裁を前面にたって揺さぶっている」と批判した。平昌五輪の開幕式に出席するため代表団を率いて訪韓するアメリカのペンス副大統領は「五輪メッセージが北朝鮮にハイジャック(拉致)されようとしている」「韓国と北朝鮮がオリンピックで如何(いか)なる協力をしようとも国際社会で孤立させなければならない北朝鮮という国家の本質を隠すことはできない」(2月5日、アラスカにて)と南北の不透明な関係に懸念を示す。 ところが、韓国の与党、共に民主党議員の一人はペンス副大統領の訪韓を「めでたい家に、哭(こく)しにくるんだ」とアメリカを批判、安倍総理の五輪出席を「他人の宴に出て勝手に踊る(『グッ』と呼ばれる韓国シャーマニズム儀式をする)つもりだ」と批判する。 文大統領の対北朝鮮政策の助言役で左派陣営の重鎮である統一部元長官の丁世鉉(チョン・セヨン)は、「北朝鮮が憲法上の国家首脳である金永南を平昌五輪に送るのには対話へのメッセージが盛り込まれている」と語り、南北首脳会談の話を持ち込むだろうと歓迎する姿勢だ。北朝鮮も韓国も勘違いしているとしか思えない。平昌五輪は南北の祭りではなく、地球人の祭りのはずだ。(文中、一部敬称略)

  • Thumbnail

    記事

    南北統一五輪で文在寅が狙う韓国保守派「根絶やし計画」

    重村智計(早稲田大名誉教授) 韓国人は「統一」の言葉に憧れ、心躍らせる。金大中(キム・デジュン)元大統領や盧武鉉(ノ・ムヒョン)元大統領は、この感情を利用し支持率を上げた。北朝鮮も韓国から資金を獲得するために、「夢見る統一」の言葉で韓国人の心をつかんだ。だが、さすがの韓国人も南北指導者の「三文芝居」にようやく気が付いたようだ。女子アイスホッケーの南北合同チーム結成に50%が反対し、賛成は40%にとどまった。南北指導者の陰謀はかつての力を失っている。文在寅(ムン・ジェイン)大統領の支持率も急落した。 南北の陰謀は「同床同夢」に近い。何より北朝鮮を延命させる「制裁破り」で協力している。韓国では、左翼政権が長期独裁化を目指し、政権内の極左グループは北朝鮮による南北統一に憧れる。「統一旗」の入場は、童話の「裸の王様」の再現だ。「統一」は現実的ではないのに「統一五輪」とはやし立てている。 北朝鮮は開会式前日の8日に、平壌で人民軍創建70周年の軍事パレードを見せ、平和の祭典に「凍風」を送った。また一方で、金永南(キム・ヨンナム)最高人民会議常任委員会委員長を送り込む「微笑作戦」を見せた。制裁対象の貨客船「万景峰(マンギョンボン)92」が芸術団「三池淵(サムジヨン)管弦楽団」団員を載せて韓国に入港した。 万景峰号は、石油製品を満タンに入れて帰国するとの指摘がある。まさに南北協力の制裁破りだ。金永南氏に権限はほとんどない。金正恩(キム・ジョンウン)朝鮮労働党委員長は妹の金与正(キム・ヨジョン)氏を9日、ソウルに派遣した。金委員長が信頼する唯一の人物である。開幕式の翌日に文大統領との昼食会が設定されたが、南北首脳会談について話し合うとの観測がしきりだ。2018年2月9日、韓国・仁川国際空港に到着した金正恩朝鮮労働党委員長の妹、金与正氏(中央、聯合=共同) 軍事パレードではひな壇の顔ぶれが注目された。なぜ平昌五輪前日に軍事パレードを行うのか。金委員長による軍の完全掌握と「党優位」の誇示に必要だった。 社会主義国家では「共産党が軍に命令する」。父親の金正日総書記は「先軍政治」により、「軍が党に優越」する体制を築いた。金委員長は「党が軍に指示する体制」復活に政策転換したが、軍幹部の抵抗が激しく、多くの幹部が処刑、追放された。 人民軍創建記念日は、昨年までの4月25日から2月8日に変更された。朝鮮労働党の創建記念日は1945年10月10日である。現在の朝鮮人民軍が創設された1948年2月8日を記念日とすることで、「党優位」の論理につながるからだ。4月25日は1932年に満州で創設された「朝鮮人民革命軍」(抗日遊撃隊)の記念日で、「軍優位」の理屈が残ってしまう。つまり、8日の軍事パレードは軍の抵抗勢力への「勝利宣言」で、どうしても来年まで延期するわけにはいかなかったのである。韓国は密かに巨額資金を送った? 米国のトランプ大統領と中国の習近平国家主席は開会式に出席しない。韓国の置かれた状況を物語る。安倍晋三首相が辛うじて文大統領のメンツを救った。安倍首相の参加には批判もあるが、日本がはっきりものを言うためには正しい外交選択だ。韓国の文化は、はっきりものを言い合うのに慣れている。それなのに日本の政治家は遠慮しすぎた。 けんかの必要はないが、日本の立場は明確に伝えるべきだ。信頼関係を築くには、隣の大国としての品位が大切だ。慰安婦問題で攻撃される朴裕河(パク・ユハ)教授や李栄勲(イ・ヨンフン)教授らに、安倍首相との面会の機会を与えてほしい。 北朝鮮は「大韓民国」を認めない。「存在しない」とのフィクションを維持しているからだ。日本では理解できないだろうが、「正統性」のためだ。正当性は儒教文化最大の政治的基準である。北朝鮮は、金日成主席が日本帝国主義と戦争し「勝利した」事実を「国家の正当性」にする。韓国には、日本帝国主義軍と戦争した指導者はいないから「正当性はない」として、「大韓民国は存在せず、南は米帝国主義の傀儡(かいらい)政権」とのフィクションにしがみついている。 平昌五輪を「平壌五輪」と批判する人たちがいる。ソウルでは「北朝鮮参加のために巨額の資金を送った」との声がささやかれる。金大中元大統領は南北首脳会談のために、「5億ドル(約500億円)」の現金を送っていた。北朝鮮との交渉には「数億ドルの現金が必要」というのが常識だ。車両で現金が運ばれたとの観測も出ている。北朝鮮スキー場での南北合同練習にも、使用料が支払われたのか。韓国北東部、麟蹄のホテルで開かれた韓国側主催の夕食会に参加した北朝鮮応援団の女性ら=2018年2月7日(韓国統一省提供・共同) 文大統領の支持率は70%から50%台に落ちてしまった。なぜ北朝鮮の五輪参加を求めたのか。文大統領の学生時代は、北朝鮮に国家の正当性があると主張する『解放前後史の認識』という著作シリーズが、学生の間で大人気だった。文大統領と任鐘晢(イム・ジョンソク)大統領秘書室長らは、この著作に影響を受けた世代だ。 文政権の狙いは、五輪後の南北首脳会談と北朝鮮への制裁緩和だ。その次は憲法改正を行う。韓国大統領の任期は1期5年だ。それを2期8年が可能になるように変更し、文大統領も再選出馬できれば、およそ10年間政権を握れる。その間に韓国の保守派を根絶やしにする戦略だ。 だが、文政権には、北朝鮮が「南朝鮮革命と軍事統一」の戦略を捨てていないとの現実認識はない。米中央情報局(CIA)のポンペオ長官は1月23日に「北の核開発の目的は朝鮮半島再統一だ」と韓国に警告した。これまでは、米国の攻撃を抑止するためとの判断が一般的だった。「再統一戦略の一環」という認識を打ち出したことで、北朝鮮の統一戦略に関する文書や証拠を手に入れた事実をうかがわせた。米国は、韓国への軍事侵攻と同時に米国への核ミサイル発射の危険があると受け止めている。 宴の後には、北の核とミサイルの実験が待っている。韓国世論は分裂し、文在寅大統領の支持率は下落するだろう。北朝鮮への制裁はさらに強化され、北では軍と党の摩擦が強まる恐れがある。朝鮮半島をめぐる緊張は高まる一方だ。

  • Thumbnail

    記事

    「スポーツの上に政治がある」平昌五輪、統一コリア実現の舞台裏

    も、北朝鮮オリンピック委員会は正式手続きを行っておらず、「五輪不参加」というのが大方の見方であった。韓国専門家の中には「100%参加は有り得ない」と断言する人もいたほどだ。2018年の「新年の辞」を発表する北朝鮮の金正恩朝鮮労働党委員長(朝鮮中央通信撮影・共同) しかし、締め切りを過ぎても、国際オリンピック委員会(IOC)は諦めなかった。本来なら、この時点でエントリーがなければ参加できない。しかし、トーマス・バッハ会長は「最終エントリーである大会1カ月前の個人エントリーまでに手続きをすればOKだ」と表明したのである。 五輪参加で最も重要とされるのはエントリーの有無だ。公平性を保つための伝統的なルールであり、ミスをすれば国内オリンピック委員会(NOC)の委員のクビが飛んでしまった例もある。だからこそ、バッハ会長の表明は異例中の異例、いやこれはもう「特例」と言っていい。五輪の伝統を崩してでも、北朝鮮の参加を最後まで待とうとしたのである。この時点で、筆者はIOCが平昌五輪組織委員会、南北両国のNOCに水面下で働きかけているのではないかと思っていた。 なぜなら、北朝鮮には1996年からIOC委員として活動する張雄(チャン・ウン)氏がいるからだ。IOC委員はオリンピック理念を実現するために貢献する使命がある。今年一杯で退任する張委員が「最後の奉仕」として南北友好の五輪実現に努力しないはずがない。五輪運動に携わり、彼自身を見てきた筆者にはそう見て取れた。 ただ、政治が絡む問題は非常に繊細な対応が必要なのは言うまでもない。昨年6月、張委員は「スポーツの上に政治がある」とメディアに語り、統一コリアチームの実現が簡単ではないことを示唆していた。一方で「(北朝鮮と韓国の)2カ国が決めることではなく、IOC委員が話し合う問題」と断言もしていたのである。いち早く「統一コリア」を実現した日本人 実際に、金委員長の「新年の辞」を皮切りに急展開した「統一コリア」の動きは、1月20日にIOC本部で行われた平昌組織委、両国NOCとの四者会談で結実する。バッハ会長は平昌五輪に北朝鮮選手22人の参加や南北合同行進を認めたことを発表したのである。そして、五輪初の南北合同チームが女子アイスホッケーで実現することになった。 しかし、新年の辞から南北会談、四者会談という、わずか半月の流れは外交常識に照らし合わせても、あまりに早すぎ、出来過ぎの感は否めない。この急展開を冷静に読み解けば、「北朝鮮のエントリーを待つ」と事実上認めたバッハ会長の発言がサインになる。新年の辞はあくまでのろしであり、バッハ発言のあった昨年12月以降にこのシナリオが大きく動き出したとみるのが合理的だろう。2017年6月、世界テコンドー選手権が行われた韓国・茂朱で、板割りを披露するIOCのバッハ会長(共同) それは昨年6月、バッハ会長が世界テコンドー選手権の閉会式に出席するために韓国入りしたところから始まる。文在寅大統領が示した南北合同チームの結成案について、バッハ会長は文大統領の表明に感謝した上で「五輪は相互理解や対話、平和の精神に基づいている」と述べている。しかも、北朝鮮政府との交渉のキーパーソンとなる張委員は、元世界テコンドー連盟会長でもあった。名誉総裁として世界テコンドー選手権に来韓した張委員とともに、IOCは北朝鮮へのアプローチに本腰を入れたはずだ。 実際、IOCは文大統領との会談後、北朝鮮選手が平昌五輪に参加できるように支援することを確約している。この支援を決めた理事会から、IOCによる統一コリア実現への具体的アクションが始まったのだろう。 実は過去にも「統一コリア」を実現した人物が日本にいた。1991年、千葉県で開催された世界卓球選手権を成功に導いた当時の国際卓球連盟(ITTF)会長、荻村伊智朗氏である。荻村氏は実現のために、自ら北朝鮮に何度も出向いて、選手強化に励んだ。世界一を競う場で実力が違いすぎれば、チームとしてまとまらないからだ。荻村氏の努力の結果、南北の実力差は解消され、参加が実現した。南北の卓球選手はともに戦う空気が生まれ、統一旗の下で素晴らしいパフォーマンスを披露し、女子団体では強豪中国を破って優勝したのである。 この時の北朝鮮側の交渉相手が張雄委員であり、彼の統一コリアへの情熱もこの結果に結びついている。また、今回の統一コリア実現に慎重だったのも、あの世界卓球の経験があったからだ。だが、並大抵なことではないからこそ、女子アイスホッケーの合同チームも使命のために団結し、想像以上の力を発揮できる可能性がある。もし、このチームが決勝ラウンドに進むことになれば、その反響は想像を絶するだろう。スポーツが政治を利用する だが、女子アイスホッケーをはじめ、統一コリアに対して「スポーツの政治利用」「文政権の行き過ぎた北朝鮮融和策」などと批判的な意見が韓国国内でも多く聞かれる。確かに、五輪では過去にも「スポーツの政治利用」に対する批判の声が挙がったことはある。その代表的な大会が1936年のベルリン五輪だ。ナチス指導者、アドルフ・ヒトラーが国威発揚の機会として利用し、「ナチズムにオリンピックが利用された」と言われる。しかし、ヒトラーが国を挙げて作り上げたベルリン五輪の遺産が今も受け継がれていることも事実である。聖火リレー、開会式の入場行進、放鳩、これらはすべて「平和のシンボル」として継承されている。 それだけに、今回の統一コリア実現を「スポーツの政治利用」という一方的な視座で捉えるべきではない。五輪の原点とは「スポーツによる世界平和構築」である。1894年6月23日にIOCが創設されたのは、帝国主義が蔓延する欧州で世界戦争の危機を感じたからだ。古代オリンピックを復活させ、世界の若人が同じルールの下に競技することで、互いの尊敬と友情を育むことを知る機会を創出したかったのである。 また、五輪はたとえ国家間の紛争状態があっても、この祭典の期間は中断して参加しなければならないという「休戦」の思想がある。これは古代オリンピックから受け継ぐ尊い精神だ。実際、1992年のボスニア紛争で、当時のサマランチ会長は世界で初めて「五輪休戦」を訴えた。それ以降、開催のたびに国連総会でこの思想への支援決議が採択されている。 金正恩政権は長距離弾道ミサイル「火星15」発射実験を強行するなど、今も「先軍政治」を優先し、核ミサイル開発に注力する姿勢を崩していない。一方、米国も北朝鮮に対する圧力を強め、朝鮮半島の緊張は続いている。その風穴をスポーツが開けたとみることはできないだろうか。現状では、少なくとも五輪期間の「休戦状態」は確保できそうである。軍事でも外交でも解決が難しい状況の中で、五輪は政治を利用して、平和を生み出そうと努力している。韓国と北朝鮮のアイスホッケー合同チームが着るコートに付けられたワッペン(左)。朝鮮半島の右側に竹島(右端)が刺しゅうされている=2018年2月5日(聯合=共同) 統一コリアは、多くの識者が指摘するような、韓国と北朝鮮両政府が五輪を利用するために実現したのではないと信じたい。むしろ、IOCがスポーツを利用して、朝鮮半島の融和の実現に動いて結実したとみるべきである。互いに息切れしつつある文大統領と金正恩政権に「スポーツ王国の元首」が救いの手を差し伸べたというのは、言い過ぎだろうか。 平昌五輪は本当の意味で成功するのか。閉会式の最後、IOC会長は必ず「この大会は史上最高の大会であった」と高らかに宣言する。恐らく平昌五輪もそう祝うのだろう。しかし、混迷を深める現代世界では、五輪が逆に政治を利用して、平和や対話、そして和解を図る道具にしていかなければならない。統一コリアがその証になったとき、平昌五輪は歴史的成功を収めたと胸を張れるだろう。

  • Thumbnail

    記事

    「五輪停戦」で金正恩の勝利、文大統領の危険な「前のめり外交」

    、金正恩との融和よりは米軍の展開こそが平和の確かな保証だ、と述べている。要旨は次の通りです。北朝鮮が韓国で「三池淵管弦楽団」の公演を行うとの南北合意に基づき韓国を訪問した同楽団のヒョン・ソンウォル団長=1月22日(韓国取材団・共同) 1月9日の南北会談は金正恩のプロパンガンダ勝利となった。南北は北朝鮮の平昌オリンピック参加に合意した。南北会談と「五輪停戦」は金正恩を平和の人と印象付けることになった。 これはひどく苛立たしいことだ。しかし金正恩の深謀は韓国と米国の間に楔を打ち込むことだ。今や文在寅(大統領)には米韓分断にならないことを明確にする責任がある。 戦略問題は米国としか話をしないとの、これまでの北の一貫した政策からすれば、新年の金正恩の南北会談提案は驚きであった。北の宣伝によれば韓国は米国の傀儡政権だ。最大の例外は金大中が南北首脳会談開催と引き換えに数百万ドルを北に支払った2000年だった。2000年の首脳会談により南北は「太陽政策」と呼ばれる短い融和の時期に入ったが、この間多額の対北援助が行われた。 文在寅は開城工業団地(北にとり毎年1億ドルの外貨収入源)を含む太陽政策を復活したいと考えている。先ず核、ミサイル開発を縮小すべきとの米国の政策に相反して、文在寅は5月の大統領就任時から対北直接対話を呼びかけてきた。北はこれを相手にせずミサイルの完遂を進めてきたが、今は南北会談により政治的利益を得ることができると考えている。 恐らくトランプ政権は五輪のために韓国の考えに従うことにしたのであろう。韓国は五輪の期間定例の軍事演習の延期を求め米国はこれを黙認した。 北はオリンピックの後も会談を継続し、それにより韓国を米から離反させることを狙っているかもしれない。国連制裁が効果を発揮し、燃料の流れは段々と減り、輸出による外貨収入も難しくなっている。そのような状況なので韓国との関係改善は非常に魅力的になってきた。しかし文在寅には大きな制約が掛かっている。国連制裁のため資金援助は困難であり、また北の急速な核兵器開発の結果半島の緊張が高まり韓国の対米軍事依存は高まらざるを得なくなっている。 米国はオリンピックの間も韓国沿岸にカール・ビンソン空母軍を展開すると明らかにしている。このような米軍の展開こそが、戦争を脅かしながら平和を求めるような金正恩との融和よりは一層信用できる平和の保証になる。出典:‘North Korea’s Peace Games’(Wall Street Journal, January 9, 2017) この社説は全くの正論です。北は五輪終了後も対話を継続させ米韓離反を狙っているかもしれないとの指摘は的確です。韓国主要紙の反応も総じて文在寅の対応に諸手で賛同ということではありません。文在寅は優先順位を理解していない 10時間を超える会談の後、3項目の共同合意文書が発表されました。合意の第一は北の平昌五輪への参加です。第二は、「軍事的緊張状態の緩和」について、南北の偶発的な衝突を防ぐため軍の当局者の会談を開催すること、第三は、「南北関係の改善」につき問題の解決は韓国と北朝鮮の「当事者同士で行う」ことです。 五輪に参加する北側高官代表団、選手団、応援団の派遣と北側関係者の滞在の便宜を南側が保障するという内容も共同文書に入っているといいます。これに対し、この滞在支援は国連制裁に反するのではないかとの指摘が出ています。制裁のためか、北は高麗航空の使用ではなく陸路で入るということです。韓国政府は制裁との関係につき米国や国連と協議すると述べています。 今後、開城工業団地、金剛山観光開発の再開を北が求めてくる可能性も排除できません。制裁の厳格な実施が最重要であることを韓国に念押しすべきです。 北の五輪参加は良いことですが、最重要問題の非核化は議論されませんでした。会談で韓国側が非核化に言及したところ、北は峻拒したといいます。南北会談の限界とリスクを表しています。今後南北で軍当局者会談が開催されるでしょうが、過去の例も考えると、大きな成果は期待できません。北は米軍の展開や合同演習の中止を強く求めるでしょう。 南北関係に関する南北の文言には齟齬が出ています。韓国の発表では「われわれ民族が韓半島(朝鮮半島)問題の当事者として対話と交渉を通じて解決していくことにした」(9日夜韓国政府発表)であるのに対し、北側の発表は「われわれ民族同士の原則で、対話と交渉を通じて解決していくことにした」(10日未明朝鮮中央通信報道)となっています。南北間の言葉使いとして北側の文言には特別の意味が込められており、米韓同盟に楔を打つ考えが一層明確になっていると言われます。 文在寅の、危なっかしいともいえる前のめりの外交には、一層の注意が必要です。文在寅は今の優先順位を十分に理解していないのではないかと思われます。更に文在寅は従来から北朝鮮問題では韓国が運転席にいるべきだとか、韓国がリードすべきだと述べています。過去の失敗も余り理解していないようです。南北対話が持続的に成功した例はないのではないでしょうか。南北融和を図る度に核問題がうやむやにされ、その間に北は核、ミサイルの開発に邁進し、今日の事態に至っています。核問題は今が最後のチャンスです。1月10日、ソウルの韓国大統領府で年頭記者会見を行う文在寅大統領(共同) 1月10日に文在寅はトランプと電話で会談、南北会談の結果を伝えた。韓国側の説明によれば、両首脳は米韓間の協力を強化することで合意し、南北協議が「米朝間の対話」につながる可能性もあるとの見通しを示したといいます。しかし最近も米韓間の対外説明に齟齬があった事例が指摘されており、懸念が残ります。 今後、北の五輪参加準備がうまく進めば、ともかく3月中旬までは今の状態で推移するでしょう(オリンピック2月9~25日、パラリンピック3月9~18日)。しかし、五輪の後は元のギアに戻し、対北圧力を強めていかねばなりません。その間も対北制裁は効いてきます。

  • Thumbnail

    記事

    北朝鮮は平昌五輪で破壊工作に乗り出すか

    の工作員”は、北朝鮮の国家テロの“生き証人”として生かされてきた。当時25歳だった彼女も今や55歳。韓国生活の方が長くなったにもかかわらず、言葉のはしばしに今なお北朝鮮ナマリが残っているのが印象的だった。 彼女が30年前、乗員乗客115人を乗せた国際線KAL機を空中爆破させたのは、翌1988年に迫ったソウル・オリンピックを阻止するためだった。彼女は工作機関の朝鮮労働党対外情報調査部の部長からこう命令されたという。「南朝鮮の飛行機を落とす理由は、1988年オリンピックを前にして南朝鮮の傀儡どもが二つの朝鮮を策動しているのでこれを防ぎ、敵に大きな打撃を与えることにある」「二つの朝鮮を策動」とは、北朝鮮とだけ国交のあったソ連や中国など共産圏が、ソウル五輪参加を機に韓国を認める動きを見せていたことを意味する。そのためKAL機爆破テロで「危ない韓国」「不安な朝鮮半島情勢」を国際社会に印象付け、ソウルで五輪開催ができないようにしようとしたのだ。1987年12月、大韓航空機爆破テロ事件で逮捕され、ソウルの金浦空港に移送された金賢姫元工作員(共同) 北朝鮮のこの懸念は歴史的に見れば的中している。ソ連・中国など共産諸国はその後、韓国との国交樹立に向かい、ひいては「ベルリンの壁」崩壊という東西冷戦終結につながった。共産圏の支持・支援を失った北朝鮮は国際的に孤立し、100万単位の餓死者を出す「苦難の行軍」を余儀なくされ、さらに核開発に走ることになる。 あれから30年。「朝鮮半島危機」のなか韓国ではまたオリンピック開催が迫っている。冬季五輪開催地の「ピョンチャン(平昌)」は国際的には「ピョンヤン(平壌)」とよく間違われるが、韓国北端で北朝鮮と分断された江原道に位置する。北朝鮮としては指をくわえたままでいるわけにはいかないだろう。30年前を教訓にするために 金正恩はピョンチャン五輪にどう出るか? かねてからの「朝鮮半島核戦争の危機」を国際社会に印象付けるため、1988年方式で五輪妨害・破壊工作に乗り出すかもしれない。あるいは「30年前の失敗」を教訓に、和平あるいは平和を演出し、軍事圧力をかける米韓や制裁強化の国際社会を反転させようとするのか。 国際社会としては30年前の「まさか」を教訓に心構えと備えは欠かせないが。 東アジアでは今後、オリンピック開催が相次ぐ。ピョンチャン冬季五輪の後は2年後の2020年に東京五輪、その2年後の2022年には北京冬季五輪が予定されている。 オリンピックはしばしばきわめて政治的である。思い出せばソウル五輪の前には、1980年モスクワ五輪はソ連のアフガニスタン侵攻に抗議する米国、日本など西側諸国がボイコットし、1984年のロス五輪はソ連、東ドイツなど共産圏が対米報復でボイコットしている。そのため東西両陣営が久しぶりに勢ぞろいした1988年ソウル五輪は「壁を越えて」が合言葉になった。平昌五輪の開会式出席についての記者団の質問に答える安倍晋三首相=2018年1月24日午前、首相官邸(斎藤良雄撮影) 今回のピョンチャン五輪は「北朝鮮の影」を意識せざるをえない。日本の安倍首相も中国の習近平主席も国内で基盤を固め、自分たちのオリンピックも控えているだけに開会式出席は必至である。国際的に影が薄かった(?)韓国の文在寅大統領にとっては存在誇示の絶好のチャンスだ。少し格落ちだが、小池東京都知事はどのタイミングでピョンチャンに出かけるのだろう。新年の東アジアは北朝鮮情勢を念頭に“オリンピック外交”が見ものである。【PROFILE】くろだ・かつひろ/1941年生まれ。京都大学卒業。共同通信ソウル支局長、産経新聞ソウル支局長を経て産経新聞ソウル駐在客員論説委員。著書に『決定版どうしても“日本離れ”できない韓国』(文春新書)、『隣国への足跡』(KADOKAWA)など多数。関連記事■ 平昌五輪後に米の先制攻撃で米朝軍事衝突勃発も■ 文在寅政権中枢は親北派だらけ 北朝鮮の理解者を内外にPR■ 北朝鮮ミサイル発射 早朝でも安倍首相の血色がよかった理由■ 北の漂着船 元軍人の漁師を強制送還すると1人83万円かかる■ 中国尖閣攻勢は米にとって「日本の国難」との深刻な懸念

  • Thumbnail

    記事

    南北会談 印象に残った北朝鮮の余裕と韓国の弱腰ぶり

    ップ。記者会見などでの表情や仕草から、その人物の深層心理を推察する「今週の顔」。今回は、南北会談での韓国・北朝鮮両国代表の心理戦を読み解く。 * * * 2018年元日の朝、薄いグレーのスーツを着た金正恩朝鮮労働党委員長が、「新年の辞」で平昌五輪への参加を表明した途端、南北閣僚級会談が2年5か月ぶりに開かれた。和やかな雰囲気で始まり、北朝鮮側の代表団は融和ムードを演出していたというが、その心中はどうだったのだろう。 会談が開かれたのは、軍事境界線にある板門店の「平和の家」。韓国側にあるこの施設に、北朝鮮の代表団は軍事境界線を徒歩で渡ってきた。軍事境界線は幅数センチで段差のあるコンクリートの帯。簡単にまたぐことができるその段差を、彼らはまたぐことなくわざわざ踏みつけ、その上に一度上がってから韓国側にやってきたという。わずかではあるが高い位置から、韓国側に足を下ろしたことになる。 それを、分断の壁をなくそうというアピールという見方もあるが、隠された意図はそれだけではないだろう。というのも、高さは力を意味するのだ。人は高い所にいる者は力が強く、低い所にいる者は力が弱いと感じる。軍事境界線をまたげば、高さは変わらず北朝鮮と韓国は対等となるが、段差に上がれば、北朝鮮側は韓国よりも高い位置から会談に向かうことになる。 つまり、自分たちが韓国よりも上、南北問題に対する主導権も自分たちにある、ということを示す意図があったのではないだろうか。そう思って会談を見ると、終始、北朝鮮側がリードしていたのも腑に落ちる。 北朝鮮の李善権祖国平和統一委員会委員長と、韓国の趙明均統一相は並んで姿を見せたが、会場に入る瞬間、李委員長の肩が趙統一相より前に出て、李委員長が先に入った。またどちらの代表団も全員が書類を脇に抱えているのに、李委員長だけ手ぶら。内容が頭に入っているのだろうが、一人だけ手ぶらというのは、それだけ自分の権力や優位性を誇示している。 強面でいかつい印象の李委員長は笑みを浮かべ、韓国側の施設なのに両手を広げて着席を促し、始めから主導権を握る。緊張した面持ちの韓国側の代表団は、背筋を正して椅子に座ったが、北朝鮮側は皆、肩を張って、ややふんぞり返った格好だ。これは、相撲協会の理事会で貴乃花親方が見せていた、あの対決姿勢と同じ。この姿勢を見ると、彼らの融和ムードがあくまで演出にすぎないことがわかる。 また融和ムード演出はこんな所にも出ていた。以前なら、握手する手を指し出すのは韓国側。だが李委員長は今回、微笑みながら自分から手を差し出した。映像に納まる二人の姿を見ると、その意図が“融和”だけでないことがわかる。悠然と立って握手する李委員長と、テーブルを挟んで前のめりになって手を伸ばす趙統一相。この会談でどちらが優位に立っているのかを、象徴するような写真となっていたからだ。南北会談で握手する韓国の趙明均統一相(右)と北朝鮮の祖国平和統一委員会の李善権委員長=2018年1月9日、板門店(韓国取材団・共同) 今回、北朝鮮側は全員がスーツ。新年の辞で金委員長がスーツだったことを考えれば、それに倣ったともいえるが、スーツ姿の方が親しみやすく感じるのは確かだ。人は自分と似ている者に好感を持ちやすいという性質がある。 そんな諸々を考えると、融和というより、韓国を懐柔しているように見えてくる北朝鮮。果たして平昌五輪では、どんなパフォーマンスを見せるのだろうか。関連記事■ 韓国メディアの「良心的日本人」 竹島、慰安婦等問題の見解■ 高梨沙羅 「オルチャンメイク」に似ていると韓国で大人気■ 高須院長 韓国の慰安婦問題再交渉は「無視すればいい」■ 親北を掲げる文在寅政権の先は「赤化統一」と暗黒の生活■ 平昌五輪後に米の先制攻撃で米朝軍事衝突勃発も

  • Thumbnail

    テーマ

    韓国がベトナムで犯した罪

    「ライダイハン」。ベトナム戦争に派遣された韓国軍兵士が現地女性を性的暴行し、生まれた混血児を意味する蔑称である。ベトナム社会の片隅で生きる彼らは今も差別に苦しみ、その数は3万人にも上るとされる。韓国がベトナムで犯した罪。慰安婦問題でことさら日本だけを非難する資格などあるのか。

  • Thumbnail

    記事

    「ベトナム大虐殺」現地取材で見た韓国の過ちと憎悪の念

    た。社会主義を掲げた北ベトナムには中・ソ・北朝鮮が側面支援を主に行い、南ベトナムにはアメリカを筆頭に韓国、台湾、スペイン、東南アジア条約機構(SEATO)の国々が支援した。 1964年8月、ベトナム北部のトンキン湾で北ベトナム軍の哨戒艇が米軍の駆逐艦に2発の魚雷を発射したとされる「トンキン湾事件」が起きる。これを機に、アメリカは本格的な軍事介入を始め、翌65年2月に北爆を開始。同時期に韓国軍の派兵も始まった。 朝鮮戦争で壊滅的な被害を受けた韓国。休戦の53年にはアジア最貧国グループの一つとなった。当時の朴正煕(パク・チョンヒ)大統領は、日本が朝鮮戦争で高度経済成長のきっかけをつかんだことをよく知っていた。韓国を豊かな国に変えるべく、ベトナム戦争を経済発展の絶好の機会ととらえ、韓国軍戦闘部隊のベトナム派兵を決定する。1976年、崔太敏氏(右)が主導する団体を訪問し、会話を交わす朴正煕大統領(当時・左)と朴槿恵氏(共同) 韓国の派兵は64年9月に医療班やテコンドー教官などの非戦闘先遣部隊が送り込まれ、翌65年2月、工兵部隊を中心に2000人を派遣。戦況が悪化していくにつれ、同年10月には1万8500人あまりの戦闘部隊を本格的に投入した。その数や、韓国軍が撤退する73年3月までに延べ32万5517人にのぼり、アメリカに次ぐ大量派兵となった。 韓国軍のベトナム参戦について、ノンフィクション作家の野村進氏が『コリアン世界の旅』(講談社、1997年)の中で、韓国軍元上等兵の発言を次のように書き綴っている。 「韓国がベトナム戦争に参戦したのは、世界の自由主義を守るためだとか言ってましたけど、本当はカネのためなんですよ。カネ目当てなんだから、早い話がアメリカの“傭兵”ということですよね」 「カネ」のためにベトナム戦争に参戦した韓国軍。彼らはベトナムの地で歴史上ぬぐい去ることのできない多くの恥辱を残すこととなる。韓国軍戦闘部隊の多くは、ベトナム中部のニントゥアン省からダナン市にかけての海岸沿いを走る国道1号線の主要都市に駐屯し、至るところで罪もない民間人の虐殺を繰り返した。差別に苦しむライダイハン 1990年代後半に、ホーチミン大大学院でベトナム現代史を勉強していたク・スジョン氏。彼女がベトナム政府局の資料を入手し、韓国の左派紙「ハンギョレ」に提供した情報によると、「韓国兵はきれいに殺して、きれいに燃やし、きれいに破壊するというスローガンのもと、掃討作戦を繰り広げて、民間人を次々と無差別殺戮していった」(『ハンギョレ21』1999年5月 第256号)。 また、韓国軍の虐殺地が点在しているベトナム中部のフーイエン省で『フーイエン省の歴史書』(2013年12月発行)の作成のために聞き取り調査を行い、編纂(へんさん)したフーイエン新聞社のファン・タン・ビン編集長(54歳=09年9月当時)は次のように話す。 「韓国兵は村のすべてを焼き払い、無抵抗の子供や妊婦も容赦なく殺害し、年ごろの娘においては輪姦したあとに女性器を銃剣でかき回し、射殺するという暴挙もあった」。そしてついには、「韓国兵に出あうことは死ぬことだ」と、ベトナム人に言わしめたという。「ライダイハンというだけでよくいじめられた」と話す、ヴォー・スアン・ヴィンさん=2015年6月、ビンディン省(村山康文氏撮影) 韓国軍のベトナム戦争参戦によって起きた問題は、「民間人虐殺行為」だけではなく、「ライダイハン」問題がある。ライダイハンとは、「ライ」がベトナム語で混血を表し、「ダイハン(大韓)」は韓国を意味する蔑称である。ベトナム戦争時にできたライダイハンの数は、最少1500人(朝日新聞1995年5月2日付)から最大3万人(釜山日報2004年9月18日)と推計されている。 ベトナム戦争時、中部ビンディン省にできた韓国軍施設でウエートレスをしていたヴォー・ティ・マイ・ディンさん(59歳=09年9月当時)は、19歳のころに施設内の食堂で輪姦され、誰の子だかわからないライダイハンの息子、ヴォー・スアン・ヴィンさん(39歳=同)を身ごもった。 ヴィンさんは母を前にして寂しそうに話す。 「戦後、アメラジアン(アメリカ人とアジア人のハーフ)同様、『敵国』との間の子だと差別され、辛かったことを覚えています。小学校のころには、『この学校に敵がいると規律が乱れる』と罵られ、帰り道、同級生に石を投げられたこともありました」 ヴィンさんは戦後40年以上経った今でもライダイハンというだけで差別を受けて定職に就くことができず、日雇いでトラックの積み荷を降ろす仕事をしている(2015年6月当時)。韓国の戦後補償 では、ベトナムの地で数々の過ちを犯した韓国は、戦後、どのような補償をしているのだろうか。 2000年代に入り、ようやく韓国の市民団体らが、韓国軍による民間人虐殺やライダイハンに対する謝罪の意味合いを込めて、韓国軍が駐屯地を中心に「ベトナム平和医療連帯」が無料診療を行い始め、虐殺があったとされる場所の「憎悪碑」や「慰霊碑」などの訪問を始めた。 また、03年1月には韓国左派紙のハンギョレ新聞社が資金を募り、フーイエン省ドンホア県に8000平方メートルの土地を買い、10万米ドル(およそ1100万円)をかけて、韓越平和公園を造景した。しかし現在、公園は利用者もなく放置され、ゴミが散らばり、廃園となっている。 韓越平和公園の近くに住み、カフェを営む50代の女性は、「公園はボロボロで汚いし、使い物にならない。手入れされていない木が生い茂っているので、たまに若いカップルが木陰で話しているくらいです。韓国軍が虐殺事件を起こした地域に公園を造るなら話もわかりますが、なぜこの場所にあんな大きな公園を造ったのかが理解できません」と話す。廃園になっている韓越平和公園=2016年9月、フーイエン省(村山康文氏撮影) 韓越平和公園造景後、同地域に韓越友好病院(05年9月)を設立。15年3月には韓国軍の虐殺が行われたフーイエン省タイホア県内に、韓国の民間支援で小学校を創立した。 さらに16年春、「平和の少女像(慰安婦像)」を作成した彫刻家のキム・ソギョン、キム・ウンソン夫妻が、ベトナム戦争での韓国軍による民間人虐殺を謝罪する意味で「ベトナム・ピエタ像」を制作。16年中に韓国の済州(チェジュ)江汀(カンジョン)村とベトナムのクアンガイ省ビンソン県に建立される予定だった。ベトナム戦争終結から42年目の17年4月30日、韓国の済州江汀村でお披露目されたが、ベトナムでは未だ世に出ていない。 また、16年10月11日に韓越平和財団が、ダナン市にある中部最大のダナン博物館に「ベトナム・ピエタ像」を贈呈。さらに同年12月3日、クアンガイ省ビンソン県での韓国軍による民間人虐殺の生き残り、ドアン・ギアさん(50歳=16年9月当時)の自宅訪問の際、「ピエタ像」を持参した。謝罪しない文在寅 しかし、「ピエタ像」は、ダナン博物館では日が当たることもなく地下倉庫に眠り、ギアさんはクアンガイ省庁から受け取ることを拒否するように言われているため、受け取ることができなかった。 「韓越の関係は今、良くなっています。私らがピエタ像を受け取るということは、今さら過去を掘り返してまで、時代に逆行することはないということでしょう」(ギアさん)ジャーナリストのチャン・クアン・ティ氏=2016年9月、ホーチミン市(村山康文氏撮影) 韓越問題に詳しいベトナムのジャーナリスト、チャン・クアン・ティさん(39歳=同)。フーイエン省で生まれ、祖父母から韓国軍による民間人虐殺の話を聞いて育った。 「右肩上がりの今のベトナム経済にとって、韓国は切っても切り離せないでしょう。しかし、だからと言って過去の韓国軍による民間人虐殺やライダイハン問題に蓋をして、なかったことにするというのは筋違いです。ベトナム政府も目先の『カネ』ばかりを追うのではなく、じっくりと韓国政府と向き合い解決の糸口を見つけるべきです」 韓国の政府レベルでは、98年に当時の金大中(キム・デジュン)大統領が訪越した際に「不本意ながら、過去の一時期、ベトナム国民に苦痛を与えたことを遺憾に思う」と謝罪するも、保守派ハンナラ党(現セリヌ党)副総裁だった朴正煕の娘、朴槿恵(パク・クネ)氏が、金大中の発言に対し、「大統領の歴史認識に不安を抱く。軽はずみな発言は参戦者会の名誉を著しく傷つけた」と強く非難した。 13年2月、朴槿恵氏が大統領に就任する。9月に初訪越し、ベトナムのチュオン・タン・サン国家主席と会談したが、ベトナムに向けた謝罪の言葉は一切なかった。また17年11月に文在寅(ムン・ジェイン)大統領も初訪越し、チャン・ダイ・クアン国家主席と会談。しかし、そこでも謝罪の言葉はなく、革新派としての姿勢を後退させた。 「平和の少女像(慰安婦像)」は、ソウル特別市の在大韓民国日本国大使館前(2011年12月設置)を始め、釜山市の在釜山日本国総領事館前(16年12月設置)、加えて海外のカナダ・トロント市(15年11月設置)やアメリカ・サンフランシスコ市(17年9月設置)などに次々と建立している。 「思わずブロンズ像建立が趣味なのですか?」と問いただしたくなるほど自己主張する韓国の行動。ベトナム戦争時、被害に遭遇したが奇跡的に生き延びた人らは、少なくとも押し付けがましい「ハコモノ設置」や「ブロンズ像建立」よりも、韓国国家の「正しい判断」を求めている。

