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    「2021」も失われた一年になるのか

    2020年は、新型コロナウイルスに翻弄された一年だった。東京五輪・パラリンピックが延期になったほか、業界によっては大打撃受けた。とはいえ、課題はこれだけではない。強力な与党から派生した政治の歪や米中覇権争いのあおりなど、日本は苦境のどん底だ。2021年も「失われた一年」になるのか。

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    コロナワクチン確保も…持病高齢者にはリスクといえる副反応の実態

    上昌広(医療ガバナンス研究所理事長) 新型コロナウイルスのワクチン開発に成功したというニュースが続々と報じられている。米ファイザーが2020年11月9日、約4万3千人を対象とした第3相臨床試験の中間解析で90%の有効性を報告したのを皮切りに、その後同月内に、米モデルナが94%、英アストラゼネカが70%、ロシアの国立ガマレヤ疫学・微生物学研究所が91%の有効性を示す中間解析結果を公表した。 一連の報告は、関係者の予想を大きく上回るものだった。知人の製薬企業社員は「誰もこんなに効くと思っていなかったでしょう」と話した。米食品医薬品局(FDA)や世界保健機関(WHO)が、コロナワクチンの有効性の基準として設定していたのは50%だったのだ。 今回、ファイザーとモデルナは遺伝情報を伝える「メッセンジャーRNA(mRNA)」、アストラゼネカとガマレヤ研究所はウイルスベクター(運び役)を用いたワクチンを開発した。mRNAワクチンは初めての臨床応用であり、ウイルスベクターワクチンはエボラウイルスワクチンに用いられているだけで、実績が限られている。 mRNAやウイルスベクターなどの遺伝子工学技術を用いたワクチンの長所は、短期間で大量に生産できることにある。2021年内にファイザーは13億回分、モデルナは5~10億回分、アストラゼネカは20億回分(10億回分は2020年内)、ガマレヤ研究所は5億回分を供給する予定だ。 コロナワクチンは通常2回の接種を要するが、大手製薬会社や研究所だけで最大30億人分のワクチンを提供できるという。こんなことは鶏卵培養を用いる従来型のワクチン製造法では不可能だ。 日本政府は、ファイザーとアストラゼネカからそれぞれ1億2千万回分、モデルナから5千万回分の供給を受けることで合意しており、総人口分のワクチンを確保できたことになる。とかく批判をあびがちな厚生労働省のコロナ対策であるが、ワクチン確保に成功したことは海外からも高く評価されている。 ファイザーのワクチンは、マイナス60度という超低温での保管が必要であることなどの問題もあるが、接種体制を工夫すれば、なんとかなるだろう。 では、現在、問題となっていることは何だろう。私が懸念しているのはワクチンの安全性だ。 実は、いずれのワクチンも副反応が強い。例えば、アストラゼネカのワクチンは、チンパンジーの風邪ウイルス(アデノウイルス)にコロナのスパイクタンパク質の遺伝子を導入したものだが、臨床試験では解熱剤であるアセトアミノフェン1グラムを6時間おきに内服することになっていた。総投与量は1日あたり4グラムということになる。日本でのアセトアミノフェンの常用量は1回0・5グラム程度で、最大許容量は1日4グラム。アストラゼネカは、当初から強い炎症反応が生じることを予想していたことになる。輸送準備が進められる、ファイザーなどが開発した新型コロナウイルス感染症ワクチンが入った箱=2020年12月13日、米中西部ミシガン州(ロイター=共同) すでに重症の副反応も生じている。20年9月初旬、アストラゼネカのワクチンを接種した被験者が横断性脊髄炎を発症し、世界各地で実施中だった臨床試験が一時的に中断された。この病気は脊髄に炎症を生じ、進行すれば感覚消失、まひ、尿閉や便失禁を生じる場合がある。原因はウイルス感染、自己免疫疾患などさまざまで、ワクチン接種後に起こることも報告されている。今後、多くの人が接種すれば、同様の副反応が出る可能性は否定できない。 副反応はアストラゼネカのワクチンに限った話ではない。同年11月18日、米科学誌「サイエンス」は、ファイザーとモデルナのワクチンの接種には、強い痛みと発熱を伴うことがあるという記事を掲載した。この記事によれば、接種者の2%弱が39度以上の高熱を生じている。 モデルナの臨床試験に参加した43歳の人は、接種部位が「ガチョウの卵」のサイズまで腫脹(しゅちょう)し、38・9度の発熱が起き、筋肉と骨が激しく痛んだという。この人は「一晩中電話の前に座り、救急車を呼ぶべきか迷った」そうだ。症状は12時間続いたという。持病ある高齢者は接種すべき? このような副反応が生じるのは、ファイザーとモデルナのワクチンには、mRNAを保護するために脂質ナノ粒子が用いられているためだ。この物質が強い炎症反応を引き起こす。 ここまでは短期的な安全性の問題だ。まれな合併症は十分には分からないといえども、これまでに公表された臨床試験のデータからある程度は推定できる。問題は、長期的な安全性だ。コロナワクチンは第3相臨床試験が始まってから3カ月程度しか経過していない。原理的に、長期的な安全性については評価できない。 ワクチンの長期的な合併症は女優の大原麗子さんが発症したことで知られる神経難病、ギラン・バレー症候群などの免疫異常が多い。このような免疫異常は、ウイルス感染が契機となって発症することがある。ジカ熱が流行した地域でギラン・バレー症候群などの症状が多発したと報告されている。これは、ウイルス感染細胞を認識したリンパ球が、神経細胞上に発現しているタンパク質をウイルス関連抗原と誤って攻撃してしまうからだ。 コロナ感染と自己免疫疾患の関係を議論した論文は多数存在する。私が米国立医学図書館データベース(PubMed)で「COVID-19」と「自己免疫(autoimmune)」という単語をタイトルに含む論文を検索したところ、102報がヒットした(2020年12月15日現在)。その中にはリウマチ性疾患、ギラン・バレー症候群、自己免疫性溶血性貧血、自己免疫性肝炎などが報告されていた。 ワクチン接種が人為的に疑似感染を誘導する以上、このような自己免疫疾患を発生させるリスクはあるだろう。ワクチン接種に伴う免疫異常が顕在化するのは、接種から数カ月後が多い。リスクを評価するには、最低でも半年以上の観察期間が必要だ。ところが、現在開発中のワクチンで、このようなデータが出そろうのは、早くても今春以降だ。コロナワクチンの長期的安全性はまったく担保されていないのだ。個人の状況に応じて、ワクチンのメリットとデメリットを天秤にかけて判断するしかない。 私はもちろん接種する。それは、私が臨床医だからだ。どんな形であれ患者にうつすことは避けたい。効果の持続など不明な点が多いといえども、コロナワクチンは一定レベルの効果は証明されている。多少、リスクがあろうが、ワクチンを接種して、自らが感染することを予防しなければならない。 では、患者さんにはどうすることを勧めればいいだろうか。仮に80歳で高血圧・糖尿病の男性から相談を受けたとしよう。このような患者はコロナに感染した場合、致死率が高い。米国の一部の州で20年12月14日、ファイザーが開発したワクチンの接種が始まったが、米疾病対策センター(CDC)が作成中の指針では、エッセンシャルワーカーに次いで、重い持病を抱える人と65歳以上の高齢者を優先することが検討されている。 ただ、現状では、私は80歳の持病がある男性にワクチン接種を勧めない。なぜなら、高齢者は若年者ほどは効果が期待できず、一方で副反応が出たときに重症化しやすいからだ。 米臨床医学誌「ニューイングランド・ジャーナル・オブ・メディスン」は同年12月10日、ファイザーのワクチンの臨床試験に関する論文を公開している。これによると参加者に占める55歳以上の割合は42%で、ワクチンを打った後に彼らの51%が倦怠(けんたい)感、11%が発熱、39%が頭痛を訴えた。また、38%が鎮痛剤の内服を要したという。もし、80歳の高齢者に接種した場合、どのような反応が生じるか想像がつかない。アメリカ・ニューヨークの病院で新型コロナウイルス感染症ワクチンの接種を受ける女性=2020年12月(AP=共同) 同様のことは、自己免疫疾患などの免疫異常を有する人にも当てはまる。コロナワクチンが自己免疫疾患を起こすリスクを否定できないのだから、持病を有するからといって、優先的にワクチンを打つべきか悩むところだ。 人種差も大きな問題となる。ファイザーの臨床試験では、アジア系の人の参加はわずかに1608人(4・3%)で、大部分は白人(3万1266人、82・9%)だった。アジア人での安全性が十分に検討されているとは言い難い。 こうした状況であれば、私は先行してワクチン接種を始めた米国や英国のデータを参照したい。日本でワクチン接種が始まるのは、早くて2021年の春以降だろう。それまでには相当数の経験が海外で蓄積されている。高齢者や持病を有する人、アジア系の人々における安全性と有効性についても臨床研究の結果が発表されているはずだ。日本ではどう対応すべきか、データに基づき柔軟に考えたい。

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    コロナ禍帰省 リスク高い「老親と子、孫」の安全な過ごし方