  • Thumbnail

    記事

    なぜ韓国は「ライダイハン」に無関心でいられるのか

    竹嶋渉(元在韓ジャーナリスト) 「他人がやれば不倫、自分がやればロマンス」。韓国で「自分に甘く、他人に厳しい」、つまり「身内びいき」や「ダブルスタンダード」を指して語られる言葉である。 「ライダイハン」とは、「韓国系のベトナム人」を意味する言葉である。もともとはベトナム語で「Lai Đại Hàn(𤳆大韓)」と表記するが、韓国でも一般に広く用いられている。 なぜ、韓国の隣国でもないベトナムに「韓国系ベトナム人」が存在するのだろうか。これは、韓国のベトナム戦争参戦が原因である。韓国は1964年からベトナムに派兵し、本格的にベトナム戦争に参戦した。ベトナムに赴いたのは韓国軍の軍人だけではない。軍人とともに数多くの労務者や韓国企業の労働者が特需を求めてベトナムに殺到した。大韓航空を傘下に収める「韓進」は軍需品の輸送で、「ヒュンダイ」の名で知られる「現代」は土木・建設分野で、今はなき「大宇」は繊維製品をはじめとする軍需品の生産で大きく飛躍した企業である。最盛期には、5万人の韓国軍がベトナムに駐留し、それに伴って韓国人労働者の数も2万人まで増加した。その過程で韓国人男性とベトナム人女性の間に数多くの「韓国系ベトナム人=ライダイハン」が誕生することになった。南ベトナムの大統領官邸に突入した北ベトナム軍戦車と兵士 =1975年4月(古森義久撮影) 1973年のパリ平和協定に伴って韓国軍がベトナムから撤退し、75年の南ベトナム(ベトナム共和国)の崩壊とともに韓国企業や韓国人労働者もベトナムから撤収することになった。統一されたベトナムで「ライダイハン」は「敵軍との間に生まれた子ども」としてさまざまな圧迫や差別に直面することになった。ちなみに「ライダイハン(𤳆大韓)」の「𤳆」は「ハーフ」をあらわす接頭辞であるが、そこには多分に軽蔑の意味が込められている。 現在、「ライダイハン」の正確な数は把握されていない。1500人から3万人までさまざまな数字が提示されているが、公式的な統計は現在も存在しない。その内幕については公にされていないが、強姦や売買春の他に、韓国人の「現地妻」が生んだ「ライダイハン」も相当数存在すると思われる。「ライダイハン」の居住地は韓国軍が駐屯していたホーチミン(サイゴン)、クィニョンなどであり、首都・ハノイにはほとんど居住していないという。ライダンハンが「美談」に 92年に韓国とベトナムは国交を回復したが、修好に際し韓国の盧泰愚大統領(当時)は「ライダイハン」に対して、謝罪どころか何の言及もしなかった。ただ、修好が契機となり、韓国国内で「ライダイハン」に対する関心が一時的に高まったことも事実である。修好直後には「『ライダイハン』が生みの父と再会した」などというニュースが「美談」として報じられもした。 94年2月には韓国南部の馬山の短大に留学していた「ライダイハン」が23年ぶりに韓国人の父親と再会し、韓国のマスコミは「韓国人の父親の国で技術を学びに来て、23年ぶりに生みの父に会う喜びをかみしめた『ライダイハン』」などと浪花節調に報じていた。ただし、そうした関心も一時的なもので、韓国政府が「ライダイハン」に対して積極的な対応策を取ることはなかった。韓国の民間団体やキリスト教宣教団体がベトナム現地で「ライダイハン」に対する支援事業を行うことはあったが、現在に至るまで、韓国政府が公式的に「ライダイハン」について何らかの支援処置を講じたことはない。また、大多数の韓国人も「ライダイハン」については無関心のままであった。英国で設立された民間団体「ライダイハンのための正義」の看板 =2017年9月、英ロンドン(岡部伸撮影) これは、ベトナムにおける韓国軍の蛮行が韓国国内ではまったく報じられてこなかったためでもある。韓国軍がベトナム戦争において民間人虐殺や婦女子強姦などの悪行を働いてきたことは周知の事実であるが、韓国では、90年代中盤になるまで完全に隠蔽(いんぺい)され、公の場で語られることはなかった。90年代の中盤から韓国の進歩系メディアによって、ベトナム戦争における韓国軍の蛮行が明らかにされ始めたが、そうした報道がなされる度に、ベトナム参戦兵の団体からの妨害や襲撃が繰り返されてきた。 「ライダイハン」に対して語ることは、韓国軍の強姦や買春、韓国人労働者の無責任な養育放棄に触れることにほかならず、「自由陣営の一員として民主主義を守るためにベトナムで戦った」韓国の国家的な威信を傷つけることにつながるからである。そうした韓国で「ライダイハン」に注意を払う韓国人が皆無だったとしても不思議ではない。 韓国のキリスト教系放送局であるCBSは、昨年11月14日、韓国軍の強姦によって生まれた「ライダイハン」が、ベトナムで「敵軍である韓国軍の子」として迫害を受け、就学や就職、就業などでさまざまな差別を受けている実態を放送している。この放送では、韓国の国防部(国防省)が「現在でも、韓国軍の強姦問題については事実関係が明らかではないため、当分の間、別途の調査計画がない」という立場を取っていることも報じられた。日本に対しては慰安婦問題などで「反省」や「謝罪」を要求してくる韓国人であるが、いざ自分のこととなると、「反省」や「謝罪」どころか、調査すらしないのである。「新ライダイハン」問題とは? ベトナムで差別され、韓国からも見放された孤立無援の「ライダイハン」の中には、韓国で訴訟を起こし、自らの父親が韓国人であることを立証して、韓国国籍を取得することができた者もいる。2000年代に入るとこうした父親との血縁関係確認訴訟が相次ぐようになった。ソウル中央地方裁判所 =韓国・ソウル(撮影・桐山弘太)  2002年7月26日、ソウル地方裁判所は産業研修生として韓国に入国した「ライダイハン」R氏が父親を相手に起こした訴訟で、「血縁関係が認められる」という判決を下している。注目されるのは、その「血縁関係」の内幕である。判決は、「父親の李○○氏はベトナムのホーチミン(旧サイゴン)で自動車修理工として勤務していた去る69年にベトナム人女性に出会い、原告が生まれた後、74年にベトナムの国内法に従って結婚したという事実が認められる」として、原告勝訴の判決を下している。要するに現地で結婚しておきながら、妻子を捨てて韓国に帰国していたわけである。李氏は控訴せず、R氏は李氏の戸籍に「子」として記載されることになり、遺産相続や韓国国籍取得も可能になった。ただし、これは父親が韓国人であるということが立証できた場合に限られている。 また、韓国国籍の取得と韓国国内での就職を目指すR氏のようなケースは、「ライダイハン」の中で少数派である。韓国とベトナムの経済関係が発展するにつれ、「ライダイハン」の境遇もある程度改善されたからである。2世、3世の「ライダイハン」の中には、その出自を生かしてベトナムに進出した韓国企業に就職し、一般のベトナム人よりはるかに高い給与と恩恵を享受している例も散見される。必ずしも「ライダイハン」のすべてが偏見と差別に苦しんでいるわけではないのである。 「ライダイハン」の境遇は改善されつつあるようだが、ここに来て新たに「新ライダイハン」の問題が台頭している。「新ライダイハン」とは、92年の修交後、ベトナムに進出した韓国人男性とベトナム人女性の間に生まれた子供のことである。なぜか、韓国人は事業で海外などに進出した場合、「現地妻」を囲う傾向があるようで、1999年7月14日付聯合ニュースは、ベトナムに事業目的で居住する韓国人の30%程度が「ベトナム人現地妻」を囲っていると報道している。問題は、こうした韓国人男性が「現地妻」と、「現地妻」に産ませた子供を放棄して帰国してしまう事例が後を絶たないということである。韓国では、いまだ「新ライダイハン」についてあまり公に語られていないが、遠からず問題となることは明らかである。なぜなら、フィリピンに事業目的で進出した韓国人とフィリピン人「現地妻」の間に生まれた子供による認知が、すでに大きな問題になっているからである。韓国人がやればロマンス? 韓国人とフィリピン人「現地妻」との間に生まれた子供を「コピーノ」と呼ぶ。「ライダイハン」同様、「コピーノ」の数は正確に把握されていないが、ECPAT(アジア観光における児童買春根絶国際キャンペーン)関連団体の集計によると3万人にも達するという。2014年には、「コピーノ」の兄弟が事業家である韓国人男性を相手取って起こした訴訟において、ソウル家庭裁判所が「嫡出子であることを認知する」という原告勝訴判決を言い渡している。 被告の韓国人男性は90年代末にフィリピンで現地女性と同居し、二人の息子をもうけたが、2004年に韓国に帰国し連絡を絶ったという。この当時、同様の訴訟が9件も進行中で、被告はいずれも事業や留学を目的としてフィリピンに赴いた韓国人男性だった。過去、日本人男性もフィリピンで現地女性との間に子供(「ジャピーノ」と呼ばれる)をもうけた後、養育を放棄する事例があり、大きな社会問題になったことがあるが、それと同様の問題が韓国でも起きているのである。ただし、日本は法改正を行い「ジャピーノ」の国籍取得の簡略化に努めている反面、韓国政府はまったく無関心である。そのため、子供の認知訴訟のために韓国に入国しようとしたフィリピン人女性が、経済事情を理由にビザの発給を受けられないという事態まで起こっている。画像は本文と関係ありません(画像:istock) 現在、「新ライダイハン」の数は1万人に達しているとされるが、「コピーノ」同様、韓国政府は何らの対策もとっていない。キリスト教系放送局であるCBS「ノーカットニュース」は2008年12月25日、「新ライダイハン」出生の事例と、現在の境遇について報じている。報じられた事例は、ホーチミンに住むベトナム人女性Aさん(32)とBさん(26)のケース。Aさんはベトナムに進出した韓国企業で出会った韓国人男性との間に息子1人をもうけたが、男性は2005年5月に帰国後、連絡を絶った。Aさんはシングルマザーとして息子を育てている。Bさんの夫である韓国人男性(56)は「病院治療に行く」という名目で韓国に帰国、消息不明となった。後にBさんの夫は営んでいた水産事業に失敗し、韓国に逃亡したことが判明。Bさんもシングルマザーとして6歳の息子を育てている。今後、「コピーノ」同様、こうした「新ライダイハン」による認知訴訟が起こされ、韓国の新たな社会問題になることは容易に想像がつく。 昨年、韓国では、ベトナム修好25周年を記念する映画『パパの川』の制作が発表された。この映画は韓国・ベトナムの共同制作で、「韓国人の父親とベトナム人の母親との間に生まれた主人公が韓国でオーディション番組に参加してスターとなり、父親に会うという内容」だという。昨年の8月30日には撮影地である南東部の都市、蔚山で制作発表会も開かれた。実は、韓国ではこれまでも「ライダイハン」を題材とした映画やドラマが製作されてきた。こうした作品の中には「ライダイハン」が置かれている境遇を真摯(しんし)に扱った作品もあるのだが、報道を見る限り『パパの川』がそうした内容だとは到底思えない。「ライダイハン」が生まれた経緯や実態把握には大した関心がないくせに、こうした興行活動にはやたらとご熱心な韓国人の姿勢には、正直、強い違和感を抱かざるを得ない。日本に対しては、事あるごとに「正しい歴史認識」と、「過去に対する謝罪」を求めている韓国人だから、なおさらなのである。 やはり、「他人がやれば不倫、自分がやればロマンス」ということか。

  • Thumbnail

    記事

    ベトナムが韓国の戦争犯罪を今も黙殺する理由

    が他の国をどのような名称で呼んでいるか、というところに国家同士の関係性が表れることがある。ベトナムが韓国に対して用いてきた国名の表記は、その典型的な例だろう。 ベトナムと朝鮮半島は、いずれも冷戦期に2つの陣営に分断され、北に共産主義(社会主義)政権、南に親米政権が成立し、同じ民族の間で悲惨な戦争が繰り広げられたという共通の歴史をもつ。ベトナムでは、1975年に北が南を武力制圧する形で戦争が終結し、ハノイを首都とする北ベトナムの共産党政府主導の下、現在のベトナム社会主義共和国が成立した。ベトナム共産党政府は、朝鮮民主主義人民共和国(北朝鮮)と1950年に国交を樹立しており、一貫して同国を朝鮮半島の正統な国家と認めてきた。したがって、ベトナムにとって「朝鮮」とは北朝鮮を意味し、「北」を付けて呼ぶことはない。一方、韓国を指すときの名称は、ベトナムの対外政策とともに変化してきた。 ベトナム戦争期の1963年から1973年までに、米国の同盟国である韓国からも30万人を超える兵士が南ベトナムに派遣された。韓国軍の戦死者は約5000人とされているが、韓国兵に虐殺されたベトナムの民間人は、5000人とも9000人とも伝えられている。韓国兵は「ダイハン(大韓)」と呼ばれ、米兵以上に勇猛で残虐なことで知られていた。 韓国兵とベトナム人女性との間に生まれた子供は「ライダイハン(大韓との混血児)」と呼ばれ、正確な数は不明だが、数千人に及ぶとされている。中には韓国兵による性的暴行の結果、生まれた子供もいるという。そのような背景からも、南北統一後にベトナム政府がかつての敵の呼称「大韓」を用いることはなく、韓国は「南朝鮮」と呼ばれていた。ベトナム共産党大会を前に党スローガンの横断幕が張られたハノイ市内の通り=2006年4月14日、(共同) 戦争終結後も米国や韓国を敵の陣営とみなしていたベトナムだが、南部の社会主義改造の失敗と難民の流出、カンボジアへの侵攻によって、未曾有(みぞう)の国際的孤立と経済困難に陥り、内外路線を大きく転換するに至った。それが1986年12月に採択されたドイモイ路線である。ドイモイの骨幹は市場経済化と対外開放で、全方位外交の一環として韓国との関係改善も図られた。その過程で、韓国を指す呼称は「南朝鮮」から一時「朝鮮共和国」に変更された。共和国というと北朝鮮のようだが、韓国も共和制であるため、このような字句が使用されたようだ。その後、1992年の国交樹立を前に「ハンクォック(韓国)」という呼称が用いられるようになり、現在に至っている。ベトナム共産党政府は過去を黙殺 その韓国は、今やベトナムにとって最大の友好国の1つである。政治・安全保障面では、韓越の関係は2009年に「戦略的協力パートナー」と認定された。両国間では、2012年から国防次官級対話が定期的に開催され、軍事・防衛協力が進められている。中国が南シナ海で軍事的行動を拡大している現在、ベトナム共産党政府にとって韓国は、日本と並ぶ重要な戦略パートナーである。経済面では、2015年12月に両国の自由貿易協定(VKFTA)が発行したことを契機に、貿易が著しく増加した。 2016年のベトナムから韓国への輸出は114億1900万ドルで、米国、中国、日本に次ぐ第4位、全体の6.5%を占める。輸出の伸び率は、中国へのそれに匹敵する27.8%に及んでいる。韓国からの輸入は320億3400万ドルで、中国に次いで第2位、全体の18.4%である。輸入品目の第1位である機械設備も、第2位のコンピューター・電子製品も、韓国からの輸入が20%を超える。同年のベトナムへの直接投資でも、韓国は1263件、68億9600万ドルで第1位(日本は第2位)で、投資件数全体の32.7%、金額全体の30.8%に及ぶ(JETRO世界貿易投資報告、最終アクセス2017年12月17日)。英国で設立された民間団体「ライダイハンのための正義」の看板=2017年9月12日、ロンドン(岡部伸撮影) このような韓越の関係は、両国の公的な歴史認識にも影響を及ぼしている。伊藤正子の研究によれば、1990年代末から、韓国のメディアや非政府組織(NGO)によって、韓国兵によるベトナム人に対する虐殺・暴行の事実が明らかにされ、両国の市民レベルで歴史を見直し、和解と平和をめざす活動が進められた。しかし、両国の政府は、過去の歴史が韓越関係の障害になることを避けるため、国内の報道や市民活動を規制する措置をとった(伊藤正子『戦争記憶の政治学─韓国軍によるベトナム人戦時虐殺問題と和解への道』平凡社、2013年より)。 2017年9月、イギリスの市民活動家ピーター・キャロル氏の呼びかけにより、ロンドンで市民団体「ライダイハンのための正義」が設立され、ライダイハンへの支援や事実関係の調査が行われることになった。韓国の国内、特に軍関係者の間では、ベトナム戦争への派兵は、共産主義に対して自由世界を守った正義の行為であり、「武勇伝」として語られている。ベトナム共産党政府も韓国との関係を重視し、それに影を落とすような過去の事実は黙殺する態度をとっている。ライダイハンの検証は「反国家宣伝」 韓国では、市民が国家の方針と異なる意見を発信したり、政府に批判的な活動をしたりすることは自由だが、ベトナムで共産党の指導に異を唱えることは難しい。党の公的な歴史認識から外れる言論や行動は、「敵の諸勢力」と結託した「反国家宣伝」「人民政権転覆の陰謀」として、刑法による処罰の対象となることもある。このような形での市民権の制限が欧米諸国から批判されると、ベトナム共産党政府は、社会主義体制の崩壊をもくろむ「和平演変」とみなして反発する。 現在のベトナムの公的史観は、「共産党の常に正しい指導」による社会主義革命と民族解放闘争の歴史に沿ったものであり、勝者の側から語られる物語である。一方、韓国軍に虐殺・暴行された人々は、共産党の敵であった南ベトナム地域の住民で、党の「輝かしい勝利」には貢献しなかった人々である。南北統一後、ベトナム共産党政府は南部の市民、宗教者、少数民族などによる、党から独立した活動を警戒し、厳しく統制してきた。韓国軍による虐殺・暴行についても、諸外国の働きかけで南部の人々が自発的に史実を検証し、その情報が国内と国際社会で共有されることは、ベトナム共産党政府にとって警戒すべきことなのである。ベトナム中部ダナンで会談し、握手する韓国の文在寅大統領(左)とベトナムのチャン・ダイ・クアン国家主席=2017年11月11日、(聯合=共同) 現在のベトナム共産党政府は、もはや過去の民族解放の実績だけでは支配の正当性を主張できない。経済発展の実績のみが共産党支配の正当性のよりどころであり、体制維持に不可欠の条件である。そのため、韓国を含む資本主義諸国との経済関係を拡大することが、自国民の意思よりも優先されるのである。「南朝鮮」を敵視する路線から、「韓国」と歩み寄る路線に転換した国家は、「ライダイハンのための正義」に対してどのような態度をとるのだろうか。

  • Thumbnail

    記事

    マニラ慰安婦像への「抗議」でわかった国益を損なうご都合主義

    の立場と相いれない』と抗議した」(読売新聞12月13日朝刊)と書かれていたことである。日本はこれまで韓国に対して、歴史に対する捉え方は立場によって違いうると説いてきたはずだ。だから、韓国が主張する「正しい歴史認識」を日本に押し付けるなという意味だ。それなのに、フィリピンには日本の立場を押し付けて当然だというのだろうか。 日韓関係の文脈で有名なのは、2013年2月の朴槿恵大統領就任式に日本政府代表として出席した麻生太郎副総理兼財務相のエピソードだ。就任式後に朴氏と会談した麻生氏は「米国内でも南北戦争に対する評価は北部と南部で違う」ということを例に出して、歴史認識とは相対的なものであると説いた。朴氏はこれに激怒した。お祝いの席でわざわざ相手を怒らせるのはほめられた話ではないが、歴史の見方は相対的なものだという点への異論は少なくとも日本国内では多くなかった。 それだけではない。そもそも、この記事でいう「日本政府の立場」が何かという大事な点が理解できないのである。釜山の少女像の場合には、2015年の日韓合意の「精神」に反していることは明らかだ。だから日本政府は大使召喚などという厳しい措置に踏み切ったわけだが、当然ながらフィリピン政府は日韓合意の当事者ではない。この場合に問題となる「日本政府の立場」というのは意味不明なのだ。 不思議だったので、「読売新聞に出ている日本政府の立場とは何を意味するのか」と外務省に問い合わせてみた。フィリピンでは暴力的拉致の慰安婦集めも 返ってきたのは「フィリピンとの間ではサンフランシスコ講和条約で法的責任に関する問題はすべて解決済みというのが日本政府の立場だ」という答えだった。それはそうなのだが、サンフランシスコ講和条約では日本も対米請求権を放棄し、法的責任の問題を解決させている。法的責任の問題が解決された後に慰霊碑を建てたらいけないという理屈だとすると、東京大空襲や原爆の犠牲者を慰霊する碑を建てることも米国政府から文句を言われかねないことになってしまう。 空襲や原爆の慰霊碑を建てるなと日本が米国に言われる筋合いはないはずだ。それが分かっているからなのか、菅義偉官房長官の記者会見での答えはそれほどストレートなものにはなっていない。フィリピンのドゥテルテ大統領との会談後、記者会見する野田総務相=2018年1月、マニラ(共同) マニラの慰安婦像建立について質問された菅氏は「諸外国における慰安婦像の設置は極めて残念」だという一般論を述べつつ、「フィリピン政府と相談して対応したい」と語った。記者からさらに「撤去を求めるという理解でいいか」と問われると、菅氏は「まず諸外国における慰安婦像設置はわが国政府の立場と相いれない極めて残念なことだ」という一般論ともいえる発言を再びしてから、「外務省からフィリピン政府に対してすでに申し入れを行った」と答えたのである。「わが国政府の立場」という言葉が出てくるものの、やはり明快なものではない。  外務省関係者に聞くと、「抗議と書いた新聞があるのは事実だが、政府として『抗議』という言葉を使っているわけではない。フィリピン政府に『残念だ』という思いを伝えたということだ」と話す。官邸周辺に「撤去させろ」と息巻いている人がいることは想像に難くないが、そんなに簡単な話ではないのである。 さらにフィリピン特有の問題がある。「南方の占領地域では、フィリピンの第十四軍は軍紀が乱れているとの定評があった」(秦郁彦『慰安婦と戦場の性』新潮選書)。他の占領地と比べても日本兵によるレイプが多発していたことが、当時の軍法会議の記録などから明らかになっている。慰安婦の募集にしても、フィリピンやインドネシアといった占領地では強制連行としかいえないケースがあった。日本の植民地として行政機構が整備され、業者に任せておけばよかった朝鮮とは全く事情が異なる。 「日本政府が撤去を求めたのは当然だろう」と論じた読売新聞社説(12月15日)も、「1942年から45年までの占領で、フィリピン各地に慰安所が設けられた。一般女性が一部の現地部隊によって暴力的に拉致されたケースも報告されている」と書いている。 事情を知る外務省幹部は「フィリピンでは日本軍は本当にひどいことをやった。現地にはその記憶がある。『悲劇を忘れないために慰霊碑を作ろう。おカネは私たちが出す』と言われたら、現地の人たちは『ぜひ』となる」と話す。「慰安婦」日韓合意の中身は何か 幸いなことに1990年代に設立されたアジア女性基金による元慰安婦への「償い」事業は、フィリピンでは順調に進められた。かつては反日感情が強かったが、近年の日比関係は極めて良好だ。そうした関係に慰安婦像が波紋を巻き起こすのは残念だが、それだけに日本側としては不幸な歴史に目配りをした慎重な対応をしなければならない。 慰安婦問題に関しては、韓国外務省が日韓合意の検証結果を年内にもまとめる。それを前に改めて考えておくべきなのは、合意の中身は何だったのかということだ。 東京の韓国大使館員からは「日韓合意は慰安婦問題を解決するためのものであって、なかったことにしようというのではない。今の日本では、慰安婦の『い』の字を口にするのも問題だという雰囲気を感じるが、それは行き過ぎではないのか」という愚痴を聞く。釜山の少女像に象徴される韓国側の無神経さがそうした空気を作った面はあるのだが、日本側で拡大解釈が目立つのも事実である。 日韓両国の外相が2015年12月28日にソウルの韓国外務省で発表した合意内容を振り返ってみよう。 すべての前提となる認識は、旧日本軍の「関与の下」で女性の名誉と尊厳を傷つけたことに「日本政府は責任を痛感している」というものだ。この認識に従って、安倍晋三首相が「日本国内閣総理大臣として心からおわびと反省の気持ちを表明する」とされた。ただし、これは安倍首相がカメラの前で自ら語ったわけではなく、岸田文雄外相(当時)が「安倍首相のおわびと反省」を読み上げる形だった。 さらに両国の約束として、▽韓国政府が元慰安婦を支援する財団を設立する▽日本政府が財団に10億円を拠出する▽国連など国際社会において相互非難をしない▽合意がきちんと履行されることを前提に、慰安婦問題が最終的かつ不可逆的に解決されることを確認する——ことが明示された。 岸田氏はこの際、財団について「日韓両政府が協力し、すべての元慰安婦の方々の名誉と尊厳の回復、心の傷の癒やしのための事業を行う」と語った。一方で韓国の尹炳世外相(当時)は、「韓国政府は、日本政府が在韓国日本大使館前の少女像に対し、公館の安寧・威厳の維持の観点から懸念していることを認知し、韓国政府としても、可能な対応方向について関連団体との協議を行う等を通じて、適切に解決されるよう努力する」と表明している。尹外相の言葉は、日本が少女像を問題視していることを受け止め、移転へ向けて努力するという意味だ。 合意に従って、韓国は「和解・癒やし財団」を設立し、日本は政府予算から10億円を拠出した。財団は元慰安婦や遺族に現金を支給する事業を行い、合意時点での生存者47人のうち7割超となる36人が事業を受け入れた。一方で、日本大使館前の少女像問題に進展はないまま、釜山の日本総領事館前に新たな像が建てられた。合意の再交渉を選挙公約にしていた文在寅大統領は、当選後に「再交渉」を口にしなくなったものの、合意の検証を進めさせている。韓国大使館員がぼやく「日本の過剰反応」 本来は行われるべきであるのに、そうなっていないことの筆頭は少女像の問題だろう。大使館前の少女像を移転させる問題に進展が見られない中で、釜山の日本総領事館前の公道上に新たな少女像が設置されるのを韓国政府が黙認したことは明らかに問題だ。「釜山の日本総領事館前には少女像を作らせない」と明示されているわけではないものの、明らかに「合意の精神」に反している。 同時に、合意をまとめた朴槿恵政権が世論を説得する十分な努力を行わなかったことも指摘できる。少女像の問題がこじれたのも、この点に起因するといえる。ただし、日本側は10億円拠出で義務をすべて果たしたかというと、これもあやしい。岸田氏は「日韓両政府が協力して」財団の事業を進めていくと表明したが、韓国世論の反発を受けて苦労する財団を積極的に支援したとは言えないからだ。 一方で、政府間の合意が民間の活動を縛るわけではない。民間団体が私有地に像を建てる限り、政府ができることは限られている。政府の行為にしても、何もしてはならないと合意されたのではない。むしろ、元慰安婦の名誉と尊厳の回復を図る事業は財団設立のように進めていこうというのが「合意の精神」だろう。 では、韓国大使館員がぼやく「日本の過剰反応」とは何か。 代表的なのが、韓国政府が今年9月に国立墓地内への元慰安婦の慰霊碑建立計画を発表したことへの反応だろう。日本では「慰安婦問題を蒸し返すのか」と反発する声が出て、菅官房長官も記者会見で「日韓合意の趣旨、精神に反する」と述べた。 ただ、「すべての元慰安婦の名誉と尊厳の回復、心の傷の癒やし」が合意の目的であるのだとすれば、慰霊碑の建立自体がその趣旨から外れると言えるのだろうか。碑文に事実と明らかに違う文言が刻まれるのであれば、それは問題だ。それでも「そうなるに決まっている」と決め付けるよりは、問題のある内容にならないよう働きかけることの方が生産的ではないだろうか。2017年12月、フィリピンのマニラ湾に面した遊歩道に建った慰安婦像の台座下に埋められたプレート。英語で説明書きされている 慰安婦問題は、国際社会への「宣伝」合戦になってしまっている。本来は望ましいことではないが、日本として放置しておくこともできない。アジア女性基金や日韓合意を含めた日本のこれまでの取り組みや、そもそもの慰安婦制度をめぐる事実関係について日本の立場を国際社会に説明していく必要はある。事実と違う宣伝が、あたかも事実として流布されることは望ましくないからだ。逆効果になりかねないご都合主義の情報発信 ただし、重要なのは歴史的資料を真摯に扱う姿勢だ。既に見つかっている資料であるにもかかわらず、自らに都合が悪いからと無視したり、いかにも無理な解釈を付けたり、ということをしてはならない。そんなことをすれば、第三者からの信用を失うだけである。 現代史家の秦郁彦氏が著書『慰安婦問題の決算』(PHP研究所、2016年)の「あとがき」に書いているエピソードは、そうしたことを深く考えさせる。秦氏の著書『慰安婦と戦場の性』(新潮選書、1999年)の英訳に関する話だ。「私観を避け史的経過を軸に、左右を問わず研究者、一般読者が参照しうるエンサイクロペディア(百科全書)にしたい」という狙いで執筆された同書は、専門家からも高い評価を得ている。 秦氏は「あとがき」で「国際世論の誤認、誤解を解くのに、説得工作やロビー活動は要らない」と指摘する。そして、「典拠を明示した第一次資料に依拠する実証的学術書の英訳版を1冊だけ送りだせば足りると私は判断している。事実は何よりも強いから、それに則した材料を提供すれば、対処策は英語世界の読者が決めてくれるはずだ。説得を焦るあまり押しつけがましくなるのは、むしろ逆効果を招きやすい」と説く。きわめて重要な視点だろう。 「あとがき」によると、秦氏の考えが伝わったのか、外務省の有識者会合が慰安婦問題に関する対外発信の一環として『慰安婦と戦場の性』の英訳を勧告し、2013年夏に内閣官房の事業として英訳出版されることが決まった。ところが、11月になって事業を担当する内閣広報官に突然呼び出され、英訳にあたって一部を削除したいと告げられたという。第二次大戦前後の英米独仏ソをテーマにした第五章「諸外国に見る戦場の性」について、「外国人の読者を刺激するおそれがある」という理由でまるまる削除するよう求められた。 秦氏が「他に削りたい箇所があるか」と聞くと、「上海の慰安所で検診していた麻生軍医の回想録から、日本人慰安婦に比べ朝鮮人は若く初心の者が多いと引用したくだりも落としてくれ。他にもいろいろあるが…」という答えが返ってきたそうだ。秦氏は拒絶したので、英訳の話自体がなかったことになってしまった。不当な削除要求によって、意義のあるプロジェクトがつぶされてしまったことは極めて残念である。さわだ・かつみ 毎日新聞記者、前ソウル支局長。1967年埼玉県生まれ。慶応義塾大法学部卒、91年毎日新聞入社。99~04年ソウル、05~09年ジュネーブに勤務し、11~15年ソウル支局。15年5月から論説委員。著書に『「脱日」する韓国』(06年、ユビキタスタジオ)、『韓国「反日」の真相』(15年、文春新書、アジア・太平洋賞特別賞)、訳書に『天国の国境を越える』(13年、東洋経済新報社)。礒﨑敦仁慶応義塾大准教授との共著『LIVE講義 北朝鮮入門』(10年、東洋経済新報社)を大幅に改訂した『新版 北朝鮮入門』(東洋経済新報社)を17年1月に刊行予定。

  • Thumbnail

    記事

    「慰安婦教」に群がる韓国フェミニストの理不尽なウソ

    著者 高木右昌(ゆうま) 評論家の室谷克実氏の言葉を借りれば、「慰安婦教」が韓国で猛威を振るっている。慰安婦に関する歴史的な事実関係は学術的論議の対象ではなく神聖不可侵たる信仰になった。韓国の右派の中にも、慰安婦問題は従北左派による分断政策の一環であることを見抜いている人は多い。著書『帝国の慰安婦』が名誉毀損(きそん)罪に問われた世宗大学の朴裕河(パク・ユハ)教授のような学者もいる。 しかし、真面目に史料をもって慰安婦の強制性について反論を繰り広げたり、細かい事実関係を基に捏造(ねつぞう)された部分を指摘したりしても手応えはない。現在韓国の世論を主導しているのは左派政権だからだ。その支持勢力の中でも主流と呼べる「韓国フェミニズム」の流れがその背景にある。 韓国には女性家族部という政府機関があってフェミニズムの制度的基盤となっている。その所轄に「性売買防止及び被害者支援に関する法律」というのがあるが、注目すべきは支援を受ける性売買被害者の範囲だ。 「性売買被害者」であれば、常識的には自分の意思に反して性売買を強制された人を指す。自ら進んで性を売る人を被害者とは言わない。では、現代の韓国で売春を強要された性売買被害者の基準は何か。性売買被害者支援法の支援対象を見れば明らかになる。【赤丸部分】支援対象:性売買被害者および性を売る行為をした者(韓国・女性家族部のホームページより) ということになっている。性を売ったすべての人が法律で定める性売買被害者支援を受けられるようになっているのだ。具体的にいうと、性売買被害者支援法では性売買被害者の定義を「性売買斡旋(あっせん)等の行為の処罰に関する法律」に委ねている。この法律上の性売買被害者の範囲は「偽計、威力、それに準ずる方法で性売買を強要された人」(法第2条1項4号)になっている。それが性売買被害者を支援する段階には「性を売る行為をした者」になっているのだ。 よくフェミニズム団体が主張する「自発的な売春はない」という認識がある。性を売る者すべては何らかの事情によってやむを得ず性を売っている、これは自発的ではなく強要されたのと同然なので被害者なのだという論理だ。キリスト教でいう「すべての者は罪人だ」というのと正反対の立場である。ここに、韓国で慰安婦の強制性に対する反論が支持を集めにくい背景が見えてくる。 2016年8月、「誣告(ぶこく)共和国」という表題のコラムが韓国のネットメディア、イーデイリーに載った。内容は、男性芸能人と性関係を持った女性が金目当てに性的暴行を受けたと虚偽告訴する事件が連続発生している世態を批判しているものだ。 こういった虚偽告訴事件は芸能人に限ったものではない。17年にはセクハラで女子生徒に告訴された中学教師が自殺に追い込まれた事件があった。後で無実であったことが明かされたが、教師を虚偽告訴した生徒は携帯のことで自分を叱った教師に腹がたっていたと陳述している。被害者のためなら捏造してもよい このほかにも、浮気したことが夫にバレて浮気相手の男性をいきなり強姦罪で告訴した女性や、一緒に寝た男の金を盗んだことがバレて男を強姦罪で訴えた女性、太ったといわれ腹が立ったため相手男性を虚偽告訴した女性、自分から先に殴った男に殴り返されるとセクハラで告訴した女性のケースもあった。新聞報道された事件だけを見てもコラムの表題を「誣告共和国」とつけた理由がわかる。 ここで注目すべきは世論を主導する市民団体の反応だ。韓国の女性団体は、性犯罪に対する誣告罪(虚偽告訴罪)の適用に反対している。性犯罪に虚偽告訴罪を適用すると性犯罪被害者にくつわを噛ませることになりかねない、虚偽告訴罪になるのを恐れて性犯罪の被害を隠すことになってはいけないと主張する。 だが、被害者保護のためにはささいな捏造(ねつぞう)はあってもよい。虚偽告訴された人が、人格を抹殺され職場では首になり、最悪の場合自殺に追い込まれても、だ。韓国にもこれに異議を唱える人はいる。しかし巨大フェミニズム勢力の前で壮絶な最期を迎えるだけだ。フェミニズム勢力と戦っていたある活動家は漢江(ハンガン)へ身を投げてしまった。 そんな中、ここ数年間、米サンフランシスコを含めてあちこちに慰安婦の像が設置されているが、これは偶然ではない。米国や欧州では「Me too」キャンペーンが広がっている。スウェーデンでは18年現在、明確な同意のない性関係は性的暴行と見なされ得る法案が推進されている。容疑者から相手の同意があったことを証明できない場合、強姦罪の構成要件である強制性を立証できなくても強姦罪に問われる可能性がある法案だ。明らかに立証責任の転倒であるが、性犯罪被害者保護のためには認められるということだ。2017年11月、軍慰安婦関連資料の「世界の記憶」登録を目指す団体の会議に臨む韓国の鄭鉉栢女性家族相。左は元慰安婦の李容洙さん(共同) 世界にはフェミニズムの風が吹いている。「反米」も「従北」も表に出せない韓国の左派にとって「慰安婦教」という分断政策は妙手だった。韓国では左派団体が日本にどんな非礼なことをしても宗教裁判を恐れて誰も文句がいえない。日本ではこの「憎悪の宗教」のせいで、「助けず、教えず、関わらず」の非韓三原則まで提唱されている。 これだけでも大成功だ。しかし「慰安婦教」は韓国にとどまらない。フェミニズムの風に乗って世界中に布教されるほどの勢いを見せている。