    せてしまう。鼻の下にワセリンを塗ることで皮膚の水分の蒸発を防ぎ、粘膜の乾燥を抑えられます」(長野保健医療大学の塚田ゆみ子助教) 子や孫の持ち物にも注意が必要だ。「衣服などの布製品に付着したウイルスは長く生存できませんが、スマホやゲーム機器といったつるつるした面に付着したウイルスは長く生存しています。一緒に遊ぶ場合は、遊ぶ前にゲーム機を除菌し、遊び終わったら手洗いをしましょう。“1行為、1手洗い”が原則です」(塚田助教) 日中は共に過ごしても、夜だけは別行動が望ましい。「ウイルスの温床になりやすいお風呂は感染リスクが高い老親から入りましょう。入浴時はマスクを外さざるを得ないので孫と一緒に入るのも我慢しましょう。バスタオルの使い回しも危険です。就寝も、いびきや寝相などで知らず知らずのうちに感染リスクが高まるので、家族ごとに別々の部屋で寝るべきです」(ナピタスクリニック新宿の濱木珠恵院長) 接触を断つのではなく、節度を保って、一家団欒を楽しもう。※写真はイメージです(ゲッティイメージズ)関連記事■医師が「私はのまない」と宣言する要注意な市販薬■A、B、O、AB…血液型別「かかりやすい病気」が明らかに■食道がん、肺がんの5年生存率が上昇 治療技術が進化■80歳までに半分の歯失う日本人 大半が歯磨き粉について誤解■心電図チェックは不十分なことも 医師が受ける心臓検査は

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    開発・治験は難題多し、新型コロナワクチン確保でぬか喜びするなかれ

    上昌広(医療ガバナンス研究所理事長) 新型コロナウイルスの感染が、欧州で再拡大している。各国は対応に余念がない。 スペインでは首都マドリードの一部でロックダウン(都市封鎖)が実施された。フランスでは屋外でのイベントの入場者数が制限され、午後8時以降の屋外での酒類販売と飲酒が禁止。ドイツも、公共の場所や貸会場でのパーティーの参加人数を50人以下に制限するなどの対策をとった。英国は飲食店の深夜営業を禁止し、在宅勤務を推奨している。 では、日本はどうだろう。国内の新規感染者数は8月7日の1595人をピークに減少傾向にあるが、9月20日~10月上旬に約200~600人で横ばいが続く。新型コロナは基本的には風邪ウイルスだ。夏場に感染が終息していないのだから、冬場に大流行へと発展してもおかしくはない。 新型コロナの流行を抑制するには、ワクチンの開発を待つしかない。日本政府は2021年前半までに、国民全員に提供できる量のワクチンの確保を目指している。 現在、世界では約40のワクチンが臨床開発されていて、そのうち9つが最終段階である第3相試験に入っている。4つをシノバックなどの中国企業が、残る5つを英アストラゼネカ、露ガマレヤ記念国立疫学・微生物学研究センター、米モデルナ、米ジョンソン・エンド・ジョンソン、および独ビオンテックと中国上海復星医薬と米ファイザーによる企業連合が開発中だ。 日本企業も塩野義製薬、第一三共、アンジェスとタカラバイオ、KMバイオロジクス、IDファーマなどが、それぞれ国立感染症研究所(感染研)、東京大医科学研究所(東大医科研)、大阪大、医薬基盤・健康・栄養研究所という国内の研究機関と共同で開発に取り組んでいるが、2018年にノーベル生理学・医学賞を受賞した京都大の本庶佑特別教授の言葉通り「日本でのワクチン開発、治験など現実離れした話」というのが実態だろう。2020年9月19日、ロンドン中心部で行われた新型コロナウイルス対策の規制再強化に抗議するデモで、警官ともみ合う男性(英PA通信=共同) そもそも、ワクチン開発は至難の業だ。世界のワクチン市場は英グラクソ・スミスクライン、仏サノフィ、米メルク、ファイザーなど数社が独占している。日本企業には荷が重い。政府はワクチン確保に注力 なぜ、難しいかと言えば、大規模な第3相臨床試験を実施しなければならないからだ。数千~数万人を対象として、ワクチンを投与する群とプラセボ(偽薬)を投与する群に無作為に割り付け、感染者を減らすことを証明しなければならない。 第3相試験で抗体ができることを確認したからといって、感染症を減らすとは限らない。ワクチン開発は第3相試験で失敗し続けている。今年2月には米ノババックスが、発熱やせきなどの症状を引き起こすRSウイルスのワクチン開発で、高齢者と妊婦を対象とした第3相試験において相次いで失敗したことが報告された。 新型コロナのワクチン開発については楽観視できない。そうはいっても、ワクチン確保は多くの国民の願いだ。日本政府は外資系企業と交渉し、確保に努めている。7月31日にファイザーから6千万人分、8月7日にはアストラゼネカと1億2千万回分のワクチンの優先購入権を得ることで合意した。 ただ、前途は多難である。9月初旬、アストラゼネカの治験中に、免疫付与以外の反応が起きる副反応が発生したと報じられた。詳細な情報は公開されていないが、横断性脊髄炎といわれている。この病気は、脊髄に炎症を生じ、進行すれば感覚消失、麻痺、尿閉や便失禁を生じる。原因はウイルス感染、自己免疫疾患などさまざまで、ワクチン接種後に起こることも報告されている。 実は、アストラゼネカのワクチンは、以前から副反応について危惧されていた。それはワクチン接種に伴い強い炎症反応を生じるからだ。 同社のワクチンはチンパンジーの風邪ウイルス、アデノウイルスに新型コロナのスパイクタンパク質の遺伝子を導入したものだが、治験では6時間おきに解熱剤であるアセトアミノフェンを1グラム内服することになっており、1日の総投与量は4グラムになる。しかし、日本でのアセトアミノフェン常用量は1回0・5グラム程度で、1日4グラムは最大許容量だ。この量を高齢者に投与することはない。 この副反応の報告を受け、アストラゼネカは治験を一時的に中断した。日本では10月2日に治験の再開が公表されたが、米国では安全性についての懸念が払拭できず、9月6日から治験は止まったままだ。米国の食品医薬品局(FDA)は、今回の治験だけでなく、アデノウイルスベクターが用いられた中東呼吸器症候群(MERS)などの、他のワクチンの臨床試験のデータも含めて調査をすると発表している。 米国はアストラゼネカに12億ドル(約1270億円)を支払い、3億回分のワクチンを確保したが、道のりは険しい。米国で治験が再開され、承認されたとしても、多くの医師は安全性について疑念を抱き続ける。通常、治験には臓器障害などの合併症がある人は登録されないからだ。市販後、このような人への接種が増えると副反応が急増する恐れがある。米メリーランド州にあるFDA本部 では、日本政府が契約しているもう一つの会社、ファイザーのワクチンはどうだろう。これは同社とドイツのバイオベンチャーであるビオンテックが共同開発したメッセンジャーRNA(mRNA)ワクチンだ。保管に「マイナス60度の冷蔵庫」 7月27日、ファイザー・ビオンテックは、国際共同第2、3相臨床試験を開始した。これには米国、ブラジル、南アフリカ、アルゼンチンなどが参加している。臨床試験の進行は順調で、10月に入り、ファイザー・ビオンテックは欧州医薬品庁(EMA)への承認申請を開始し、EMAの諮問委員会は前臨床試験データの検討を開始した。 このワクチンは、新型コロナのmRNAを脂質ナノ粒子に包み込んだもので、人に注射されると、体内で新型コロナ由来のタンパク質を発現する。そして、このタンパク質に対して免疫が誘導される。 ワクチン開発の先頭を走る米モデルナと同じやり方だが、問題は効果だ。mRNAを用いたワクチンは、これまで臨床応用されていない。果たして、実際に感染者を減少させるかは、現在、進行中の臨床試験の結果が出るまで分からない。 当初、ファイザー・ビオンテックは10月までに臨床試験の暫定結果が得られるとしていたが、9月末になって、60人以上の研究者が安全性を評価するには、接種後最低2カ月の経過観察が必要との声明を発表した。アストラゼネカのワクチンの副反応を受けての動きだ。 10月6日、FDAは、この方針を受け入れると発表した。この結果、ファイザー・ビオンテックの正式な申請は早くても11月下旬以降となった。米大統領選には間に合わない。 ファイザー・ビオンテックのワクチンには他にも問題がある。mRNAはゲノム配列さえ突き止められれば、ワクチンの設計は容易だ。製造についても、手間のかかるウイルス培養を必要とせず、安価に大量生産できる。ファイザー・ビオンテックは2020年末までに最大1億回分、21年末までに13億回分を用意するという。ウイルス培養を用いた通常のワクチン製造法の10倍以上を生産できることになる。 問題は保管と搬送にある。mRNAは常温では不安定なため、凍結状態で保存しなければならない。知人の製薬企業関係者によると「マイナス60度以下が必要」だという。 アストラゼネカのアデノウイルスベクターワクチンは、季節性インフルエンザワクチンなどと同様に冷蔵保存できる。だが、一般的なクリニックにマイナス60度の冷蔵庫があるとは限らない。ファイザー・ビオンテックのワクチンが日本で承認された場合、多くの国民に接種するためには、従来と異なる接種体制を整備する必要が出てくる。 現在、メディア報道を見ていると、ワクチンさえ開発されれば新型コロナは克服できるかのような論調が強い。ところが、安全性、有効性の両方で困難が予想される。英製薬大手アストラゼネカのロゴ(ロイター=共同) このことは専門家の間では常識だ。FDAは、今年6月に製薬企業向けに発表したガイドラインの中で、新型コロナワクチンの承認条件として、少なくとも50%の予防効果が必要と明記している。「別のコロナ」再感染も これに対して、米ベイラー医科大のワクチンの専門家、ピーター・ホテズ氏は「製薬企業は75%程度の有効性を目指すべき」と主張したが、FDA長官代行を務めたステファン・オストロフ氏は「50%予防の要求は高すぎで、ハイリスクの人にはそれ以下でも有益だ」とコメントしている。 ワクチンさえ打っておけば、まず罹ることがない麻疹(ましん)や風疹(ふうしん)、あるいは天然痘とは全く状況が異なる。ワクチンが開発されても、それだけで新型コロナの流行が収まるとは考えない方がいい。 このことは、新型コロナが基本的には風邪ウイルスであることを考慮すれば納得していただけるだろう。風邪は、ひと冬の間に何回もひく。どうやら新型コロナにも同じことが言えそうなのだ。 最近になって再感染の例が、複数、報告されている。特に8月末、米ネバダ大の医師たちが報告した25歳男性の症例は要注意だ。この症例では、4月に初めて感染し、その48日後に2回連続でPCR検査が陰性となった後、6月に再び陽性となった。再感染したウイルスのゲノム配列が解析されると、4月に初感染したウイルスとは明らかに違うことが判明した。つまり、別の新型コロナに再感染したことになる。 注目すべきは再感染時の症状だ。初回の感染より、再感染の方が症状が重かった。これらの事実は、実際に感染しても十分な免疫がつかないことを意味している。 では、新型コロナの免疫はどれくらい持続するのだろう。9月14日、オランダの研究チームが、国際的学術誌『ネイチャーメディシン』に発表した研究が興味深い。彼らは、すでに発見されており、臨床経験や保存検体が多い季節性コロナウイルスを対象に研究を進めた。 この研究によると、季節性コロナに罹患(りかん)しても半年程度で感染防御免疫はなくなり、4種類のうち1種類の季節性コロナにかかっても、他の季節性コロナの感染は防御できなかったという。2020年9月30日、マドリードの飲食店で、食卓を消毒する従業員(AP=共同) 新型コロナも、おそらく状況は変わらない。ワクチンを打っても効果の持続期間は短く、過去に季節性コロナに罹患していても防御免疫は期待できない。ワクチン開発は「第一歩」 これが新型コロナワクチン開発の現状だ。ワクチンには限界がある。ただ、それでもアストラゼネカやファイザー・ビオンテックがワクチン開発に乗り出す心意気には、心から敬意を表したい。新型コロナに特効薬はなく、薬剤の開発を積み重ねることでしか新型コロナを克服できないからだ。 新型コロナについて「ただの風邪」という主張をする人もいるが、これは大間違いだ。日本の致死率は1・9%(10月5日現在)で、インフルエンザ(0・01~0・1%)とは比べものにならない。さらに長期的な後遺症をもたらす恐れもある。第1波では川崎病に類似した疾患が注目されたが、最近になって妊婦への影響や心筋炎の存在も分かってきている。 9月11日、米オハイオ大の医師たちは『米医師会誌(JAMA)心臓病版』に、新型コロナに感染した大学生アスリート26人の心臓を調べたところ、4人に心筋炎の所見を認めたと報告している。この研究では12人が軽症、14人が無症状だった。同様の研究はドイツからも報告されている。 心筋炎は不整脈を合併することが多く、時として突然死を引き起こす。診断されれば、普通は集中治療室に入院して、不正脈を継続的にモニターされる。ところが、感染者は軽症か無症状で、心臓に関する特別なケアは受けていない。日本でも、軽症の新型コロナ感染症患者の突然死が報告されているが、このようなケースだった可能性がある。 季節性コロナは高率に心筋炎を起こしたりはしない。新型コロナはただの風邪ではない。では、どうすればいいのか。私はインフルエンザ対策がモデルになると考える。 インフルエンザは突然変異しやすく、毎年ワクチン接種が必要だ。ただ、ワクチンを打っても完全には予防できない。重症化を防げるだけだ。ワクチンの限界を埋めるのが、タミフルなどの抗ウイルス剤だ。 さらに、最近はインフルエンザ対策の重要性が社会で認知され、感染の疑いがある人は無理に出社せず、自宅待機できるようになった。こうやって毎年、多くの人がインフルエンザをやり過ごしている。新型コロナも同じようになるのではないだろうか。「GoToトラベル」に東京が対象に加わり、初の週末を迎えた東海道新幹線のホーム=2020年10月3日、JR東京駅(佐藤徳昭撮影) 新型コロナはインフルより強敵だ。ワクチンは複数の製品をカクテルするようになるかもしれない。アビガンや、今後開発される薬剤を感染早期に服用するようになることも考えられる。さらに、外出時のマスク着用が浸透し、社会的距離の取り方もこなれてくるだろう。こうやって新型コロナとの付き合い方が確立していくはずだ。ワクチン開発はその第一歩となろう。小さくとも、人類にとって大きな一歩に期待したい。

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    潰瘍性大腸炎 腸内細菌移植療法で治療後半年で症状改善例も

     潰瘍(かいよう)性大腸炎は、年々患者が増加し、現在は13万人以上いると推計されている。ストレスや食生活の欧風化といった様々な要因が重なることで発症し、20~30代が発症のピークだ。 近年、潰瘍性大腸炎をはじめとする過敏性腸症候群、炎症性腸疾患、感染性腸炎などの原因として、腸内細菌が関わっていることがわかってきた。腸内細菌は、大腸だけでも約1000種類120兆個いるといわれ、重さは約1キロにもなる。細菌のDNAを調べる次世代シークエンサーという方法が開発され、細菌の種類や存在する割合が分類できるようになった。 順天堂大学付属順天堂医院消化器内科の石川大助教に話を聞いた。「腸内は、いろいろな菌が存在する多様性が望ましいのですが、潰瘍性大腸炎では特定の菌が異常に増えたり、減ったりしてバランスが悪くなっています。多様性がなくなっている腸を健常者のようにバランスを整えることで治療するという考え方が、腸内細菌移植療法です」 人間の腸内は、地域によって環境や食物が違うため、腸内細菌の集団であるフローラも地域特有のバランスが保たれている。腸内細菌は、腸管から栄養を吸収する一方で、病原体の感染を防ぐなど、免疫系にも重要な働きをしている。このように、人間と腸内細菌は共生の関係にある。 潰瘍性大腸炎では、腸内フローラのバランスが非常に乱れていることが多い。そこで乱れた腸内フローラを正常にすれば、回復するのではと始められたのが腸内細菌(便)移植療法だ。欧米では、すでに一般的に実施されているが、2014年に日本でも臨床研究が始まった。 現在、国内で実施されている腸内細菌移植療法は、配偶者や2親等以内の健康な人の便を移植する。事前に生理食塩水と混ぜ、フィルターでろ過し、大腸内視鏡で患者の大腸の奥の方に注入する。200グラムの便の中には、相当数の腸内細菌が存在していると思われ、それを直接、移植してバランスの乱れを直す。※写真はイメージです(ゲッティイメージズ)「私の臨床研究では、腸内細菌移植の前に、3種の抗生剤を2週間服用する抗生剤療法を併用しています。この治療でも潰瘍性大腸炎への治療効果が証明されています。事前に腸内細菌をリセットし、その後、移植することでより効果的に腸内細菌フローラが定着し、異常な免疫作用に刺激を与え、回復に向かうのではと考えています。事実、この治療で治癒した患者の中には、アレルギー体質が改善した例もあります」(石川助教) 昨年からの臨床研究で、20例が治療を受けた。特に中等度から軽症では治療後2~3週間で効果が表われ、半年後には下痢などの症状が改善している例もある。 移植による感染などを防ぐため、提供者の健康状態や便に含まれる有害な細菌やウイルス、寄生虫などのチェックを厳しく行なっている。最終的には30例に実施して有効性を確認する予定だ。■取材・構成/岩城レイ子■北川悦吏子氏、『半分、青い。』の執筆中2度入院していた■西郷隆盛はお腹が弱くトイレに50回も駆け込んだ■目やに、ペットボトルの蓋が開けられない――大きな病の兆候■液体状の大便が続く… 過敏性腸症候群や機能性胃腸症も■赤い大便が出た場合 潰瘍性大腸炎や大腸がんの可能性も

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    安倍首相辞任 元官邸スタッフ「8年間の体調管理は綱渡り」