  • Thumbnail

    記事

    ベトナムの韓国大使館前に「ライダイハン母子像」建立計画

    最終的かつ不可逆的な解決」を謳った慰安婦問題の日韓合意を「国民の大多数が受け入れられない」と蒸し返す韓国の文在寅・大統領。その文氏を巨大な“ブーメラン”が襲った。 この9月12日、イギリスの市民活動家、ピーター・キャロル氏の呼びかけで、ロンドンで民間団体「ライダイハンのための正義」が設立されたのだ。ベトナム女性と子供たちのために制作された「ライダイハン像」と作者のレベッカ・ホーキンスさん=2017年9月、英ロンドン(岡部伸撮影)「ライ」はベトナム語で「混血」、「ダイハン」は「韓国」を意味する。韓国はベトナム戦争(1960~75年)当時、アメリカを支援して延べ34万人の兵士を送り込んだ。だが、彼らは現地で多くの強姦事件や民間人虐殺を繰り広げた。ライダイハンとは、韓国兵による強姦などによって生まれた子供たちのことであり、ベトナム戦争終結後、ほとんどが置き去りにされた。その数は推計で数千~3万人とも言われる。 韓国政府はこれまで、この問題に関する公式の謝罪や賠償は一切行なってこなかった。それどころか、これに触れること自体、韓国ではタブーとされてきた。それが今、支援団体の設立によって国際社会に晒されようとしているのだ。 ロンドン市内で開かれた同団体の設立イベントにはジャック・ストロー元外相も出席した。公式サイトには、設立趣旨としてこう書かれている。〈混血の子供たちはライダイハンとして知られ、今日でも日陰の生活を送っている。われわれは、このような形で食い物にされたすべてのベトナム人女性のため、ライダイハンの子供たちのため、そして、彼らが当然受けるべき存在の認知と尊重のために戦う〉 さらに、同団体のメンバーで英国人ジャーナリストのシャロン・ヘンドリー氏は、レイプ被害者やライダイハンの子供たちへの聞き取り調査を英インディペンデント紙(9月11日付)に寄稿した。そこでは韓国軍司令官の家で食事を作る手伝いをしていた10代の女性がレイプされた事例や、子供たちが学校で“犬の子”と呼ばれて差別を受けている実態をレポートしている。 ヘンドリー氏は、〈韓国政府は決して韓国兵が行なった行為を認めず、調査すらしない〉と、韓国政府の姿勢を批判している。 韓国の戦争犯罪を糾弾する市民団体が、まさかイギリスで誕生するなど、文大統領は夢にも思わなかったのではないか。韓国での報道は一切なし 韓国の国際的地位を揺るがしかねないこのニュースを、韓国メディアはどう報じたのか。新聞等の主要メディアを確認した限り、驚くことに取り扱ったメディアは1つもなかった。文大統領はじめ政府側も、一切コメントを出していない。それだけこの問題のタブー性は強いということだ。加害者の側面がバレた韓国 かつて韓国のリベラル系週刊誌「ハンギョレ21」が、ベトナム戦争でのレイプや虐殺の実態を告発するキャンペーンを行なったところ、退役軍人団体の「枯葉剤戦友会」が激怒し、2000年6月にメンバーらがソウルのハンギョレ本社を襲撃、印刷施設や自動車、パソコンを破壊するという事件が起き、韓国社会を震撼させた。 枯葉剤戦友会は、ベトナム戦争で米軍の撒いた枯葉剤の被害を受けたと称する退役軍人の組織で、全国に16支部、会員数約13万人を誇る韓国でも有数の圧力団体である。彼らにとってベトナム戦争での韓国軍はあくまで「被害を受けながら立派に戦った国家の英雄」でなければならず、蛮行の歴史などあってはならない。だからこそ、ライダイハンの問題には徹底した言論弾圧を行なう。 こうした団体が存在しているために、韓国メディアは、韓国軍によるベトナム民間人虐殺をタブーとして扱い、ほとんど報じてこなかった。しかし、今回の市民団体の設立は、その状況を変える可能性がある。韓国問題に詳しいジャーナリストの前川惠司氏はこう言う。1972年のベトナム戦争のクリスマス爆撃で撃墜された米空軍B52の残骸=ハノイ(iStock)「今まで慰安婦問題で日本を批判し続けてきたのに、実はベトナムで韓国軍は、韓国がいうところの慰安婦の強制連行に、中国がいうところの南京大虐殺を一緒にしたような残虐行為を繰り広げていたということが分かってしまった。しかも、日本の慰安婦問題には強制連行の証拠が見つからなかったのに対し、レイプ被害者と数千人から数万人のライダイハンという証拠が存在するので否定しようがなく、“いままで慰安婦で騒いでいたのは何だったのか”となりかねない。 韓国はこれまで、加害者としての側面を隠しながら被害者の側面だけを強調するという危ない橋を渡ってきたわけですが、国際社会に見つかったことによって、ついに足を踏み外しかけているという状況ではないか」 しかも韓国はこれまで、日韓の慰安婦問題を国連などに訴え、国際社会を巻き込もうとしてきた。いまも韓国政府は中国と連携して慰安婦関連の資料をユネスコ(国連教育科学文化機関)の世界遺産に登録しようと働きかけ、アメリカでも在米韓国人を通じて、各地に慰安婦像を建立している。 だが、韓国が訴えようとした国際社会は今、韓国のライダイハンに目を向け始めた。これに対処しなければ、慰安婦を国際問題化してきたこれまでの姿勢と矛盾することになる。文大統領が慰安婦問題を蒸し返したことが、自らを窮地に追い込んでいるのだ。 イギリスの市民団体では、被害女性とその子供たちをモデルにした「ライダイハン像」を制作し、在ベトナム韓国大使館前などに設置することを検討しているという。韓国政府はどう対応し、韓国メディアはどう報じるか。関連記事■ ケント氏「韓国はベトナム女性に謝罪する像を建てるべき」■ 慰安婦像撤去拒否ならハノイ韓国大使館前にライダイハン像を■ 田中みな実アナの「肘ブラ」 過激すぎNGになったカット存在■ 20歳時に4、5人の韓国兵に暴行を受けたベトナム人女性の証言■ 「慰安所で欲望ぎらつかせる韓国兵に恐怖感も」とベトナム人

  • Thumbnail

    記事

    慰安婦像撤去拒否ならハノイ韓国大使館前にライダイハン像を

    婦像は一向に撤去される様子がない。むしろ朴槿恵大統領の失職で、今後、親北の度合いを強めることが確実な韓国は、慰安婦像の増設を加速させるだろう。日本が取るべき策は何か。評論家の呉善花氏は、ベトナム戦争が材料の一つになるだろうという。* * * 反日を強める韓国では、慰安婦像が撤去されないどころか、ますます増え、今年からは徴用工像も次々に設置されていくだろう。それらに日本が対抗するうえで大切なことは、第三者に向けた情報発信を増やすことだ。慰安婦問題に限らず、冷静な判断ができる材料を世界に提供する必要がある。 その際、材料の一つとなるのがベトナム戦争だ。評論家で拓殖大教授の呉善花氏 当時、米軍支援の名目でベトナムに出兵した韓国軍は現地の民間人を虐殺した。その数は推計1万人から3万人との報告がある。また、強姦事件も多発し、韓国兵と現地女性の間で生まれた子供(ライダイハン)が多数いる。 韓国政府はいまだに韓国軍による民間人虐殺を認めていない。穏健なベトナム人は韓国軍の蛮行について、黙して語らない傾向があったが、ここに来て風向きが変わりつつある。1966年に韓国軍が南ベトナムの農村で民間人430人を虐殺した事件を扱ったドキュメンタリー『最後の子守歌』が昨年末、ベトナム国営放送の放送大賞でドキュメンタリー部門奨励賞を受賞したのはその一例だ。 他方、一部の韓国人の間で、ベトナム戦争での民間人虐殺や強姦について謝罪して現地に慰霊碑を建てる動きがあるが、これには注意が必要だ。なぜならそれは、「我々韓国はここまで真摯にベトナムに対応したのだから、日本も慰安婦問題で韓国に謝罪して慰霊碑を建てろ」などと反日の攻撃材料として利用する狙いがあると考えられるからだ。 そもそも、戦時における民間人の虐殺・強姦と、民間の施設だった慰安所の問題は本質的に異なる。日本は韓国の“肉を切らせて骨を断つ”術中に嵌らないよう警戒すべきだ。 ちなみに、ベトナム戦争では、ベトナム女性を中心とした東南アジアの女性たちが、韓国兵に性的サービスを提供する“慰安所”があったと、私はベトナム戦争に参加したことのある軍人出身から直接聞いたことがある。また、朝鮮戦争では米軍相手の韓国人慰安婦が多数存在した。「善なる被害者」であることに酔いしれる大多数の韓国人はベトナムでの蛮行をタブー視する。自分たちの汚点を棚に上げ、「悪いのは日本人だけ」という単純なストーリーに固執するのだ。 そうした物語の定着を避けるためにも、日本はベトナム戦争における真実を徹底して学術調査し、その結果を英訳して諸外国に提供する努力が求められる。 同時にベトナムで何があったかを知らない韓国人の啓蒙も必要だ。しかし前述の通り、日本人が直接的に指摘すれば、彼らは感情的に猛反発するだけだろう。 だから、この問題の当事者であるベトナム人が動くほうが望ましい。彼らがベトナム戦争における「民間人虐殺の慰霊碑」や「ライダイハン像」などをハノイにある韓国大使館前に建設したら、さすがの韓国人も無視できないはずだ。韓国人は日本以外の外国の目をとても気にするからだ。 そうした状況を促すため、場合によっては日本側がベトナム人に慰霊碑の設置を働きかけてもいいだろう。 英語での発信を中心として、今後の日本には粘り強く情報戦を戦い抜く外交が求められる。親北政権で反日を強める韓国の情緒に対抗するには、事実を積み上げた論理で世界を味方につけるしかない。●呉善花(オ・ソンファ)/1956年韓国済州島生まれ。東京外国語大学大学院修士課程修了。現在、拓殖大学国際学部教授。『「反日韓国」の苦悩』(PHP研究所刊)、『朴槿恵の真実』、『侮日論』(いずれも文春新書)など著書多数。関連記事■ 「慰安所で欲望ぎらつかせる韓国兵に恐怖感も」とベトナム人■ 20歳時に4、5人の韓国兵に暴行を受けたベトナム人女性の証言■ 渡辺謙の不倫報道 南果歩は悲観にくれ、娘・杏は冷たい視線■ フジ女子アナ採用 「役員の好みで…」と佐藤里佳部長疑義■ モデル・安部ニコル 上着を脱いで豊かな胸の膨らみをチラリ

  • Thumbnail

    記事

    慰安婦問題を解決したいなら、大阪に少女像を建立すればいい

    略的な地盤形成に努めながら、来るべき時機を待つべきである。ピンチをチャンスに変えよ 少女像となれば、韓国の二番煎じとなってしまうが、この際何でもよかろう。むろん、この像をあえて外国の総領事館の前に建てるようなことはすべきではない。また、外国の具体的な過去の問題について碑文に記述する必要もない。韓国に対抗するような意図は持たず、粛々とわが国の立場を国際社会に対して主張すればよい。 わが国と韓国の間には確かに数多くの問題があるが、たまにけんかはするにせよ、なんだかんだ「腐れ縁」の幼なじみの友人ではないか。特に大阪は歴史的に在日韓国人が多く居住し、コリアタウンもあり、在日韓国人の文化は大阪文化の一端を担っていると言っても過言ではない。そうした寛容の姿勢をアピールすれば、大阪の国際的な地位の向上にもつながるだろう。 安倍晋三内閣は、成長戦略の一環として「すべての女性が輝く社会づくり」の推進を掲げている。そこで、これをわが国そして世界中の女性のエンパワーメントを高めるための事業の一環として位置付けてはどうだろうか。ただ過去を悲観するのではなく、明るい未来のため、その決意を祝福するような意味合いを込め、未来志向の日本の意思を内外に示し、国際社会において今後わが国がリーダーシップを発揮することにもつながる。 ピンチをチャンスに変えなければならない。それには多少のリスクテイクも必要だ。いつまでも批判を恐れて避けているようでは、後手に回るだけである。もしこの「平和の少女像」を設置するならば、ふさわしい場所が大阪市内のどこかにあるかもしれない。2017年11月、米サンフランシスコ市の慰安婦像の問題について、滞在先のパリで取材に応じる大阪市の吉村洋文市長(右)と大阪府の松井一郎知事(中央) そもそもサンフランシスコ市議会の決議文には、「現在2090万人もの人身取引の被害者が世界中におり、そのうちの55%は女性と少女である。強制労働や人身取引は世界中で1500億ドルの犯罪産業となっている。サンフランシスコもこの問題から免れず、港、空港、産業の発展や移民の増加という背景のもと、人身取引の目的地と考えられている」という部分もある。国際社会とともに市自身が問題を抱えているのだということを自ら発信し、「これらの被害について学び、教えることはサンフランシスコを始め世界中の国々で起きている現代の人身取引の流行を止める」ための自身の役割であると位置付けている。 自ら進んで「身を切る」問題提起をしてこそ、説得力を勝ち取ることができ、国際社会においてまともに議論をすることができるのではないだろうか。それには相当な覚悟が求められるだろう。

  • Thumbnail

    テーマ

    迷走する文在寅

    う。「民族ファースト」を掲げて北朝鮮融和を模索したかと思えば、対日政策では強硬路線を貫く。迷走が続く韓国外交。文在寅大統領のスタンスはどこにあるのか。iRONNA韓国リポート第4弾は、文政権下で分断が進む韓国社会の今。

  • Thumbnail

    記事

    米中の「二兎」を追うなら、文在寅は日韓関係を改善するほかない

    木宮正史(東京大学大学院総合文化研究科教授) 韓国政治における「保守」派と「進歩(リベラル)」派の対立軸の1つが対北朝鮮政策をめぐるものであるのは周知の事実である。北朝鮮に対する厳格な相互主義を強調し、北朝鮮の妥協がない限り韓国の方から交渉の手を差し伸べる必要はないと考える保守派に対して、進歩派は北朝鮮に対する韓国の体制優位に基づいて、相対的に寛容な姿勢で北朝鮮を交渉の枠組みに引き込むことで、北朝鮮に対する韓国の影響力を増大させることが重要だと考える。 後者の政策が1998年から2008年までの金大中(キム・デジュン)、盧武鉉(ノ・ムヒョン)政権によって試みられたのに対して、前者の政策は2008年から2017年までの李明博(イ・ミョンバク)、朴槿恵(パク・クネ)政権によって試みられた。2000年の金大中政権と2007年の盧武鉉政権が金正日(キム・ジョンイル)国防委員長との間で2度の南北首脳会談を行ったが、北朝鮮は、韓国との関係を深めることによって自らの存在が脅かされることを恐れて、南北関係の緊密化に深入りすることはなかった。李明博、朴槿恵政権下では、それまでの政権が積み上げてきた金剛山(クムガンサン)観光、開城(ケソン)観光、開城工業団地などの成果が放棄され、その結果、北朝鮮に対する韓国の影響力はゼロに回帰した。 朴槿恵大統領の弾劾訴追と罷免を受けた2017年5月9日の大統領選挙のときは、ちょうど北朝鮮の金正恩(キム・ジョンウン)国務委員長によるミサイル発射などの軍事的挑発と、それに対する米国トランプ大統領の強硬発言の応酬によって軍事的緊張が高まっていた。そうした状況の中で北朝鮮に融和的な政権が登場してもよいのか、という危惧が国内外から提起されたのは事実である。 しかし、国政の混乱状況をもたらした朴槿恵政権、保守派に対する政治的審判を下すという選挙であったため、予想通り文在寅(ムン・ジェイン)大統領が誕生した。準備期間が全くなかったために、外交安保チームの編成など人事に関する混乱もあったが、外交安保政策をはじめとした文在寅政権の評価は依然8割を超える高い支持率を維持している、というのが現状である。大統領府に向かう車から、沿道の市民らに手を振る韓国の文在寅大統領=2017年5月10日、ソウル(聯合=共同) その理由として、文在寅政権の外交安保政策におけるリアリズムを指摘することができる。進歩派は当初、李明博、朴槿恵という保守政権9年でゼロに戻ってしまった南北関係を改善するとともに、核ミサイル開発を続ける金正恩政権に対してあくまで平和的な手段で抑制することを求めるための外交を文在寅政権に期待した。それに対して保守派は、文在寅政権が北朝鮮に融和的な姿勢を示す余り、対北朝鮮強硬策を志向する米国トランプ政権との乖離(かいり)が顕著になり、韓国の安全保障を危うくすることになると憂慮した。結果としてみると、そのどちらも裏切られる格好となった。米国にも中国にも「いい顔」せざるを得ない 文在寅政権は、北朝鮮との関係を強化することによって韓国の優位を生かすという進歩派の対北朝鮮外交を封印し、とりあえず北朝鮮を核放棄に追い込むために米国をはじめとした国際協調が重要であるという立場を維持した。11月1日の文在寅大統領の国会演説では、平和的な問題解決の必要性、問題解決に関する韓国の主導権の確保などを言及したが、基本的には北朝鮮核ミサイル危機に対する米韓協力の必要性が強調された。 また、11月7~8日のトランプ大統領訪韓に関しても、9月に文在寅政権が日米との事前協議もなく国連機関を通した人道的支援のために800万ドル相当を拠出することを表明したことなどに起因して、対北朝鮮政策をめぐる米韓の乖離が露呈するのではないかと当初は危惧されたが、そうした乖離は表面化することはなく、無難に終わった。 韓国国内では、文在寅大統領がトランプ大統領に在韓米軍基地を案内したり、中止されたが非武装地帯を一緒に見学しようと試みたことなどで、トランプ大統領に米韓関係の重要性を再認識させることができたという点では、米韓首脳会談は成功であったという見方が支配的である。ただ、単独の首脳会談は20分余りしか行われなかっただけに、果たしてどの程度中身の濃い議論が行われたのか疑問も残る。 さらに、文在寅政権にとってもう1つ重要な課題は、朴槿恵政権による高高度防衛ミサイル(THAAD)配備決定に起因した中国の実質的な対韓経済制裁によって一挙に冷え込んだ中韓関係を立て直すことであった。韓国では、安全保障では米韓同盟を基軸とするが、経済では貿易全体の約4分の1を対中貿易が占めるとともに、北朝鮮に対して圧力を行使してもらうためには対中関係も対米関係に劣らず重要であるという認識が支配的である。 ところが、2016年1月の北朝鮮の第4次核実験に直面して、それまで米国の要請にもかかわらず慎重な姿勢に終始していたTHAAD配備を進めることを朴槿恵前大統領は決断した。2015年9月の抗日戦勝記念70周年の軍事パレードにまで参列した朴槿恵大統領が急に心変わりをしたと中国は受け取り、在中韓国企業に対する実質的な制裁を科したり、韓国向け団体観光を中止したりするなど、韓国経済に打撃を与えることでTHAAD配備への報復を行った。歓迎式典に臨む韓国の文在寅大統領(右)と中国の習近平国家主席=2017年12月14日、北京の人民大会堂(共同) しかし、中韓関係が悪化したままであることは、中国にとっては対米対日外交における不利な要因になりかねず、韓国の一定の妥協を引き出せれば緊張を収束したいと考えていた。韓国にとっても、経済的な打撃のみならず対北朝鮮圧力行使への働きかけが不利になるので、対中関係の改善はぜひとも達成したいものであった。 このように、相互に関係改善への思惑が一致した結果、10月31日に「韓中関係改善関連両国間協議結果」が発表され、THAAD配備に起因した中韓の緊張はいったん収束されたように見える。そして、12月13日から16日まで文在寅大統領は中国に公式訪問するに至った。韓国の本当の狙い その代わり、韓国は「THAAD追加配備」「ミサイル防衛網の構築」「日米韓軍事協力の深化」などをしないという「三不政策」を中国に約束させられたのではないかとみられる。これについては、同盟国米国はもちろん、国内でも、中国に譲歩し過ぎて韓国の安保外交政策の選択の幅を制約し過ぎたと批判された。 さらに、文在寅大統領自身、11月3日のシンガポールのテレビ局とのインタビューで、米中間での「均衡外交」に言及したと批判的に伝えられ、米韓首脳会談後の記者会見ではあくまで米韓同盟が基軸であると言明し、対米関係と対中関係を両天秤にかけて均衡を保つという見方を打ち消すのに躍起になった。共同記者会見するトランプ米大統領(左)と韓国の文在寅大統領=2017年11月7日、ソウル(共同) 以上、就任後ほぼ6カ月を迎えた文在寅政権の外交を見ると、ともかく米中関係にどのように対応するのかということで手一杯だったのではなかったかと思われる。韓国なりに、北朝鮮の核ミサイル開発に対米同盟関係を堅固にして対北朝鮮圧力強化で対応するとともに、経済や対北朝鮮関係で重要な対中関係を修復したという成果を収めた。その代わり、韓国の「進歩」政権が本来指向すべき独自の対北朝鮮政策は依然、封印された格好である。 しかし、それは現状ではある程度やむを得ないのではないだろうか。現時点で、韓国独自の対北朝鮮政策を展開することは、ちょうど2007年11月に行われた盧武鉉大統領の北朝鮮訪問時のように、米国の支持もない孤立外交であるとみられ、肝心の北朝鮮からもまともに相手にされずに、その後につながるような可視的な成果もなく終わってしまったのと同じようになる可能性が高いからである。政権を支えた文在寅大統領としても、そのことは十二分に理解しているはずである。 文在寅政権の狙いは、まずは国家安保の基軸である米韓同盟の堅固化に努め、それによって北朝鮮に対する圧力を強めることで北朝鮮の軍事挑発を抑えるとともに、北朝鮮が交渉に出てくるのを「待つ」ということであろう。確実な保証はないが、こうした対北朝鮮圧力行使が功を奏して北朝鮮が対米交渉に出てくるときに、韓国としては、それに便乗するように南北関係の改善に取り組むことを狙っているのではないか。 本来であれば、韓国が米国を動かし、そうした方向に持っていくのが最善ではあるが、残念ながら韓国外交にはそうした力がない。つまり「待ちの姿勢」で臨むのがリアリズムということになる。日本ではとかく文在寅政権の外交に対して批判的、もしくは警戒的な見方が支配的である。しかし、その他の政党の候補が大統領になっていたとしても、外交安保政策に限っては、同様な政策を選択していたであろう。それだけ、韓国外交が採りうる選択の幅は狭いと言わざるを得ない。韓国は日本と協力するほかない ただし、1つ気になるのは、そうした対米、対中外交のはざまで、対日外交に関してほとんど本格的な成果もしくは取り組みがみられないということである。一方では、トランプ・安倍の日米関係が非常に緊密に展開されていることもあり、米国からは日米韓の連携強化を強く要請されている。韓国としても、米韓同盟を堅固にするためにも、ある程度は応えなければならない。 しかし、韓国にとって「日米韓」という枠組みは、韓国がその中で最も周辺的な存在として埋没しかねないという危惧を持つ。他方で、中国からは、韓国が日米韓の連携強化に前のめりにならないようにすることが中韓関係改善の条件であると、日韓関係に関するブレーキをかけるように要求されている。韓国としても中韓関係を良好なものに保つためにも、米韓同盟はともかく、日韓関係の軍事的側面を希釈化しておきたいと考える傾向にある。そうしたはざまで対日外交の可能性を実質的に「封印」してしまった感がある。 韓国には、19世紀末から20世紀初頭にかけて、大国間国際政治に翻弄された結果、日本によって植民地化されたという「苦い歴史的経験」がある。したがって日韓の安保軍事面での連携強化には強い拒否反応があることもよく理解できる。 しかし、北朝鮮の核ミサイル開発に起因して緊張が高まり、場合によっては韓国の生存自体が脅かされる状況の中、北朝鮮の核の脅威を共有し、しかも戦争ではなく平和的に問題解決を志向しなければならないという使命も共有する日本との間で、この問題に関する協力の可能性を自ら閉ざしてしまうのは妥当なのか、再考する必要があるのではないか。もちろん、それに対応する日本の対韓外交にも同様なことが言える。会談に臨む文在寅韓国大統領(左)と安倍首相=2017年9月21日、ニューヨーク(共同) 北朝鮮の核ミサイル危機には何よりも米中の協力が必要であることは言うまでもない。しかし、それに劣らず、そうした米中協力を支える日韓協力が何よりも必要とされているのではないか。北朝鮮の核ミサイル開発を抑制するための米中協力が、米中関係から必然的に帰結されることはないからだ。その軍事的脅威に最も直接的にさらされ、その解決のための軍事的オプションの行使には何よりも慎重にならなければならない日韓の意向が十分に反映されるべきである。 そして、そのためには日韓が協力するほかはないのである。その意味で、文在寅政権には、対米外交、対中外交の次に、対日外交を打開して、短期的には北朝鮮の核ミサイル危機の克服、中長期的には韓国主導の朝鮮半島統一に関して日本の協力をいかに獲得するのか、そうした外交が必要とされているのではないか。

  • Thumbnail

    記事

    「北朝鮮にしか関心がない」文在寅は不本意な圧力強化を貫けるか

    武藤正敏(元駐韓大使) 韓国の文在寅(ムン・ジェイン)大統領は、9月3日の北朝鮮による水爆実験以降、北朝鮮に対する政策を明らかに変更した。文氏は8月17日、就任100日を迎えた日の記者会見で、「大陸間弾道ミサイル(ICBM)を完成させ、これに核弾頭を搭載して兵器とすること」がレッドライン(越えてはならない一線)であると述べていたが、ICBMをはじめとする一連のミサイル発射に加え、水爆実験の成功によってレッドラインを越えたと判断したのであろう。 文大統領は安倍晋三総理との電話会談で、「国際社会と連携して強力な報復措置を講じる考えであり、北朝鮮自らが対話のテーブルに出てくるまで、さらに強化していかなければならない」として圧力を軸に方向転換する考えを示した。 こうした方針は韓国の軍事訓練や国防力強化方針に反映されている。 韓国軍は9月4日、豊渓里(プンゲリ)核実験施設への攻撃を想定して陸軍の弾道ミサイル「玄武2A」(射程300キロ)と空軍の空対地ミサイルによる射撃訓練が行われた。また、15日のミサイル発射の際には地対地弾道ミサイルの訓練を行っている。2017年4月、米韓両軍の統合火力訓練を見学する大統領候補時代の文在寅氏(右)=韓国北部の京畿道抱川(聯合=共同) 9月4日、韓国政府は、在韓米軍の地上配備型ミサイル迎撃システム(THAAD)について追加配備を認めると決定し、7日、韓国軍の基地に発射台4基が搬入された。さらに国防相は国会において、12月1日に金正恩暗殺を担う斬首部隊の創設を表明し、予定通り発足した。 これまで韓国の融和策が、北朝鮮に対する国際社会の圧力強化を損ない、特に中露を国際社会の連携に引き入れるのに障害とならないか懸念する向きもあった。文大統領の期待とは裏腹に北朝鮮が常に韓国の呼びかけを無視し、挑発行動を繰り返すことで、従来の融和策を見直さざるを得なくなったということであり、日米韓の連携は取りあえず強化されたといえよう。 しかし、北朝鮮の核問題の出口は見当たらないのが現実である。そうした中、文氏は北朝鮮との対話の糸口も探っているかもしれない。何せ、文政権の中枢にいる人物は盧武鉉(ノ・ムヒョン)政権で北朝鮮との交渉を担ってきた人々である。また、9月14日、統一部は北朝鮮の核実験後も国連児童基金(ユニセフ)や国連世界食糧計画(WFP)を通じ800万ドルの人道支援を検討していることを明らかにし、実施が決定された。菅義偉(よしひで)官房長官もこうした動きには懸念を示した。 今後は文在寅政権の本質を理解しながら、対話を強化することで、韓国の単独行動を抑制し、日米韓の連携を強めていくことが肝要である。北朝鮮にしか関心がない文氏 文氏は故盧武鉉大統領の首席秘書官を務めた側近であり、同じ弁護士事務所のパートナーである。盧元大統領の非業の死を受け、その意思を実現すべく大統領に立候補した人物である。通常、首席秘書官は個々の外交安保問題に深く関わらないが、盧元大統領の南北首脳会談を主導したのは文氏であった。私は大使時代、朴槿恵(パク・クネ)前大統領と争っていた文氏に1度だけ面談したことがあった。その時、私からは日韓関係の重要性、協力のメリットを力説したが、文氏は関心を示さず、日本は南北朝鮮の統一を支持するのか、日本の北朝鮮政策はどうなのか、という点だけを質問してきた。文氏は北朝鮮にしか関心がないのだと感じたものである。2017年11月、ソウルで開かれたトランプ米大統領訪韓に反対する集会(共同) こうした文氏の考えは選挙運動中の発言によく表れている。文氏は「米国よりも北朝鮮に先に行く」と述べた。さらに、「北朝鮮が核を凍結すれば、米韓合同演習を縮小できる」「朝鮮半島の軍事行動は断じて韓国の同意なしになされてはならない」と主張した。 ただ、文氏は現実主義者でもあると聞く。当選後はさすが軌道修正した。「安全保障上の危機を早期に解決するために、まず6月にワシントンに行き、米韓首脳会談を行う。北京、東京を訪れる用意がある。条件が整えば平壌にも行く」運びとなった。 文氏の北朝鮮に対する一貫した思いは、「制裁の目標は北朝鮮を交渉のテーブルに引き出すもの」ということである。北朝鮮の一連の挑発行動を受け、今は「制裁と圧力を強めるときだ」として日米などと協力する姿勢を示す一方で、「根本的な解決法を模索することが重要」であり、たとえ制裁しても「対話のメッセージを継続して伝えなければならない」というのが基本姿勢である。 文氏は6月15日、訪米に先立って、北朝鮮が「核・ミサイルの追加挑発を中断するならば対話に向かう」と述べた。米国は北朝鮮との対話の前提として北朝鮮の非核化を求めており、あえて米国との事前相談もなく、こうした発言を行ったのは、韓米首脳会談を前に韓国の主導で北核関連の突破口を開こうとの意思表示ともとれる。北朝鮮を交渉に引き出すためには、譲歩もするとの姿勢を示した。 しかし、実際の首脳会談では、米韓の対立は表に出さず、協調姿勢に終始した。そして、首脳会談後の共同声明では、米韓同盟を強化し、核・ミサイル開発を進める北朝鮮に最大限の圧力をかけて、朝鮮半島の非核化を目指す方針を確認する一方、両首脳は「『適切な環境』の下での北朝鮮との対話であれば受け入れる」、米国は「南北対話についても、人道問題など特定の分野であれば支持する」との言質を得、「当事者である韓国の主導的役割が認められた」として意気軒高であった。融和策の継続は困難 次いで20カ国・地域(G20)首脳会合出席のためにベルリンを訪問した。ベルリンでは朝鮮半島問題に関する演説を行った。そこで提示したのが、南北首脳会談から、米韓首脳会談、米朝首脳会談、南北プラス主要関係国との首脳会談を通じて核ミサイル問題の解決である。そして、関係国首脳と一連の会談を行った。しかし、文氏は帰国後、閣議において「朝鮮半島の問題を韓国に解決する力はない」と述べ、その力の限界を悟った。要するに各国とも自国の国益に従い行動しており、日米対中韓の溝を埋めて韓国が主導していくことが難しいとの思いを抱いたのであろう。2017年9月、会談に臨む(左から)トランプ米大統領、文在寅韓国大統領、安倍首相=ニューヨーク(共同) しかし、どの会談においても北朝鮮との対話の方針を強調し、それについて一定の理解が得られたとして、帰国後軍事当局者会談と赤十字会談を提唱した。文氏は北朝鮮のことは自分が一番よく理解しているとの思いであろう。ところが北朝鮮にとってみれば、盧武鉉政権で交渉したときと異なり、現在は核・ミサイル開発が完成に近づいている。これが完成すれば米国ともより有利な条件で交渉できる。まして今、韓国と交渉するメリットなど感じるはずはない。案の定、北朝鮮から拒否されてしまった。 こうした中で、北朝鮮は7月4日と28日にICBMをロフテッド軌道で打ち上げ、8月29日と9月15日には中距離弾道ミサイルを発射して日本の上空を通過、グアムをいつでも包囲射撃できる能力を見せつけている。さらに9月3日には水爆実験を行い、事前に核弾頭を公開している。 もはや、文大統領としてもこれまでの北朝鮮融和策を継続することは困難であろう。北朝鮮に対し、国連安保理の制裁が強化され、外交関係の見直しや、経済関係の縮小に向かう国が増えている。こうした国際社会の圧力の強化を当事国である韓国が軽視することはできない。国際社会は、国内でも融和策を続ける文政権を避けて通る「コリアパッシング」ではないかとの野党の批判が高まっている。そしてこれまで高止まりしていた支持率も下がり始めた。 北朝鮮の挑発行動は今後ともエスカレートしていくことが予想され、軍事的な緊張が高まっていくであろう。日本人がソウルに行くと韓国の人々に緊張感がないのに驚く。韓国の人々は、北朝鮮について自分たちを攻撃しては来ないであろう、そう信じたいとの思いがある。米軍主導により、軍事的緊張が高まってきたときには、韓国国民は再び対話による解決を強く求めるようになるかもしれない。その時、文政権が圧力重視を貫けるかどうか。文政権の政策は世論迎合的であり、北朝鮮に対する圧力重視も本意ではないであろう。 今後、北朝鮮の核問題を解決していくためには、中国、ロシアをいかに同調させるかが重要である。その時、韓国が対話重視に傾けば、足を引っ張りかねない。日米韓の連携を維持し韓国と協力していくことがますます重要になってこよう。

  • Thumbnail

    記事

    日本は「独島エビ」で鯛を釣れ、文在寅が食いつく「竹島のエサ」

    下條正男(拓殖大国際学部教授) 韓国の文在寅大統領は、訪韓したトランプ大統領の晩餐会で独島エビを供し、元慰安婦の李容洙(イ・ヨンス)氏を招いて、日本側の顰蹙(ひんしゅく)を買った。菅義偉官房長官が「外国が他国の要人をどう接遇するかについてコメントは控えるが、どうかとは思う」と不快感を示すと、外務大臣の河野太郎氏も、「北朝鮮危機の中、特に日米韓の連携が大事な時期に極めて遺憾だ」と発言したからだ。 これに対し、韓国外交部の林聖男第一次官は、「このようなメニューが話題になることは誰も予想していなかった」と釈明したが、日本側の反発は心外だったようである。この日韓の齟齬(そご)は、今日の日韓関係を象徴している。 韓国は歴史的に「東方禮義の邦」を自負してきたが、日韓の係争の地である竹島近くで獲れたエビを晩餐会の料理に出し、前政権との間で「最終的かつ不可逆的解決」を確認した慰安婦問題を蒸し返したのは、日本に対しては傍若無人の振る舞いも許されると錯覚しているからである。 今回の所作も、前政権を倒した際の民衆の民意におもねたのだろうが、それは慰安婦問題や竹島問題の歴史的事実についての理解が足りないからである。 慰安婦問題は、当初、日本軍を相手にしていたのは自尊心が許さないからだ。何とか無理やり売春をさせられたことにし、そのためには日本政府の関与があったことにしてほしい、ということから始まった。 それが「河野談話」を経て、戦前の酌婦は慰安婦から性奴隷になってしまった。慰安婦を日本の軍国主義による被害者とし、国際社会に吹聴したのは、文在寅大統領の盟友であった盧武鉉大統領である。バスに乗せられた慰安婦問題の少女像の手に触れる朴元淳ソウル市長=ソウル(同市提供・共同) 竹島問題もこれと似た状況にある。韓国の外交部によると、独島は「歴史的にも国際法上も、地理的にも韓国の固有領土」だそうだが、その歴史認識に基づいて日本に強く「謝罪」を求めたのは盧武鉉大統領である。 11月12日付の「朝鮮日報」(電子版)のコラム記事では、「日本は韓国はいつまで謝罪しなければならないのか」というが、彼らの心の中には『謝罪』などない」。(中略)「日本は韓国をそのような相手だとは思っていない。これが韓日関係の本質だ」と報じた。この現状認識は盧武鉉大統領と同じである。 だが今日、「謝罪」をしなければならない立場にあるのは韓国側である。韓国が不法占拠をしている竹島は、歴史的に韓国領であった事実がないからだ。それを韓国側では1954年以来、不法占拠を続け、日本側がその竹島の領有権を主張すると、過去を「反省」していないと反発してきたのである。これが事実に近い「日韓関係の本質」である。 それも韓国政府が竹島を侵奪したのは、「サンフランシスコ講和条約」の発効で敗戦国日本が国際社会に復帰する3カ月前の1952年1月18日。日本が最も弱体していた時を狙って、略取したのである。日本は独島エビで鯛を釣れ その後、日本政府は1954年9月、竹島を占拠した韓国政府に対して、国際司法裁判所への付託を提案するが、韓国側では竹島を「日本の朝鮮半島侵略の最初の犠牲物」として一蹴した。戦後の朝鮮半島と日本との関係は、竹島を略取した韓国側が歴史認識を外交カードとしたことで、歪んでしまったのである。 その竹島問題が再燃するのは、1994年に国連海洋法条約が発効し、新たに日韓の漁業協定を結ぶことになったからである。韓国の金泳三大統領は、1996年2月、竹島に接岸施設を建設して、竹島の不法占拠を正当化しようとしたのである。この金泳三大統領は、「歴史の立て直し」と称して、日本の統治時代に建てられた朝鮮総督府の建物を解体した人物で、歴史問題に関しては「日本をしつけし直す」と発言している。 この蛮勇は2012年8月、竹島に上陸した李明博大統領にも受け継がれた。竹島問題となると、つい強気になるのだろう。 これは盧武鉉大統領も例外ではなかった。2005年3月16日、島根県議会が「竹島の日」条例を制定することになると、その9日前に「歴史・独島問題を長期的総合的体系的に取り扱う専担機関の設置」を指示し、3月22日には「北東アジアの平和と繁栄のため、『バランサー』の役割を果たしていく」と宣言した。 以後、「バランサー役」を任ずる韓国が、国際社会を舞台に侮日戦略を展開すると、中国はそれに便乗して尖閣問題を浮上させ、ロシアは北方領土問題を第二次世界大戦の結果として、領土問題と一線を画した。 2006年4月25日、盧武鉉大統領は、竹島問題と関連した特別談話で、「韓国に対する特別な待遇を要求するのではなく、国際社会の普遍的な価値と基準に合う行動を要求するのです。歴史の真実と人類社会の良心の前に率直で謙虚になることを望むのです」と日本に注文をつけた。 その後、国策研究機関の「東北アジア歴史財団」を発足させ、国際社会を舞台に、慰安婦問題や日本海呼称問題、歴史認識問題などで日本批判を行なわせたのである。文在寅大統領は、その盧武鉉大統領の秘書室長を務めた人物である。 その文在寅大統領が、トランプ大統領歓迎の晩餐会で、独島エビと元慰安婦を政治的に利用したとしても不思議はない。トランプ米大統領(左)との会談を終え、記者会見する韓国の文在寅大統領=2017年11月、ソウル(共同) だが、歴代の韓国大統領が理解する竹島の歴史は、韓国側の歴史認識によるもので、歴史の事実とは無縁である。それは島根県竹島問題研究会の竹島研究で、実証済みである。 今、文在寅大統領がすべきことは、歴代大統領が歪めた日韓関係の修復である。そのためには竹島を速やかに返還して、過去の清算をすることである。 日本政府は、独島エビと李容洙氏の招待に異議を唱えたが、すべきことは他にあったはずである。韓国側が独島エビを出すなら、日本はそのエビで鯛を釣ればよいのである。 盧武鉉大統領が「竹島の日」条例に食いついたように、日本側が多少の工夫をすれば、文在寅大統領もエサに飛びついてくる。それは「竹島の日」条例以後、「日韓の間に領土問題は存在しない」としていた韓国政府の動きが、証明している。

  • Thumbnail

    記事

    「文在寅は嘘つきだ」山本みずきが見た韓国リベラルのメンタリティー

    山本みずき 今年の8月15日、私は韓国に滞在していた。日本でこの日は終戦の日だが、韓国では大日本帝国からの独立を祝う「光復節」という祝日である。日本と韓国では、歴史的に「8月15日」の持つ意味合いが大きく異なる。 2011年に、ソウルの日本大使館前に慰安婦像が設置されて日韓の歴史認識問題が改めて浮き彫りになり、今年になってからはそれに輪をかけるようにソウル市内に徴用工像が設置された。日本の報道を見ている限りでは、韓国のナショナリズムは年々高まりを見せており、これが光復節ともなれば、街は反日ムードで盛り上がり、韓国国旗を掲げたデモ隊がソウル市内を行進しているはずだ。そんなイメージだけが勝手に膨らんでゆく。韓国人はこの日をどのように過ごすのだろうか。疑問を胸に抱きながら、恐る恐るソウルの中心街へと繰り出した。 確かに市内はデモで盛り上がっていた。だが、少し様子がおかしい。ソウル市庁舎前の広場には200以上の団体が集い、雨が降り注ぐ中、群衆は雨合羽に身を包み、プラカードを掲げて何かを訴えていた。「No war, No THAAD」。意外なことにデモの目的は、反日運動ではなく、反政府運動だったのである。高高度防衛ミサイル(THAAD)配備に反対し、デモ行進する人たち=2017年7月、ソウル 彼らは文在寅大統領に向けて、米韓合同軍事演習の中止を訴え、北朝鮮との緊張状態をいたずらに悪化させないよう、米軍の高高度防衛ミサイル(THAAD)配備の即時撤回を激しい怒号とともに要求していたのである。 デモの参加者に聞くと「大統領は嘘つきだ」と感情的に現政権への失望を語った。それもそのはず、彼らは皆、もともと進歩派である文在寅の支持者だったのである。デモ参加者は、自らの期待とは異なる政策を断行する文在寅政権に対して、デモを通じて激しい批判をぶつけていたのである。 韓国には、大まかに「保守派」と「進歩派」という2つの政治的潮流が存在する。ほかの民主主義諸国と比べても、この両者の亀裂は深く、対立は構造的であって、まるで二つの異なる民族がいがみ合う構図とも似ている。 対外政策について目を向ければ、保守派は北朝鮮の脅威に対して、米韓同盟を中心とする軍事的圧力に基づいた抑止力の強化を志向するが、進歩派は北朝鮮との民族的紐帯を重視して、融和的な対話路線を唱える。文在寅政権は、後者の進歩派を支持基盤としており、政権発足時は急進左派系の学生運動経験者が要職に就く様子も注目された。文在寅政権に不満を募らせる韓国 選挙活動中には朴槿恵前政権時に決定していたTHAAD導入に反対する姿勢を見せていたが、いざ政権の座に就くと、一転してTHAADの導入・配備を短期間のうちに実現した。進歩派であるはずの文在寅は、なぜ保守派が推進したTHAADの導入と配備を覆すことなく、その路線を継承したのか。 私はこのような疑問を抱えて、韓国を代表する国際政治の専門家の意見を聞くことにした。その際に、保守派と進歩派双方の主張に耳を傾け、その主張の対立する部分と重なる部分について、より深く知りたいと考えた。彼らはこの問題をどのように見ているのか、私なりに意見をぶつけてみた。 保守派であり、李明博政権や朴槿恵政権の対日政策に大きな影響力を及ぼし、また韓国を代表する日本専門家である世宗研究所所長、陳昌洙(チン・チャンス)氏によれば、当初は進歩派の文在寅政権が北朝鮮や中国に接近することを懸念していたという。だが、文在寅が大統領として現実の国際情勢に向き合ったことで、それまで唱えていた理念を軌道修正して現実的な手法を取るようになったと指摘した。 かつて、歴史家のE・H・カーは著書『危機の二十年』の中で、「左派の政党ないし政治家は政権を獲って現実とかかわるようになると『空論家的』ユートピアニズムを放棄して右派へと転じていく傾向がある」と喝破した。カーの議論をなぞるかのように、文在寅政権はまさに北朝鮮の脅威という現実に接したことで、それまでの安全保障政策を一部転換させたのだと言えよう。カーは続けて「しかも左派はしばしば左派のラベルをつけたままにしており、そのため政治用語の混乱に拍車をかけている」と述べている。 文在寅は大統領就任後、演説を通して左派的な発言を繰り返しており、国民から見れば進歩派の大統領なのであろう。それだけに、文在寅の支持基盤であり、彼と政治的理念を共有しているはずの進歩派の国民にとっては、矛盾を孕(はら)んだ文在寅政権への怒りが満ちていたに違いない。演説する文在寅大統領 あのソウルの暑い夏から、4カ月。その間に韓国外交はさらなる混迷を見た。文在寅は、核実験を強行して事態をエスカレートさせた北朝鮮に対して、約9億円の人道支援を決定した。国内の支持者を無視して現実の国際政治にだけ対処すれば、政権そのものの存立が危ういことは明白である。言うなれば、北朝鮮支援は文在寅の政治理念の実践であり、国民への配慮でもあったのだろう。 しかし、その結果、圧力強化で一致していた日米韓の足並みは乱れ、三首脳会談において蚊帳の外に置かれた文在寅は、まるで「現実政治(レアルポリティーク)」を逸脱したことへの代償を払わされているかのようであった。日米両国から孤立する韓国 次に私は、ソウル市内の西側に位置して、ソウル国立大学や高麗大学と並んで韓国の大学の頂点に位置する延世大学に向かった。進歩派を代表する国際政治学者であり、選挙活動中から文在寅の外交ブレーンとして政権を支えてきた金基正(キム・ギジョン)延世大学教授の話を聞くためだ。 金教授は、韓国人のメンタリティーには(保守派寄りの)「国家中心的な見方」と(進歩派寄りの)「民族中心的な見方」との二つが並存すると指摘した。国家中心的な見方に立てば、挑発的な態度を取り続ける北朝鮮は敵国であり、国家の存立をかけて対峙しなければならない存在だ。 一方で、民族中心的な見方に立てば、同胞からなる北朝鮮と対峙姿勢をとることは受け入れ難く、むしろ融和的な姿勢で接する必要がある。進歩派の文在寅政権の支持者たちの多くは、後者の「民族中心的な見方」をしている。つまり、同じ民族の北朝鮮に対しては、軍事的な威嚇ではなく、むしろ経済支援や人道的援助を行うべきだと考えているのだろう。 「国家中心的な見方」をすることは、端的に言えばリアリズムを選択することである。ただ、進歩派の政権にとっては、そのようなリアリズムを選択することは容易ではない。現在も北朝鮮に親族や友人のいる進歩派の人々にとって、北朝鮮を敵視することは道徳的に憚(はばか)られる。それゆえ、文在寅政権に人道支援や対話政策を期待しているのだ。 そして、米国や日本とともに推進する北朝鮮への圧力外交や、THAAD導入をはじめとする防衛力の強化はかえって南北の緊張を煽り、戦争を誘発するものに映るだろう。はたして、進歩派の政権がリアリズムの息吹を取り入れて、日本やアメリカと完全に共同歩調を取れるときは来るのだろうか。それとも、「民族中心的な見方」の磁力は強く、日米両国からますます離れていくことになるのだろうか。トランプ米大統領(左)との会談を終え、記者会見する韓国の文在寅大統領=2017年11月、ソウル(共同) 韓国人にとっても8月15日は特別な日である。祖国が南北に分断されている現状や、それを是とする米国や日本との軍事協力、そしてそれに甘んじている文在寅政権に対して声を上げなければならないーあえて光復節に合わせて実施された反政府デモには、そのようなメッセージが込められていたのかもしれない。韓国社会を分断する亀裂はあまりに深い。政権交代が起こるたびに、現実主義と理想主義の往来が繰り返されるこの国はどこへ向かうのか。一端を垣間見た一人として今後も注視したい。

  • Thumbnail

    記事

    韓国はなぜ、北朝鮮問題で米国の足ばかり引っ張るのか

    酬となり、危機は最高潮に達す。しかし中国の制裁も強まったこともあって、北朝鮮はひとまず鳴りを潜めた。韓国の蠢動 あらためてミサイルを発射したのは、2ヵ月半経った11月29日未明である。ミサイルは技術を格段に向上させたものだった。物資の窮乏という苦境に遭いながらも、北朝鮮の強硬な姿勢は変わっていない。 危機は深刻化の一途である。そうしたなか、北朝鮮と米国・そして中国の姿勢は、およそはっきりして見えやすい。いずれも日本人に納得できるわけではないものの、それぞれの立場で、ひとまず一貫しているからである。 むしろ見えづらいのは、韓国である。韓国はアメリカの同盟国であり、米韓同盟の一翼を担っている。在韓米軍と韓国軍は協力して北朝鮮に対抗してきた。今後もそうするだろう。その意味では、アメリカとの安保条約を有する日本と立場はかわらない。しかし現実は、どうだろうか。 米韓合同軍事演習のおよそ一週間前、8月15日に文在寅韓国大統領は、「朝鮮半島での軍事活動は大韓民国だけが決めることができる」と表明した。これは米軍単独の行動、とりわけ北朝鮮に対する単独攻撃はさせない、という意味であって、事実上アメリカの動きを制約することにつながる。(iStock) 9月14日、文大統領はCNNとのインタビューで、「戦術核兵器再配備に賛成しない」と述べた。核実験を強行した北朝鮮に対する国連安保理の制裁決議から、まもなくのことである。 在韓米軍は1991年12月の南北非核化共同宣言で、戦術核を撤収していた。北朝鮮の核の脅威に対抗すべく、その「再配備」を求める声が国内、とりわけ野党からあがっており、それを抑えるのが、文大統領のねらいである。しかしこれも、アメリカの軍事活動を制約する側面を有することはまちがいない。 さらに韓国は、9月19日のトランプ大統領の国連演説に強く反撥した北朝鮮に対し、その二日後の21日、9億円にのぼる人道支援を正式に表明した。同日、文大統領はあわせて自らわざわざ、北朝鮮に平昌冬季五輪の参加を呼びかけている。こうした言動には、日米両政府もさすがにいい顔をしなかったと伝えられた。 以上の事例だけでも、いかに韓国の動き方が怪しいかがわかる。日米の側につくのか離れるのか、迷走しているかに見えるし、もっと下世話な言い方をすれば、同盟国のアメリカの足を引っ張る挙動ばかりであった。 然り。謎は韓国にこそある。日米がこのような国と提携していけるのか、日米韓の連携など幻想ではないのか。そうも思えてくる。南北分断の歴史的意味 歴史からみると、そもそも韓国という国家の存在が、通例ではない。中国・大陸の勢力と隣接しない朝鮮半島の政権が存在するのは、実に史上、三国時代以来の事態である。とくに19世紀以降、近代になってからは初、ほとんど実験的な事態といってよい。 しかもそれは、すでに還暦を過ごした。近現代史において最長であって、あるいは最も安定した体制だといえなくもない。 その安定はもちろん、対峙する南北の政権、およびそれぞれを支持する大陸側と海洋側の勢力均衡によってきた。逆にいえば、最近の危機は、その均衡が揺らいだところに醸成されている。中国の大国化、換言すればアメリカの相対的な弱体化、およびそれに呼応するかのような北朝鮮の核・ミサイル開発が、その主因にほかならない。 こうした半島政権と大陸・海洋との関係を、あらためて歴史からみなおしてみよう。朝鮮王朝時代には、大陸側には「事大」、海洋側とは「交隣」という関係をとりむすんでいた。事大とは「大国に事(つか)える」こと、陸続きの中国への朝貢関係をいい、交隣は「隣国と交わる」こと、海を隔てた日本との交際をいう。 こう並べると、まったく別個の応対だったようにもみえるかもしれない。手続きは確かにそうである。しかし主体たる朝鮮王朝の意識・立場は、唯一無二だった。信奉する朱子学の華夷意識に裏づけられた「小中華」意識がそれである。 朝鮮王朝は軍事的には弱体であった。朱子学は文を尊び武を卑しむから、これもイデオロギーに合致した体制である。 また何より中華の尊重が優先したから、それを体現する中国王朝にも、恭順な態度を示さなくてはならない。大陸には軍事的にもかなわないので、適切な対処である。それと同時に、中華を尊び慕うあまり、自らも中華に近づこうとする自意識になり、「東方礼義の国」を自任した。 だとすれば、「隣国と交わる」交隣は、自らがミニ「中華」である以上、その交わり方がいかなるものであれ、相手を「夷」と蔑むものとならざるをえない。朝鮮王朝は日本や西洋など、海を隔てた国々と対等な交際をおこなった。けれどもその根柢には、濃厚な侮蔑が横たわっている。「小中華」意識のなせるわざであった。 同じことは、元来が「夷」だった満洲人の清朝に対してもいえる。清朝は中華王朝の明朝を後継し、しかも軍事力で優位にあったため、朝鮮王朝は「事大」の関係を続けた。しかし心底では、清朝を「中華」と認めていない。いわば面従腹背だったのである。 半島の政権はこのように同一の歴史的なメンタリティ・性格を有しながら、地政学的に大陸向けと海洋向けとの、相反する関係をもっていた。そうした相反性が近代の国際政治を通じて、南北の分断に至ったわけである。北朝鮮と韓国は「一卵性双生児」 つまり北朝鮮とは、大陸と関係の深い「事大」的な政権であり、朝鮮戦争で中国義勇軍によって支えられたのは、それを象徴する史実であった。他方、韓国は「交隣」の海洋側についた政権であり、米軍に支えられ、なおかつ大陸とは隔たって「事大」を払拭できる位置にある。いわば北朝鮮は「事大」を現代化した国家、韓国は「交隣」を現代化した国家なのである。 北朝鮮は現在、中国にしたがわず独自路線をつきすすんでいる。「事大」国家であるはずの政権が、その歴史に背を向け大陸に歯向かうので、「暴走」になってしまう。 韓国もその点は同じ。「交隣」国家であるはずの政権が、その歴史に背いて「反日」「反米」を隠そうとしないので、「迷走」に陥っている。 朝鮮半島の政権は、元来「小中華」だった。北の中国・大陸に対して面従腹背、南の日米・海洋に対しては対等蔑視という歴史を持っているから、「暴走」も「迷走」もかれらの立場からすれば、ごく自然なビヘイビアなのであろう。韓国と北朝鮮はこうしてみると、むしろ朝鮮王朝以来の「小中華」にもとづく世界観と行動様式を共有する一卵性双生児といえるかもしれない。(iStock) 半島を南北に分かった地政学的・国際的枠組みは、ともかく安定的に機能、推移してきた。にもかかわらず、「事大」政権の北朝鮮は、中国の意向を顧慮せず、アメリカとの対等交渉という「交隣」をめざし、「交隣」政権の韓国は、アメリカの意向に背いて、経済的に依存する中国に「事大」せざるをえなくなっている。こうしたパラドクスが、東アジアの不安定をもたらしているともいえようか。しかし同時に、そうした運動律も歴史に根ざしたものであるため、南北政権の動きがなかなか収束しないのであろう。 韓国の文政権はそんななか、北朝鮮との対話・融和につとめている。その動きは日米から疑われ、金正恩政権から相手にされず、いまのところ「迷走」にしかみえない。 しかしそもそもが一卵性双生児の南北である。かつて文大統領が記し、またおそらく今も望んでいるように、南北が一体となる可能性も皆無とはいえない。 南北政権はすでに、米中のいずれに対しても、一定の距離を取っている。両者が一体となれば、韓国でも取り沙汰される朝鮮半島の中立化が、現実のものになりかねない。しかも北が核を放棄するとは思えないから、韓国が事実上、北の「核の傘」に入ってしまう事態もありうる。 果たしてそうなったとき、一衣帯水・列島に住む日本人はいかに行動すればよいのか。そこまで考えなくてはならない時世になってきたようである。

  • Thumbnail

    記事

    国防力増強に余念がない韓国、垣間見える焦り

    韓国の「読み方」伊藤弘太郎 (キヤノングローバル戦略研究所研究員) 文在寅政権は本年5月10日に発足してから半年を迎え、外交安全保障政策のスタンスが少しずつ見えてきた。「新政権の外交安全保障政策は日米韓の三カ国関係を基軸に、現実的でバランスのとれた外交を推進しながら、政権草創期を安全運転でこなしていくのでないか」というのが当初の筆者の見立てだった。政権発足後に北朝鮮の核・ミサイル開発が一層進展し、朝鮮半島情勢が緊張の度を増していることに加え、文在寅大統領が選挙戦を通じて、支持母体の進歩系だけでなく、保守、中道をも含めた幅広い層の支持を受け当選したからである。選挙前、「私のような人間が本当の保守だ(本年1月15日朝鮮日報によるインタビュー)」と発言するなど、文大統領は前回2012年の選挙において僅差で敗れたが故に、保守層の支持を盤石にするためのアピールに必死であった。就任演説において「国民すべての大統領を目指す」、「保守と進歩の葛藤は終わらなければならない」といった国民統合を重視する発言が散見された。 文大統領は「盧武鉉政権の大統領府秘書室長」という肩書きから「左派系」、「親北」だと見られがちだ。だからこそ同大統領は、こうした前評判とは一線を画し、まずは日米韓の連携を基調とする現実路線を選択すると予測したのだが、最近の韓国外交を見ると、こうした筆者の見通しは甘かったようだ。 今年9月15日の火星12号発射から11月29日の火星15号発射まで、北朝鮮による新たな挑発行動はなかった。その間、韓国外交はTHAAD配備問題による中国との関係悪化を改善させる大きな動きを見せた。10月30日、康京和外交部長官は国会での与党議員の質問に答える形で、(1)これ以上THAADを配備しない、(2)日米のミサイル防衛網に参加しない、(3)日本との安保協力は軍事同盟にならない、という「3つのNO」と呼ばれる立場を明らかにした。2017年10月、韓国国防省の行事に出席したマティス米国防長官。右は宋永武国防相=ソウル(共同) さらに、11月3日には、文在寅大統領がシンガポールメディアのCNAとのインタビューの中で、「日本との安保協力は軍事同盟とならない」と明言し、北朝鮮への対処を理由に「日本が軍事大国化することを懸念する」と発言している。その後、11月20日付の読売新聞が「日本版トマホーク開発」につき報じると、韓国メディアは敏感に反応し、これを批判的に報道した。最近では中央日報が5回に分け「浮上する自衛隊」と題した特集記事を組むなど、韓国メディアの論調は大統領発言に呼応するかのように日本の防衛力強化に対する警戒感を見せ始めた。 「米国に頼っている」、進歩派の不満 そもそも、文在寅政権の外交安全保障政策に関する考え方は、保守政治が選好する現実主義(リアリズム)の対立軸としての理想主義(リベラリズム)ではない。すでに多くの専門家が指摘しているように、現在の大統領側近は、周辺国からの力による干渉をはねのけて韓国の独立を守り、最終的には「韓国主導で南北統一を果たさなければならない」と本気で信じている民族主義者の集まりだ。彼らはその目的を達成するために「強力な軍事力を兼ね備えることが不可欠」と考える。 文在寅大統領は本年7月18日に軍高官を集めた昼食会の席上、「北との対話を追求しているが、圧倒的な国防力に基づかないと意味がない」として、現在GDP比2.4%水準の国防予算を任期中に2.9%に増額する考えを明らかにした。予算増額分を北の核・ミサイルへの対処能力向上に集中投資し、米国からの戦時作戦統制権の早期移管も目標としている。また、文大統領は8月28日に行われた国防部による業務報告の席上、「これまで莫大な国防費を投入したにもかかわらず、我々が北朝鮮の軍事力に対抗できず、ただ韓米連合防衛能力に頼っているようで残念だ」と軍を批判した。 韓国軍の歴史は、「北朝鮮の軍事力に単独の軍事力では対応できない」という前提の下、圧倒的な軍事力を持つ米国との同盟関係を基盤に、米国から最新装備品を導入しつつ、自国の防衛産業基盤を確立して自軍の戦力増強に努めてきた。この過程の中で、進歩陣営は「長年の軍事政権支配による軍の腐敗に端を発する装備品導入に絡む不正問題は旧態依然として存在し、米国の軍事力に依存してばかりか、高い装備品を買わされてばかりで国防費が無駄に使われている」と考え、米国と同盟重視の保守勢力に対する不満が常に存在している。 現在、韓国軍は北の核とミサイルを無力化する手段として、3軸体系と呼ばれる(1)キル・チェーン、(2)韓国型ミサイル防衛(KAMD)、(3)大量反撃報復(KMPR)戦略からなる軍事力構築を急ピッチで進めている。3軸体系の基本的な概念は、仮に北朝鮮が長距離射程砲や弾道ミサイルを韓国に対して発射する兆候があれば、速やかに発射地点を探知し打撃する。発射を防げなかった場合は、迎撃ミサイルで対応し、攻撃を受けたとしても被害を最小限に留め、北に対し大規模な報復を行う能力を保有する、というものだ。これら一連の軍事力を持つことによって、北朝鮮の攻撃を抑止することが韓国の最大目標なのである。2017年11月、歓迎式典に臨むトランプ米大統領(左)と韓国の文在寅大統領(共同) しかし、昨年の北朝鮮による一連の軍事挑発は、韓国軍にとって従来の戦略の根幹を揺るがす衝撃となったに違いない。北朝鮮は年初に核実験(4回目)と地球観測衛星を積んだロケットと称する飛翔体発射を実施した。3月以降は中距離弾道ミサイルを中心に、様々な種類のミサイルを発射させただけでなく、従来型の長射程砲や短距離ロケット砲などの大規模演習を行った。8月末には潜水艦からのSLBM発射にも成功し、9月には5回目となる核実験まで実行した。  我が国においては、日本列島のほぼすべてが射程に入る準中距離ミサイル・ノドンや改良型スカッドの発射に注目が集まった。しかし、韓国側から見れば、弾道ミサイルだけでなく、従来からの脅威であった長射程砲の射程が伸びたことも大きな意味を持つ。北朝鮮が「火の海にする」と何度も脅迫してきたソウルと首都圏地域だけでなく、陸・海・空軍の本部がある鶏龍市や在韓米軍基地のある平沢市や烏山市にも十分脅威を与えるようになったからだ。また、当初のキル・チェーン・システムは、北の攻撃が地上から行われることを想定していたが、今後はSLBMの登場により、これまで手薄だった対潜哨戒能力の向上も叫ばれるようになっている。こうした状況が、2016年の日韓軍事情報保護協定(GSOMIA)締結に際し、韓国側が「対潜哨戒能力を持つ日本からの情報獲得は軍事的に有益だ」と判断するに至った要因の一つだとされている。防衛費を劇的に増加させることの難しさ 以上のような背景もあり、韓国軍の戦力増強については追い風が吹いているようだ。北のミサイル攻撃探知能力については、米国からすでに導入が決まっている無人偵察機「グローバルホーク」に加え、12月5日付の東亜日報は、韓国軍が情報収集機E-8Cジョイントスターズ4機を2022年までに導入する方針を固めたと報じた。現在は保有していない偵察衛星についても、2021年から23年の間に5機打ち上げる予定である。陸上装備では南北境界の最前線に配置されているとされる北の長距離砲を探知するための新しいレーダーを独自開発し、来年から実戦配備されるという。これまでに何度も自国領空への侵入を許してきた北朝鮮の小型無人機に対しては、探知・攻撃が可能な新型レーダーや対空砲などの開発に注力している。2017年12月、米韓両軍の共同訓練に参加し韓国西部の米軍群山空軍基地に着陸する米軍のF35ステルス戦闘機(聯合=共同) 北朝鮮に対する攻撃能力に関しては、韓国の弾道ミサイルの射程が2012年に最大800kmにまで延長することに米韓両国が合意しているが、更に、11月7日に行われた米韓首脳会談において、弾道ミサイルの弾頭重量制限を完全に解除することで合意した。これによりミサイルの破壊力が増し、KMTRの面でも能力を大幅に向上させることになる。将来的には、現在開発中のより精密な誘導攻撃が可能な「戦術地対地弾道ミサイル(KTSSM)」がバンカーバスターのような機能を果たすことが期待されている。また、航空戦力では、昨年10月に、約500キロ離れた上空から首都平壌の重要施設を攻撃可能な長距離空対地ミサイル「タウルス」90発の追加導入が決定している。さらに、敵の重要施設を攻撃するため自爆型無人機を導入する計画もあるという。 ミサイル防衛では、現在導入を進めているPAC-3と昨年から配備が始まった中距離地対空ミサイル(M-SAM)「天弓」に加え、長距離地対空ミサイル(L-SAM)を現在開発している。韓国国会では一部議員からSM-3(艦載弾道弾迎撃ミサイル)導入を求める声が上がっているが、韓国海軍はその導入には消極的な反応を示している。また、一時期、北の長射程砲から韓国軍の指揮機能とKAMD施設を防護するためイスラエルの対空防衛システム「アイアン・ドーム」の導入に関心を示したこともあったが、軍事的効能の面から最終的には採用されず、代わりに韓国独自の「アイアン・ドーム」型防衛システムを開発中である。 以上のように、韓国軍が現在開発中や導入段階にある装備品の一部を紹介したが、北朝鮮の脅威に対処するために、陸海空それぞれの軍事力が増強されているという事実は明らかだ。こうした増強だけにとどまらず、北のSLBM搭載型潜水艦の脅威に対抗するため、原子力潜水艦の建造や対潜哨戒機部隊の大幅な拡充を求める声が与野党政治家や専門家の間で依然として存在する。しかし、これらの装備を導入するには莫大な国防予算を必要とする点が導入推進の動きを封じている状況だ。韓国も日本と同様に、少子高齢化社会を迎え、増大する社会保障費によって財政的に厳しい状況である。同じような境遇にある我が国が、限られた財源の中で防衛費を劇的に増加させることがいかに難しいか、韓国政府はよくわかっているはずである。根拠のない対日懸念の裏には、自らの軍事力を増強させるという並々ならぬ意欲と、北朝鮮への対処を理由に周辺国が軍事力を増強させることへの韓国の焦りが垣間見える。

  • Thumbnail

    記事

    朝鮮民族で団結し、統一国家を作る夢が韓国内で加速

     北朝鮮が事実上の核保有国となりつつある。不可解なのはそれでも韓国が“平時”のままだということだ。長年に亘る北の脅威に韓国人が麻痺しているということもあるが、それだけではない。背景には韓国世論の激変と、秘めた野望がある。拓殖大学教授の呉善花氏が警鐘を鳴らす。* * * いよいよ朝鮮半島情勢が危険水域に達しつつある。トランプ大統領は米韓合同軍事演習を大規模化させるなど、かつてない圧力をかけて北朝鮮に核開発・ミサイル開発を断念させようとしている。 しかし、その一方で韓国は、米韓合同軍事演習に参加しつつも、北朝鮮へ800万ドル(約8億9000万円)相当の食糧支援を表明するなど、対北圧力を高めようと共同歩調を取る日米を呆れさせた。圧力よりも融和路線が文在寅大統領の本音だ。気をつけなくてはならないのは、それが文大統領だけの考えではなく、多くの韓国人が共有する考えだという点だ。「北は平等で清貧」 まず、そもそもなぜ北朝鮮が核開発に固執するのかについて触れておきたい。北朝鮮の労働新聞が9月16日掲載した、中距離弾道ミサイル「火星12」の発射訓練を視察し、笑顔を見せる金正恩朝鮮労働党委員長の写真(コリアメディア提供・共同) 金正恩が決して核開発を諦めない理由は朝鮮戦争の時点まで遡る。重要なことは、1950年に勃発した朝鮮戦争は、北朝鮮対韓国の戦争ではなく、中国・北朝鮮連合軍とアメリカを中心とする国連軍との戦争で、韓国は国連軍の一部に過ぎなかった、ということである。1953年に休戦となったが、休戦協定は上記両者間に結ばれたのであり、当然ながら韓国は協定の署名者ではない。核・ミサイル問題で、北朝鮮が韓国からの話し合い要請には決して応じようとはせず、アメリカとしか応じないと言い続けているのはそのためだ。 休戦協定では、新たな武器・核兵器・ミサイルの持ち込みが禁じられた。だがアメリカも北朝鮮も新たな武器を導入し、アメリカは核兵器・ミサイルをも持ち込んだ。両者とも休戦協定を侵したのである。こうした状況下で北朝鮮は、1994年以降たびたび「休戦協定に束縛されない」と表明し、2009年5月には、「もはや休戦協定に効力はないとみなす」と表明している。つまり、武力行使の再開はいつでも可能、ということになる。親北派が後退しない理由 アメリカは北朝鮮が核開発を止めれば、武力侵攻しないし現体制を認めると中国経由で伝えている。だが、金正恩はそんな言葉を信じはしない。核を持たなければ、これまで消された独裁者と同様にやられると思っている。したがって、北朝鮮はアメリカと平和条約を締結して朝鮮戦争終結が実現されるまでは絶対に核開発を止めない。 皮肉なことに、その北朝鮮とかつて干戈(かんか)を交えた韓国はいまや圧倒的に親北派が強くなり、圧力を強めようという意見は少数派だ。ターニングポイントは金大中政権(1998─2003年)だった。2000年の南北首脳会談以降、韓国では対北融和政策がとられて国民の北朝鮮イメージは一変し、国内に親北ムードが高まった。続く左派の盧武鉉政権下で、国民の親北傾向はいっそうのこと強くなっていった。 その後、保守政権の李明博、朴槿恵政権は一定の対北強硬姿勢に転じたが、北朝鮮はそれに対抗するかのように軍事挑発を多発させていった。そのため、国内では対北融和姿勢への再転換を是とする声が高まり、親北派勢力が後退することはなかった。文在寅政権に米軍の最新鋭迎撃システム「高高度防衛ミサイル(THAAD)」配備撤回を求め、スローガンを叫ぶ反対派住民ら=韓国・星州 この背景には、若い世代の台頭により、朝鮮戦争で北から攻められた記憶が国全体として薄れていることがある。左派政権以降の教科書では北朝鮮史評価の傾向が強く、若者たちの大半は「同じ民族なのだから北朝鮮が韓国にミサイルを撃ち込むことはない」と信じるようになっている。さらには、北朝鮮に対していいイメージを抱いている者が少なくない。「ヘル朝鮮」と呼ばれるほど若者の失業率が高止まりし、財閥をはじめとする一部特権階級に富が集中する韓国に比べれば、むしろ北朝鮮は平等で清貧だという理解なのだ。 実際、最近の世論調査でも親北派の伸張は顕著だ。調査会社、韓国ギャラップの調査(9月5日~7日)によると、アメリカによる対北先制攻撃について、「反対」が59%、「賛成」が33%だった。一方、北朝鮮が韓国に戦争を仕掛ける可能性については、「ない」が58%、「ある」が37%だった。核を保有した統一朝鮮核を保有した統一朝鮮 トランプ大統領、安倍晋三首相は、文在寅大統領が対北800万ドル支援を表明した直後の3か国首脳会談で、「北朝鮮への圧力を損ないかねない行動は避ける必要がある」と苦言を呈した。だが、文大統領は意に介していない。なぜなら、彼が本当に気にしているのは韓国国内の世論だからだ。 いま、文在寅政権は韓国内で反発を受けている。大統領選のときに主張していた「対北融和」、「THAAD配備中止」は、最終的にアメリカからの要請を受け入れる形で変更を余儀なくされた。熱烈な文在寅支持派、つまり強固な親北派が期待していた開城工業団地の再稼働や金剛山観光の再開は思うように進まず、またTHAADも北朝鮮のミサイル発射が頻発して受け入れざるを得なくなった。 同盟国アメリカからの強い要請を文在寅氏は一応聞かざるを得ないが、これ以上、“譲歩”すれば支持者たちが離反する怖れがある。もちろん文大統領自身、本音は北朝鮮との融和にあるわけだから、北朝鮮にエールを送ることでその意志に変わりのないことを示そうとするのだ。この意志は、平昌オリンピックへの参加を北朝鮮に強く訴えかけたことにも滲み出ている。2017年7月、夏休みで韓国・平昌を訪れ、五輪関連施設を視察する文在寅大統領(右から2人目、大統領府提供・聯合=共同) 文大統領は、任期中に南北統一への道筋をつけたいと考えている。まずは、かつての左派政権時代のように文化的・経済的交流を拡大し、すでに南北で合意している第一段階としての「一国二制度による統一」を目指して南北共通市場を形成していくこれが文大統領の描くシナリオだ。「一国二制度による統一」は左派だけではなく、保守派も一致しての国家方針である。 韓国の考えは、南北共通市場の形成や外国資本の参入によって、北朝鮮がそれなりに豊かになり、少なくとも人民が貧困に喘ぐことがなくなれば、統一に向けての韓国の負担は大きく軽減される、というものだ。実際、現在の北朝鮮は国内の「資本主義化」をかなり推し進めており、経済特区への外国資本の参加を公募している。やっぱり核を持ちたい こうした道が開かれるかどうかは、アメリカが「核放棄」の主張から退き、核を保有する北朝鮮の現体制を容認するかどうかにかかっている。文大統領は「核放棄」ではなく「核凍結」を求めている。核開発を一時的にストップすればそれでよいという姿勢だ。しかしこれはポーズにすぎない。文大統領がそう考えているように、現在の韓国社会は「ここまで北の核開発が進んだのであれば、もはや認めるしかない」という方向性を強くしている。他の諸国にもそうした声があるし、アメリカ国内ですらそう発言する要人も少なくない。2017年11月、訪韓したトランプ米大統領(中央左)と韓国の文在寅大統領(共同) さらに踏み込んで言えば、韓国も核を持ちたいのだ。韓国ギャラップの調査では、核保有に「賛成」は60%で、「反対」は35%だった。  そもそも韓国の歴代政権は1972年以降、極秘裏に核開発を続けてきた。しかし2004年にIAEA(国際原子力機関)の調査で、2000年に金大中政権下でウラン濃縮を進めていたことが発覚し、中止せざるを得なくなったのである。韓国にとって核武装は悲願なのだ。南北統一がなれば、「北の核は自分たち朝鮮民族のものになる」のである。 韓米両国は「韓国が独自に戦時作戦統制権を行使できる条件が整えば、それを韓国に移譲すること」に合意している。朴槿恵政権下ではその時期を2020年としたが、文大統領は早期移譲を求めている。移譲となれば在韓米軍の撤退は時間の問題だ。アメリカでも在韓米軍撤退論者は少なくない。北朝鮮は米軍撤退を統一の第一条件としている。 リーマン・ショック以降、とくに現在、アメリカ、イギリスをはじめ、多くの諸国で国際主義から国家第一主義へ転換しようとする流れが加速度を増している。朝鮮民族で団結し、統一国家を作るという夢は、かつてないほど韓国内で共感を得やすくなっている。 韓国が描く統一朝鮮への道は、このままでは核保有朝鮮国への道となり、いっそう強固な反日大国出現への道となる。日本はそうした流れをはっきり見据え、北朝鮮問題に対処しなくてはならない。●オ・ソンファ/1956年韓国済州島生まれ。東京外国語大学大学院修士課程修了。現在、拓殖大学国際学部教授。著書に『超・反日 北朝鮮化する韓国』(PHP研究所)、『赤い韓国 危機を招く半島の真実』(産経新聞出版、共著)などがある。関連記事■ 北朝鮮のミサイル発射兆候 信頼できるのは“Aアラート”?■ もし米朝戦わば 北朝鮮軍には実際どれだけ攻撃力があるのか■ 文在寅政権 慰安婦記念日まで制定、合意白紙宣言の可能性も■ 中国内「北朝鮮が核放棄見返りに毎年6兆円要求」報道の思惑■ 徴用工設置をはじめ、憎悪拡大再生産する韓国の動き

  • Thumbnail

    記事

    韓国人がおかしなことを鵜呑みにするのは漢字廃止が影響か

    発言を繰り返すとともに、解決済みである徴用工の個人請求権まで容認してしまった。日本政府はこれに抗議、韓国で開催されるアジア中南米協力フォーラム外相会議に日本の河野太郎外相に招待状が届いていたが、欠席を決めた。なぜ、韓国は国と国との約束が守れず、韓国の人たちはおかしなことを鵜呑みにするのか。ジャーナリストの櫻井よしこ氏が、その背景を解説する。 * * * 日本と朝鮮半島は遥か古代から非常に難しい関係を続けてきました。穏やかな国、日本が対外的な争いに巻き込まれる時は、ほとんどの場合、朝鮮半島問題が原因となってきたのです。 古くは663年、すでに滅亡していた百済の復興を手助けするために唐と新羅の連合軍と戦い、敗北を喫しました(白村江の戦い)。13世紀に2度にわたってわが国が侵略された元寇は、元との戦いというより高麗との戦いでした。日清戦争は朝鮮半島に支配権を広げようとする清国を阻止することが目的であり、日露戦争もロシアが南下する危険性に備えた戦いでした。 そして今、日本に同じような危機が迫っています。北朝鮮が暴走すれば、否応なく日本にも飛び火します。本来であれば日米韓が連携して北朝鮮、そして背後にいる中国と対峙しなければなりませんが、韓国の文在寅大統領はまったく逆を向いています。 金正恩氏による大陸間弾道ミサイル実験や、そのことに対する国際社会の制裁強化の動きなど見れば、北朝鮮にすり寄り、「南北共同で強制動員被害の実態調査」をするなどと言っていられる状況ではないのは明らかです。しかし、文大統領は「反日」を親北政策に利用しようとしています。こんな状況では韓国が北朝鮮に事実上支配され、38度線が対馬海峡まで下りて来ることも、日本は覚悟しておかなければなりません。元慰安婦の支援団体「韓国挺身隊問題対策協議会」などがミニチュアの金色の慰安婦像500体を展示した =2017年8月14日、韓国(共同)◆韓国の「悪意」 文氏は国際ルールを完全に無視し、「ゴールポストを動かす」どころか、国家間の取り決めをすべてひっくり返そうとしています。 8月17日の韓国大統領府での記者会見で、文氏は日本統治時代に動員され働いていた元徴用工らの「個人請求権は消滅していない」と述べました。もちろん個人請求権が「ない」ことは、1965年の日韓国交正常化の際に結ばれた日韓請求権協定で明らかです。この問題はすべて解決済みです。韓国人に影響を与えた漢字廃止 左翼の盧武鉉大統領は2005年、日韓国交正常化交渉に関する全資料3万6000ページを公開させました。それを詳細に調査した結果、日本側が「韓国の被害者個人に対して補償する」ことを提案したのに対し、韓国側が「国として請求する」「個人に対しては国内で措置する」と主張し続けたことが明らかになったのです。そのため、さすがの盧氏も「すでに日本から受け取ったお金に個人補償分も含まれている」として、徴用工の個人請求権を諦めざるを得なかったのです。 ところが2012年、韓国の最高裁が「個人請求権は消滅していない」という驚くべき判断を下し、日本企業を相手どった訴訟で賠償命令が相次いで出されています。文氏の発言は韓国政府として初めて、個人請求権は消滅していないと正式に認めたものであり、今後、深刻な影響が生じてくるのは間違いありません。 慰安婦の「強制連行」も徴用工の「強制動員」もまったくの事実無根で、日本にとっては酷い「濡れ衣」です。しかし韓国は国家戦略として歴史を捏造し、それを世界に喧伝しています。儒教思想に基づく歪んだ優越意識から、韓国人にとって日本は「未開で野蛮な国」「蔑む対象」であり、今は「お金を取る国」なのです。相手を理解し、歩み寄ろうとするのは日本人の美徳ですが、その前に韓国が「悪意」を持って日本を貶めようとしていることに気づかなければなりません。 文氏は慰安婦や徴用工問題は、1965年の日韓請求権協定時には「わかっていなかった問題だ」とも述べました。しかし、もし彼らが主張するような酷いことが本当に行われていたなら、気づかないはずがありません。路線バスに乗せられたプラスチック製の慰安像に触れる乗客=2017年8月14日、韓国・ソウル(聯合=共同) 少し考えればおかしいとわかることを、なぜ韓国の人たちは鵜呑みにしてしまうのでしょうか。拓殖大学国際学部教授の呉善花氏は漢字の廃止が影響していると指摘します。 日韓併合当時、韓国では難しい漢字を使っており、庶民はほとんど読み書きができず、識字率は6%に過ぎませんでした。そのため日本は学校の数を59倍の5960校に増やし、庶民にハングルを教えました。ハングルは日本語でいえば平仮名やカタカナのようなもので、「漢字ハングル交じり文」を普及させたわけです。福澤諭吉らの尽力もあり、朝鮮人の識字率は1943年には22%にまで上がったそうです。 ところが1970年代に入ると韓国は漢字を廃止し、ハングルだけを使うようになりました。それによって韓国人の思考能力が著しく低下したと指摘する人は少なくありません。 しかも、最近では研究者でさえ漢字が読めなくなっているため、歴史的な資料を読むことができない。そのため韓国人は自国の「過去」の事実を知ることができず、自分たちに都合のいい「幻想」を歴史的事実だと思い込むようになったと呉氏は分析するのです。関連記事■ 在韓35年の教訓「韓国に関心を持っても、深入りはするな」■ 百田尚樹氏 「今こそ、韓国に謝ろう」の真意を語る■ 韓国政府がひた隠す「元慰安婦の9割が日韓合意に納得」■ アン・シネ、推定Gカップの美ボディを横から撮影■ ケント氏「韓国には嘘が恥ずかしいという概念がないのか」

  • Thumbnail

    記事

    物見遊山の交流ばかり 格好だけの姉妹都市はさっさと辞めよ

    、市内に設置されている慰安婦像と碑の寄贈を受け入れる決議が市議会で可決された。この像はもともと、在米韓国系団体と連携している在米中国系団体が私有地に建てたもので、この決議によって市の公有物とされた。ちなみにサンフランシスコ市長のエドウィン・M・リー氏は中国系アメリカ人で、韓国・ソウル市の名誉市民でもある。米カリフォルニア州サンフランシスコのセント・メリーズ公園展示スペースに設置された慰安婦像=2017年9月22日(中村将撮影) この碑には、「性奴隷」「(被害者が)何十万人」「捕らわれの身のまま死亡」などの表現がある。中韓が世界に喧伝する「慰安婦=性奴隷」を市が認めたのだ。これに怒った大阪市の吉村洋文市長(大阪維新の会)は「サンフランシスコ市が寄贈を受け入れることになれば、姉妹都市の関係を解消する」と断言した。 そもそも姉妹都市に法律上の定義はない。日本で初の締結は1955年の長崎市と米セントポール市だ。1989年に旧自治省は「地域国際交流推進大綱策定の指針」を定め関与を強めたが、今は総務省は手を引き、外務省も口を出さず、各自治体に任された格好だ。 自治体は姉妹都市関連の予算を組み、姉妹都市に市長らが出張した際の旅費や活動費を拠出している。 たとえば大阪市の場合、今年度の「姉妹都市ネットワークを活用した経済交流の推進」予算は1816万円にも上る。ちなみに同市の借金(市債残高)は4兆円超(2016年度末)だ。大阪市は8都市と姉妹都市関係を結ぶが、なかでも友好60周年の節目になるサンフランシスコ市関連の予算は726万円と突出している。その結果が慰安婦像の設置では、何のための友好だったのか。 この姉妹都市予算に関しては、かねてより「市長や市議の視察という名の旅費に消えている」との批判がある。舛添要一・前都知事は姉妹都市ソウルへの出張で1000万円超を費やし、しかもその場で韓国人学校を作ることをソウル側に約束し、後に猛批判を浴びた。元駐レバノン大使の天木直人氏は言う。 「そもそも外交は国家同士が行なうもの。都市外交と言えば聞こえはいいが、しょせん地方都市同士の交流に過ぎません。私がデトロイトの総領事をしている時も、首長をヘッドにした市議団のただの物見遊山という例がありました。格好だけの姉妹都市関係などやめたほうがいい」 姉妹は他人の始まり、ということで。関連記事■ 姉妹都市に慰安婦像… 小池都知事はソウルにどう対応?■ 慰安婦像承認の米SF市、中国系市長はソウル名誉市民■ SAPIO人気連載・業田良家4コママンガ【1/2】「橋下の影響力」■ 石原都知事 橋下市長と石原伸晃自民党幹事長の連携あり得る■ 橋下徹府知事が掲げる「大阪都構想」とは何か? 目的は?