    登板してからは、そうした医官と、持病の治療にあたってきた日比教授が指導する慶応病院のスタッフを中心に医療チームが組まれている。日比教授が2013年に慶応を定年退職して北里大学に移った後は、慶応病院の医師団が主治医の役割を引き継いだが、日比教授自身も公邸や私邸に“往診”することがあるといわれる。 おおたけ消化器内科クリニックの大竹真一郎院長は、「潰瘍性大腸炎は医学的な完治は難しく、治療は症状をどれだけ安定させるかが中心になる。そのためにはきめ細かい健康管理が重要で、ストレスが大敵です」と見る。※写真はイメージです(ゲッティイメージズ) 実際、総理の体調管理にあたる医師団にとってこの8年間の体調管理は“綱渡り”だったようだ。別の元官邸スタッフが「今だから言える」とこう振り返る。ヤジと持病の関係「総理の体調が目に見えて悪化していったのは2015年の安保法制の頃からです。反対運動が起こり、支持率が急落すると、薬のことで医療チームが揉めているという話が伝わってきた。体への負担が少ない薬を続けるか、ステロイドなど強い薬にするかで意見が分かれたようです。 結局、その日の体調や日程に応じて薬を細かく使い分けながら、少しずつ強い薬を増やしていくことになったようで、医師団の1人は“手間がかかる”とぼやいていた。国会で飲んでいるマイボトルにも、腸の炎症や下痢を抑える成分が調合されているそうです」 夜の会合が多い安倍首相の食事の管理は秘書官らの仕事だった。「会合で中華料理などの日程が組まれているときは、油を中和するような成分のドリンクが用意されていた。医療チームからは、香辛料など刺激物を摂らせないようにといった注意書きのメモが秘書官に渡されていました」(前出・元官邸スタッフ) 興味深いのは、ヤジと持病の関係だ。安保法制論議の頃から、首相のヤジが問題になることが目立ってくる。「ヤジは体調が良くないサインだと聞きました。薬の影響で気分が落ち着かないらしい。ただし、本人は国会中に意識を強く保つために思わずあんな行動に出ているのだから、体調は悪いにしても、ヤジを飛ばせるうちは大丈夫だという医療スタッフもいました」(同前) 医師団は首相のヤジの飛ばし方まで注意を払っていたことがわかる。■安倍首相体調悪化 二階、菅氏ら新・五人組は誰を選ぶか■安倍首相体調悪化 吐瀉物の内容を割り出す凄まじい情報戦も■昭恵さんに呆れる安倍首相「離婚できるならとっくにしてる」■安倍首相がもう一人の祖父「安倍寛」のことを口にしない理由■セクシー女優のHIV陽性判明、感染発覚以降も撮影は行われた

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    「生きるための安楽死」もう避けられない本格議論と日本社会の覚悟

    上昌広(医療ガバナンス研究所理事長) 「大久保容疑者はどんな人でしたか」 多くのメディアから連絡があった。大久保容疑者とは大久保愉一(よしかず)医師。7月23日に筋萎縮性側索硬化症(ALS)患者の女性に対する嘱託殺人容疑で京都府警に逮捕された人物だ。 筆者と大久保氏は、彼が厚生労働省の医系技官であった頃からの10年来の付き合いだ。真面目で正義感が強く信頼できる人物だった。常に日本の医療をよくしたいと考えていた。その姿勢は、彼が医系技官を退職するときに送ってきたメールにも表れていた。 「3月末に辞めるまでに何かを残せたらと思います。医師が自ら律するようになり、国試をいずれ肩代わりするまでつなぎになるような何かを。せこい話ではありますが、これまでスタックしていたものが動けばよくなり、風通しがよくなり、教育関係者の士気が上がり、学生のやる気にもつながるのではと考えています。国任せではなく、自分たちで考える環境づくりに一役買えるのではと思うのです」 大久保氏は厚労省が管理する医師国家試験の在り方に疑問を感じていた。問題意識は筆者も同じだった。大久保氏は腹が据わっていた。あるとき、彼から聞いた厚労省内の問題を筆者が記者に話し、記事になったことがある。 だが、彼は、筆者に対して「局内では誰がリークしたのかの犯人捜しが始まっております。課長も憤慨しています。メールの履歴をチェックされて私が処分されそうですが、それはその時考えます」とメールで記したように、全く責めることなく、淡々と業務をこなしたのである。これが、筆者が知る大久保氏の姿だ。読者の皆さんが報道から受ける印象とは違うだろう。 筆者は今回の嘱託殺人の詳細を知らない。メディアは、大久保氏が「やっぱりドクターキリコになりたい」と投稿するなど、「ドクター・キリコ」についてツイッターで何度も言及していたことを取り上げ、彼の変質的な側面を強調している。ドクター・キリコとは、手塚治虫の人気漫画『ブラック・ジャック』の登場人物で、高額報酬で患者の安楽死を請け負う医師のことだ。果たして、そのような動機だけで動いたのだろうか。筆者が知る大久保氏なら、相当な覚悟を持って、この件に臨んだことは想像に難くない。それほどALS患者の安楽死は重大な問題だからだ。京都府警中京署から大久保愉一容疑者を送検する捜査車両=2020年7月24日、京都市中京区 ALSという難病を抱え、死を望む患者にわれわれはどう接するべきか、当事者に寄り添い真剣に考えねばならない。ところが、日本はこの問題を避けてきた。今回の事件が起こっても、真剣に取り組もうとしていない。就任したばかりの日本医師会の中川俊男会長も「嘱託殺人、安楽死議論の契機にすべきではない」と発言する始末だ。 今こそ日本が安楽死とどう向き合うかを、社会で議論すべきである。本稿では、世界における安楽死の現状を紹介したい。 近年、安楽死の議論は急展開を遂げている。今年2月には、ドイツの連邦憲法裁判所が医師による自殺幇助(ほうじょ)、つまり安楽死を禁じる法律を違憲とする判断を下した。医師、患者、支援者らが、安楽死の禁止は患者の自己決定権を侵害していると訴え、長年の議論の末に認められた。 このような動きはドイツに限った話ではない。最近になって、ポルトガルやスペインでも安楽死の法制化に関する議論が進み始めた。注目すべきは、いずれもカトリックが強い国であることだ。 終末期医療の在り方は宗教と密接に関係する。以前から安楽死を認めてきたのは、オランダ、ベルギー、ルクセンブルクのベネルクス三国やスイス、米国のオレゴン州などだ。プロテスタントが強い国や地域が目立つことからも、世界の安楽死問題が大きく変わり始めていることが分かる。「『生きる』ための『安楽死』」 このような動きは、カトリック教会の危機意識を反映している。前教皇のベネディクト16世(在位2005~13年)が、著書の中で「教会の危機」を訴えたのは1985年だ。フランス、イタリア、スペインなどのカトリック系諸国では、信者が減少し、ミサに参加する信者は少数派に転落している。21世紀に入ると、聖職者による性的虐待事件も表面化した。 現教皇のフランシスコは、離婚を禁じてきたカトリック教会が、再婚できる手続きを簡略化し、ジカ熱の感染予防に際し「避妊は絶対的な悪ではない」と述べるなど、さまざまな改革を断行中だ。伝統的なカトリック信者の離反を防ぎながら、現代社会にマッチしたリベラルな対応を模索しているのだろう。その一環が安楽死への対応だ。高齢化が進む先進国では、この問題は避けて通れない。 世界は変化している。アジアも例外ではないが、安楽死への対応は欧米とは違う。その象徴が、すい臓がんを患い18年に安楽死で他界した、台湾の有名なテレビ司会者、傅達仁(フー・ダーレン)氏の存在だ。 