  • Thumbnail

    記事

    「南北統一」が薄れゆく韓国の対北朝鮮最終シナリオ

    究所研究員)インタビュー聞き手 山本みずき 北朝鮮の脅威が高まるいま、「南北統一」や対北戦略について韓国ではどのような議論がなされているのか。韓国軍合同参謀本部に在籍した経歴を持つ、韓国を代表するシンクタンク「アサン研究所」の元研究員、池恩平(ジ・ウンピョン)氏にiRONNAの山本みずき特別編集長が聞いた。 山本 これまで韓国は、どの政権も「南北統一」を目標に据えてきたと思いますが、現在では具体的にどのようなシナリオが想定されているのでしょうか。また、統一が実現した場合、北朝鮮の脅威はなくなると考えているのでしょうか。 池 統一が実現すれば北朝鮮の脅威がなくなるというより、「どのようにして北朝鮮の脅威を取り除いて統一を図るか」が問いとして正しいでしょう。これについては、三つのシナリオが考えられています。一つ目は、西ドイツが東ドイツに対して行ったような、吸収併合による統一です。これは、韓国の若い世代が南北統一について思い描く代表的なシナリオでもある。一方で、これは北朝鮮にとって当然に拒否すべき選択肢となっている。北朝鮮の体制が崩壊しないかぎり、このような統一は実現しないからです。 二つ目は、文在寅(ムン・ジェイン)大統領が理念に掲げている「対話による統一」です。韓国と北朝鮮が相互に統一の条件について平和的に話し合い、段階的に通商を増やして合意に至るというもの。でも、これについても北朝鮮は難色を示しています。結果的に、北朝鮮の体制を崩壊させる可能性があるからです。南北交流を通じて韓国の物資が北朝鮮で流通すれば、生活様式に変化をきたし、人々はもはや金正恩の統治する体制を望まなくなるでしょう。そのため、「対話による統一」も平壌からは歓迎されない。 最後に考えられるのは、「武力による統一」です。最も過激な反面、手っ取り早い選択肢に思えますが、そもそもこれでは北朝鮮の脅威を取り除けるかどうかすら怪しい。というのも、軍事行動に伴う混乱に乗じて、北朝鮮の保有する大量破壊兵器が暴力的な非国家主体に流出する可能性があるからです。このように、シナリオは存在していても、現実にはどのように統一がなされるべきかについて、意見は統一されていないのです。池恩平氏(左)と山本みずき氏=2017年8月、韓国・ソウル市内 山本 仮に朝鮮半島が韓国主導で統一されれば、韓国にとって経済的な負担をもたらすのではないでしょうか。それでもなお、韓国人が南北統一を望む背景には、民族的紐帯の他に何らかの合理的な理由があるのでしょうか。 池 指摘してくれたとおり、南北統一は韓国にとって大きな経済的負荷となるでしょう。ドイツ再統一の場合もそうでした。旧東ドイツ地域は旧西ドイツ地域と比べて経済的に遅れていた。そして、今でも経済的に困窮している。ドイツ人は東西格差の是正のために多額の税金を払ってきたし、まして北朝鮮はかつての東ドイツより遥かに未発達です。 実際のところ、韓国の若い世代は南北統一に反対しています。彼らは北朝鮮の人々とのあいだに民族的紐帯を見出していないし、統一はドイツのように新税の創設を伴う。そして、これを負担するのは専ら若い世代です。ただし、韓国は日本と同様に高齢化社会であるため、南北統一は若年層の増加によってライフサイクルを引き延ばすというアドバンテージもあります。 すなわち、選択肢は「統一して税を負担し、高齢化を緩和する」か、「統一をせず、税も負担せず、高齢化の緩和を断念する」となります。いずれにしても、若い世代は南北統一に対して否定的です。ただ、私の祖父の世代になると、北朝鮮に家族や友人が住んでいる者もおり、未だに統一を望む考えが根強い。この世代がいなくなってしまうと、北朝鮮との間に民族的紐帯を見出す韓国人は減少し、南北統一の願望も薄れていくでしょう。北の核の脅威にどう対峙するか 山本 文在寅政権は、それまで9年間続いた対北強行姿勢の保守政権とはちがい、大統領選期間中から北朝鮮との対話路線を打ち出した親北的・進歩的政権と位置づけられています。文在寅大統領が対話の道を切り拓くことに熱心なのはなぜでしょうか。また、このような外交政策についてどのように分析していますか。 池 文在寅政権の考えでは、北朝鮮はアメリカに自らの存在を脅かされていると認識しています。だからこそ、文在寅政権は平壌に対し、韓国にそのような意志はないということを伝えようとしているのです。現に、文在寅大統領は「朝鮮半島を二度と戦場にしてはならない」という趣旨の発言を繰り返しています。 ですが、戦争をする意志がないことを韓国の大統領が強調することは、かえって北朝鮮の好戦的態度を招きかねない。韓国が北朝鮮に対して戦争をする意志がない旨を伝えることで、翻って北朝鮮が「こちらから先に攻撃しても構わないのではないか」と考える可能性があるからです。だから、「われわれは平和を欲しているが、同時に戦争にも備えている」ということこそが、文在寅大統領の伝えるべきメッセージではないでしょうか。武力による「統一」に懸念を示す池恩平氏=2017年8月、韓国・ソウル市内(本江希望撮影) 山本 では、韓国は北朝鮮の脅威に対してどのような軍事的態勢で臨んでいるのでしょうか。 池 軍事的態勢について語る際には、レベルを三つに分けて考える必要がある。「核の脅威」、「通常兵力の脅威」、「北朝鮮の体制崩壊」、これらに対して韓国がどのような態勢にあるかを、順を追って説明します。 まず、「核の脅威」に対する態勢は充分とは言えません。韓国が単独で核の脅威に対応することは難しいと考えられているからです。核の脅威に対してとるべき措置は、今のところ二つ挙げられます。一つ目は、(例えばイスラエルがイラクやシリアに対して行ったように)核施設を発見した時点で先制攻撃を行い、核開発能力を無力化することです。 ただし、これについては、韓国に自力で核施設を探索できるほどの衛星技術やインテリジェンス能力が備わっていないという問題点がある。二つ目はミサイル防衛ですが、残念ながら韓国のミサイル防衛態勢は発展途上にあります。例えば、イスラエルは高高度、中高度、低高度のいずれにおいてもミサイルの迎撃が可能ですが、韓国の場合、PAC-3のようなパトリオット・ミサイルは低高度での迎撃しかできない。だから、北朝鮮の『核の脅威』に対する韓国の対応能力は、目下のところ不完全だと言えます。 次に、「通常兵力の脅威」については、韓国はこれを防御する能力を有しています。過去7年間、韓国軍は北朝鮮の通常兵力による攻撃に備えるように訓練されてきました。そして、われわれは北朝鮮軍による攻撃を阻止するための作戦計画を複数用意しています。 最後の「北朝鮮の体制崩壊」についてですが、韓国は北朝鮮の体制を崩壊させるという状態までは展望できていないのです。なぜなら、韓国軍は基本的に朝鮮半島の南半分を防御することを主旨に創設された軍隊であって、38度線を北上して北朝鮮の領域を攻略するための軍隊ではないからです。「統一朝鮮」は日米と同盟を結ぶべき 山本 北朝鮮は中国やロシアと、アメリカの同盟諸国とのあいだの緩衝地帯(バッファーゾーン)だと考えられてきましたが、統一朝鮮が誕生してこの緩衝地帯が消失すると、中露から反発を買うのではないでしょうか。また、日米韓と中露のあいだに緩衝地帯が存在しない状況下でも、統一朝鮮とその周辺地域の情勢は安定すると思いますか。 池 だからこそ、統一朝鮮はアメリカや日本と同盟を結ぶべきだと考えています。統一朝鮮が誕生すれば、われわれは北朝鮮の脅威には晒されなくなりますが、遥かに大きな中露の脅威に直面することとなります。だから、勢力均衡を維持するためには、アメリカや日本との同盟関係を築かなければならない。このとき、在韓米軍の存在は必ず中露にとって悩ましい問題として顕現するはずです。ゆえに、統一朝鮮は中露に対して一層洗練された外交を展開しなければならなくなるでしょう。 山本 統一朝鮮において、在韓米軍が38度線を越えて駐留する可能性もあるのでしょうか。 池 まさしくそこが問題なのです。38度線を越えて在韓米軍が駐留すれば、中露はこれまで以上に警戒を強めるでしょう。韓国と北朝鮮の軍事境界線がある「板門店」を訪れた山本みずき氏=2017年8月(本江希望撮影) 山本 そうすると、統一朝鮮は大陸国家との協調を築くことが難しくなりそうですね。北朝鮮は中露から資源を輸入している地域ですが、通商の分野で問題は生じないのでしょうか。 池 韓国はシーレーンを活用した国であり、世界で5番目にエネルギーを消費する国です。石油、天然ガス、テクノロジーなどは全て海を通って韓国に送られてきます。陸上輸送は、海上輸送と比べて一度に運搬できる資源の量が圧倒的に少ない。ですから、海路の確保が重要となります。通商においても、統一朝鮮は大陸国家ではなく海洋国家との協力関係を構築するべきでしょう。 インタビューを終えて 歴史認識の観点から日韓関係をみると、両者の溝は深まるばかりだが、安全保障においては、好むと好まざるとにかかわらず、地理的な近隣性からも、両国の運命は不可分に結びついてきた。中国やロシアという軍事大国に囲まれ、また北朝鮮の危険な挑発の連続にさらされているという、日韓が置かれている地理的な条件は、これまで大きく変わることはなかった。 現時点では北朝鮮がつくりだす脅威は著しく緊張の度合いを高めており、韓国にとって日本との安全保障協力が必要だという認識はよりいっそう切実なものとなっている。また、日本の安全にとって、朝鮮半島の平和と安定が切り離すことができないという認識もこれまで繰り返し語られてきた。韓国では歴史問題をめぐって感情的な世論が日本との関係を悪化させているが、一方では今回のインタビューに見られるように、安全保障上の観点から日本との協力を求めるリアリズムもしばしば聞こえてくる。 韓国においてわが国との協力に可能性を見出す、池氏の提唱するリアリズムは日本にとっても比較的受け入れやすいのではないか。池氏が指摘するように、朝鮮半島は、勢力均衡を必要とする地域である。この地政学的に機敏な地域の一角を占めることとなった韓国において、はたしてリアリズムは確固たる位置を占めることができるのか。もしもそれが確かな存在となっていったならば、従来とは異なる日韓関係の新しい可能性が開けてくるかもしれない。(山本みずき) 池恩平(ジ・ウンピョン) 韓国を代表するシンクタンク「アサン研究所」元研究員。これまでに米ワシントンの有力シンクタンク「新アメリカ安全保障センター(CNAS)」でも研究に従事。韓国軍合同参謀本部に在籍中、統合作戦に関する企画立案や装備調達に関するイスラエル国防軍との調整業務に携わった。

  • Thumbnail

    記事

    なぜ韓国は北朝鮮と事を構えたがらないのか

    朝鮮を援助しながら高みの見物を決め込む中国とロシア。緊張が高まる朝鮮半島において、一方の当事者である韓国は北朝鮮に対して何ら有効な対抗策をとっていません。 そればかりか、第三者である日本に対して、解決済みの慰安婦や徴用工問題を蒸し返し、虚偽の像を建てるだけではなく、その像を乗せたバスを走らせるなど病的な反日行為を繰り返しています。最近はアメリカの圧力などにより、さすがに危機意識を持つようになったのか、反日姿勢が若干トーンダウンした感はありますが、その基本的な姿勢は変わっていません。 韓国は昭和25年の朝鮮戦争のときと同じように、有事になれば日本の後方支援をあてにしなければならないのですが、自国が安全保障上かなり危機的な状況に陥っている現状においても、日本に対して連携を深めるどころか、あえて敵に回すような行動をとる様は我々日本人には理解し難いところです。しかし、これには彼らなりの理由があると思われるので、それについて考えてみることにします。南北の軍事境界線がある韓国・板門店を視察する宋永武国防相、 マティス米国防長官ら=2017年10月27日(共同) まず、大韓民国にとっての朝鮮民主主義人民共和国(北朝鮮)を一言でいえば敵です。大韓民国憲法第3条において「大韓民国の領土は、韓半島およびその附属島嶼(とうしょ)とする」とうたっている以上、韓半島の北半分に居住する住民もまた大韓民国国民であり、そこを統治している北朝鮮は韓国にとって憲法上、自国の領土を不法に占拠する反国家団体ということになります。 つまり、韓国政府には、北朝鮮の圧政よる人権弾圧や飢えなどに苦しむ自国民を救うために北朝鮮政府を打倒する義務が道義的だけではなく法的にもあるのです。  実際に朝鮮戦争を経験した軍人大統領が国を治めていたころは、多くの国民が「北朝鮮や共産主義は敵である」と認識していましたが、政権が軍事独裁から民主化されると人権擁護の名のもと、国家保安法の見直し運動が活発になるなど政府の強権的なスパイ取り締まりが批判されるようになりました。 金大中政権のときには対北強硬派の牙城であった国家安全企画部が国家情報院に改編縮小されたりするなど、韓国ではだんだんと対北朝鮮強硬路線が緩和されてきました。一方の北朝鮮は一貫して日米韓を敵性国家とみなし続け、韓国だけではなく日本に対しては拉致という卑劣な手段で攻撃を行い、アメリカに対抗するため核と弾道ミサイルの開発を着々と進め現在に至っています。 つまり指導者の代替わりがあっても一貫して自国主導での半島統一を目標に軍備増強に励んでいた北朝鮮に対して、韓国は金泳三、金大中、盧武鉉の3人の大統領が親北政策を続けた結果、いつの間にか北朝鮮は打ち倒すべき敵性国家から共存共栄する対象になってしまったのです。 韓国の国民も自国が一応の民主化を果たし、経済的には経済協力開発機構(OECD)に加盟して先進国を名乗るようになって現状に満足するようになったのか、北朝鮮の貧困が明らかになるにつれ、東西ドイツが統合したときの西ドイツのように、自らは経済的負担を負いたくないという心理から、口先では統一を唱えるも実際には統一そのものを忌避して現状維持を望む人が多くなりました。 それどころか、長年の北朝鮮の工作や親北教育が浸透した結果、朝鮮戦争で韓国が北朝鮮と戦ったことを知らない若者が増えるだけではなく、欧州における東西冷戦終結や中国の改革開放路線の影響を受け「共産主義の脅威は去った」と多くの韓国国民は油断してしまいました。そして反共思想が下火になる一方で、同一民族に対する同胞意識が事あるごとに強調され北朝鮮にシンパシーを感じる人が多くなり、北朝鮮と現在も戦争中(休戦中)であることを忘れたのか、北朝鮮を脅威と感じる人が少なくなりました。 その結果が、対北強硬姿勢を打ち出した朴槿恵大統領がクーデターのような形で罷免逮捕され、その後継に親北派の文在寅氏が大統領に選出されるという現象です。とはいえ、さすがにここまで北朝鮮が挑発してくると、対外的に韓国政府としても何らかの対応を取らねばならないような状況になってきたのですが、文大統領は、いまだに北朝鮮との対立姿勢を明確にしていません。反日は北の脅威を隠すため? 国内的にも、いくら親北派が増えたとはいえ、対話ありきでいつまでも北朝鮮に対して強硬的な態度をとろうとしない現政権に疑問を持つ国民は少なくなくありません。 政府に対する批判の声が上がりそうになってきたので、困ったときの日本頼みと「日韓合意の見直し」や「徴用工の個人請求権」に関して大統領自身が発言するなど「愛国反日運動」を政府主導で盛り上げて北朝鮮の脅威から国民の目をそらそうとしているのが、一連の反日運動の本質ではないでしょうか。 北朝鮮に対して抗議や示威的な行動をとれば、相手が反撃をしてくるので本格的な武力衝突が起こりかねませんが、日本には何をしても「遺憾の意」を表明するのが関の山ですからノーリスクであり、何よりも日本をたたくことに関しては全国民が一致するので、やらない理由が見つかりません。 つまり韓国は自己保身のため、本当に奪還しなければいけない朝鮮半島の北半分の領土と、そこに抑留され苦しんでいる同胞を放っておいて、現実から逃避するためにありもしなかったでっち上げた話をもとに日本にからんできているのです。 その証拠に韓国の政治家や芸能人の大半は何ら危険のない竹島に上陸しても、生命の危険がある38度線には行きません。戦争をしたことのない日本に対して根拠のない謝罪や賠償を求めても、突然侵略されて、あれほど多くの罪もない自国民が殺された朝鮮戦争に関しては何も言いません。 虚偽の映画を作ってありもしなかった強制連行を理由に日本を非難しても、日本以上に多い北朝鮮に強制的に拉致された被害者を取り戻そうとはしません。このように何をしても反撃してこない日本に対しては傍若無人に振る舞う韓国も、やられたらやり返してくる北朝鮮に対しては弱腰で何もできないのです。朝鮮戦争の激戦地跡を視察する金正日書記(左から2人目)=1997年4月  実際に戦争をしたことのない日本に対して根拠のない謝罪や賠償を求めても、突然侵略されて、あれほど多くの罪もない自国民が殺された朝鮮戦争に関しては何も言いません。虚偽の映画を作ってありもしなかった強制連行を理由に日本を非難しても、日本以上に多い北朝鮮に今なお抑留されている拉致被害者を取り戻そうとはしません。このように何をしても反撃してこない日本に対しては傍若無人に振る舞う韓国も、やられたらやり返してくる北朝鮮に対しては弱腰で何もできないのです。 韓国は北方限界線(NLL)付近で偶発的に起こったと思われる小規模な戦闘や、自国の領土に攻め入られたときは反撃していますが、「ラングーン事件」や「大韓航空機爆破事件」に代表される大規模テロに対しては、多くの国民を殺されても目に見える反撃をしていません。 記憶に新しいところでは2010年に、自国の海軍艦艇が北朝鮮に撃沈され何十名もの将兵が殺されたときも、自国が北朝鮮との武力衝突に巻き込まれることを嫌ったアメリカの圧力があったのかもしれませんが、何もしませんでした。 これらの事例を見れば、いかに韓国が北朝鮮と事を構えたくないと思っているかということがわかります。朝鮮戦争を忘れたのか? 日本も人のことを言えた義理ではありませんが、これだけ北朝鮮が核やミサイル実験を繰り返しているのですから、インドが核武装したときのパキスタンのように韓国も核武装してもおかしくないのです。マスコミや野党の一部、最近では政府内にもアメリカの核の再配備など自国の核武装を求める声が出ていますが、肝心の大統領府は全面的にそれを否定しています。 もし同じ民族に対して核を使うはずがないというような根拠のないナイーブな幻想を抱いているとしたら、大間抜けとしか言いようがありません。朝鮮戦争で何百万人の自国民が彼らに殺され、今なおどれだけの家族が引き裂かれたままになっているのか忘れてしまったのでしょうか。ソウルで韓国の母親と対面する北朝鮮の男性=2001年2月  結局、彼らは口先では「我が民族」「我が同胞」などと綺麗(きれい)ごとを言っていますが、自己の繁栄を維持したいがために、北で抑圧されている二千数百万人の同胞を見殺しにしているのです。本来、彼らが救わねばならないのは静かな余生を送っているはずの自称従軍慰安婦や元徴用工ではなく、今も北で抑圧されている「我が民族」「我が同胞」なのです。 その事実に直面したくない政府、マスコミが国民の目線を日本に向けて憎しみをあおり、保守派と呼ばれる勢力が一部の人を除いて北朝鮮との衝突を避けたいため、それに同調するだけでなく、保守派と敵対する親北勢力も日韓離反工作のために同調する訳ですから、国を挙げての反日運動となるのです。 一般国民の多くも、あえて危険な北朝鮮と敵対するより、援助はしても攻撃はしてこない日本を一方的に叩く方が楽で適度に愛国心を満たしてくれるので、大勢に従っているのが現状です。要するに日本は朝鮮民族同士の内紛の出汁(だし)に使われているのです。 こんな人たちに日本がいつまでも付き合う必要はないのですが、日本としては安全保障上、韓国が北朝鮮ひいては中共との防波堤であった方が都合が良いのもまた現実です。そのためには、日本が北朝鮮よりも怖いと思わせるとともに、真の敵が北朝鮮であることを分からせ、今までのような謝罪や援助を一切止めて韓国の自立心を育てなければなりません。 そして、韓国の「日本に対して何をしても、日本が我々を見捨てることはない」というような甘えた考えも改めてもらう必要があります。元寇に匹敵する脅威 韓国は日本が北朝鮮と手を組むことはあり得ないと高をくくっているようですが、日本には北朝鮮シンパが多いことや、最近の韓国の度を越した反日行為にうんざりしている国民がかなり増えてきていること、北朝鮮に対するアメリカの腰の引けた態度などを勘案すれば、拉致問題さえ解決すれば日朝間に国交が樹立され、朝鮮半島有事の際に日本が韓国側に立たないことも十分あり得ます。 そういうことも含めて、日本がいつまでも韓国に友好的な態度をとる保証はないことを、彼らに認識させることが外務省の役割であり、友好ありきの外交姿勢を改める必要があります。 さらに外交政策の転換に合わせて防衛政策も見直す必要があります。早急にやるべきは、在韓邦人の速やかな撤退作戦の立案訓練、対馬(つしま)海峡に38度線が下りてくることを想定した部隊配置などの朝鮮有事への備えです。いま日本は「白村江(はくすきのえ)の戦い」「元寇(げんこう)」「大東亜戦争」に匹敵する国土侵略の危機が迫っていることを自覚せねばなりません。 当然、北朝鮮だけではなく中共による侵略への備えも怠ってはならないことは言うまでもありません。中長期的にはアメリカ頼みの主体性のない国防姿勢を改め「自分の国は自分で守る」という、ごく当たり前のことを憲法改正を含めて実践する必要がありますが、70年以上さぼってきたツケは重く、かなりの困難が予想されます。しかし、それは我が国が今後も独立国として生き残っていくためには避けて通れない道です。あまり期待してはいけませんが、そうやって日本の本気度を見せれば韓国も事態の深刻さを理解して日本に対する態度を改めるかもしれません。会談前に韓国の文在寅大統領(右)と握手する安倍首相 =2017年9月7日、ウラジオストク(共同) 日韓が国交を結んでから韓国は日本に対してやりたい放題、日本がひたすらそれに耐えるという関係でしたが、近年、多くの日本国民は歴史の真実を知るとともに、それにうんざりしてきています。夫婦関係も長年我慢してきた妻が夫の定年を機に離婚を切り出す熟年離婚のように、我慢を重ねてきた方が切れてしまえば、あっけなく終わってしまいます。 日本と韓国との関係も、そうならないように正すべきところは、たとえ一時的に波風が立とうとも直言し、突き放すところはきちんと突き放すべきなのです。 いつまでも韓国が一方的に日本に対して好き放題やり、日本がそれに耐えるというような不適切な関係を続けていくことは日韓両国にとって良いことではありません。 わが国は明治以来、朝鮮半島を自国の防波堤にすべく、日清日露の大戦を戦って多くの血を流しました。日韓併合後は多額の資金を投入するなど大変な苦労を重ねましたが、その結果はどうなったでしょうか。これらのことを踏まえた上で、いま一度朝鮮半島との付き合い方を考え直す必要があるのではないでしょうか。

  • Thumbnail

    テーマ

    韓国人は今も「南北統一」を望んでいるのか

    力かで揺れる国際社会は解決の糸口すら見いだせず、米朝の緊張関係は長引くばかりである。では、この現状を韓国はどう受け止めているのか。iRONNAの韓国リポート第二弾は「南北統一」。韓国社会の底流を読む。

  • Thumbnail

    記事

    【徹底比較】韓国と北朝鮮の陸海空戦力はこんなにも違った!

    鍛冶俊樹(軍事ジャーナリスト) 少し前のことだが、インターネット上で日本の自衛隊と韓国軍の実力の比較が話題になったことがある。何事につけ日本をライバル視する韓国であるから、こうした比較は出るべくして出たとも言えよう。 韓国の本年度の国防費は約4兆円、日本の防衛費は約5兆円、総兵力は韓国約63万人に対し日本は約25万人、韓国は徴兵制で日本は志願兵制、韓国が陸軍重視で日本は海空重視という対比は地政学的に見て確かに興味深い。 しかしながら、日韓はともに米国の同盟国であり、米国の圧倒的な軍事力を背景にして東アジアの平和と安定に寄与しているという現実を踏まえれば、「日韓戦わば」などという想定はサッカーならともかく軍事的には意味をなさない。軍隊の実力は、仮想敵との対比で測られる。ならば韓国軍の仮想敵は北朝鮮軍なのであり、韓国の実力は北朝鮮軍との対比によって明らかになるはずである。 韓国軍と北朝鮮軍は南北軍事境界線、通称38度線を挟んで対峙(たいじ)している。北朝鮮の総兵力約119万人のうち陸軍が102万人、韓国の63万人のうち陸軍は約50万人を占めていることから明らかなように、両軍は陸上戦に最重点を置いている。 陸上戦において最も有効な兵器は戦車であり、北朝鮮は約3500両を有し、対する韓国は約2400両である。ちなみに日本の陸上自衛隊の兵力は約15万人、戦車約300両であるから、南北両国の陸上戦にかける意気込みが計られよう。 北朝鮮が兵力、戦車数ともに韓国を凌駕(りょうが)しているが、韓国側は兵器の質の高さによって量の劣勢を補っていると考えられる。もちろん韓国には米軍基地があり、有事となれば米軍が補充されるわけであるが、補充されるまでの間は韓国軍が持ちこたえなければならないのである。 このことは戦車の内訳からも裏付けられる。北朝鮮で主力をなしている戦車は1960年代に旧ソ連で開発されたT62であるが、韓国の主力戦車K1は、韓国の国産で1988年に配備が開始されている。つまり韓国の方が新型なのである。 だがここで、賢明な読者は疑問を抱くだろう。「確かに1960年代に開発されたT62は旧式という他ないが、1988年配備のK1も既に30年近くたっておりもはや新式とはいえないではないか? 2000年以降に新式を開発していないのはいかなる訳か?」 この疑問は実は問題の本質を突いている。日本は韓国がK1配備を開始した2年後の1990年に90式戦車を配備し始め、2010年には10式戦車を配備し始めた。定期的に新型を開発して国産技術の維持向上に努めているわけだ。訓練中のK2戦車(韓国陸軍ホームページより) 実は韓国も2011年にはK2戦車の配備を始める計画だった。ところが現在に至ってもK2戦車は完成していない。技術的な問題を克服するのにまだ時間を要すると思われる。そしてこの開発の遅れは韓国にとって致命的なのである。北朝鮮が手にする「切り札」 韓国のK1戦車の主砲の口径は105ミリである。北朝鮮のT62戦車の主砲の口径は115ミリである。主砲の射程と威力は口径に比例するから、口径の小さな戦車が勝てる公算は極めて低い。端的に言えば、K1は後発であるにもかかわらずT62にかなわないのである。 1980年代以降、世界的に主力戦車の主砲の口径は120ミリが主流となっており、日本の90式戦車の主砲の口径も120ミリであるが、韓国は当時、それだけの技術水準に達していなかったのである。 そこで1990年代に韓国はK1の車体はそのままにして、主砲だけ120ミリに置き換えたK1A1戦車を開発した。だが、主砲だけ大きくなってしまった結果、かえって使い勝手が悪くなり性能は全体として劣化した。 つまり1990年代において、韓国は北朝鮮に戦車戦で勝てる自信が持てなかったのである。もちろん戦争は戦車だけで勝敗が決まるものではない。特に現代戦においては航空戦力が決定的な役割を演じているのは周知の事実だ。 韓国は1980年代から米国製戦闘機F16を導入していた。北朝鮮空軍の主力は現在においても1960年代に旧ソ連で開発されたミグ21である。この戦闘機は旧ソ連の誇る傑作機ではあるが、1980年代においては完全に旧式である。 1970年代における旧ソ連の新式であるミグ23も導入されているが、F16の敵ではないことが1982年のレバノン紛争で立証されてしまっている。1980年代における旧ソ連の新式であるミグ29も導入されているが、機数が少なく主力をなすに至っていない。 1990年代において、韓国の航空戦力は北朝鮮の航空戦力を圧倒していると言ってよく、それは現在でも同様である。2010年代の現在、米国の第4世代型の最優秀機といわれたF15戦闘機の韓国版F15Kを配備しており、第5世代型のF35も導入の予定である。 したがって、仮に北朝鮮軍がT62戦車を先頭に韓国に侵入したとしても、韓国の航空戦力によって撃退が可能である。意外なことに陸軍重視であるはずの韓国陸軍は北朝鮮の陸軍にかなわず、空軍によって辛うじて守られているのである。 航空戦力における韓国の優位を強調したが、実は航空戦力の中には弾道ミサイルも含まれる。北朝鮮が弾道ミサイルの実験を繰り返して技術の向上は否定すべくもないが、韓国も優秀な弾道ミサイルを開発しており、北朝鮮のほぼ全域を射程に収めている。2017年9月4日早朝に実施された韓国軍の弾道ミサイル発射訓練(韓国国防省提供・共同) しかし、弾道ミサイルの威力は弾頭の種類によって決まり、通常弾頭と核弾頭では威力に圧倒的な差がある。北朝鮮が核ミサイルを完成しつつある現在において、韓国も核弾頭を必要としているのは間違いない。 韓国海軍は北朝鮮が保有していないイージス艦を保有している。イージス艦はミサイル防衛のために有効な艦種であるが、韓国海軍は技術の蓄積が未熟であり、有効に機能しているとは言い難い。今後の改良が待たれる。

  • Thumbnail

    記事

    「電磁波でガンになる」THAAD配備地で見た韓国反対運動の現実

    古谷経衡(文筆家) 韓国慶州北道星州(ソンジュ)郡―。ウリ畑が広がる韓国の典型的な田園地帯が、にわかに脚光を浴びるようになったのは、この地にTHAAD(高高度防衛ミサイル)の配備が決定され、住民を巻き込んだ熾烈な反対運動が展開されたことが契機であった。私は星州の山間部の土地にTHAAD一式が持ち込まれて数カ月後の2017年5月、いまだ頑強な反対運動に揺れる現地を訪れた。 この土地は元来ロッテ財閥の有するゴルフ場で、それがTHAAD配備へ提供されたものだから、一時期中国ではロッテ社製品の不買運動も起こったほどである。THAADはその索敵範囲が中国本土へ奥深く食い込むことから、星州への配備を警戒する中国民衆の怒りを買ったものだった。 星州は牧歌的な農村で、ソウルからKTX(韓国高速鉄道)で2時間半といったところにある。全住民は100世帯2、3百人といったところ。この集落の公民館は、事実上、韓国全土から駆け付けたTHAAD反対派の根城となって久しい。星州に入ると、いたるところに米軍ミサイル反対、平和、戦争反対の横断幕が翻っている。中心になっているのは韓国国内の労組や、左派系市民団体。多くがソウルやプサンなど地元以外の大都市からの「出張」である。韓国・星州のTHAAD配備地近くに掲げられた反対派の横断幕 すわ私の脳裏に、沖縄・高江におけるヘリパッド反対運動がデジャヴした。高江もその人口140人ほどの集落に、県内外から反対派が集まってヘリパッド反対、平和、戦争反対の横断幕が広がっている。が、伝統的に労組の組織動員に一糸乱れぬ組織力を発揮する星州の方が、その規模とスケールにおいて高江に3倍するものと見えた。 通訳を従えて反対派や移民の話を聞いた。反対派が口をそろえて曰く「THAADは中国との要らぬ摩擦をもたらす」「米軍の世界戦略の犠牲になっている」。一方、北の脅威に対しての抑止力としてのTHAADへの評価は「THAADは戦術的に無意味」「THAADではなく対話によって北(北韓)との問題を解決すべき」と判を押したように回答が返ってきた。 では、公民館を反対派に占拠された地元住民はどう考えているのか。結論から言えば、驚いたことにほとんどの地元住民がTHAAD配備に反対であった。 まず、地元住民曰く、「THAAD配備に際して国や自治体から何の説明もなく、また補償金や迷惑料などの支払いもない」。住民はTHAAD云々などよりも、地元への説明なしに配備を強行した朴政権(当時)に怒り心頭といったご様子。 また、こんな意見も住民から多く上がった。「THAADから発せられる電磁波が人体に悪い影響を与えると聞いてすごく心配」。おそらく、THAADに付属する高機能レーダーから発せられるある種の電波の類が、人体に悪影響を与えるという疑似科学の部類だろうが、地元住民の多くがTHAAD反対理由の大きな一つとして「電磁波による悪影響」を上げていた。なんでも「THAADが発する電波によってガンになる」と喧伝する学者が講演会に来た影響もあるとか。 THAADに付随するレーダーは、在日米軍により日本に配備されているXバンドレーダーと基本的には同じものだ。このXバンドレーダーがある青森県つがる市の車力(しゃりき)や京都府京丹後市の経ヶ岬(きょうがみさき)では「電磁波による健康被害」など、私は寡聞にして聞かないのであるが…。沖縄・高江と星州のちがい また、THAADが配備されている旧ゴルフ場に続く山道は韓国警察によって閉鎖されていたが、その眼前で尼僧2人が座り込みを続けているのが印象的であった。話を聞くと、なんでもこの山は韓国の仏教系新宗教「円仏教」(えんぶつきよう=圓佛教)の聖地だとか。「わが教団の聖地が、米軍のミサイルによって穢されているとはけしからん」という理屈で、宗教勢力からもTHAAD反対の助っ人が訪れている。山奥にあるロッテのゴルフ場にTHAADが配備されたことで、山全体が立ち入り禁止となり、円仏教の信者が聖地に入ることができなくなったことに、尼僧らは座り込みのハンガーストライキを継続しているらしい。 私が星州を訪れた全体的な印象は、沖縄・高江に似ていると書いたが、一つだけ大きな違いを記さねばならない。高江の場合、反対派は終始、外部からの質問や取材にのっけから警戒の色で反応する。中にはこちらのあいさつもけんもほろろに「あんた、どこの新聞」「はい、まずはお宅の名刺出して」「指定されたとこ以外勝手に撮らないで」などと友好的態度とは程遠い、えも言えぬギスギスした反応を露骨にされたものだ。韓国・星州の配備予定地に搬入されたTHAADのミサイル発射台(聯合=共同) それに比して星州のそれは極めて開放的で笑顔が絶えず、私が日本から取材できたことを告げると「ぜひ星州の実態を日本でも伝えてほしい」とウェルカムの融和的態度一辺倒で迎えられ、「日本ではTHAADの問題はどう報じられているのか」などの逆質問を浴びせられた点が印象的であった。 高江と星州。同じ米軍基地・施設への反対運動でも、こうも極端に閉鎖と開放のツートンが際立つものだろうか。高江の活動家はよほど、ネットでの中傷に敏感になっているのだろうか、つっけんどんで陰鬱な空気が支配する。 一方、星州は外部に開かれており、ちょうど私が集落の公民館(反対派拠点)を訪れた際も、欧米のフリーランス記者と思われる数人が訪問中であった。私が訪れたのは日曜日であったが、毎週末には炊き出しや演奏なども行われるという。 朴槿恵退陣を求める市民大集会も韓国左派が主導したが、そこでも反対派は一糸乱れぬ統率が目立ち、大統領官邸前には特設の野外ステージが開かれ、韓国内の著名歌手が舞台に立って謳う。老齢化し、「〇〇県教祖」とか「〇〇労組」の一揆にも似たむしろ旗ばかりが目立つ陳腐化した日本の左派集会とはスケールも、洗練性も数段違うのが韓国の左派運動である。 ただし、対北への姿勢を聞くと「対話で…」「話し合いで…」と判を押したように回答する反対派の弁には、やや釈然としない陳腐さを感じたのもまた事実である。