膵臓がんの予後は悪い。傅氏は適切な治療を求め、台湾だけでなく、中国や日本などを訪れたが、がんの進行は食い止められなかった。進行したすい臓がんは、しばしば強い痛みを伴う。モルヒネなどで治療するも、痛みに耐えられなくなり、安楽死を希望するようになった。 彼が頼ったのが、スイスの自殺幇助団体「ディグニタス」だ。創設者で元弁護士のルドウィッグ・ミネリ氏が現在も運営している。医師の作成した診療録をスイスの裁判所が許可した場合、自殺幇助が許可される。 傅氏の場合、費用は日本円にして約1650万円だった。09年1月には元職員による「営利目的で自殺幇助が流れ作業で行われている」という告発がメディアで報じられた。その後、刑事事件などには発展していない。 この組織の在り方にはさまざまな意見があるが、一部の患者から強く支持されていることは間違いない。近年は「ディグニタス」に登録するアジア人が急増しており、18年末の時点で香港人36人、韓国人32人、日本人25人、台湾人24人、タイ人20人、シンガポール人18人が登録しているという。 ジャーナリストの宮下洋一氏が著書『安楽死を遂げるまで』で紹介した人物も、この団体に安楽死を依頼した。この本の内容は、NHKスペシャル「彼女は安楽死を選んだ」(19年放送)で紹介されたため、ご存じの方も多いだろう。安楽死を遂げた女性は「死にたくても死ねない私にとって、安楽死は『お守り』のようなものです。安楽死は私に残された最後の希望です」と語っている。考えさせられる言葉だ。 今回の事件で亡くなった女性もブログの中で「『どうしようもなくなれば楽になれる』と思えれば、先に待っている『恐怖』に毎日怯えて過ごす日々から解放されて、今日1日、今この瞬間を頑張って生きることに集中できる。『生きる』ための『安楽死』なのだ」と述べていた。※写真はイメージです(ゲッティイメージズ) ALSは運動神経の変性疾患で、認知能力は正常だ。好発年齢は60~70代で、十分な社会経験がある。進行は速く、多くは発症から数年で呼吸筋が麻痺し、人工呼吸器の装着が必要となる。自ら死を選ぶ患者が多いことでも知られている。 われわれは、こうした患者のために広く海外の経験を学ぶべきだ。世界では試行錯誤が繰り返されており、ALSに限らず安楽死について多くの臨床研究が報告されている。米国立医学図書館(NLM)のデータベース「パブメド(Pubmed)」で「安楽死」と「臨床」(動物実験を除くため)で検索すると、2000~19年の間に2670報の論文が発表されていた。日本からはわずかに33報(1・2%)で、大部分は欧米、特にベネルクス三国からだった。 ALSの安楽死に関する臨床研究も多く発表されている。02年にオランダの医師たちが、世界最高峰の医学誌である『ニューイングランド・ジャーナル・オブ・メディスン』に発表した報告では、203人のALS患者のうち、35人(17%)が安楽死で亡くなった。その後、09年には『ニューロロジー』、14年には『ジャーナル・オブ・ニューロロジー』に続報が報告された。ALS患者で安楽死を遂げる人の割合は2割程度で大きな変化はなく、社会が許容すれば一定数のALS患者が安楽死を選択するであろうことが分かっている。欧米との決定的な違い 米オレゴン州の研究チームが17年、米医師会雑誌『JAMAオンコロジー』に発表した研究では、991人が安楽死を遂げており、基礎疾患として最も多いのは悪性腫瘍で762人(77%)、次いでALSが79人(8%)だった。社会制度、価値観が異なる米国でも一定数のALS患者が安楽死を選んでいた。3番目は呼吸器疾患44人(4・5%)、4番目は心疾患26人(2・6%)だった。 ALSの発症頻度は人口10万人あたり1・1~2・5人(日本の場合)だ。希少疾患であるALSが安楽死の2番目の理由であることは注目に値する。ALS患者の安楽死を、他の疾患と同じように議論することは問題だ。 ところが、このような主張は日本では皆無といっていい。今回の事件を受けて日本のメディアが取り上げたのは、東海大医学部付属病院で起きた安楽死事件に対する1995年の横浜地裁判決だ。この判決は、医師による安楽死が許容されるための4要件を示しており、そのうちの一つに「死が避けられず、かつ死期が迫っている」ことが挙げられている。これはALSには当てはまらない。はなから議論をする気がないことになる。 日本ではいかなる理由があったとしても、ALS患者は安楽死を選択できない。この状況は近隣のアジア諸国も変わらない。欧米でも安楽死を認めているのは一部の国だが、患者が移動することで安楽死を遂げることができる。ここが欧米と、日本を含むアジアとの決定的な違いだ。 2012年、スイスに渡航して安楽死を遂げた外国人は172人だった。患者の国籍で最も多いのはドイツ(77人)で、英国(29人)、イタリア(22人)、フランス(19人)と続く。欧州では国家のコンセンサスとは独立して、患者の自己決定権を担保する仕組みができあがっている。米国でもオレゴン州などが、そのような存在だ。アジアにそのような仕組みは存在しないため、日本のALS患者で安楽死を選択できるのは一部の富裕層などに限られることになる。 安楽死の問題は、今後ますます深刻になっていく。認知症が増加するからだ。ベネルクス三国などでは、本人が正常な判断ができる時期に、安楽死を要望する文書を残している場合には、進行した認知症患者の安楽死が合法化されている。横浜地裁=2020年3月、横浜市 ALSと異なり、認知症の安楽死は始まったばかりで、社会的コンセンサスが形成されているとは言いがたい。ご興味がある方は情報誌『選択』の2015年2月号に掲載された「認知症で『安楽死』を認めるべきか」という記事をお読みいただきたい。その中で述べられている米ボストン在住のアーヴ医師の見解が非常に印象的だった。 認知症の安楽死に携わるということは、人の命を救うという医師の誓いに反しているためできない。しかしその反面、医師としての経験で、認知症という病がどれほど厳しいものかは分かっている。末期の患者はもはや同一人物と言えず、愛する家族も忘れ、自分自身が誰かも分からず、介護なしで生きていけない。私自身が認知症になったら、このような状況で生きるより、人間として尊厳をもったまま、安楽死を選択したい。 この発言は、筆者は医師として真摯(しんし)な態度だと思う。どうやっていいか分からない。だからこそ、規範論を振りかざして問題を先送りするのではなく、オープンに議論しなければならない。繰り返すが、そのためには海外の事例から学ばねばならないのだ。 『選択』の記事が発表された後も、世界では議論が進んでいる。例えば、どうやって安楽死の意志を確認するか、についてだ。 16年4月、オランダで74歳の女性が認知症で安楽死を遂げた。亡くなる4年前に文章で同意した際、安楽死の時期について「自分で決めたい」と記していた。ところが、主治医は安楽死の際、患者の意志を確認しなかった。判断能力を失っていると考えたためだ。この件は刑事事件となったが、19年9月に無罪判決が下った。今後、この判例がオランダの規範となる。同国では認知症の安楽死が増加傾向にあり、18年の死者の約4%にあたる6126人が安楽死で亡くなっている。 これが世界における安楽死の現状だ。各国が患者の自己決定権を尊重しながら、社会的合意を形成すべく試行錯誤を繰り返している。日本でも、大久保氏を批判するだけではなく、患者の視点に立って議論すべきである。