  • Thumbnail

    記事

    文政権の対北融和政策に韓国人「北を利するだけで利点なし」

     韓国政府から見捨てられた人々の怒りが、文在寅政権を誕生させた。そして今、彼らは国の行く末についてどのような思いを抱いているのか。膠着する日韓関係をどのように見ているのか。新聞やテレビでは報じられない肉声を現地で聞いた。 文在寅新大統領が誕生した直後の5月中旬、本誌・SAPIO取材班は韓国の首都・ソウルと近郊都市で10日間に亘る現地取材を敢行した。市井の人々、とりわけ現在の韓国社会の中で不満を抱えている人々の生の声を聞きたいと考えた。彼らの怒りが文在寅大統領の出現を後押ししたと考えられるからだ。 大統領選中は、保守勢力から「北朝鮮シンパ」と激しく糾弾され続けてきた文氏だが、蓋を開けてみれば大統領就任後の支持率は81.6%(5月15~19日、韓国リアルメーター調査)と歴代政権で最高を記録している。 本誌の街頭インタビューでも、「庶民派大統領の誕生を心から嬉しく思う」(60代女性)、「文大統領なら弱者のための政治をしてくれるだろう」(70代男性)、「クリーンなイメージのとおり、腐敗した政治勢力を一掃してくれるのではないか」(50代男性)と新政権に期待する声が多数を占めた。 ただし、少し深掘りして話を聞くと「文大統領を応援はするが、信用はしていない」(60代男性)、「文大統領の政治は韓国をより悪くするかもしれない」(30代女性)という本音が聞こえ始めた。中でも目立ったのが、北朝鮮を巡る安全保障と外交政策を不安視する声だ。 ソウル市鍾路区のパゴダ公園付近で炊き出しの列に並んでいた70代男性は、「文大統領には頑張ってもらいたい」とエールを送りつつ、対北宥和政策についてこう苦言を呈した。「韓国が北朝鮮に接近し米国と距離を置くのは極めて危険。文大統領は中国の顔色を窺いTHAAD配備の見直しを視野に入れているが、とんでもないことです」 本誌取材中も、北は2度に亘り弾道ミサイルを発射。朝鮮戦争を体験した世代は、差し迫る北の脅威に警戒感を隠せない様子だった。 一方で、対北宥和政策による韓国経済のさらなる疲弊を懸念する人々もいた。「私は文氏には投票しませんでした。韓国の経済状況を考えれば、北を支援する余裕などないはず」(60代女性・タクシードライバー) 文大統領の対北宥和政策が、かつて金大中・盧武鉉両大統領が行った“太陽政策”と同様に「北を利するだけでメリットがない」と考える韓国国民は少なくないようだった。関連記事■ SAPIO人気連載・業田良家4コマ「北にそっくり」■ SAPIO人気連載・業田良家4コマ漫画【1/2】「根拠のないデマ」■ 韓国人「私が日本人なら安倍首相を頼もしく感じるだろう」■ 伊勢志摩サミットを逃せば日韓関係に当面修復のチャンスなし■ SAPIO人気連載・業田良家4コマ漫画「鏡のない国のパク」

  • Thumbnail

    記事

    中国内に「韓国による朝鮮半島の統一」を求める声

    「北朝鮮は米国に次ぐ、第2の仮想敵だ」「韓国が朝鮮半島を統一した方が中国に有益」──。中国は激しい北朝鮮批判を続けている。もはや「血で塗り固められた友誼」は存在せず、国境をはさんで両軍が対峙。このままでは、米朝より先に、中朝戦争が勃発する可能性も指摘されている。ジャーナリストの相馬勝氏がレポートする。* * *「北朝鮮=仮想敵」論をいち早く発表してきたのが、上海の華東師範大学国際冷戦史研究センター主任の沈志華教授だ。沈教授はソ連邦崩壊でロシアが混乱していた1994年、個人資産を投じて、ロシア政府から朝鮮戦争時のスターリンや毛沢東、金日成主席が交わした公電やその後の中朝ソ3か国が取り交わした秘密文書などのコピー数万部を入手し、翻訳や解読を行った。 その研究成果の一部が同大のホームページ上で公開されている。それは今年3月、大連外国語大学で行った講演録で、約2万3000字に及ぶ長大な論文だ。そこには中朝関係の秘話が満載されている。 たとえば、朝鮮戦争後の1958年、中国の義勇軍が北朝鮮から撤退する際、毛沢東は金日成と会談し、「もし、再度戦争するようなことがあれば、中国の東北部を北朝鮮に譲っても良い」と発言した。毛の真意は「戦争で北朝鮮が窮地に陥った際、北朝鮮軍は東北地方を拠点にして戦ってもよい」ということだと教授は語る。(iStock) この言葉を言質として、2001年に訪中した金正日総書記が中国側に「東北部を『視察』したい」と申し出た。中国側は「外国首脳が(東北部に)行くなら、『訪問』であって、『視察』ではない」と異議を唱えたが、金総書記は「父親の金日成が生前『毛沢東主席は東北部を北朝鮮に譲った』と話していた」と反論した。 江沢民指導部はすぐに、中国共産党中央対外連絡部の朱良部長(当時)に調べさせた。「たしかに金親子が毛沢東発言について自分たちに都合の良い部分だけを取ったのだが、事実だったことは間違いない」と教授は明かした。「このような解釈を行う北朝鮮こそ、中国の潜在的な敵だ。北朝鮮は中国の広大な領土を求めるという野心を持ち続けているのだ」と教授は憤る。 また、北朝鮮が中国に敵対的な態度をとるようになったのは1992年8月、中国の最高実力者、トウ小平が金日成の反対を押し切って、中韓の外交関係を樹立してからで、この後、金日成は核兵器開発に着手し、金正日から、いまの金正恩指導部に引き継がれている。なぜ「北朝鮮=潜在敵」なのか「中国の核心的利益の一つは『東北アジア域内の平和的環境であり、中国の経済発展の持続』だが、北朝鮮は核開発に突き進み、域内の平和的環境を崩そうとしているのは明らかだ。もはや、この時点で北朝鮮は『潜在敵』であり、逆に韓国は『潜在的な友人』で、この結果、中朝友好協力相互援助条約は一片の紙屑でしかなくなった」と教授は指摘する。 さらに、教授は「朝鮮半島の統一は中国にとって脅威だろうか」との疑問を呈し、「一般的に中国は米韓による朝鮮半島の統一よりは、北朝鮮が存続し続け、南北朝鮮が対立している現状の維持を望んでいる」との説に反論。韓国は潜在的な友好国なのだから、「韓国が朝鮮半島を統一した方が、中国にとって有益だ」と力説する。「なぜならば、韓国による朝鮮半島の統一によって、韓国と国境を接することになる中国東北部に韓国資本が流入し、東北部の経済発展を促進することになるからだ」と分析している。 このような教授の「北朝鮮=潜在敵」論は、米国の朝鮮半島問題専門家で、ブッシュ政権当時の国家安全保障会議(NSC)アジア部長を務めたビクター・チャ米戦略国際問題研究所(CSIS)担当部長にも支持されている。チャ氏は今年4月25日、米上院アジア太平洋の政策と戦略に関する軍事問題公聴会で次のように証言した。「北朝鮮は1994年から2008年の間に16回のミサイル発射実験および1回の核実験を行った。09年1月からこれ(今年4月25日現在)まで71回のミサイル実験および4回の核実験を実施した」と語り、核開発は近年、急ピッチで進められていると強調。とくに09年以降、北朝鮮は中国などとの話し合いにも応じておらず、「核開発中止に関して話し合いをする気がないことを示している」と断定する。チャ氏は「13年には中国側の窓口役を務めた張成沢氏を処刑して、中国とのパイプを絶った。これは金正恩委員長が中国を敵視している証拠だ」と鋭く指摘している。(iStock) 沈教授も米紙「ニューヨーク・タイムズ」の取材に対して、「もし、北朝鮮が核開発を完了すれば、世界は北朝鮮の独裁者の足下にひれ伏さなければならなくなるだろう。膠着状態が続けば続くほど、北朝鮮に有利になる」と分析。そのうえで、教授は「もし、北京とワシントンの政治的な協力が失敗し、北朝鮮の核開発の野望を封じ込められなければ、米中両国政府は対北朝鮮軍事オプションを前提とした協力体制を敷くべきだ」と強調している。●そうま・まさる/1956年生まれ。東京外国語大学中国語学科卒業。産経新聞外信部記者、香港支局長、米ハーバード大学でニーマン特別ジャーナリズム研究員等を経て、2010年に退社し、フリーに。『中国共産党に消された人々』、「茅沢勤」のペンネームで『習近平の正体』(いずれも小学館刊)など著書多数。近著に『習近平の「反日」作戦』(小学館刊)。関連記事■ 麻央さん娘・麗禾ちゃん 明るく振る舞う姿に周囲が心痛める■ 小泉孝太郎、気遣い上手な女性と交際 本人は直撃に認める■ 熱愛発覚の小泉孝太郎 本人直撃時の一問一答を全文掲載■ 旭日旗批判は韓国人にとって先祖の行いを批判・侮辱する行為■ 恋愛、結婚、そして就職も諦め 韓国「七放世代」の悲鳴

  • Thumbnail

    記事

    徴用工「残酷物語」は韓国ではなく日本が生んだイメージだった

    西岡力(麗澤大学客員教授、「救う会」全国協議会会長)ソウルの韓国大統領府で記者会見する 文在寅大統領=2017年8月(共同) 文在寅韓国大統領が8月17日の記者会見で、日本統治時代に徴用されて働いた徴用工問題で、個人の賠償請求を認めた韓国裁判所の立場を支持する考えを示した。文氏は「(徴用工問題を解決した政府間の)両国合意は個人の権利を侵害できない。政府はその立場から歴史認識問題に臨んでいる」と語った。 その後、安倍首相との電話会談で国家対国家の請求権処理は終わっているという立場を表明したというが、文在寅大統領発言は1965年に作られた日韓国交正常化の枠組みを根底から覆しかねない危険性を含んでいる。 わが国政府は、徴用による労働動員は当時、日本国民だった朝鮮人に合法的に課されたものであって、不法なものではなかったと繰り返し主張している。しかし、それだけでは国際広報として全く不十分だ。 韓国では映画『軍艦島』や新たに立てられた徴用工像などを使い、あたかも徴用工がナチスドイツのユダヤ人収容所のようなところで奴隷労働を強いられたかのような宣伝を活発に展開している。このままほっておくと、徴用工問題は第二の慰安婦問題となって虚偽宣伝でわが国の名誉がひどく傷つけられることになりかねない。官民が協力して当時の実態を事実に即して広報して、韓国側の虚偽宣伝に反論しなければならない。 国家総動員法にもとづき朝鮮半島から内地(樺太など含む)への労働動員が始まったのは1939年である。同年9月~41年までは、指定された地域で業者が希望者を集めた「募集」形式、42年12月~44年8月まではその募集が朝鮮総督府の「斡旋(あっせん)」により行われ、44年9月に国民徴用令が適用された。なお、45年3月末には関釜連絡船がほとんど途絶えたので、6カ月あまりの適用に終わった。 1960年代以降、日本国内の在日本朝鮮人総連合会(朝鮮総連)や日本人左派学者がこれら全体を「強制連行」と呼び始め、彼らの立場からの調査が続けられてきた。韓国でもまず学界がその影響を受け、次第にマスコミが強制連行を報じるようになった。 政府も盧武鉉政権時代の2004年に日帝強占下強制動員被害真相糾明委員会を設立した。ここで言われている「強制動員被害」とは、「満州事変から太平洋戦争に至る時期に日帝によって強制動員された軍人・軍属・労務者・慰安婦等の生活を強要された者がかぶった生命・身体・財産等の被害をいう」(日帝強占下強制動員被害真相糾明等に関する特別法)。同委員会は2010年に対日抗争期強制動員被害調査及び国外強制動員犠牲者等支援委員会となり、20万を超える被害申請について調査を実施した。徴用工問題は「日本発」だった まず、日本において問題提起がなされ、それが韓国の当事者を刺激し、運動が始まり、韓国マスコミが大きく取り上げ、韓国政府が動き始めるという慰安婦問題とほぼ同じパターンで事態が悪化している。日本の反日運動家と左派学者らは2005年、「強制動員真相究明ネットワーク」(共同代表飛田雄一、上杉聡、内海愛子)を結成して、韓国政府の調査を助けている。 共同代表の一人である内海愛子は、2000年の「女性国際戦犯法廷」で、東京裁判を「天皇の免責、植民地の欠落、性暴力の不処罰」を理由に批判した、代表的反日学者だ。彼らは、日本の朝鮮統治が国際法上、非合法であったという立場を日本政府に認めさせ、国家補償を実施することを目的とした大規模な反日運動を続けている。彼らはこう主張している。「強制連行がなかった」とする主張の根元には、植民地支配は正当なものであるという認識があります。日本による植民地支配は正当な支配であり、動員は合法的なものであるという考え方です。しかし、韓国では「韓国併合」を不法・不当ととらえており、日本に強制的に占領された時期としています。 まず、植民地として支配したことを反省することが大切でしょう。(略)強制的な動員は人道に反する不法行為でした。 強制連行は虚構や捏造(ねつぞう)ではありません。強制連行がなかったという宣伝じたいがプロパガンダであり、虚構や捏造です。 歴史学研究では、戦時に植民地・占領地から民衆の強制的動員がなされたことは歴史的事実として認知されています。歴史教科書にもそのような認識が反映され、植民地・占領地からの強制的な動員がなされたことが記されています。朝鮮人の強制連行はそのひとつなのです。 そして、2012年5月に韓国の大法院(最高裁判所)が「個人請求権は消えていない」と判定し、三菱重工業や新日本製鉄(現新日鉄住金)など日本企業は、徴用者に対する賠償責任があるとして原告敗訴判決の原審を破棄し、原告勝訴の趣旨で事件をそれぞれ釜山高裁とソウル高裁に差し戻すという、日韓基本条約秩序を根底から覆す判決を下したが、同ネットワークはその判決を強く支持して次のように主張する。 そこ(大法院判決・引用者補)では日本占領を不法な強制占領とし、そのような不法な支配下での動員法は大韓民国の憲法に相反するものとしています。そして、強制動員を不法なものとして、原告の個人の請求権は日韓請求権協定では消滅していないとしました。(略)つまり、強制動員は不法であり、個人の損害賠償請求権がある、会社には支払う義務がある、という判決を出したわけです。(略)韓国政府はもとより、日本企業もこの判決への対応が問われているのです。この判決に従っての問題解決が求められているわけです〉(同ネットワーク「朝鮮人強制連行Q&A」) 1965年の日韓基本条約体制を根元から覆そうとしている彼らこそ、本当の嫌韓・反韓派だ。したがって、国際広報の観点からすると、39~45年にかけての朝鮮人労働者の戦時動員全体像を正しく認識する必要がある。もっと言うと、日本の統治時代に朝鮮でどのような社会変化が起きたのかについても、事実を正しく研究し、日本の国益と日韓基本条約体制を守る立場から、しっかりした国際広報が必要なのだ。朝鮮人の戦時動員 韓国政府が対日歴史戦を公式に宣言したのが2005年、今から12年前だった。盧武鉉政府が同年3月「新韓日ドクトリン」を発表し、「最近の日本の一隅で起きている独島(竹島)や歴史についての一連の動きを、過去の植民地侵略を正当化しようとする意識が内在した重い問題と見て、断固として対処する」「我々の大義と正当性を国際社会に堂々と示すためあらゆる努力を払い、その過程で日本の態度変化を促す」と歴史認識と領土問題で日本を糾弾する外交を行うことを宣言した。 さらに大統領談話で「侵略と支配の歴史を正当化し、再び覇権主義を貫こうとする(日本)の意図をこれ以上放置できない」「外交戦争も辞さない」「この戦いは一日二日で終わる戦いではありません。持久戦です。どんな 困難であっても甘受するという悲壮な覚悟で臨み、しかし、体力消耗は最大限減らす知恵と余裕をもって、粘り強くやり抜かねばなりません」などと述べて、多額の国費を投じて東北アジア歴史財団を作る一方、全世界で日本非難の外交戦争を展開し、それが現在まで続いている。 日本は同年に戦後60年小泉談話を出して「侵略と植民地支配」に謝罪したが、日本の国益の立場から戦前の歴史的事実を研究し国際広報する体制を作るという問題意識を持たなかった。その上、日本国内では上記したように反日運動家らが韓国政府の反日歴史外交に全面的に協力する研究と広報体制を作り上げていた。平成17年8月、衆院を解散し、記者会見する小泉純一郎首相(当時) 私は同じ2005年、強い危機意識をもって『日韓「歴史問題」の真実 「朝鮮人強制連行」「慰安婦問題」を捏造したのは誰か』(PHP研究所)という本を書いた。しかし、ほとんど世の関心を集めることはなく同書は絶版となっている。 ここでその結論部分を紹介して、事実に基づく国際広報の一助としたい。 同書で私は、朝鮮人の戦時動員について大略こう書いた。 1939年の国家総動員法にもとづき「朝鮮人内地移送計画」が作られた。それに基づき、約63万人の朝鮮人労働者が朝鮮から日本内地(樺太と南洋を含む)に移送された。 ただし、そのうち契約が終了して帰還したり、契約途中で他の職場に移った者が多く、終戦時に動員現場にいたのは32万人だった。 それに加えて終戦時に軍人・軍属として約11万人が内地にいた。これらが朝鮮人の戦時動員だ。5年で108万人が渡航出願 動員が始まる前年1938年にすでに80万人の朝鮮人が内地にいた。動員が終わった45年には200万人が内地にいた。つまり、国家総動員法が施行された39~45年の間に内地の朝鮮人は120万人増加した。しかし、そのうち同法に基づく戦時動員労働者は32万人、軍人・軍属を加えても43万人だけだった。 つまり動員された者は動員期間増加分の3分の1にしか過ぎなかった。その約2倍、80万人近くは戦時動員期間中も続いた出稼ぎ移住だった。 終戦時内地にいた朝鮮人200万人のうち80%、160万人は自分の意志により内地で暮らす者らだった。 ちなみに、併合前の1909年末の内地の朝鮮人人口は790人程度だったから、日本統治時代35年間の結果、戦時動員された40万人の4倍にあたる160万人が自分の意志により内地で暮らしていた。朝鮮から内地へ巨大な人の流れがあった。この大部分は出稼ぎ移住だった。 当時の内地に多数の出稼ぎ移住を受け入れる労働力需要があったことだ。1935年末で5万人以上の人口を持つ都市は内地に87あったが、朝鮮にはわずか6しかなかった。その上、戦時動員期間には日本人男性が徴兵で払底していたことから、内地の肉体労働の賃金が高騰していた。内地の都市、工場、鉱山には働き口があり、旅費だけを準備すれば食べていけた。内地と朝鮮を頻繁に往復することができ、昭和に入ると毎年10万人を超える朝鮮人が往復した。まず、単身で渡航し、生活の基盤を築いて家族を呼び寄せる者も多かった。仁川市内で公開された徴用工像 日本語が未熟で低学歴の朝鮮農民が多数日本に渡航したことにより、日本社会と摩擦を起こした。また、不景気になると日本人労働者の職を奪ったり、低賃金を固定化するという弊害もあった。そのため、朝鮮から内地への渡航は総督府によって厳しく制限されていた。渡航証明書なしでは内地にわたれなかった。不正渡航者も多数いた。 総督府の統計によると、1933~37年の5年間、108万7500人から渡航出願が出され(再出願含む)、その60%にあたる65万人が不許可とされた。許可率は半分以下の40%だった。 不正渡航者も多かった。内地では不正渡航者を取り締まり、朝鮮に送還する措置を取っていた。これこそが強制連行だ。1930~42年まで13年間に内地で発見され朝鮮に送還された不正渡航者は合計3万3000人にのぼる。特に注目したいのは、戦時動員の始まった39~42年までの4年間で送還者が1万9000人、全体の57%だったことだ。むしろ動員期間に入り不正渡航者の送還が急増した。驚くべきことに、戦時動員開始後、動員対象者になりすまして「不正渡航」する者がかなりいた。朝鮮人の自由労働者たち 戦時動員は大きく二つの時期に分けられる。 1938年に国家総動員法が公布され、内地では39年から国民徴用令による動員が始まったが、朝鮮では徴用令は発動されず、39年9月~42年1月までは「募集」形式で動員が行われた。 戦争遂行に必要な石炭、鉱山などの事業主が厚生労働省の認可と朝鮮総督府の許可を得て、総督府の指定する地域で労働者を募集した。募集された労働者は、雇用主またはその代理者に引率されて集団的に渡航就労した。それによって、労働者は個別に渡航証明を取ることや、出発港で個別に渡航証明の検査を受けることがなくなり、個別渡航の困難さが大幅に解消した。一種の集団就職だった。 この募集の期間である1939~41年までに内地の朝鮮人人口は67万人増加した。そのうち、自然増(出生数マイナス死亡数)は8万人だから、朝鮮からの移住による増加分(移住数マイナス帰国数)は59万人だ。そのうち、募集による移住数は15万人(厚生省統計)だから、残り44万人が動員計画の外で個別に内地に渡航したことになる。つまり、39~41年の前期には、動員計画はほぼ失敗した。巨大な朝鮮から内地への出稼ぎの流れを戦争遂行のために統制するという動員計画の目的は達成できず、無秩序な内地への渡航が常態化した。動員数の3倍の労働者が職を求めて個別に内地に渡航したからだ。そのうちには正規の渡航証明を持たない不正渡航者も多数含まれていた。 動員の後期にあたる1942年から終戦までは、動員計画の外での個別渡航はほぼ姿を消した。前期の失敗をふまえて、戦時動員以外の職場に巨大な労働力が流れ込む状況を変えようと42年2月から、総督府の行政機関が前面に出る「官斡旋」方式の動員が開始されたからだ。 炭鉱や鉱山に加えて土建業、軍需工場などの事業主が総督府に必要な人員を申請し、総督府が道(日本の都道府県に相当)に、道はその下の行政単位である郡、面に割り当てを決めて動員を行った。一部ではかなり乱暴なやり方もあったようだが、その乱暴さとは、基本的には渡航したくない者を無理に連れてくるというケースよりは、個別渡航などで自分の行きたい職場を目指そうとしていた出稼ぎ労働者を、本人が行きたくなかった炭鉱などに送り込んだというケースが多かったのではないかと推測される。ソウルの韓国国会で開かれた集会で、自身の若いときの写真を掲げ被害を訴える元徴用工の男性(左) その結果、1942~45年の終戦までを見ると、動員達成率は80%まで上がった。また、同時期の内地朝鮮人人口の増加は53万7000人だったが、戦時動員数(厚生省統計)はその98%におよぶ52万人だった。この間の自然増の統計は不明だが、これまでの実績からすると年間3万人以上にはなっていたはずで、その分、戦時動員以外の渡航者が戦火を避けて朝鮮に帰ったのだと考えられる。 この期間は動員における統制がかなり厳しく機能していたように見える。しかし、実は計画通りには進んでいなかった。官斡旋で就労した者の多くが契約期間中に逃走していたからだ。1945年3月基準で動員労働者のうち逃亡者が37%、22万人にものぼっている。 この事実をもって、左派反日学者らは、労働現場が余りにも過酷だったからだと説明してきた。しかし、当時の史料を読み込むと、逃亡した労働者は朝鮮には帰らず、朝鮮人の親方の下で工事現場等の日雇い労働者になっていた。それを「自由労働者」と呼んでいた。また、2年間の契約が終了した労働者の多くも、帰国せずかつ動員現場での再契約を拒否して「自由労働者」となっていた。失敗だった戦時動員 官斡旋では逃亡を防ぐため、集められた労働者を50人から200人の隊に編制し、隊長その他の幹部を労働者の中から選び、団体で内地に渡航した。隊編制は炭鉱などに就労してからも維持され、各種の訓練も行われた。 しかし、実情は、動員先の炭鉱で働く意志のない者、すなわち渡航の手段として官斡旋を利用して、内地に着いたら隙を見て逃亡しようと考えている者が60%もいたという調査結果さえ残っている(『炭鉱における半島人の労務者』労働科学研究所1943年)。 1944年9月、戦局が悪化し空襲の危険がある内地への渡航希望者が減る中、朝鮮では軍属に限り1941年から適用されていた徴用令が全面的に発令された。また、すでに内地に渡航し動員現場にいた労働者らにもその場で徴用令がかけられ、逃亡を防ごうとした。しかし、先述の通り、終戦の際、動員現場にいた者は動員数の約半分以下の32万人(厚生省統計)だった。法的強制力を持つ徴用令もそれほど効果を上げられなかった。設置されたばかりの徴用工像=2017年8月、韓国・仁川市 つまり、官斡旋と徴用によるかなり強い強制力のある動員が実施されたこの時期でさえ、渡航後4割が逃亡したため、巨大な出稼ぎ労働者の流れを炭鉱などに送り込もうとした動員計画はうまく進まなかった。 国家総動員法に基づき立てられた「朝鮮人内地移送計画」は、放っておいても巨大な人の流れが朝鮮から内地に向かうという状況の中、戦争遂行に必要な産業に朝鮮の労働力を効率よく移送しようとする政策だった。しかし、その前期1939~41年までの募集の時期は、動員計画外で動員者の約3倍の個別渡航者が出現して計画は失敗し、後期42~45年までの官斡旋と徴用の時期は、個別渡航者はほとんどなくなったが、約4割が動員現場から逃亡して自由労働者になって、動員計画の外の職場で働いていたので、やはり計画は順調には進まなかった。全体として戦時動員は失敗だった。 一方、平和な農村からいやがる青年を無理やり連れて行って、奴隷のように酷使したという「強制連行」のイメージは1970年代以降、まず日本で作られ、それが韓国にも広がったもので、以上のような実態とは大きくかけ離れていた。

  • Thumbnail

    記事

    慰安婦より根深い「徴用工問題」を蒸し返した韓国の裏事情

    木村幹(神戸大学大学院国際協力研究科教授) 「韓国で新たな大統領になった文在寅(ムン・ジェイン)は左派の政治家だ。韓国の左派は中国にも近い反日勢力であり、反日政策を意図的に進めている。増え続ける慰安婦像や新たな徴用工像の設置はその表れであり、文在寅政権は各種社会勢力と結託して日本へ挑戦状をたたきつけようとしているのだ」 今日の韓国の状況を説明するのによく使われる「通俗的な」説明だ。そこでは、韓国の政治社会状況を左派と右派、韓国で使われる言葉を使えば「進歩」と「保守」に両分し、左派を「反日反米親北親中」勢力、逆に右派を相対的に「親日親米反北反中」勢力と断定した上で、「わかりやすく」韓国の状況が説明される。 このような論者は、歴史認識問題もまたその中に位置づける。つまり、歴史認識問題が激化するのは、中国や北朝鮮と結びついた左派の、組織的な策動の産物だと言うのである。 とはいえ、少し考えればわかるように、このような説明は明らかな破綻を抱えている。そもそも韓国の右派が単純に「親日親米反北反中」だといえないことを、われわれは朴槿惠(パク・クネ)政権から学んだはずである。当初、慰安婦問題で日本に強硬な姿勢を突きつけ首脳会談さえ長らく拒否した朴槿惠政権は、積極的に中国への接近も行った。結果、これを不快とする米国の反発に直面し、日韓慰安婦合意と高高度防衛ミサイル(THAAD)配備を押し付けられた。THAAD配備に向けた約束は中国の反発を呼び、中韓関係も悪化した。大統領府から退去し、自宅に到着した朴槿恵前大統領(中央)=2017年3月、韓国(共同) また、韓国の状況は、政権と各種市民団体が連携して「反日」政策を遂行する、というほど単純なものでもない。朴槿惠政権の反日政策が、例えば慰安婦像設置などを進める左派の市民団体「韓国挺身隊問題対策協議会(挺対協)」との密接な協力のもと行われたか、といえばそんな事実は存在しない。歴史認識問題に関心を持つ左派の諸団体は、2015年末の慰安婦合意に反対していたように、徹頭徹尾、朴槿惠政権への対決姿勢を貫いたからだ。挺対協は、同じ右派政権であった李明博(イ・ミョンバク)政権下で、日本にある朝鮮学校との関係を疑われ、幹部のメールに対する警察の捜査まで受けている。より複雑な第2の反日シンボル 右派の朴槿惠から代わって成立した文在寅政権下においても、状況が複雑にねじれているのは同様だ。とりわけ複雑なのが現在再び議論の的となっている徴用工をめぐる動きである。例えば慰安婦問題について言えば、左派の文在寅政権は同じく左派色の強い挺対協の理事の1人を大統領官邸に迎えるなど、良好な関係を築いているように見える。しかし、徴用工問題については同じことが言えない。なぜなら、そこには慰安婦問題よりもはるかに複雑で錯綜(さくそう)した状況が存在するからだ。韓国仁川市の公園に設置された徴用工の像=2017年8月(共同) 第一に重要なことは、この徴用工問題には左派、右派が入り乱れて参与する状況が存在することである。例えば先日、ソウル市内に徴用工像を設置した主体は、全国民主労働組合総連盟(民主労総)である。韓国のナショナルセンターに当たる労働組合組織は、この民主労総と韓国労働組合総連盟(韓国労総)の2つが存在する。民主労総はより闘争的な組織として知られているから、これについては左派的な組織の動きだと言って間違いではない。 しかしながら、この民主労総が文在寅政権が密接といえる関係を有しているかといえばそれは微妙である。例えば、北朝鮮による立て続けの核とミサイル実験を理由に、文在寅政権はTHAAD配備をなし崩しに進めている。しかし、この問題について民主労総は強い反発を見せている。そもそも韓国では、労働組合の主要政党への影響力は限定的であり、その関係も必ずしも円滑なものとは言えない。労組は彼らにとって重要だが、一つの基盤にしか過ぎないのである。徴用工像設立をめぐる動きの中で、むしろ歴史認識問題を利用して自らの存在を誇示しようという民主労組の思惑を読み取るべきであろう。 第二に重要なのは、徴用工問題では、「当事者」の力が大きいことである。この問題は第2次世界大戦時に労働者として動員された人々とその遺族が、失われた経済的補償を求めていることがその基盤となっており、当然、韓国各地で進められている裁判や徴用工像設置にはこれらの人々が深く関与している。とりわけ裁判は当事者なしには不可能であり、当然彼らの存在は重要になってくる。 ただそれだけなら徴用工問題と慰安婦問題は同じように見える。なぜなら、慰安婦問題においても元慰安婦であった当事者が存在するからである。しかしながら、慰安婦問題と徴用工問題の間にはいくつかの大きな違いが存在する。最も大きな違いは当事者の力 最も大きな違いは、慰安婦問題の運動の主導権を、挺対協をはじめとする「運動団体」が掌握していることである。誤解されがちであるが、挺対協は元慰安婦ら自身により構成される団体ではなく、あくまでその活動などを支援する「支援団体」にすぎない。言い換えるなら、元慰安婦らではなく、その支援を行う「運動団体」が主導権を握っており、この「運動団体」があたかも元慰安婦らの意見をそのまま代表するかのような状況が生まれている。 実際には、元慰安婦やその遺族の中にも多様な意見が存在し、その中には「運動団体」と距離を置いている人も多く存在する。にもかかわらず、これらの人々の意見が採り上げられないのは、元慰安婦やその遺族らが政治的に組織化されていないからである。 これに対して、徴用工問題における当事者たちの力は大きい。最大の理由は彼らの長い運動の経験と、一定の組織を有することである。日本ではあまり知られていないが、韓国では1970年代以降、一貫して元日本軍軍人・軍属や労務者など、第2次世界大戦時に動員された人々やその遺族による補償を求める運動が存在し、彼らは今日も自身の組織を有している。すでに生存者数が30人余りとなった元慰安婦らと異なり、軍人・軍属や労務者はそもそもの被動員数が多く、当事者の数も比較にならないほど多い。 徴用工問題において当事者たちが力を有しているもう一つの理由は、その運動や組織が、動員された当事者たちよりもその遺族、とりわけ子女によって担われていることである。第2次世界大戦終焉(しゅうえん)から70年以上を経た今日、元慰安婦や徴用工などの平均年齢は90歳を超えようとしており、当然彼ら自身による活発で組織的な活動は不可能である。これに対してそれよりも一世代若い彼らの遺族たちは未だ70代前後であり、活発な運動を展開し続けている。 元慰安婦は、その特性上、子女を持たない人が多く、また子女が存在する場合においてさえ、依然として慰安婦に対する社会的偏見が存在する現状では、慰安婦の遺族が自ら積極的にカミングアウトして活動するハードルも高い。ソウルの日本大使館前に置かれた慰安婦像の横で開かれた抗議集会=2017年7月(共同) これに対して、元軍人・軍属や徴用工らの遺族にはカミングアウトをはばからねばならない理由は存在せず、彼らは長年活発な活動を続けてきた。当然のことながら、イデオロギー的に編成されがちな運動団体とは異なり、遺族たちが作る団体にはさまざまな人々が含まれる。ゆえにそのイデオロギー的色彩は曖昧になる。なぜ慰安婦ばかりが優遇されるんだ! そしてもう一つ重要なことは、このような徴用工問題に関わる当事者たちは、これまで韓国政府や左派系の運動団体により主導されてきた慰安婦問題と距離を置いてきた人が多いことである。その論理は簡単だ。同じ第2次世界大戦時において、日本による戦争遂行のために動員された人々でありながら、慰安婦には大きな注目が集まり、手厚い保護がなされている。これに対して、元軍人・軍属や徴用工に対する政府の姿勢はそうではない。 1965年に右派の朴正熙(パク・チョンヒ)政権下で結ばれた日韓基本条約とその付属協定により韓国政府が得た資金は、元軍人・軍属や徴用工などの個人的な請求権を一つの根拠として積み上げられたものであった。にもかかわらず、韓国政府からなされた彼らへの補償は極めて限られたものだった。韓国陸軍士官学校の卒業式に出席した朴正熙大統領(当時、左)と長女の朴槿恵氏=1977年3月(UPI=共同) それは左派の政権も同じだった。歴史認識問題を重視した盧武鉉(ノ・ムヒョン)政権は「対日抗争期強制動員被害調査および国外強制動員犠牲者等支援委員会(支援委員会)」を通じて補償を行ったが、その審査は時に冷徹なものだった。右派勢力との対決状況の下、盧武鉉政権は歴史認識問題において日本への対決姿勢を強めると同時に、国内における親日派問題にも取り組んだからである。 カギとなるのは、徴用工やその遺族らの運動が、「遺族会」というくくりの下、元軍人・軍属の遺族とともに行われてきたことだった。軍人・軍属の一部は、将校や志願兵を中心として、自ら進んで日本統治に協力した者として親日派に分類されがちであり、彼らは時に補償を受ける権利をも否定された。「補償を受けられると聞いて申請した結果、返ってきたのは『お前の父親は親日派だ』という認定だった」。このように憤る遺族たちは1人や2人ではない。 「結局、今回もわれわれは切り捨てられるのだ」「どうして慰安婦とその運動を支える団体ばかりが優遇されるのだ」。遺族会ではそのような根強い不満がうごめいている。彼らにとって、韓国の右派は朴正熙政権の下、日韓基本条約とその付属協定により得た資金をかすめ取った人々であり、また左派は彼らを「親日派」の疑いを持って見続ける人々である。「弱い韓国政府」こそが核心 「信用できないのは日本政府も韓国政府も同じだ」。徴用工問題を巡る複雑な状況には、元軍人・軍属や徴用工などによって構成された「遺族会」の長い苦悩の歴史がある。 そしてこのような中、8月17日の記者会見で、徴用工問題について「私的請求権は残っている」としてこれを取り上げる姿勢を見せた文在寅は、わずか約1週間後の25日、安倍総理との電話首脳会談にて、今度は一転して徴用工問題は日韓基本条約にて解決済みという判断を確認した。揺れ動く韓国政府の背後に見え隠れするのは、この問題をめぐる一貫しない姿勢であり、遺族たちはそこに韓国政府の不誠実な姿勢を読み取ることになる。 そもそも彼らが韓国政府を本当に信頼し、協調関係が確立しているなら、彼らは黙ってこれを見守ればいいだけのはずである。にもかかわらず、彼らが自ら立ち上がり、時にイデオロギー的に距離がある左派労働組合とさえ手を組もうとするのは、彼らがこの問題に「韓国国内で」十分な関心が集まっていないと考えているからである。 日本大使館前に慰安婦像を立てる動きが本格化したのは、挺対協が右派李明博政権と対立を深めるさなかのことであり、そこには日本政府と並んで李明博政府への非難の意が込められていた。日本の植民地支配からの解放を記念する式典で元徴用工の男性と握手する韓国の文在寅大統領(右)=2017年8月15日、ソウル(聯合=共同) そして今、各地に徴用工像が立とうとしている。そこには労働組合や遺族らの複雑な思惑が存在し、その中で左派の文在寅政権は明確な姿勢を決められずにいる。韓国では高齢者に保守層が多いため、高齢者が多数を占める遺族らの中にも、左派政権に強い拒否感を持つ人々も数多く存在する。 こうしてみるなら、徴用工像が日本の過去清算に対する異議表明であると同時に、元軍人・軍属や徴用工など、「慰安婦以外の問題」に真摯(しんし)に取り組まない韓国政府や運動団体への不満表明であることがわかる。韓国政府は、各種運動団体などを統制して日本へ挑戦状をたたきつけるという状態にはなく、むしろこの反発を抑え込み、落としどころをどこに見出すかに苦労している。 問題は彼らが政府を中心にまとまっていることではなく、むしろ、韓国政府がこの問題における当事者能力を喪失していることにある。左右のさまざまな団体の活動や、裁判所の判決に一喜一憂せざるをえない「弱い韓国政府」の存在こそが問題の核心なのかもしれない。