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    コロナや災害支援、広がる自衛隊活用で忘れてはならない本分

    おたわ史絵氏の考えに注目した。彼女は内科医で、現在は法務省の非常勤医師として刑務所で受刑者たちの矯正医療にあたっている。新型コロナによる緊急事態宣言発令中の今年5月8日、自らのブログで、日本のPCR検査が増えないことについて当たり前であると指摘し、以下のように綴っていた。 できる場所が限られている。やる医師が少ない。いや、医療を責めているわけではない。鼻粘液採取の手技をするのは医療従事者自らも感染リスクを負う。鼻粘液採取の手技をするのは医療従事者自らも感染リスクを負う。  そのうえで、彼女は他国で検査が進む理由として「軍医」の存在を挙げている。 海外の検査が速やかに進むひとつの理由には軍隊の医師の存在があると思う。彼らは日常的に生物兵器に対する演習として防護服や汚染物の扱いに長けている。だから迷いが少なく、コロナにも向かっていける。日本には軍医がいない。前線で鍛えられた医師もいない。大多数の医師は防護服を着た事がない。見た事もないドクターだっていただろう。もとから世界で最も清潔な国のひとつゆえ、疫病対策には重点が置かれていなかった。そんな慣れない彼らが自衛隊の指導のもとに検査を始めている。使命感以外の何物でもない。 このように、おおたわ氏は、日本における課題を挙げ、現場の医療従事者への感謝の念を表していたが、これを読んで「なるほど」と思った。 私の知り合いで、防衛医科大出身の医師の中にも、イラクなどでの経験から死生観を確立した人がいる。この経験から生物兵器防護の演習や訓練を豊富にこなしているため、防護服やマスクの装着に慣れた医師は多い。 実際、自衛隊の医官(医師免許を持つ自衛官)らが、横浜港に入港し新型コロナのクラスターが発生したクルーズ船「ダイヤモンド・プリンセス」(DP号)のほか、空港(成田や羽田)における検疫支援(PCR検査のための検体採取)など、5月末まで支援活動に取り組んだ。 こうした現場が修羅場で、厳しいものであればあるほど、そこで活動するグループのリーダーの資質が結果を左右する。その構成員の命やけが、感染の確率にまで影響するだろう。そこで思い出すのは、私が初級幹部の時代に教えられた「指揮の要訣(ようけつ)」である。 指揮の要訣は、指揮下部隊を確実に掌握し、明確な企図の下に適時適切な命令を与えてその行動を律し、もって指揮下部隊をしてその任務達成に邁進(まいしん)させるにある。この際、指揮下部隊に対する統制を必要最小限にし、自主裁量の余地を与えることに留意しなければならない。指揮下部隊の掌握を確実にするため、良好な統御、確実な現況の把握および実行の監督は、特に重要である。 夜明け前からの訓練で、演習場でヘトヘトになっているときに何度も、鬼のような付教官からこれを復唱するように命じられたことがある。小隊長役を任されている際は、なおさらその言葉の一つ一つが身に染みる。PCR検査の結果待ちの帰国者らが一時滞在するホテルで、スタッフにウイルス防護策を指導、助言する自衛隊員(右)=2020年4月、東京都新宿区(防衛省提供) DP号に派遣された自衛隊の幹部隊員がこれを思い出していたかどうかは分からない。しかし、防衛医大を卒業した医官も、最初は幹部候補生学校に入り、これを教わるのは間違いない。「ニワトリ処分」も任務 ところで今回の新型コロナ支援などへの医官や看護師の派遣に関しても、先のおおたわ氏がさらに興味深いコメントをしている。 矯正医療に携わり刑務所と少年院を勤務地としているため、自身がウイルスを持ち込みクラスターが発生することを危惧している。医療崩壊だけでなく刑務所が崩壊する。絶対に避けなければならない事態である。高みの見物のようで本当に申し訳ない。そのかわり、できるだけの発信をしていこう。 確かに一理ある。ただ、この論理に添えば、自衛隊の医官や看護師、その他の関係者もDP号などへの派遣は避けた方がよいという考え方もできる。刑務所と同様に、自衛隊も基本は集団生活であり「3密」の極致だからだ。 いったん感染が広がれば、かつてのスペイン風邪の例を見るまでもなく組織として崩壊してしまう。これは、米海軍の4隻の空母で起きたクラスターも同様だ。そんな見方もできるのである。 ただ自衛隊、特に陸自のノウハウを一般市民や医療、消防、警察関係者などに広げていくという試みは、大変素晴らしいものだと思う。防衛省統合幕僚監部(統幕)や東部方面隊などから出されている防護服の着脱の動画やパワーポイントによる説明資料は、分かりやすくかつ要点を押さえている。 最近では、自衛隊体操を紹介した動画まである。これらは、長い在宅、いわゆる「ステイホーム」生活でよどんだ空気を一変させるには最適であろう。この自衛隊体操はしっかりやると汗だくになるほどハードで肉体鍛錬にも有効だ。私も20代のころ、自衛隊富士学校で初級幹部の必須アイテムとしてたたき込まれた思い出がある。 2011年に発生した東日本大震災において、自衛隊、特に陸自の活動は国民から高く評価されるようになった。福島第1原発事故でも、国民から広く感謝の言葉や手紙、メール、ファクスなどをいただき感激した。自分が現役で制服を着ている間に、国民から感謝される日が来ることは想像もできなかった。40年前に入隊したときには、「税金泥棒」などと言われる風潮もあったからだ。 このように自衛隊の存在意義が見直されるようになり、時代は変わったが、一方で隊長や管理者の苦労は続く。例えば、鳥インフルエンザの発生で、おびただしい数のニワトリの処分で養鶏場へ行くときの話である。「ニワトリの処分」これは任務だ。 しかし、若い隊員には納得させて「この任務がなぜ必要なのか」を理解させて現地に派遣しなければならない。有能な隊員ほど、「これが自分の自衛隊に入った目的だったのか。何か違う」と考えるからだ。 自衛隊の本来の任務が国防にあることは言うまでもない。そして、災害派遣やその他の任務と国防のバランスに関しては、それこそが国会で議題にすべきテーマである。憲法改正の前に、もっと具体的な議論が必要だ。陸上自衛隊の隊員に訓示する河野防衛相=2020年3月、さいたま市の陸自大宮駐屯地 米軍の場合、各州が州兵を持っている。そのためハリケーン「カトリーナ」のような大規模災害時や、塩素など危険物を満載した貨物列車の脱線事故のようなCBRN(化学:Chemical、生物:Biological、放射性物質:Radiological、核:Nuclear)事態では、まず州兵部隊を動かすことができる。 一方、米国の本土の内側で正規軍を動かすことは極めてハードルが高い。まさに、「ルビコン川を渡る」という状況のときに限られてくる。任務が増える自衛隊 日本の場合、陸自はこの州兵と正規軍の両方の役割をほぼ同時に求められることが多い。例えば、化学科部隊の場合、米国のWMD(Weapons of mass destruction、大量破壊兵器)-CST(Civil Suport Team、市民支援チーム)が担っているような化学災害やバイオテロへの対応を平時から役割として果たしている。 だが、南西方面での作戦においては、CBRNにおける検知などの情報収集、防護活動、除染、救護までカバーする。これだけの活動を、わずかオスプレイ1機分(約100億円)にも満たない予算枠の中で遂行しているのである。そのあたりの苦労と特殊性は、ぜひ多くの国民にも知っていただきたいところだ。 ゆえに近年の何でも自衛隊に支援を求める傾向について、私は少々危惧している。最近、日本各地で豪雨や台風による被害が相次いでいる。昨年の台風で千葉県内の家屋の屋根が吹き飛ばされる被害があったが、屋根にブルーシートをかける作業に、陸自の隊員が携わっているニュースを見て心底驚いた。  被害は大変ひどいものだったことは承知しているが、そこに自衛隊員を出すことは、以下の災害派遣の3要件に照らしてどうなのだろうか。・公共性(公共の秩序を維持するため、人命または財産を社会的に保護しなければならない必要性があること)・緊急性(差し迫った必要性があること)・非代替性(自衛隊の部隊が派遣される以外に他の適切な手段がないこと) 千葉県の被災家屋の支援にあたっていたのは、普通科連隊のレンジャー隊員の可能性がある。レンジャー隊員であれば「屋根から落ちなくてすごいですね」と褒められてもあまりうれしくはないだろう。今回の衛生部隊も同じかもしれない。 いずれにせよ、わが国周辺の安全保障環境を考えると、自衛隊に米軍の州兵的な役割を相次いで依頼することに疑問を覚える。特に新型コロナの発生源である中国は、尖閣を含むわが国周辺で、軍事力を含む圧力を高めているのが現実だ。 先の大戦中、旧日本陸軍は、インパールにおいて兵站(へいたん)のない中で奮戦した。そして多くの兵士が飢え死にした。その教訓は今に生きているのだろうか。自衛隊は、任務であればそれを愚直に完遂するのみである。 そこに国民や政治のサポートがないなどとは言わない。「陸自幹部はやせ我慢」だと陸上自衛隊幹部候補生学校(福岡県久留米市)で教え込まれた記憶がある。台風被害を受けた住宅の屋根にブルーシートを張る自衛官ら=2019年9月、千葉県鋸南町 今回の新型コロナ対応を通じ、自衛隊の存在は一層重要なものとなっている。一方で、自衛隊本来の目的とは異なる任務もますます増えている。そうした中で、予算と人員、装備がなければ陸自も活動することはできない。 これを契機に自衛隊や国防についての「在り方」そのものを、改めて考える必要があるのではないだろうか。

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    「新しい生活様式」など甘すぎる、withコロナを生き抜く虎の巻