  • Thumbnail

    記事

    悲しくも滑稽な映画『軍艦島』にみた韓国人の心の奥

    に聞くと、隣のクイーンズ地区まで行かなくてはならないという。クイーンズといえば「フラッシング」という韓国人街がある。そこでも午後と夕方の2回しか上映していない。映画『軍艦島』のパンフレット 要するに、封切り後3週間未満でニューヨークの中心部から消えて、韓国人が多い郊外で細々と上映されている、ということだ。興業的には失敗したことがはっきりわかる。約220億ウォン(約22億円)という巨額の製作費をかけ、韓流スターを動員したトンデモ映画『軍艦島』は、本国での封切り初日こそ97万人を超える史上最多の動員を記録したが、翌週からまさかの失速をし、いまや損益分岐点に届くかも怪しいという。何が韓国人をしらけさせたのだろうか。タクシーに30分も乗ってまで見る価値があるかという思いを振り払って、これも調査と自分に言い聞かせてクイーンズ地区へ向かった。 本稿の目的は、この映画がいかに荒唐無稽かを詳述することではなく、日本人としてこの映画から何を読み取るべきかを解説することである。『軍艦島』は徴用工がテーマであるが、慰安婦も登場し、慰安婦問題を含む全ての歴史問題に通底する韓国人の被害者ファンタジーである「恨(ハン)タジー」と、悲しいまでの自己肯定願望があふれている。その現代韓国人のメンタリティこそ日本人がしっかりと理解しなくてはならない要諦であり、それを理解せずに彼の国と外交を行えば必ず失敗する。この映画はそういう観点からこそ見るべきものである。 それにしても、ここまで荒唐無稽になるとほとんどギャグの世界だが、史実を極端に歪曲(わいきょく)すると、エンターテインメント映画にならざるを得なかったのだろう。映画評論家のジャスティン・チャンは、米紙ロサンゼルス・タイムズの映画批評欄で「この手の歴史修正主義は映画の世界では珍しくない。歴史をばかげた復讐(ふくしゅう)ファンタジーに仕立てあげる特権はクエンティン・タランティーノだけに許されるべきではない」(筆者訳)と書いている。つまり、歴史を知らない人間の目にさえ、「歴史捏造(ねつぞう)復讐ファンタジー」であることが明らかな出来栄えだということだ。 映画館に入る前、チケット売りが「この映画にはコメディーの要素もあるんだ」と前の客に言っていたのが聞こえたが、人気俳優のファン・ジョンミンとキム・スアンが親子役で登場してその意味がわかった。娘を愛するジャズ楽団団長の父親と、楽団の歌手で小学生の娘がコミカルな人情劇を演じる。ふたりが連絡船で端島(軍艦島)に着くなり、軍人らが乗り込んできて、警棒で乗客を殴りつけて連行していく。ファン演じるイ・カンオクは「やめてください、やめてください」と日本語で懇願する。ばかげたシーンである。労働者を痛めつけてどうするのか。要は、端島の炭鉱で働く朝鮮人は全員が強制連行の被害者だったという印象操作がなされているわけだ。朝鮮人の敵は朝鮮人 実際には、国家総動員法に基づく国民徴用令が朝鮮半島で適用されたのが1944年9月だが、制海権を失ったことから、45年3月までの7カ月間しか朝鮮人を移送できなかった。それ以前は一般公募による出稼ぎと官斡旋(あっせん)だった。戦争で日本国内は極度の労働力不足に陥っていたので、朝鮮半島で支度金を払って、家族単位での出稼ぎが募集された。だから端島には女性も子供もいた。かつて三菱の私有地だった長崎市の端島炭坑(通称・軍艦島)。建物の劣化が進む 映画のクライマックスでは、敗戦が近いことを悟った日本人経営者が、奴隷労働の証拠隠滅のために、朝鮮人全員を坑道に閉じ込めて殺害することを画策。察知した朝鮮人が武装蜂起し、激しい銃撃戦の果てに船を強奪して逃亡する。船上で、被弾して負傷したイ・カンオクが、武装蜂起をリードした工作員のパク・ムヨン(ソン・ジュンギ)に「俺の娘に好物のそばを食べさせてくれ」と頼んで息を引き取る。お涙頂戴のシーンだが、実際には終戦後、炭鉱を所有していた三菱が船を用意してみんな平和に帰国したのである。 さすがにここまでの捏造は、いくら韓国人でも見ていて恥ずかしいだろう。しかし、もうひとつ韓国人がエンタメと割り切れない要素がこの映画にはある。悪役の朝鮮人がたくさん登場するのである。朝鮮人の悪人とは、日本人に協力する裏切り者で「親日派」と呼ばれる。日本人経営者にへつらって朝鮮人を弾圧する朝鮮人労務係が登場し、朝鮮人慰安婦を虐待する朝鮮人の女衒(ぜげん)が言及され、そして極め付きは、端島の朝鮮人に「先生」と崇拝される独立運動家のイ・ハクチュンの裏切りだ。尹は朝鮮人を代表して会社と交渉するふりをしながら、ひそかに会社側と通じており、朝鮮人労働者の給与や死亡補償金をピンハネしていた。揚げ句の果てには、朝鮮人全員を証拠隠滅のために坑道に生き埋めにして抹殺する会社の計画に加担し、朝鮮人を坑道に誘導しようとする。それを見破った工作員の朴に朝鮮人群衆の面前でのどをかっ切られて絶命する。 なんという後味の悪さであろうか。朝鮮人の敵は朝鮮人だったのだ。これでは韓国人が単純にエンタメと割り切れないのも無理はない。日本人だけを悪役にしないのは、韓国人の自己反省の表れであろうか。いや、そうではない。韓国人の強引な自己肯定のためには、悪役は日本人だけでは足りないのだ。実はこれは、文在寅(ムン・ジェイン)大統領をはじめとする現在の韓国人が信奉する歴史観の表れなのだ。それはこういうことだ。・韓国は平和で健全な独立国だった・それを、大日本帝国が強引に合併し、独立を奪った・親日派の裏切り者朝鮮人が虎の威を借る狐のように同胞を搾取した・日本による併合がなければ、韓国は自力で近代化を成し遂げ、もっと発展していた・親日派は戦後、親米派となって搾取を続けた売国奴だ・だから韓国が真っ先にすべきことは親日派の排除だ・韓国は無実の被害者であり、日本の悪事を世界に知らしめて、民族の栄光を取り戻す必要がある・韓国の独立は、自ら日本を追い出して勝ち取った どうしてもこのように信じたいのである。そのためには、史実を歪曲せざるを得ない。事実とかけ離れているからだ。映画の中のたったひとつの真実 周知のとおり、朝鮮半島は極めて長きにわたって中国歴代王朝の属国だったが、日清戦争に勝利した日本が下関条約により朝鮮を独立させた。しかし、財政的に自立できず、結局日本に併合された。日本国内では併合反対論も強かった。日本は朝鮮半島を内地化し、膨大な投資をして近代化した。非常に多くの朝鮮人男性が大日本帝国陸軍に志願した。日本が敗戦しても、朝鮮総督府は機能を続けて米軍に引き継がれた。独立運動は存在し、上海に「大韓民国臨時政府」なるものが設立され、「光復軍」なる軍事組織も作られたが、内紛が絶えず、いかなる国からも承認されなかった。 したがって、韓国人は自らの手で独立を勝ち取ったことは一度もない。独立させてもらったが、自力で維持すらできなかったのが現実だ。彼らが「親日派」「親米派」として敵視する世代の人々は、その時代の官僚や軍人など、社会を支えた功労者である。彼らを憎んだところで意味がない。これは韓国人の知人の言葉だが、採用試験に受かったら売国奴で、落ちたら愛国者だとでもいうのだろうか。それとは別に、朝鮮人の女衒たちが朝鮮人婦女子を売り飛ばして稼いでいた。それは今も同じだ。その現実を直視することなく、前述のように強引に自己肯定しようと国を挙げて必死にもがいている。 その「恨タジー・歴史修正主義」の象徴が「慰安婦」であり、「徴用工」であり、そのメンタリティの結晶がプロパガンダ映画『軍艦島』なのだ。韓国人の妄想を凝縮した『軍艦島』は大ヒットするはずだったが、図らずもそのいびつさゆえに失速した。『軍艦島』とはそのように悲しくも滑稽な映画なのである。「本当にあのように戦えたらどんなによかっただろう!」と多くの韓国人が心の奥で思っているのだ。 もっとも、このトンデモプロパガンダ映画にも、たったひとつ真実が含まれていることを追記しておくべきだろう。朝鮮人は実際のところ、いざとなったら映画のラストシーンのように、死を賭して戦う覚悟はあった。 終戦間際の1945年4月、捕虜になった朝鮮人のうち、信頼に足るとみなされた3人が米軍によって尋問された。尋問内容は慰安婦に関してだった。(Composite report on three Korean navy civilians, List no.78)「朝鮮人は一般的に、日本軍による朝鮮人女性の売春業への採用を知っていたか? 平均的な朝鮮人のこの制度に対する態度はどのようなものであったか? この制度を原因とする混乱や摩擦を知っているか?」(筆者訳)という質問に対し、朝鮮人捕虜は以下のように答えた。「太平洋地域で会った朝鮮人娼婦は、みんな自発的な売春婦か、両親に売られて売春婦になっていた。これは朝鮮の考え方ではまともなことだった。もし、日本人が女たちを直接徴用したら、老いも若きも絶対に許容しなかっただろう。男たちは怒りに燃え、いかなる報復を受けようとも日本人を殺していただろう」(筆者訳)2017年8月16日、ソウルの日本大使館前で慰安婦像を囲みながら開かれた抗議集会 このことからわかるように、徴用工であれ、慰安婦であれ、日本人によって強引で悪辣(あくらつ)なことがなされれば、朝鮮人は『軍艦島』のラストシーンのように戦う意思があったのだろう。それだけは真実といってもよいのだろう。そして、そのような暴動は起きなかった。その必要がなかったからである。炭鉱労働は日本人にとっても朝鮮人にとっても過酷であった。しかし、朝鮮人は平和裏に故郷へ帰り、戦後補償問題は政府間で解決された。 韓国人はいい加減に「恨タジー」に逃げ込むのをやめて、歴史を直視しなくてはならない。さもなければ、痩せこけた徴用工像も、幼年慰安婦像も、欺瞞(ぎまん)の象徴であり続けることになるだろう。映画『軍艦島』の失敗がそのことを示唆している。

  • Thumbnail

    記事

    協定を真っ向否定!「徴用工トンデモ判決」の裏にある韓国の伝統意識

    支局長)  釜山の少女像より、ずっと説明の難しい難題だ。対馬の寺から盗まれた仏像に関する1月26日の韓国・大田地裁判決である。どうしてこんな判決が出てくるのかと聞かれても、具体的かつ説得力のありそうな説明はなかなか思い浮かばない。だから本稿では、一般論として韓国司法を取り巻く状況を考えてみたい。この判決に対しては、さすがに韓国内の専門家からも批判が強いという。控訴審で常識的な判断が出ることを期待したい。観音寺から盗まれた「観世音菩薩坐像」=2013年1月、韓国・大田(聯合=共同) それでも、まずは今回の件を簡単におさらいしておこう。問題となっている仏像は、2012年に対馬市の観音寺から盗まれた長崎県指定文化財「観世音菩薩坐像」だ。韓国に持ち込んだ窃盗団が摘発され、韓国当局に押収された。像の内部にあった「結縁文」の記述から1330年に韓国中部・浮石寺へ奉安されたものであることが判明。浮石寺が所有権を主張して韓国政府に引き渡しを求める訴訟を起こした。敗訴した韓国政府は即日控訴した。日本政府は訴訟とは関係なく、速やかな返還を外交ルートで求めてきた。窃盗団は刑事裁判で有罪となっており、一緒に盗まれたもう1体は既に日本に返還されている。これが全体の構図である。 判決は、仏像の「戸籍謄本」といえる結縁文に譲渡の記録がないことや、浮石寺の周辺地域が倭寇に荒らされた記録があることなどを根拠に「原告(浮石寺)の所有だと十分に推定できる」と結論づけた。判決は表書きと判事の署名まで入れてもA4で6ページ。無理な結論に結びつけるために長大な理屈をこねくりまわしたというより、証拠認定からストレートに結論へとつなげている。非常にシンプルな印象だが、それだけに論理の粗さが目立つ。 盗まれた後に国境を越えた文化財の扱いに関しては、1972年に発効したユネスコ条約と呼ばれる国際取り決めがある。日本は2002年、韓国は1983年に批准した。条約は、加盟国で条約の効力が発生した後に盗まれた文化財が別の加盟国に持ち出された場合には返還するよう定めている。 韓国政府は訴訟を受けて2014年に専門家による調査を行い、「倭寇によって略奪された可能性は高いが、断定は難しい」という結論を出した。判決に認定された事実を素直に読んでも、この程度の認識になるのではないか。そもそもユネスコ条約加盟後の窃盗という事実が明白なので、倭寇の略奪かどうかは法律的に問題ではないが、それとは別に仏像の来歴を考えてみると「その可能性もあるかな」とは思える。ともかく、700年前の略奪を具体的に記した文書があるならともかく、そうしたものを示すこともなく法廷の場で事実として認定するのは無理がある。日韓関係の懸念材料になった「韓国司法」 判決について報じた韓国紙・朝鮮日報は、韓国の多くの専門家の意見として「たとえ略奪された文化財だとしても適法な手続きを通じて返してもらわないといけない」と書いている。浮石寺が所有権を主張するにしても、いったん観音寺に戻してから行うべしということだ。当然の見解だろう。この判決には韓国内でも異論が多いのである。 「韓国の司法」は、2010年代に入ってから日韓関係に大きなマイナス影響を与える要因として浮上してきた。 憲法裁判所は2011年に韓国政府が慰安婦問題解決へ向けた外交努力を尽くしていないことを「違憲」だと判断し、外交懸案としては極めて低い優先順位しか与えられなくなって久しかった慰安婦問題を最大の懸案に押し上げた。 さらに大法院(最高裁)は2012年、戦前に日本企業で働かされた元徴用工が未払い賃金の支給などを三菱重工と新日鉄住金に求めた訴訟で、1965年の日韓請求権協定の効力を否定する判断を示した。協定によって元徴用工の請求権問題は解決されたという、日韓両政府の共通した解釈を正面から否定するものだ。この判断が判例として確定した場合には、日韓の経済関係に極めて大きな打撃を与えることは確実だ。ソウルの竜山駅前に設置された「徴用工の像」に触れる元徴用工の男性=8月12日(共同) この時の判断は原告敗訴だった高裁判決の破棄差し戻しで、やり直しの高裁判決は当然のことながら原告の逆転勝訴。日本企業側は上告し、大法院の最終的な判決はまだ出ていない。そのまま確定させると大変なことになるけれど、ここでまた判断を変えると法的安定性の面で問題が大きいというジレンマに直面した大法院が塩漬けにしていると見られている。 背景にあるのは、日本とは違う法律に対する感覚であろう。条文に書かれた文面を重視する日本に対し、韓国は「何が正しいのか」を問題にする。条約などの国際取り決めに対しても同じようなアプローチが目立つ。道徳的に正しくないのであれば、事後的にでも正すことが正義であり、正義を追求しなければならないという考え方だ。 「正しさ」を追求するのは儒教の伝統に依拠するものだ。軍部が力で国を統治した時代には押さえつけられていた伝統意識が民主化によって息を吹き返し、韓国社会では「正しくない過去は正されねばならない」という意識が強まった。1993年に就任した金泳三大統領が、全斗煥、盧泰愚という軍人出身の前任者2人を「成功したクーデター」を理由に断罪したことや、「歴史立て直し」を掲げて日本の植民地時代から残る社会的遺産の清算を進めたことが、その典型だろう。韓国司法の特殊事情とは? ここに1987年の民主化まで「権力の言いなり」だったという韓国司法の特殊な事情が加わる。権威主義時代と呼ばれる朴正煕、全斗煥政権の時代は政治犯罪のでっち上げは日常茶飯事で、裁判所も権力の意向に沿った判決を量産していた。 2008年に大法院で開かれた式典で、当時の大法院長はこうした暗い過去について「判事が正しい姿勢を守ることができず、憲法の基本的価値や手続き的な正義に合わない判決が宣告されたこともある」と認めた。そして、「司法府が国民の信頼を取り戻して新たな出発をしようとするなら、まず過去の過ちをあるがままに認めて反省する勇気と自己刷新の努力が必要だ」と述べている。 こうした司法の側の意識が、「正しさ」重視を強める社会の雰囲気を気にする判決を生む素地になっているようだ。 2012年に退官した元判事は私の取材に、民主化以前の時代について「判事だって国民の一人だから社会全体の流れから抜け出すのは難しかった」と釈明した。それは、社会全体が「正しさ」重視路線に回帰する中で抵抗することの難しさを語っているようでもあった。 だが、この元判事は民主化の影響について別のことも口にした。「いきなり裁判の独立と言われて判事たちは戸惑った」というのだ。初めて経験する事態に直面した判事の中には自らの所信を強く前面に押し出せばいいと解釈した人たちがおり、「判事によって判断が極端に割れるという事態が珍しくなくなってしまった」と話した。 「正しさ」重視とは言っても、法理を重視する世界だから限界はある。それでも元判事の述懐のように「裁判の独立」が拡大解釈され、判事によって判断が極端に割れる状況になったから、「正しさ」重視の司法判断も気軽に出せるようになったのではなかろうか。ソウルの日本大使館前で、徴用工を象徴する労働者像の設置予定地にくぎを打ち込みアピールする人た=8月15日(共同) 前述した大法院による元徴用工訴訟の判断は好例だろう。日韓請求権協定の効力を否定する2012年の新判断は、日本の最高裁小法廷に当たる「部」によるものだった。建て前としては判事4人の合議だが、実際には主審判事に大きな裁量が与えられており、他の判事は追認するだけということが多い。 これほど重大な問題は大法廷に当たる「全員審理」に回付しなければならなかったと後に批判されたのだが、全員審理ではこれほど「画期的」な判断を出せないと判断した主審判事が自分で処理してしまった可能性が高い。韓国メディアによると、この主審判事は周囲に「建国する心情で判決文を書いた」と語っていたという。これでは、英雄気取りで「正しさ」に酔ったと言われても仕方ないだろう。韓国側に伝わらない「日本の抱く違和感」の強さ 大田地裁の判決は、浮石寺の所有権を認めただけでなく、判決確定前に仏像を引き渡す仮執行も認めた。浮石寺に仏像が渡ってしまった場合、上級審で判決が覆っても日本への返還が難しくなる恐れが強い。被告の韓国政府は即日控訴すると同時に、仮執行にストップをかけるための「強制執行停止」を申し立てた。この申し立ては大田地裁の別の裁判官によって審理され、政府側の主張が認められた。とりあえず仏像が浮石寺に移される事態は回避されたということだ。韓国の司法といっても一枚岩ではないことは明白である。仏像の所有権に関する判断も、高裁でひっくり返る可能性が十分にあるだろう。1月26日、浮石寺の請求を認めた判決を受けて取材に応じる住職(右から2人目)=韓国・大田地裁(共同) トランプ米大統領を見ていると、国家間の合意を覆すハードルは低くなっているような思いにとらわれる。しかし、それでは相手はたまらない。しかも、道徳的な正しさをふりかざす考え方は独善に陥りやすいので、さらに対応が難しいのである。 問題の仏像が1330年に浮石寺に奉安されたことと、1526年頃以降は観音寺にまつられていたことは争いの余地がない。これを機に二つの寺が交流を始め、仏像も日本への返還前に故郷の寺で特別展示でもしましょう、ということにでもなっていれば「ちょっといい話」で終わっていたはずだ。 だが実際には、浮石寺は「倭寇によって略奪された」と所有権を主張して提訴した。日本側は、長い交流の中で多くの仏教文物が朝鮮半島から渡ってきたうちの一つという位置づけをしている。過ぎ去った年月を考えれば当然だが、どちらも具体的な証拠があるわけではない。  仏像訴訟の判決に対しては韓国内でも批判が出ている。それでも日本では「やはり韓国司法はおかしい」という反応を生み、韓国そのものに対する違和感を強めているように感じられる。さらに問題なのは、日本側での違和感の拡大という「不都合な真実」が韓国社会にきちんと伝わっているようには見えないことだ。私もなんとかきちんと伝えたいと思うのだが、いつも力不足を嘆くことになってしまうのである。 (「正しさ」重視への回帰や司法への影響は、2年前に上梓した拙著『韓国「反日」の真相』(文春新書)の内容をベースにしている。関心をお持ちの場合には同書を手に取っていただければと思う。)

  • Thumbnail

    記事

    徴用工設置をはじめ、憎悪拡大再生産する韓国の動き

    。慰安婦像だけでなく、徴用工像の中心的な制作者であるキム夫妻に直撃したジャーナリスト・竹中明洋氏が、韓国国内で急速に広がる徴用工の設置の様子を追った。* * * 龍山駅前に徴用工像が設置された同じ8月12日、ソウルに近い仁川市内の公園にも徴用工像が設置された。地元の労働組合や市民団体が寄付を集めて実現に至ったという。 仁川にも取材に向かった。像の制作者こそキム夫妻ではなかったが、こちらも場所はすでに設置されている慰安婦像の隣り。やはり日本の植民地支配の象徴として徴用工を慰安婦と並んで記憶させたいようだ。 文在寅大統領は、8月15日の光復節の記念式典で演説し、徴用工問題を慰安婦問題と並んで解決すべき日本の歴史問題とした上で、「強制動員の苦痛は続いている。被害規模の全てが明らかにされていない」「まだ十分でない部分は政府と民間が協力し、解決せねばならない。今後、南北関係が改善すれば、南北共同で強制動員被害の実態調査を検討する」と述べた。韓国の文在寅大統領の記者会見に集まった報道陣=8月17日、ソウル(共同) 徴用工への賠償問題は、1965年の日韓国交正常化にともなう請求権協定で解決されたはずである。ところが、文大統領は8月17日の会見では、個人の請求権はまだ残っていると発言した。 8月に入り光州地裁は、韓国人女性らが戦時中に名古屋の軍需工場での労働に強制徴用されたとして損害賠償を求めた裁判で、三菱重工に支払いを命じる判決を相次いで出した。今後は文政権の意向を汲み、同様の判決が相次ぐことも予想される。そうなれば、日本企業の韓国での活動に重大な影響を及ぼしかねない。 折しも韓国では、長崎県の端島(軍艦島)炭鉱に徴用された韓国人労働者らの脱出劇を描いた映画『軍艦島』が7月末に公開され、観客動員数が600万人を超える大ヒットとなっている。 光復節の前日には、慰安婦像のレプリカを乗せたバスがソウル中心部を走り始めた。日本大使館に近い地区にバスが差しかかると、慰安婦問題の歴史を説明する放送が車内で流れ、少女が村から連れ出される様子を再現した悲痛な叫び声に思わず耳を塞ぎたくなる。 過去の歴史に真摯に向き合うことの大切さは我々も決して忘れてはならない。だが、徴用工像の設置をはじめ憎悪を拡大再生産するかのような動きが急速に韓国で広がることを懸念せざるを得ない。 これが文大統領の強調する「未来志向の日韓関係」につながるはずがない。●たけなか・あきひろ/1973年山口県生まれ。北海道大学卒業、東京大学大学院修士課程中退、ロシア・サンクトペテルブルク大学留学。在ウズベキスタン日本大使館専門調査員、NHK記者、衆議院議員秘書、「週刊文春」記者などを経てフリーランスに。近著に『沖縄を売った男』。関連記事■ 慰安婦像、徴用工像を作り世界に拡散させるキム夫妻を直撃■ 韓国人がおかしなことを鵜呑みにするのは漢字廃止が影響か■ 韓国人も冷ややかに見る映画『軍艦島』、史実として世界拡散■ 在韓35年の教訓「韓国に関心を持っても、深入りはするな」■ アン・シネ、推定Gカップの美ボディを横から撮影

  • Thumbnail

    テーマ

    日韓関係の新たな火種「徴用工」の真実

    この夏、iRONNAは韓国を総力取材した。親北派で知られる韓国の文在寅(ムン・ジェイン)大統領は対日強硬路線を貫き、北朝鮮危機の真っただ中にもかかわらず、日韓関係は冷え込んだままだ。なぜ韓国とはいつもこうなるのか。現地リポート第一弾は、第二の慰安婦問題と化した「徴用工問題」。

  • Thumbnail

    記事

    慰安婦像、徴用工像を作り世界に拡散させるキム夫妻を直撃

    寅大統領のかけ声のもと、徴用工問題が、日韓の新たな火種になりつつある。慰安婦像同様、徴用工像の設置が韓国全土で進んでいる。両モニュメントの中心的な制作者である韓国人夫婦の存在をジャーナリスト・竹中明洋氏は早くから指摘してきた。とうとう、ソウルでその姿をとらえた。* * * 日本の植民地支配から解放された日(光復節)にあたる8月15日、韓国ソウルにある日本大使館前で土砂降りの大雨のなか集まった人たちが次々とシュプレヒコールを挙げていた。「アベは手のひらで空を覆うことを止めて真実に目を向けろ!」「日本は戦犯国家として過去の過ちを悔い謝罪せよ!」「戦犯企業は労働者への未払い賃金を直ちに支払え!」 集まったのは「日帝強占期被害者全国連合会(以下、連合会)」。植民地時代に強制徴用され日本企業で働かされたとする労働者ら、つまり日本側でいうところの徴用工やその遺族からなる団体だ。 この日、連合会は徴用工の像を設置するとして記念集会を催した。ソウルの韓国国会で開かれた集会で、自身の若いときの写真を掲げ被害を訴える元徴用工の男性(左)=5月30日(共同) 像そのものはまだ出来上がっていないが、設置を目指す場所は6年前に慰安婦の支援団体である挺身隊問題対策協議会(挺対協)が設置した慰安婦像の真横にあたる。 外国公館の安寧と威厳の保持を定めたウィーン条約に違反するとして日本政府が撤去を求めているにも拘わらず、韓国政府が放置したままにしているあの像と並べて設置するというのだ。「我々がこの場所に労働者の像を設置する理由は、たった一人であらゆる侮辱に耐えながらぽつねんと佇んでいる少女像を守るためだけでなく、日本を代表する外交官らが少女像と労働者像を目の当たりにすることによって自分たちの過ちを常に記憶し、反面教師としてもらうためだ」 そう声明文を読み上げてみせた連合会の張徳煥(チャンドクファン)事務総長らは、集まった多くの日韓のメディアの前で、設置予定場所だとする大使館前の歩道にハンマーで釘を打ち込むパフォーマンスまでしてみせた。地元自治体のソウル市鐘路区から設置の許可を得たのか。張氏に尋ねてみた。「まだ得ていませんが、すでに鐘路区とはやりとりを始めています。許可が出るものと確信しています」 なぜわざわざ大使館前に設置するのか。「ひとつは少女像を守るため。もうひとつはここに設置するのが、韓日の社会的な関心を集めるには最も効果的だからです」 そう話す様子からは、ウィーン条約に抵触することは問題ではないかのようで、違和感を覚えざるを得ない。早ければ9月にも設置するという。完成イメージ図を張氏から入手した。高さ3mもある石柱に徴用工をイメージしたと思われる痩せた男性が彫られ、手が突き出している。強制徴用の歴史を物語るレリーフも彫り込まれるそうだ。式典に現れた!『SAPIO』で繰り返し報じたとおり、この像の制作者は、韓国各地で設置された慰安婦像の制作者と同じ彫刻家のキム・ウンソン氏とキム・ソギョン氏夫妻である。大使館前での徴用工像設置では、準備委員長という立場に就いているという。 この日も、来場予定だったが、最後まで姿を現さなかった。悪天候のためか、それとも日本メディアの直撃を憂慮したためか。実は、これに先立つ3日前、筆者は夫妻に接触していた。式典に現れた! 8月12日、ソウルのターミナル駅のひとつ龍山駅前の広場には、水色のお揃いのTシャツを着た韓国の二大労働組合である民主労総と韓国労総のメンバーらが大勢集まっていた。ここで徴用工像の設置を記念する式典が開かれたのだ。これは15日に日本大使館前で集会を開いた連合会とは別の動きで、労組を中心としたもの。連合会より一足早く設置まで漕ぎ着けていた。 とはいえ、広場を管理する国土交通部は設置の許可を出しておらず、見切り発車的にテープカットが行われた。土地の管理者の許可を得ずに設置を強行するのは、昨年末の釜山の日本総領事館前での設置と同じだ。式典では挺対協のハン・クギョン共同代表が壇上で挨拶したほか、文在寅政権の与党である「共に民主党」の禹元植(ウウォンシク)院内代表も発言した。「この像を設置するのは実に意味があることです。全世界にこのような像を建て続け、世界中の人々が日帝占領期に強制徴用された労働者の姿を記憶すべきです」 与党ナンバー2の発言である。徴用工像を慰安婦像同様に今後、世界各地で設置すると宣言したも同然だ。 広場に設置された像は、昨年8月に民主労総などが京都市内のマンガン鉱山跡に設置したものと同じデザインだった(『SAPIO』5月号参照)。肋骨が浮き出るほど痩せた上半身裸の男性が右手に鶴嘴(つるはし)を持ち、左手を顔の高さまで上げている。 この像を取り囲むように建てられた4本の石柱には、徴用工の出発駅となったかつての龍山駅や徴用先での労働を写したレリーフが貼り付けられていた。制作者は言うまでもない。あのキム夫妻だ。 日韓関係に刺さったトゲとなった慰安婦問題を拡大再生産させる慰安婦像を次々と制作するばかりか、徴用工像まで手がけて新たな火種を作ろうとするのはなぜか。そのキム夫妻がこの日の式典に現れたのである。「日本メディアは歪曲する」「日本メディアは歪曲する」 夫のキム・ウンソン氏が壇上にあがって、制作意図を説明する。「日本による強制徴用で北海道から沖縄まで各地で多くの同胞が労働に就かされ帰って来なかったのです。過酷な労働により亡くなった人は森の中で打ち捨てられ、目印として白いペイントをつけた木の棒が墓標代わりに建てられただけだったといいます。時間が経つと棒が朽ちてしまい、あらためて遺骨を探そうにもどこにあるのかも分からなくなりました。この像はその棒をイメージしたものです。ここに労働者たちがいるのですよ、と伝えるためです」 痩せこけた上半身はわずかな食料だけで働かされた過酷な労働の実態を、振り上げた手は真っ暗闇の炭坑から地上に出たまぶしさと喜びを、肩に乗った小鳥は抑圧からの解放を、それぞれ表現したのだと解説してみせると、会場から喝采があがる。 会場で夫婦をつかまえた。だが、夫のキム・ウンソン氏から返ってきたのはこんな反応だった。「取材には応じません」──なぜ?「日本のメディアは歪曲した報道ばかりするからです。私が言ったとおりに書かないでしょう」──慰安婦像や徴用工の設置をめぐり日韓関係が深刻な問題になっている。これについてどう思うのか。「コメントしません」 夫婦は穏やかな笑みを浮かべるが、一切、具体的な言葉を発さない。対照的に、韓国メディアのインタビューには快く応じてみせている。日韓関係の障壁を作っている、その当事者の態度として、納得できるものではなかった。●たけなか・あきひろ/1973年山口県生まれ。北海道大学卒業、東京大学大学院修士課程中退、ロシア・サンクトペテルブルク大学留学。在ウズベキスタン日本大使館専門調査員、NHK記者、衆議院議員秘書、「週刊文春」記者などを経てフリーランスに。近著に『沖縄を売った男』。関連記事■ 慰安婦像制作費は1体300万円 土産用ミニチュアも販売中■ 慰安婦像の制作者夫婦が沖縄の“反戦彫刻家”を訪れていた■ 京都の山奥に慰安婦像製作者による「徴用工像」が存在■ 徴用工像は「第二の慰安婦像問題」か 日韓の火種化懸念■ 徴用工像 釜山の日本総領事館前の慰安婦像横に設置も

  • Thumbnail

    記事

    ゾンビ映画『新感染』で分かった「ジコチュー」韓国人のリアル

    中宮崇(サヨクウォッチャー) いやー、たまげた。びっくりした。大傑作でしたよ!  韓国初のゾンビ映画『新感染  ファイナル・エクスプレス』ですよ。原題は『釜山行』だそうで、「新幹線」に掛けてみたけど滑っちゃった、みたいな邦題に改悪されていますが、内容はピカイチ。  これ、ゾンビ物という皮をかぶった朝鮮戦争モノ映画でもあったんですね。軍オタおじさんとしてはそこもハートを射抜かれました。『嫌韓流の真実』なんてムックに執筆させてもらったこともある私は正直何も期待していませんでした。どうせ韓国人お得意のパクリにまみれた駄作だろうって高をくくっていました。良い意味で完全に裏切られましたね!© 2016 NEXT ENTERTAINMENT WORLD & REDPETER FILM. All Rights Reserved. ゾンビ映画なんて見たことない韓流好きな人も当然楽しめます。そればかりか韓国嫌いの人でもめちゃめちゃ楽しめます。ゾンビ映画としてはもちろんのこと、いろんな意味で名作でした。ゾンビ物が好きな人もそれ以外の人も、全ての日本人にとって極めて楽しめる、そして示唆に満ちた映画です。  今旬のゾンビ物といえば何と言っても『ウォーキング・デッド』ですね。アメリカで2010年から放送が開始され、既に7年にわたり制作され続けている人気ドラマです。『新感染』がどれぐらいすごい傑作であるかと言うと、なんとあのホラーの巨匠スティーブン・キングまで、この映画を「『ウォーキング・デッド』を超える」と大絶賛するぐらい飛び抜けたゾンビ映画なんですよ。 傑作ゾンビ映画というものは、ただのホラーにとどまるものではありません。多くの場合、極めて強い「社会性」を反映しています。 よく言われることですが、そもそもゾンビ物というジャンルの作品は、他のホラー以上に「社会性」を反映せざるを得ません。その理由の1つは、襲ってくるのが「同胞」だからです。昨日まで、いやつい数秒前までの「親兄弟」や「恋人」「友人」などが、一変して襲い掛かってくる。その恐怖は他のホラー物における「異質な存在」への恐怖心とはそれこそ異質なものでしょう。  しかもゾンビ物の場合、「真の敵」はゾンビではなかったりします。ゾンビを生み出したのは銭ゲバの製薬会社だったり、軍だったりするわけですね。ゾンビはただの「被害者」とさえ考えることもできる。 また、「真に恐ろしい存在」もゾンビ自体ではなかったりします。『新感染』においても、ゾンビから生き延びようとする韓国人同士が平気で同胞を裏切り盗み殺していく姿を見た少女が「感染者たちに襲われるより、もっと怖い」と、ゾンビより韓国人の方を恐れます。 こうしたゾンビ映画の特性をかんがみると、『新感染』はただのホラー映画ではなく、韓国社会の歪(いびつ)さを告発した社会派映画でもあるということができます。韓国人の本性を見せつけられた 物語の舞台は、ソウル発釜山行きの「新幹線」車内にほぼ限定されています。それ以外の韓国全土の様子は、断片的に入ってくる不正確なテレビ報道やインターネット経由でしかわかりません。その辺りも恐怖心をあおる要素になっていますね。 主人公のファンドマネジャーであるソグは、平気で他人を利用してのし上がってきた嫌なやつです。奥さんにまで愛想を尽かされ出ていかれてしまっています。奥さんから強引に奪い取ってまで手元に残した、9歳の娘スアンからも疎まれている孤独な仕事人間です。そんな娘のスアンは誕生日にわがままを言って、ソグを強引に韓国が誇る高速鉄道KTXに乗せ、母親のいる釜山を目指します。ところが、彼ら親子と一緒に1人の「感染者」がソウル駅から乗り込んでしまいます。© 2016 NEXT ENTERTAINMENT WORLD & REDPETER FILM. All Rights Reserved. 感染者はたちまちゾンビ化し、KTX車内の客を襲い始めます。襲われた客たちも次々と感染し、ゾンビ化して他の客を襲い始めるというまさに地獄絵図。時を同じくして車内のニュース映像に流れるのは、首都ソウルばかりか韓国全土で大暴れするゾンビの群れ。果たして親子は無事釜山にたどり着くことができるのか?  いや、そもそも母は、釜山は無事なのか? こんな感じのあらすじですが、他のゾンビ物と異なり、韓国映画ならではの要素がてんこ盛りです。ざっくり言っちゃえば、韓国社会や韓国人の本性というものをまざまざと見せつけられる映画です。 トランプ大統領が韓国を「物乞い」と言った、との報道が最近ありましたが、戦後70年以上にわたって日本は韓国の「物乞い」に悩まされ、煮え湯を飲まされてきました。なんでもパクって「剣道、柔道、ドラえもんも韓国起源」とおとなしい日本相手に言うだけにしとけばよいものの、最近はつけあがって「孔子は韓国人」とか、「端午の節句は韓国起源だから世界遺産登録するニダ!」とかやらかしちゃって、怖い宗主国の中国まで怒らす有り様です。 約束を平気で破る国民性ゆえ、条約まで反故(ほご)にする無法ぶりは慰安婦問題や戦後補償問題で日本人にはおなじみですが、近年の北朝鮮ミサイル問題に絡んで、アメリカも韓国人のそうした約束破りの国民性にようやく気付いてトサカに来たご様子。オリンピックやサッカーワールドカップなどでは毎度毎度「疑惑の判定」と買収がうわさされ「買収民族」とまで各国メディアから批判される始末。 そんな国民性を反映してか、『新感染』はこれまでの他国のゾンビ映画と比べることさえおこがましいほど、登場人物たちがジコチューで卑劣、邪悪極まりない。平気で他人をだまし、盗み、約束を破り、果ては殺します。ほぼ全員が自分のことしか考えない。ためらいなく他人を犠牲にする。歴史が物語る絶望的な韓国社会 韓国人以外がこの映画を見たら「非現実的」「誇張している」と感じかねません。しかし、韓国人にとってはこれは極めてリアルな映画なんですね。 つまり韓国人は、日本人をはじめとする外国人だけをパクり、だまし、嘘をつき、約束を破っているわけではないんです。「同胞」であろうが外国人に対するときと同じように、平気でだまし、盗み、約束を破っているわけです。そのことが如実に表れたのが、2014年に韓国で発生したフェリー転覆事故「セウォル号事故」です。この事故で、韓国政府の稚拙な事故対応が国民の反発を招いたばかりか、国民に対しさまざまな嘘をつき、自分のことしか考えぬ会社、乗務員や乗客、遺族同士もさまざまなだまし合いや不正などがあったことが暴露され、いまだに韓国社会に深刻なトラウマを遺(のこ)しています。 これは1950年に北朝鮮による侵略で始まった朝鮮戦争でもそうでした。5年前まで「同胞」であったはずの人々が敵となり押し寄せ、あっという間にソウルは火の海と化します。しかも侵略者「北朝鮮軍」は、その名とは異なり、北朝鮮の人々だけで構成されていたわけではありませんでした。占領されたソウルの市民が「徴兵」されたり、自ら「志願」したりして「北朝鮮軍」に加わり、昨日までのよき隣人、親類縁者である「韓国人」を追い、襲い、盗み、殺し始めたのです。 ソウルの人々は、襲ってくる昨日までの「同胞」から必死で逃げ回ります。目指すは南端の釜山。今でならKTXでたった2時間しかかかりません。あっという間に北朝鮮軍が押し寄せてきかねない距離です。© 2016 NEXT ENTERTAINMENT WORLD & REDPETER FILM. All Rights Reserved. しかも逃避行は悲惨極まりないものでした。北朝鮮兵に襲われるだけでなく、政府は国民を見捨てさっさと逃げ出し、自分たちだけが助かるために、まだ市民が渡っている途中のソウルの橋を爆破してたたき落としたのです。さらに北朝鮮シンパの「韓国市民」に襲われ、やっと逃げ延びた先では「北朝鮮スパイ」と疑われ殺され、それどころか敗残兵の韓国兵にまで略奪、虐殺されるという、まさにこの世の地獄。『新感染』で描かれる世界そのものといえる絶望が朝鮮半島全体を襲ったのです。信用できるものは何もありません。親兄弟友人知人さえ敵かもしれない。その記憶はセウォル号事故とも重なり、韓国人全体にいまだ暗い影を落としています。 この朝鮮戦争のトラウマが、『新感染』を見た韓国人にフラッシュバックを起こし、本作に特別な感情をもたらす効果を与えています。例えば、日本で『新感染』同様に、東京発の新幹線の中で博多までゾンビから逃れる映画なんてものを制作しても、『新感染』のような劇的な作品には成り得ないでしょう。本作は極めて韓国的な作品なのです。韓国人は韓国社会を絶望的に見ている 朝鮮戦争やセウォル号事故同様、『新感染』で描かれるKTX車内、いや韓国全土が、同胞同士が平気でだまし合い、盗み、約束を破り、果ては殺し合うこの世の地獄です。政府の発表は嘘ばかりですし、軍隊まで敵です。乗り合わせた客たちは、この期に及んでコネを悪用し、他人を買収し、自分だけ生き残ろうとします。その結果、感染が広がって韓国全体が危機に陥ろうと知ったことじゃありません。舞台となるKTX以外の鉄道車両も、自分たちだけが生き残ろうとして信号や管制を無視して、われ先にと逃げ出そうとして衝突事故を起こし、結局全滅するという全く救いようがない結果に終わります。 繰り返しますが、これは誇張でも何でもなく韓国人のリアルなのです。実際ヨン・サンホ監督はインタビューで、登場人物が「実在しそうな人物」になるよう心がけたと答えています。あれが韓国人にとっての「実在しそうな人物」なんです。韓国人は韓国社会をなんと絶望的に見ているのでしょう。 われわれ日本人のイメージに反し、韓国人の韓国嫌いは昔から有名です。最近も韓国の就職ポータル「ジョブコリア」によるアンケートの結果、実に70・8%が「機会があれば外国に移住したいと考えている」と回答しています。移住を希望する理由としては、「激しい競争社会から離れ、余裕のある生活を送りたい」という回答が51・2%で圧倒的に高く、「不正、腐敗があふれる政府に見込みがないから」(24・8%)、「外国の福祉制度に関心があるから」(18・1%)、「子供の教育のため」(15・0%)と続いたとのことです。韓国を最も嫌うのは日本人ではありません。韓国人自身なのです。彼らは自分たちの社会に絶望しきっているのです。 韓国人のそうした絶望感そのままに、『新感染』も絶望に満ちた作品です。もはや現役世代には何の希望もありません。自分のことしか考えず、他人を平気で裏切り、結局はお互いつぶし合って自滅していきます。韓国そのものを食いつぶし滅ぼしてしまいます。© 2016 NEXT ENTERTAINMENT WORLD & REDPETER FILM. All Rights Reserved. そんな中で、はかないながらも唯一の希望は子供たちだけです。ゾンビだらけの車両から命からがら逃げることができたジコチューの主人公ソグは、疲れ果てた老女に席を譲った9歳の娘スアンをなんと「あんなことしなくていいんだよ」と叱り、ジコチュー韓国人の再教育再生産をしようとします。しかし、スアンはめげません。それに反発します。 一方、席を譲られた老女は極めて利他的で献身的です。妹のために自身を犠牲にして朝鮮戦争を生き延びてきたこの老女インギルは、ゾンビに満ちた車内においても、他の客たちを救うために犠牲となります。ジコチューな現役世代が共食いしあって自滅する一方で、そうした醜悪な連中を救うために動いた人も、結局は一緒に滅びて行きます。「良心的な韓国人」は、「悪貨は良貨を駆逐する」ということわざ通り、どんどん犠牲になって消えていきます。韓国の唯一にして最後の希望 ネタバレになるのではっきりと書くわけにはいきませんが、ジコチューゆえにこのゾンビパニックを引き起こし、娘を危険にさらした主人公ソグは、結局は金や自己保身などよりも娘への愛が全てに勝ることに気付きます。そして自らを犠牲にして娘を救い和解を果たし、これまで1度も経験したことがないような心地よい満足感に包まれます。政府も信用できず、友人知人もほとんど全て敵。そうして自滅していく韓国人にとって、唯一にして最後の希望は、伝統文化に汚されぬまっさらな心と未来を持った次の世代だけなのかもしれません。© 2016 NEXT ENTERTAINMENT WORLD & REDPETER FILM. All Rights Reserved. 最後の最後で9歳のスアンは、ある歌を歌うことによって救われます。従来の韓国人であれば、その「歌」はご自慢のアリラン辺りであったでしょう。しかしスアンが歌うのは、ある外国の歌でした。閉鎖的かつ外国人差別で有名な韓国の未来を辛うじて救ったのは、海外文化との交流・接触だったのです。この結末も、韓国人の未来に対する監督の思いを大いに反映した告発、警告のように思えてなりません。 本作は、決してヨン・サンホ監督の独善的な韓国批判、告発映画ではありません。韓国では2016年興行ナンバーワンを記録していることからも分かるように、韓国人が広く共感し、同じ問題意識、同じ希望を抱いている極めて韓国的な映画であるといえます。韓国人の5人に1人が見たとさえ言われるこの作品は、韓国人がホラー好きやゾンビマニアというだけでなく、親子そろって、いや祖父母まで含めた一家そろって映画館に押しかけ涙した感動巨編なのです。 では老若男女多くの韓国人の心を揺さぶったこの一大傑作は、われわれ日本人が見ても楽しめるものなのでしょうか? 「残念ながら」楽しめます。なぜ残念なのか。 恐らく、30年ほど昔の日本社会に生きた当時の日本人にとっては、『新感染』はそれほど楽しめる映画ではなかったでしょう。なぜならその頃までの日本は韓国と違い、平気で他人をだまし、盗み、約束を破るような社会ではなかったからです。『新感染』は極めて現実離れした作品と取られていたことでしょう。 しかし、ここ最近の日本は違います。格差社会はとどまるところを知らず、若者・現役世代と高齢者の世代間断絶はますます進むばかり。資本家・経営者や親の世代を信じられぬばかりか敵にさえなりかねない。かといって、政府や企業などの組織はそれ以上に信用できない。まさに日本社会の「韓国化」とでも言うべき状態です。ゆえに今のわれわれは韓国人同様に、『新感染』を老若男女一族そろって見に行っても感動できてしまうのです。実際、私が映画館に足を運んだ際も、上映後若いカップルやご老人夫婦などがみんな号泣していて、しばらく立てずにいる観客もかなりいました。 『新感染』は未来を作り、和解をもたらすゾンビ映画です。現在、韓国社会がどのような問題を抱え、何に悩み、何を欲しているのかが一目瞭然の優れた名作です。「彼を知り己を知れば百戦殆うからず」と言いますが、韓国好きはもちろん、韓国嫌いの人こそ見ていただきたい映画です。忌み嫌ってきた「敵」の中にも、われわれと同様に人間としての悩みがあると見て取ることができれば、そこから何か新しい未来、希望、和解が生まれてくるのかもしれません。