    い。 日本における感染拡大はいったん収まりつつあるが、振り返ってみれば、東京の「夜の街」はさておき、医療や介護、保育など公共性の高いサービス内でのクラスター感染が目立った。実際には、スレスレで医療が持ちこたえた努力には感謝の念でいっぱいだが、今後も現場が疲弊することを防ぐために、前向きに経営サイドに向けた問題提起をしておきたい。 私が住む神奈川県も医療クラスターが多発しているが、その原因の一つは大型クルーズ船「ダイヤモンド・プリンセス」の受け入れで公営病院などがパンクし、民間病院が受け入れ強化したことにある。 クラスターが確認された横浜市内のある民間病院については、私も近くに27歳まで住んでいたが、「絶対に行ってはいけない病院」と地域で言われていただけに、やはりと思った人も多いのではないだろうか。 一方、別の病院では、勤務する医療従事者のプライベートも管理したりするほどの徹底ぶりで、病院によってかなり差があるようだ。経営サイドのマネジメントノウハウがない病院の現場はたまったものではない。 病院経営もコロナ対策を徹底し始めて以降、来院を予約制に変えたり、受付を中空ドアにしたりといったように、大掛かりな見直ししているところも多くなった。徹底した管理を医療現場は強いている。 話は少し逸れるが、私は魚の養殖にも間接的に関わっている。その現場では、養殖アユが病気で大量死することは日常茶飯事だが、これを回避している養殖業者の共通点は徹底した除菌管理だ。特に、車も含めて出入り時に、ハンドルやタイヤだけでなく靴底除菌をしている。 同じことは病院でもいえる。靴底を除菌水に浸けて入るか、ビニール袋に靴を入れるといった工夫が必要になるだろう。大型温泉施設の一部では実際こうした対策を取り入れている。米国では靴底経路も指摘されている。次亜塩素酸の効果は賛否あっていまだはっきりしないが、出入りする際に全身除菌するシステムも必要になっている。 こうした現状を踏まえれば、感染者を出さなかった自衛隊中央病院(東京都世田谷区)と同様のマニュアルを徹底することが有効だと思われる。さらに、万が一、クラスターが起きた際の指導は、行政ではなく、自衛隊と連携できるようにした方がよい。感染症は「細菌テロ」とみなして対応するぐらいの構えが必要だからだ。病院の入り口前に設置したテントで検温や問診を行う医療スタッフ=2020年4月30日、東京都世田谷区の自衛隊中央病院(田中一世撮影) 今回の新型コロナウイルスの感染者数は、当初想定より大幅に下回ったにもかかわらず、一時医療崩壊スレスレと騒がれた最大の要因は、病床やスタッフではなく、医療物資の不足だと現場からは聞こえてくる。避けられない患者減 特に民間病院で、急遽コロナ患者を受け入れた病院ほど、十分な備蓄がないのが実態のようだ。専門家や医師会の代表者が声高に「緊急事態宣言を」「医療崩壊が懸念される」と繰り返していたが、責任逃れの疑念もわく。 徐々に患者は戻りつつあるようだが、ほとんどの病院はコロナ後、患者が激減しており、中には8割減となったところもあるという。 そもそも大半の医療費の中身をよく見れば、多くは生活習慣病であり、これらは本来なら病院に行かなくても個人の意識次第で治るものか、行く必要性がないといえばないものが多い。 風邪は基本ひいたら寝た方が効くこともあるほか、花粉症やぜんそくは重度の人は別だが、軽度なら薬は月に一度ネットで遠隔処方してもらえれば十分だ。日本の場合は、過剰に医療費が膨れ上がる実態もコロナ禍でよく分かった。 かつて、北海道夕張市が破たんし、医療崩壊したが、結果として一人当たり医療費が抑制し始めたどころか、健康的なシニアも増え、自分でケアをする人も増えた。現状もそうで、新型コロナで気を付けるようになっただけに一般の風邪も激減している。 私自身、これまでは常に1~4月は風邪をひくことが多かった。だが、今年は皆無で逃げ切った。6月になっても風邪をひいていない。徹底した除菌と飛沫感染対策をすることで、季節性のインフルエンザはもとより風邪もひかなくなったということだ。 要するにコロナ後は、これまでと同様に患者数を確保することは不可能であるし、むしろこれを加速させていくべき点も多々あるのだろう。こうなると医療制度を根底から考え直す必要がある。 感染症病院はすべてを公営化し、開業医院は多くが廃業を余儀なくされる可能性があるため、総合病院での就労、ネット診療が可能な病院展開の支援、開業医が破産しないセーフティーネットを確立するといった抜本的な医療制度改革が求められる。 日本は海外のプライマリーケアを参考に、総合病院とかかりつけ医の制度変革を進めてきた。だが、遠隔医療と訪問医療の制度拡充、フランス的な疾病率に応じた大幅な改善による医療費負担率見直しで医療費抑制などを進めるべきであることは、国の有識者会議でも提言がなされている。医療費は毎年1兆円ずつ増えているが、45兆円の医療費は15兆円程度減らせるのではないだろうか。介護も介護保険料を数兆円削減できる可能性もある。病院の集中治療室(ICU)で、新型コロナウイルスの重症患者の治療にあたる医療従事者=2020年4月23日、川崎市 これらの問題は、開業医だけでなく中小零細企業でも同じだ。一度クラスターが起きると倒産を招く事態になりかねないからだ。ちなみに、私が経営に関与した会社は、1月17~19日に社員1人が展示会でインフルエンザにかかり、工場に帰ったところ全員に感染し、2週間程度工場稼働が停止した。慣れれば結構楽しい? 稼働停止を複数回も招けば会社の存続に関わるだけに、社員にマスクや除菌剤を支給、社内換気のほか、通路は2時間に一度水浸しにし、加湿器も湿度が70%以上になるように設定した。靴も支給して内外で履き替えるルールを決めた。会社に入る際には着衣をすべて除菌、荷物の受け取りも外で行い、受け取り時だけでなく、開封後の除菌も徹底した。 また、休憩前には必ずうがいと手洗い、休憩室ではマスクを着用するか、飲食の際などは一切しゃべらないよう徹底。全員車通勤で、利用時に足元やハンドル、シフト、キーを除菌するようにした。もう一つ、社長が病院に行くことが多いので、テレワークにしてもらった。 非常に煩わしいと思われるかもしれないが、慣れれば結構楽しくやれる。むしろ、安心感を持たせることで働くモチベーションも上がるのだ。やはりこれだけ徹底しなければ、かえって死活問題になりかねない。政府の有識者は「新しい生活様式」と繰り返すが、事業継続計画(BCP)の観点から見ると説得力が乏しい。学者らしいといえば学者らしいが、実務第一主義での専門家の指導もほしいと思う。 日常生活も変わった。例えば店舗のレジだ。コンビニエンスストアやスーパーなどの場合、すでに導入されているが、レジにビニールシートやアクリル板を常設している。基本的に新型コロナウイルスは、飛沫感染が主な「ヒトからヒト」よりも、「ヒトからモノ」に付着し、別の人に感染するケースが8割とされる。 そもそも政府の発表では、発症しない限り無症状での感染は極めて低いとされていたが、海外では感染事例もあり、政府はその後、2日前から濃厚接触者との定義に変更した。世界保健機関(WHO)も幹部が「無症状者からの感染はまれ」と発言した直後に撤回している。 このように無症状者からの感染も念頭に置く必要があるが、コンビニやスーパーのレジは支払い時ばかりを問題視し、店員と客のやり取りの後に除菌や手洗いすることで、感染防止ができていると思いがちだ。だが、本来は不特定多数に客が触った商品の表面などにウイルスが付着している可能性もある。 要するにレジスタッフ回りだけの対策がほとんどで、生産ラインや物流、商品そのものの対策はほとんど啓発されていないのが現状だ。一部大手コンビニがトイレやゴミ箱の使用も中止したが、トイレは多くの場合換気扇が回っており、除菌剤を使用して掃除するだけに感染リスクは低いだろう。 ゴミ箱は分別されていない場合、店員が分別し直すため、感染リスクは高まる傾向があり、注意が必要だ。まずはゴミ箱を外に配置するだけでなく、分別する場合は除菌水につけるといった新たなマニュアルが必要になる。最近はセルフレジ化も進み、リスク低減にかなり有効だと思われる。こうした工夫や改善を重ねることで、第2波はかなり防げるのではないだろうか。新型コロナウイルス感染拡大防止のため、レジに透明のシートが設置された名古屋市内のスーパー=2020年4月 通信販売も増加傾向にあるだけに、配達物の除菌も徹底するといった在宅におけるマニュアルを作成するべきだ。これは車や自転車なども同様で、徹底的な「除菌」を習慣づけるしかない。 家庭での生活様式も見直す必要がある。今回の新型コロナ感染拡大を教訓に、そもそも外出先から家人が帰宅した際、玄関や靴を除菌し、衣服も着替え、できれば手洗いうがいだけでなく、シャワーを浴びることなどを習慣化するのが望ましい。ただ、これだけ徹底するのは現実味がない部分もあるので、新しい生活様式の提案の一部は法制化するなども急ピッチに推進すべきだと思われる。日本は「お家芸」で勝負せよ ところで、今回のコロナ対策で議論が進んでいないのが地下鉄や電車である。テレワークの推奨で、6月以降も満員度は低いが、路線によっては「密」状態に戻っている。電車内などでの感染はあまり深刻ではないようだが、盲点は地下鉄のホームにある。 地下鉄車内は窓を開けて喚起は徹底されているが、ホーム内の空気はそれなりに滞留している。「夜の街」や病院や介護施設などのクラスター以外の感染要因をとして、今一度、地下鉄の構内関連を調べる必要があるのではないかと思われる。 次にエンターテインメント関連を考察してみよう。スポーツ観戦やコンサートなど、大勢の観客を伴うイベントの再開はまだまだほど遠いようだが、3月に開催されたさいたまアリーナで開かれたK1イベントは物議を醸したものの、6500人が来場した割には、目立った感染は報告されていない。理由は、マスク着用義務と歓声を禁止したことにあるとみられるが、これらを徹底してライブハウスは再開したが、客が声を発しないライブハウスは厳しいとは思う。 最後に、今、東京の新宿・歌舞伎町での感染拡大が懸念されている。多くが、ホストとなっているが、ホストの客の大半は風俗関係で働く女性である。また、韓国の感染第2波の集団感染は同性の性的接触で、新宿2丁目はあまり話題にでないが、コロナはエイズにも似ている特性もあるため、感染源が性行為だとすれば、すべての問題の謎は解ける。この論で行けば、規制すべきは、風営法であり、店ではないのだろうとも思う。 以上、種々の対策や課題を記してきたが、無症状感染者からの感染の有無はよく分かっていないとはいえ、発熱を徹底的に確認するサーモグラフィーなどを設置などは常態化するだろう。一部の自治体では、マスク着用条例なるものが見られるし、店舗の換気も不可欠になるが政府による助成は検討されている。 今後政府が行う公共投資の景気対策と雇用対策、産業創出で期待されるのが、以前私が提唱した、オバマ大統領がリーマンショック時に行ったグリーンニューディール政策に対抗し、公衆衛生環境投資の財政出動である「クリーンニューディール」政策だ。マスクを着用して家路につく人たち=2020年5月、大阪市北区(鳥越瑞絵撮影) 日本の技術のお家芸でもあるセンサー関連の需要は今まで以上に伸びる。店舗や行政窓口などで必要な非接触器具はもちろん、オートセンサーによる除菌など、あらゆる自動化サービスが求められ、日本の技術こそが不可欠になる産業の創出が期待できる。 日本のコロナ対策は世界各国から見れば非常に甘くいい加減なものだが、結果として感染者や死亡者数をかなり少数に抑えることができたことを思えば、日本の技術や生活習慣が再び評価され、それ自体を産業として経済再生にも寄与できる、大きなチャンスとなるだろう。 本稿では「withコロナ」対策をざっぱくに記載してきたが、各自の生活意識、経営意識、政治意識の変革の一助となり、経済復活のきっかけとなれば幸いである。

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    新型コロナでわが道を貫くスウェーデン「集団免疫」の毀誉褒貶