  • Thumbnail

    記事

    慰安婦像の制作者夫婦が沖縄を訪問してやっていたこと

    1)だ。ソウルの日本大使館前や釜山の日本総領事館前に設置された慰安婦像をはじめ、夫婦の手による像は、韓国全土に広がっている。いまや慰安婦問題の伝道者と言わんばかりだ。この夫婦が1月24日から27日にかけて沖縄を訪れていた。 次は沖縄か。新たな懸念が生まれるなか、ジャーナリスト・織田重明氏が訪沖の真意を探る。* * * 今回の訪問にあたって、引率役を担った人物がいる。現在は、関西の某大学で教鞭を執るA氏である。 韓国に留学中の70年代、北朝鮮の指示を受けて工作活動をしていたとして、KCIA・韓国中央情報部に国家保安法違反で逮捕された過去を持つ。今回、先導役を務めた理由についてA氏に取材を試みたが、返答はなかった。 夫婦訪沖の意図は判然としない。そこで夫婦が辿った道をトレースしてみた。彼らが訪問したのは、沖縄で“反戦彫刻家”として知られる金城実氏(78)の工房の他に、夫婦は沖縄戦の追悼施設である糸満市摩文仁の平和祈念公園へ。普天間飛行場を望むことができる宜野湾市嘉数の高台、そして名護市辺野古が面する大浦湾を訪れた。大浦湾では、海中が見えるグラスボートに乗り、珊瑚礁やカヌーによる反対派の抗議活動の様子を見学したという。米軍普天間飛行場の移設に向け沖縄県名護市辺野古で始まった護岸工事で、波打ち際に置かれた石材の入った袋(下)=4月25日午後(小型無人機から) いずれも戦争や米軍に関連する場所ばかり。今回、夫婦が取材に応じた数少ないメディアである沖縄タイムスの記事によると、夫婦は、〈韓国民として芸術家として(慰安婦の)被害の実相を明らかにしようと少女像を造り、さらに視野を広げるため初めて沖縄に足を運んだ。沖縄戦の激戦地やガマ、米軍基地の現状を見て回り、(妻の)ソギョンさんは「非常につらいことを経験した人の魂を感じた」〉という。その上でソギョン氏はこう述べている。「朝鮮半島も沖縄も戦争が続いている。芸術家として、平和の懸け橋になるための活動をしていきたい」韓国人が沖縄に特別な関心を払う理由 南北の睨み合いが続く朝鮮半島はともかく、沖縄でも「戦争が続いている」とは、米軍基地があることを指しているようだ。韓国と沖縄は同じ状況にあるというのが夫婦の認識。だからこそ、「連帯」が可能だという考えは、実は二人に限ったものではない。 筆者が前号(2017年3月号)で述べたとおり、元慰安婦の支援団体である挺身隊問題対策協議会(挺対協)は、傘下の学生団体である平和ナビのメンバーらを一昨年に沖縄に派遣し、反基地運動に参加させている。 済州島では2016年、軍事基地が完成した。表向きは韓国・海軍が利用しているが、実態は米軍の東アジアの拠点として利用される。住民は建設に反対したが政府が強行。沖縄と済州島をリンクさせる日韓の市民活動家も多く、学生たちにも浸透しやすい。例えば、カヌーを使った海上抗議活動のやり方を伝授するため済州島に出向く沖縄の活動家もいる。 さらに、韓国人が沖縄に特別な関心を払う理由がもうひとつ存在する。 沖縄において慰安婦問題は、本土とは異なる深刻さを伴う。太平洋戦争で、唯一の地上戦の舞台となった沖縄では、全島にわたって慰安所が設置されていた。その数、百数十箇所。朝鮮人慰安婦の存在も明らかになっている。 2008年には、挺対協の初代代表である尹貞玉氏らの運動によって宮古島の上野原地区に慰安婦の祈念碑が建てられた。2013年にも尹氏らが参加して建立5周年の集まりが開かれている。碑が建てられた場所は、慰安所の慰安婦らが洗濯から帰る途中に休憩した場所だった。 米軍基地に慰安婦問題。韓国と沖縄が共鳴する余地は大きい。「反戦運動」というフレームからみた日韓交流に、筆者は異議を申し立てたいわけではない。だが、挺対協は慰安婦問題では、常に過激な手法をもって日韓交渉を妨げてきた。日韓合意では元慰安婦46人中、34人が交付金を受け取っているにもかかわらず、「しっかりとした謝罪も賠償も後続措置もない。日本政府は責任逃れしている」という理由で、合意破棄を主張する。彼らが設置した慰安婦像は、「反日」思想を育むモニュメントとなっている。 また同団体は、北朝鮮とも交流する“親北団体”として韓国当局から監視されている。彼らの思想が沖縄に伝播することを警戒する日本の公安関係者は多い。 夫婦が言った「平和の懸け橋としての活動」が何をさすのか。今後も注視したい。関連記事■ 慰安婦像の制作者夫婦が沖縄の“反戦彫刻家”を訪れていた■ 朝鮮日報「韓国はみんな狂っている」の警告は韓国民に届くか■ 小川彩佳アナから櫻井翔へのバレンタインの贈り物は?■ 18kg減の愛子さま 宮内庁は報道陣に「アップ写真使うな」■ 「喜び組」の定年は25才 口にするのも…な酷い罰ゲームも

  • Thumbnail

    記事

    韓国人にとって靖国神社とはいかなる存在なのか

    極少数の人たちだけです。夕方以降も多くの参拝客でにぎわう靖国神社(財満朝則撮影) それに比べて、現代韓国人の多くは靖国神社そのものの存在に対して不快感をあらわにし、日本国の首相をはじめとする政治家が靖国神社に参拝することに対して抗議するだけではなく、参拝中止を求めるという重大な内政干渉を平気で行い、中には実際に靖国神社まで出向いて爆発物を仕掛ける人間までいるくらいです。 彼らの言い分は「朝鮮民族を無理やり戦わせた人間が祀られている」「植民地支配を行った日本軍国主義の象徴だ」「戦争犯罪人が祀られている」というものですが、いずれも明らかな事実誤認で、日本の立場としては言いがかりをつけられているとしか言いようがありません。 まず「朝鮮民族を無理やり戦わせた人間が祀られている」という理屈は、前回の「もし、今も朝鮮統治が続いていれば、日本はどうなっていたか」をお読みいただければわかるように、無理やり徴兵されて実際に戦地に行った朝鮮系日本人がいないのですから、完全な誤解です。 次に「植民地支配を行った日本軍国主義の象徴だ」という理屈で、あたかも日本が武力により平和で豊かな朝鮮半島を侵略して搾取したかのような印象を与えようとしていますが、日本の朝鮮統治は西欧型の植民地支配ではなく主権国家双方が合意のもとに締結した日韓併合条約という国際条約に基づく併合であり、同条約により大日本帝国と大韓帝国は武力を用いずに一つの国になったのです。日清戦争勝利で独立できた韓国 そもそも19世紀末、朝鮮という国は清国の属国で完全なる独立国ではありませんでした。それを日本が日清戦争に勝利したことにより大韓帝国という独立国となったのです。それは日清講和条約(下関条約)の第一条「清国は朝鮮国が完全無欠なる独立自主の国であることを確認し、独立自主を損害するような朝鮮国から清国に対する貢・献上・典礼などは永遠に廃止する」を見れば明らかです。伊藤博文、李鴻章が会談した春帆楼2階大広間を再現した日清講和記念館 日清戦争後、日本は清の冊封体制を脱し独立国となった朝鮮に対して自立を促しましたが、彼らはこともあろうか当時の日本にとって最大の脅威であるロシアの支配下に自ら進んで入ろうと、王宮ごとロシア公館に逃げ込むありさまで、その結果ロシアは朝鮮半島におけるさまざまな利権を手に入れ、次第に日本とロシアは朝鮮半島の主導権をめぐって対立するようになっていきました。 満州だけではなく朝鮮半島がロシアの支配下に入れば「力のある白人国家が力のない有色人種国家を支配する」という当時の国際情勢に鑑みて、次に超大国ロシアに侵略されるのは弱小日本の番であることは火を見るより明らかですから、日本としては何とかそれを阻止しようと外交努力を重ねました。しかし当時、世界一の陸軍国といわれたロシアが弱小国日本に譲歩するはずもなく、日本は座して死を待つか、勝てる見込みは少なくとも打って出て戦うかという選択を迫られることになったのです。 戦うことを選んだ日本は、局外中立を宣言していた大韓帝国の防衛および領域内での軍事行動を可能にするため日韓議定書を締結し、それに応えた進歩会などの大韓帝国改革派は鉄道施設などの工事に数万人を動員するなど日本に協力的でしたが、皇帝を中心とする守旧派の腰が定まらないため、外交案件に日本政府の意向が反映されるよう、さらに第一次日韓協約を結びました。 ところが大韓帝国皇帝は、これに違反してロシアだけではなくフランス、アメリカ、イギリスに密使を送ったので、辛くもロシアに勝利した日本は後顧(こうこ)の憂いを絶つため「日本が大韓帝国の外交権を完全に掌握する」とする第二次日韓協約を締結しました。 しかし、その後も大韓帝国皇帝はオランダのハーグで開催されていた第2回万国平和会議に密使を送るなど迷走を止めず、日本の国家安全保障に重大な脅威を与え続けました。(密使は、会議参加国から「大韓帝国の外交権が日本にある」ことなどを理由に門前払いにされています) 日本は、この状態を放置して大韓帝国が植民地拡張政策を続ける欧米諸国の支配下に入れば再び日本は重大な危機に陥ると危機感を抱き、外交だけではなく内政も掌握するため、やむなく併合に踏み切ったのです。日韓併合と靖国神社は無関係 日本としては自主的に独立した大韓帝国と同盟を組んで西欧諸国に対抗することを望んでいたのですが、肝心の大韓帝国にその能力や意思がなく、朝鮮時代からの事大主義を改めることなく大国に擦り寄る政策を続ける姿勢を見て、今の大韓帝国には自主独立する力がないと判断し、他国の保護下になるくらいであれば日本の保護下に置く方が自国のためになると考えたのです。 このように、日本が大韓帝国を併合した最大の理由は自国の安全保障のためで、西欧諸国の搾取を目的とした植民地支配とは異なり、朝鮮半島には搾取するものはなく、併合後は搾取どころか内地から資金や物資を半島につぎ込んだため、内地に住む日本人の生活が苦しくなるほどでした。 しかも併合前は、そうなることを予見した人たちが併合に反対していたため、当時の日本の世論は併合賛成派と反対派が拮抗しており、日本人全員が朝鮮を併合しようと思っていたわけではありません。同様に大韓帝国内も併合賛成派と反対派に意見が分かれており、現在の韓国のようにほぼ100%反対ではありませんでした。 ちなみにアメリカとイギリスは併合に賛成、その他の主要国である清国、ロシア、イタリア、フランス、ドイツなどからの反対もありませんでした。つまり日韓併合は両国の国内に反対派がいたとしても両国政府が話し合いで合意し、かつ当時の国際法上何ら問題のないことで、今の韓国人が反対しているのは後付けの理屈でしかなく、百歩譲って日本の統治を非難するのであれば、その象徴である統監や総督を非難するべきなのですが、下表を見ればわかるように歴代10人の統監と総督のうち靖国神社に祀られているのは、朝鮮統治とは無関係の罪状で服役中に病死した小磯國昭ただ1人でした。 そもそも日韓併合に際して戦争は行われておりませんので戦死して靖国神社に祀られた将兵はいません。したがって日韓併合と靖国神社は無関係なのです。次回は靖国神社に「戦争犯罪人が祀られている」という韓国人の理屈がいかにおかしいかということについて説明をいたします。

  • Thumbnail

    記事

    デフレ崖っぷちの韓国、文在寅がハマる「財閥改革」の罠

    田中秀臣(上武大学ビジネス情報学部教授) 韓国の文在寅(ムン・ジェイン)大統領は対外・対内的に厳しい環境の中での船出を強いられている。対外政策的には、さっそく大統領就任への「祝砲」ともいえる北朝鮮の弾道ミサイルの発射が待っていた。核開発・弾道ミサイル問題で緊張する北朝鮮情勢をめぐっての、近隣諸国との調整がほぼ待ったなしで待ち構えている。今回の「新型」弾道ミサイルの発射をめぐっての対応を含めて、内外で文政権の姿勢を問う声は大きくなっていくだろう。ソウルの大統領府で開いた国家安全保障会議で発言する韓国の文在寅大統領=5月14日(大統領府提供・聯合=共同) 日本とはさっそく安倍晋三首相との電話会談を行い、そこで日本と韓国の慰安婦問題をめぐる認識の違いが早くも明らかになっている。「慰安婦問題」と書いたが、現状で「問題」化させているのは韓国側であることは言を俟(ま)たない。 経済政策的には、朴槿恵(パク・クネ)前政権が倒れた要因の一つともいえる、若年層を中心にした雇用の悪化をどうするのか、という課題がある。さらに雇用悪化が長期的に継続したことにより、社会の階層化・分断化が拡大している事実も忘れてはいけない。 韓国の若年失業率(15歳から29歳までの失業率)は11%を超えていて、最近は悪化が続く。全体の失業率は直近では4・2%であり、韓国の完全失業率が2%台後半と考えられるので、高め推移の状態であることはかわらない。韓国経済のインフレ目標は消費者物価指数で前年比2%であるが、インフレ率は前年同月比では1・9%(総合)と、目標を若干下回るだけで一見すると良好に思える。だが、この点がくせ者であることはあとで再び考える。 文政権の経済政策は、基本的に雇用の改善を大きく力点を置くものになっている。もちろん、政権発足まもないのでその実体は不明だ。だが、新しい雇用を公共部門で81万人、民間部門では50万人を生み出す、さらに最低賃金も引き上げるという文政権の公約は、主に財政政策拡大と規制緩和を中心にしたものになりそうだ。 公共部門で従事している非正規雇用の人たちを正規雇用に転換していくことで、雇用創出と同時に正規と非正規の経済格差の解消も狙っているという。これはもちろん賃金など待遇面での政府支出が増加することになるので、文政権の公約では、前年比7%増の政府支出を計画しているという。 韓国経済は完全雇用ではないので、このような財政支出は効果があるだろう。ただし完全雇用が達成された後で、膨れ上がった政府部門をどのように修正していくかは大きな問題になるだろう。だが、その心配はまずは現状の雇用悪化への対処がすんでからの話ではある。韓国「インフレ目標」のカラクリ 増税の選択肢は限られたものになるだろう。政府の資金調達は国債発行を中心にしたものになる。政府債務と国内総生産(GDP)比の累増を懸念する声もあるが、完全雇用に到達していない経済の前では、そのような懸念は事態をさらに悪化させるだけでしかない。不況のときには、財政政策の拡大は必要である。ただし文政権の財政政策、というよりも経済政策の枠組みには大きな問題がある。 それは簡単にいうと、「韓国版アベノミクス」の不在、要するにリフレ政策の不在だ。リフレ政策というのは、現在日本が採用しているデフレから脱却して、低インフレ状態を維持することで経済を安定化させる政策の総称である。第2次安倍政権が発足したときの公約として、2013年春に日本銀行が採用したインフレ目標2%と、それに伴う超金融緩和政策が該当する。 韓国でもインフレ目標が採用されている。対前年比で消費者物価指数が2%というのが目標値であることは先に述べた。この目標値は、15年の終わりに、従来の2・5%から3・5%の目標域から引き下げて設定されたもので、現状では18年度末までこのままである。韓国の金融政策は、政策金利の操作によって行われている。具体的には、政策金利である7日物レポ金利を過去最低の1・25%に引き下げていて、それを昨年6月から継続している。その意味では金融緩和政策のスタンスが続く。 だが、韓国の経済状況をみると、最近こそ上向きになったという観測はあるものの、依然完全雇用には遠い。さらに財政政策を支えるために、より緩和基調の金融政策が必要だろう。だが、その面で文政権関係者の発言を聴くことはない。どの国でも金融政策と財政政策の協調が必要であろう。特に韓国のように、最近ではやや持ち直している物価水準でも、実体では高い失業と極めて低い物価水準が同居する「デフレ経済」には、金融政策の大胆な転換が必要条件である。3月29日、米ニューヨークで新型スマートフォンを発表するサムスン電子幹部(聯合=共同) 日本でも長期停滞を、現在の文政権と同様に財政政策を中心にして解消しようという動きが10数年続いた。だが、その結果は深刻な危機の回避(1997年の金融危機など)には一定の成功をみせたものの、デフレ経済のままであり、むしろ非正規雇用の増加など雇用状況は一貫して停滞した。雇用の回復の本格化がみられたのは、日本がリフレ政策を採用しだした13年以降から現在までである。もちろんさらに一段の回復をする余地はあるが、金融政策の大きな転換がなければこのような雇用回復は実現できなかったろう。「スワップ協定がないと韓国経済破綻」という誤解 文政権の財政政策主導で、なおかつ現状の微温的な金融政策では、本格的な雇用回復とその安定化は難しいだろう。具体的には、韓国銀行はインフレ目標を3-4%の目標域に引き上げ、同時にマネタリーベース拡大を中心にした超金融緩和政策に転換すべきだろう。そのとき政府の財政政策の拡大は、より効率的なものになる。 つまり毎年いたずらに政府支出の拡大を目標化することなく、その雇用増加の恩恵をうけることができるはずだ。リフレ政策のようなインフレによる高圧経済が持続すれば、非正規雇用の減少が民間部門中心にやがて起こるだろうし、また現在の安倍政権がそうであるように最低賃金引き上げもスムーズに転換できるだろう。 だが、実際には金融政策の大きな転換の意識は、文政権にはない。むしろ民間部門を刺激する政策として、財閥改革などの構造改革を主眼に考えているようだ。だが、この連載でもたびたび指摘しているが、そのような構造改革はデフレ経済の解決には結びつかない。 韓国の歴代政権が、超金融緩和政策に慎重な理由として、ウォン安による海外への資金流出を懸念する声がしばしばきかれる。しかし超金融緩和政策は、実体経済の改善を目指すものだ。さらに無制限ではなく、目標値を設定しての緩和である。日本でもしばしば聞かれる「超金融緩和するとハイパーインフレになる」というトンデモ経済論とあまりかわらない。 私見では、リフレ政策採用による韓国の急激な資金流出の可能性は低いと思うが、もし「保険」をさらに積み重ねたいのならば、日本など外貨資金が潤沢な国々との通貨スワップ協定も重要な選択肢だろう。ただし、日本とは現状では慰安婦問題によりこの協議は中止している。通貨スワップ協定は、いわば「事故」が起きたときの保険のようなものなので、事故が起きない限り必要にはならないものだ。この点の理解があまりないため、「日韓通貨スワップ協定がないと韓国経済が破綻する」という論を主張する人たちがいるが、それは単なる誤解である。2016年8月、第7回日韓財務対話を終え、笑顔で言葉を交わす麻生太郎副総理兼財務相(左)と韓国の柳一鎬経済副首相兼企画財政相=韓国・ソウル(共同) ただし保険はあるにこしたことがない。特にリフレ政策を新たに採用するときには、市場の不安を軽減させるためには、日韓通貨スワップ協定は相対的に重要性を増すだろう。その意味では、慰安婦問題を再燃させる政策を文政権がとるのは愚かなだけであろう。もっともこの点は、日本側からすれば相手の出方を待っていればいいだけである。 ただし、そもそも文政権がリフレ政策を採用する可能性はいまのところないに等しい。その意味では、韓国経済の長期停滞、特に雇用問題が本格的に解消する可能性は低い。

  • Thumbnail

    記事

    「文在寅の韓国」に日本が迫る踏み絵はたった一枚しかない

    櫻田淳(東洋学園大学教授) 「朴槿恵(パク・クネ)後」の韓国がようやく動き出す。2016年12月、韓国国会での大統領弾劾案可決によって朴槿恵前大統領の大統領権限が停止されて以降、韓国の国際政治上の位置は、「幽霊」のようなものであった。そのことは、ドナルド・J・トランプ米国大統領が政権を発足させた後の100日の間、韓国がトランプ大統領と紡ぐべき「縁」を紡げなかったことを意味する。 そもそも、トランプ大統領は、大統領就任以前からの言動から推察する限り、アジア・太平洋地域の事情に格別な関心を抱いていたわけではない。トランプ大統領が北朝鮮の脅威を切迫したものとして意識するようになったのは、トランプ大統領が安倍晋三首相をフロリダに迎えた2月の日米首脳会談以降、北朝鮮が相次いで「挑発」に走ったことに因る。 こうした国際政治局面の中で、トランプ大統領麾下の米国政府は、日本とは頻繁に連絡を取り、中国に対朝圧力の面での期待を表明したけれども、韓国には実質上「蚊帳の外」に置く対応をした。3月中旬、レックス・ティラーソン国務長官は、日本を「米国の最も重要な同盟国(our most important ally)」と呼ぶ一方で、韓国を「重要なパートナー(important partner)」と位置付けた。この発言は、「大統領の不在」状況下の韓国に与えられた国際政治上の位置付けを象徴的に表していたといえるであろう。THAADの搬入に反対し、警官隊と対峙する住民ら(手前)=4月26日、韓国南部の慶尚北道星州郡(聯合=共同) 確かに、トランプ大統領の対韓姿勢は、傍目から見ても冷淡な印象が強い。トランプ大統領が対韓関係の文脈で打ち出している政策対応は、米韓自由貿易協定(FTA)の「再交渉、あるいは破棄」の示唆にせよ、「高高度防衛ミサイル(THAAD)」配備に係る費用の追加負担要求にせよ、韓国の癇(かん)に障るものであろう。 もっとも、トランプ大統領の論理からすれば、米韓FTAの「再交渉、あるいは破棄」の示唆は、環太平洋経済連携協定(TPP)離脱や北米自由貿易協定(NAFTA)見直しと同様の趣旨の政策展開であろうし、THAAD配備費用の負担要求は、日本や北大西洋条約機構(NATO)に対するものと同様に安全保障上の「応分の負担」を求める対応であろう。THAAD配備の表向きの大義は、「韓国防衛」にあるのだから、そういう評価になる。 しかしながら、韓国政府にとっては、THAAD配備費用に絡む追加負担は、にわかに受け容れられまい。THAAD配備それ自体は、国内の紛糾を乗り越えてようやく決めた揚げ句、対中関係の悪化という代償を払ったのに、その上で費用まで拠出せよというのでは、理不尽な印象は確かに拭えない。トランプが韓国の「頭痛の種」をまいてきた思惑 ところで、「朴槿恵後」の韓国を統治することになったのは、文在寅(ムン・ジェイン)共に民主党前代表である。文在寅新大統領は政権発足早々、対米関係の文脈では米韓FTAとTHAAD配備の扱いに取り組まなければならない。文在寅新大統領は、従来の彼の言動から推察する限りは、THAAD配備費用負担要求を突っ跳ねるであろうし、事の次第によってはTHAAD配備同意それ自体の撤回に走るかもしれない。仮に、文在寅新大統領がそのような挙に出れば、米韓同盟の先行きはいよいよ怪しくなる。韓国大統領選の投票締め切り後、支持者の前に現れ声援に応える「共に民主党」の文在寅氏=5月9日夜、ソウル(共同) そうであるならば、米韓FTAとTHAAD配備の扱いに関して、トランプ大統領麾下の米国政府が、韓国にとっての「頭痛の種」をまいてきた思惑が浮かび上がる。一つの解釈は、韓国にとって癇(かん)に障る要求を突き付けることで、「文在寅の韓国」に「本当に『こちら側』に与(くみ)する気があるか」と「踏み絵」を迫ったというものである。 そうでなければ、もう一つの解釈としては、「文在寅の韓国」の「親北朝鮮・離米」傾向を見越した上で、北朝鮮情勢対応でささやかれる米中両国の「談合」の一環として、「西側同盟ネットワーク」からの韓国の「切り離し」を考え始めているというものである。米国にとってアジア・太平洋地域において絶対に維持されるべき「権益」が朝鮮半島ではなく日本であり、中国が朝鮮半島全域を自らの影響圏内にあるものだと認識しているのであれば、そうした解釈によるシナリオも決して荒唐無稽だとはいえまい。 「文在寅の韓国」は、果たして米国を含む「西側同盟ネットワーク」に忠誠を尽くすのか、それとも米中両国の「談合」に乗じて南北融和の夢を追うのか。韓国には、そうした旗幟(きし)を明確にすべき刻限が来ている。 日本政府が「文在寅の韓国」に対して示すべき政策方針は畢竟(ひっきょう)、一つしかない。それは、韓国が米国を主軸とする「西側同盟ネットワーク」の一翼を担うということの証しを立てさせることである。朴槿恵政権末期の永き「大統領の不在」状況に加え、文在寅新大統領が「親北朝鮮・離米」傾向をもって語られてきた政治家であればこそ、そうした証しの意義は重いものになる。 その証しには、具体的にはTHAAD配備の円滑な実行は無論、日韓慰安婦合意の確実な履行も含まれる。日韓慰安婦合意がバラク・H・オバマ米国前大統領麾下の米国政府の「仲介」によって成り、往時の米国政府の「歓迎」を得た文書であるならば、それは、「西側同盟ネットワーク」の結束を担保する文書でもある。この際、日本政府としては、日韓慰安婦合意を「歓迎する」としたオバマ前政権の評価をトランプ政権が踏襲していることの確認を求めるのが宜しかろう。 日本にとって対韓関係は、対外政策上の「独立変数」ではない。それは、「西側同盟ネットワーク」を円滑に機能させるための政策展開における一つの「従属変数」でしかない。そうした割り切った姿勢は、「文在寅の韓国」を迎える上では大事である。

  • Thumbnail

    記事

    盧武鉉の「生き写し」韓国新大統領、文在寅の末路が目に浮かぶ

    竹嶋渉(元在韓ジャーナリスト) 大方の予想通り、文在寅氏が第19代韓国大統領に決まった。日本では「反日」「従北」「反米」と評価される文氏が、大統領就任後にどのような国政運営を行うのか、また慰安婦合意や竹島問題、北朝鮮有事の協力など新政権誕生後の日韓関係はどうなるのか予測してみたいと思う。 ここで、大いに参考になるのが、第16代・盧武鉉(ノ・ムヒョン)元大統領の行跡と治績(ちせき)である。盧氏と文氏の経歴や政治姿勢は瓜二つであり、大統領を取り巻く政治状況や国際情勢も酷似しているからだ。 盧氏は1946年、慶尚南道金海の貧農に生まれた。高卒ながらも司法試験に合格し、判事を経て弁護士となり、法律事務所を開業。80年代には学生運動にかかわりを持ち、「人権弁護士」として80年代中盤の民主化運動にもかかわることになる。 88年4月の国会議員選挙で当選し、国会で全斗煥(チョン・ドゥファン)時代の不正を厳しく追及したことで有名となった。その後、数回の落選を経て98年の補欠選挙で再び国会議員に復帰するも、2000年の選挙では再び落選。金大中政権下では海洋水産部長官に任命された。2002年の大統領選挙に立候補し、同年に発生した在韓米軍における女子中学生轢殺(れきさつ)事件に対する反米感情が追い風(「盧風」と呼ばれた)になり、接戦を制して大統領に当選している。2007年5月、盧武鉉大統領(当時、右)と 秘書室長時代の文在寅氏 一方、文氏は1953年に盧氏の出身地に近い慶尚南道巨済の貧家に生まれた。釜山の高校を卒業後、慶煕大学校法学部に入学。75年、朴正煕政権に反対する民主化運動にかかわった容疑で逮捕された。 大学を卒業後、82年に弁護士となり、盧氏が当時運営していた法律事務所に入所、80年代中盤の民主化運動に取り組んだ。2002年の大統領選挙では釜山地域の選挙対策本部長を務め、盧氏が当選した後には青瓦台(大統領府)入りし、2007年には大統領秘書室長となっている。2012年の国会議員選挙で初当選、2012年の大統領選挙に立候補するも朴槿恵前大統領に僅差で敗れた。その後、朴氏が弾劾辞職した後、朴氏糾弾の世論の追い風を受け、今般大統領に当選した。 これだけ見ても盧氏と文氏の経歴が瓜二つであることが分かるだろう。二人とも韓国南西部の慶尚道出身。貧しい境遇から身を起こし、ともに司法試験に合格、法曹界を経て政界入りしている。保守色の強い地域の出身でありながら、二人とも民主化運動に参加し、「人権弁護士」として知られ、後に進歩系政党から大統領に立候補して当選している。ここまで似通った経歴を持った二人であるから、当然、新大統領の今後の行跡を予測するうえで、盧氏の行跡は大いに参考になるのである。文氏にとって盧氏は法律事務所の共同運営者であり、民主化運動の同志でもあり、側近として国政を補佐したわけでもあるから、政治的信条においても大きな影響を受けていることは容易に想像できる。文氏は盧武鉉を模倣する では、新大統領はいかなる政策を遂行するのか。ここでは文氏が核実験とミサイル発射を繰り返す北朝鮮にどのように対応し、また日韓関係はどのように変化するのか、この2点に絞って考えたい。 これらを予測するにあたっては、盧氏の行跡が参考になる。盧氏が金大中の「太陽政策」を継承し、ズブズブの親北朝鮮路線をとっていたことはよく知られている。あろうことか在任中に北朝鮮の核兵器開発やミサイル発射を容認する発言を行い、北朝鮮に手厚い経済援助を与えただけでなく、支持率が急落した政権末期には突然平壌を訪問して金正日総書記と何らの必要性もない会談を行っている。 文氏も米軍による戦術核の韓国再配置に否定的であり、THAAD(高高度防衛ミサイル)の配備にも及び腰である。その一方で、北朝鮮の開城工業団地を再開すると公約している。ちなみに今回の大統領選に出馬した有力5候補の中で開城工業団地の再開を公約していたのは文氏だけだった。 文氏は北朝鮮の核問題について「韓米同盟強化と周辺国家との協力を通じた根本的解決」を公約として掲げているが、いったい北朝鮮への融和的姿勢と「韓米同盟強化」をどうやって両立させるつもりなのだろうか。THAAD配備に及び腰なのは恐らく中国の顔色をうかがっているからだろうが、この辺り「東アジアのバランサー」という空虚な言辞を弄びながら、何の目算もなく親北朝鮮・反米反日的な発言を繰り返した末に、北朝鮮に核実験を強行された盧氏の外交姿勢を彷彿(ほうふつ)とさせるものがある。街頭演説に臨む「共に民主党」の文在寅候補 =5月8日、韓国・ソウル(川口良介撮影) 恐らく、在任中には対北朝鮮政策をめぐって日米と何の得にもならない摩擦を起こし、「民族和合」という美名の下に北朝鮮をあれこれ援助し、結局は金正恩のいいように手玉に取られるのではないだろうか。 むろん、日韓関係については「絶望的である」と言わざるを得ない。これまでもそうであったように、これからもろくなことが起こらないだろう。日本では朴前大統領が史上最悪の「反日大統領」だと思われているが、文氏はその比ではない。 なにしろ、日本政府との慰安婦合意を反故(ほご)にする、ということを堂々と選挙公約に掲げているのである。このような反日姿勢も、あらゆる機会を捉えて日本非難に熱を上げていた盧氏に通じるものがある。ちなみに今回の大統領選有力5候補はすべて「日本政府との慰安婦合意は無効」と主張していた。そう主張しないと落選することは火を見るより明らかであり、有権者の大多数が「反日」という韓国の内情をよく表している。このような有権者によって選ばれた大統領が反日であるのは当然の帰結であろう。 おまけに昨年には竹島(韓国名・独島)にも上陸しているし、「親日(派)清算をしたい」となどと公言し、「真実と和解委員会」なるものを設置して過去の歴史を総括する、とも述べている。これは盧政権下で結成された「親日反民族行為真相糾明委員会」が「親日派名簿」を作成し、一部の「親日派」の子孫の財産を没収したことの模倣と思われる。文氏の末期を予言する もちろん日本大使館の慰安婦像撤去にも反対で、おまけに釜山の日本領事館前の慰安婦像設置にも大賛成である。こんな人物が大統領に当選したわけであるから、日韓関係がますます悪化するだろうということは三尺の童子でも容易に理解できる。近いうちに済州にある日本領事館前にも慰安婦像が設置され、大使館や領事館前に設置されている慰安婦像の周囲にもさまざまな日本糾弾用の銅像が増殖するだろう、ということも付言しておく。 最後に新大統領の国政運営について予測してみたい。クリーンで民主的だが、実務経験に乏しく、国際感覚が欠如しており、民族至上主義で親北朝鮮である、という文氏の姿は盧氏の「生き写し」である。 恐らく文氏は公約にあるように旧政権の不正追及や財閥への規制、厳しい対日姿勢、融和的な対北朝鮮政策、過去史清算などでしばらくは点数を稼ぐだろう。過去に盧氏がそうだったように。来年2月の平昌五輪が終わる辺りまでは、そうした手法が人気を博するに違いない。ソウルの国会議員会館会見場に入り、支持者らと握手を交わす文在寅氏(川口良介撮影 問題はその後である。良好な対米関係を維持できず、北朝鮮の挑発を抑えきれなければ保守派の激しい反発を招くだろうし、雇用や福祉、格差解消に失敗すれば進歩派の支持も失うだろう。中韓関係の改善が望めなければ、中国依存度の高い韓国経済には負担とならざるを得ないし、北朝鮮に対して圧力を加えてもらうこともできない。こうした懸案に対して新政権が有効な手を打てるか、と問われれば甚だ心もとないと言わざるを得ない。「クリーンで民主的」というだけでは解決できない問題ばかりだからである。 数年のうちに内政、外交、経済、福祉で目立った成果がなければ、たちまちのうちに進歩派の「ロウソクデモ」や保守派の「太極旗デモ」が発生し、政権を窮地に追い込むということは、過去の政権において立証済みである。 最後に大胆な予言をしてみたい。数年の後に韓国人は文政権に失望し、「すべては文大統領のせいだ!」と叫び出すだろう。かつての盧政権末期がそうであったように。