    された。ノルウェーでは政府の要請に従わない場合、2万クローネ(約21万円)の罰金が科されるが、一部の医療専門家はさらに厳しい取り組みをすべきだとまで言っている。それでも、多くの一般人は、感染を防ぐために現状の厳しい政策は仕方ないと考え、ほとんどの人が政府の要請に従っている。 ところがスウェーデンでは、全く異なる独自政策を採用した。小中高の授業は校舎で行われ、飲食店なども通常通りの営業で、サッカーなど室内外の運動施設も閉鎖されることはなかった。 規制も緩やかで、禁止ではなく、あくまで「勧め」となっている。70歳以上の高齢者や持病のある人には、自宅待機と他の人との交流を避けるように求めるにとどまっている。 「ここではカフェやバブなどで全く自由に人と交流し、ハグやキスをして、他の人のグラスから飲んだり、大声で唾を飛ばしながら会話をしている。病院では医療関係者が感染をあまり厭(いと)わずに行動したりしている。これでは感染者や死亡者が増えるのは当たり前だ」。スウェーデンの緩い対応策に、ノルウェー人記者が呆れ顔でこのようにレポートしたほどだ。スウェーデンの首都ストックホルムのレストランで楽しむ人たち=2020年4月20日(AP=共同) ノルウェーと隣接している地域には、普段多くのノルウェー人が安価な食物や商品を求めて訪れるが、現時点では一時的に国境閉鎖されている。5月に入って、スウェーデン側は、ノルウェーが国境を開いて、以前のように多くのノルウェー人が買い物に訪れることを望んでいるが、ノルウェー側は懐疑的である。 スウェーデン政府の新型コロナ政策に関する公でのディベートはないが、スウェーデン人の7割超がもっと厳しい対策を望んでおり、ロックダウン(都市封鎖)を望んでいる人も約4割に上る。何よりも毎日平均して何十人も新型コロナによる死亡者が出ていることに、多くのスウェーデン人は憂いの表情を隠せない。 しかも、医療専門家の多くが、スウェーデン政府と対策を主導する疫学者の戦略に懐疑的である。他国のように厳しく取り組むべきであり、さもないとスウェーデンは今までにない危機を迎えるだろうと、憂慮している。それでも、スウェーデン公衆衛生局で新型コロナ対策を主導した疫学者のアンダース・テグネル氏は「現在の政策は非常に効果があり、これからも継続させるつもりである」と強調している。「ほんの少し」違う政策 数字を見ても、隣国の違いは明らかだ。面積と人口では、スウェーデンはノルウェーの2倍である。ところが、人口100万人当たりの死者数で見ると、ノルウェーは40人前後でほぼ世界平均だが、スウェーデンは300人を超え、総計でも3500人を超えた。 感染者数も、ノルウェーは約8千人だが、スウェーデンでは約3万人に上っている。もっとも感染者の数値に関して、国内で初めて確認した時期の差はあるが、いずれにしても、スウェーデンでの新型コロナ死者数はノルウェーの15倍の水準に達した。 厳しい取り組みの甲斐もあってか、ノルウェーでは感染者の伸びは次第に緩やかになり、死亡者も少しずつ減りはじめ、入院患者数も減少を見せるようになった。ノルウェー政府はまず4月中旬から順次、幼稚園、小学校の低学年と試験的に再開させた。少人数でグループを作り、念入りな手洗いやソーシャルディスタンスを徹底させた上で、常に同じグループで行動するという指針のもとで行われた。 これらと同時に、美容院なども営業を再開するようになった。4月30日には50人以下の集会も許可されるようになり、ソーシャルディスタンスも1メートルに短縮された。 5月11日からは、残りの小中高の学校授業も再開された。大学はまだ再開の見通しは立っていないが、ノルウェーは少しずつ通常の状態に近づきつつある。 一方、スウェーデンでは、多少の変動はあっても、新型コロナによる感染者や死亡者の数が徐々に減少しているとは依然として言い難い。連日、メディアから死者数の多さを指摘されるたびに、テグネル氏は当局が入念な研究をしていないことはあり得ず、スウェーデンの政策は他国と「ほんの少し」違っているだけだと訴えている。 4月中旬に発表された報告によると、スウェーデンの首都ストックホルムにおける集団免疫は早くとも5月に獲得できるということだが、集団免疫は、人口の一定割合がウイルスへの免疫を獲得することで、初めて感染抑制が可能になる。 ワクチンは未だ開発中であるため、接種はできない。となると、大勢の人がまず新型コロナに感染する必要があるということになる。 感染しても、健康な人の8割は軽症で済むと報告されているが、危篤状態に陥る可能性があるし、回復後に肺などに後遺症が残るとも報告されている。死亡する人の多くは老人や持病のある人々だが、集団免疫が必要だからといって、これらの人々を感染の危険に晒すことは、人道的に受け入れられることではない。ノルウェーの首都オスロにある臨海地域、ビョルヴィカ(ゲッティイメージズ) このように、スウェーデンは他の北欧諸国とは違う独自のコロナ政策を続けているが、どうしてだろうか。その一因として挙げられるのが、200年以上にわたって直接的な戦争経験がほとんどないことである。 19世紀以降だけを見ても、北欧諸国は激動の歴史に揺れている。第2次世界大戦で、中立を表明していたノルウェーとデンマークは1940年にナチス・ドイツの侵攻を受け、ともに占領下に置かれた。フィンランドは国境を接していたソ連の侵略に対抗するため、ナチスと手を結び、敗戦国となってしまった。実は「良いモデル国」 一方、スウェーデンはナポレオン戦争以降に重武装中立主義を採用した影響で、約200年間戦いのない状況が続いている。ナチスの侵攻の危機に晒された第2次大戦でもなんとか中立を貫き通し、日本のポツダム宣言受諾の連合国への通告も、中立国であるスウェーデンとスイスの日本公使館を通じて行われている。 スウェーデンのジャーナリストによると、同国が他の国と違うコロナ政策を持っている理由の一つとして、このように200年以上平和が保たれていたことで、かえって危機に対する意識ができていないためだという。要するに、スウェーデン人は「平和ボケ」しているというのだ。 この意識は、第2次大戦にナチスとソ連に翻弄され、危機に対して常に用意周到なフィンランド国民と対照的である。スウェーデン国民の政府に対する信頼は非常に強く、政府から与えられた情報に対する自己責任も、反発よりむしろ高い忠誠心をもたらす。この忠誠心が正しいことは、歴史が証明してきたという。 多くの国や医療専門家から批判を浴びているにもかかわらず、スウェーデンは世界保健機関(WHO)から、新型コロナ対策について称賛を受けている。WHOによると、将来における良いモデル国ということだ。 スウェーデンは全国的な封鎖措置をとっておらず、学校や企業活動もいつも通り続き、外出制限や移動規制も行われていない。もし本格的な第2波が到来するなど新型コロナと長期間の戦いを強いられたら、世界中の国で封鎖を行わずに社会生活を存続させることも考えなければならないが、そのときはソーシャルディスタンスを異なる形で規定しなければならない。 つまり、現在のわれわれの生活様式を、新型コロナに対応させて変える必要がある。スウェーデンではそれを実際に行っている、とWHOで緊急事態への対応を統括するマイク・ライアン氏は指摘する。 新型コロナ危機は否定的なことばかりだけではない。今や新型コロナウイルス撲滅は全人類の共通の目標である。戦争とは、国と国が互いに敵味方に分かれて戦うが、この戦争は全世界の人が同じ目標を持ち、共に協力し合って解決するのである。いわば、全人類が同志といえる。 以前から環境問題への取り組みはさまざまな形で行われていたが、新型コロナ危機の影響で、別のアプローチによる取り組みも検討され始めている。例えば休暇の過ごし方について、今まで、北欧の人々は南国で数週間のバカンスを取ることが多かった。 しかし、今回の経済的打撃の影響で、航空会社の経営不振に伴う運賃上昇が危ぶまれている。それならば、環境問題も踏まえて、持続可能な休暇の過ごし方を考えるべきだろうという意見が増えてきているようだ。山岳地帯の多いノルウェーでは、山へハイキングに出かけることは日常的なことであるが、これからは山や森の中で休暇を過ごす時間が多くなるかもしれない。世界保健機関(WHO)で緊急事態対応を統括するマイク・ライアン氏=2019年5月(ロイター=共同) 自然に対するアプローチとともに忘れてはならないことが、人間社会のあり方である。新型コロナ危機で、大都市集中一極化の危険性が浮き彫りになった。何よりも、今回の危機を踏まえて民主主義に依った国政運営が求められる一方で、地域社会の重要さも忘れてはならない。デジタル化の推進で社会から孤立する人が増えてきたが、地域社会の充実を図ることで、緩和できるかもしれない。 今回、世界各国は新型コロナ対策として、ロックダウンや集団免疫をはじめ、さまざまな政策を採用した。ただ、パンデミックが世界で繰り返し起こってきたことは、歴史が証明しているし、新型コロナが終息に向かっても、いつか別のパンデミックが起こることだろう。それまで人類は今回の教訓をよく踏まえ、次の危機が訪れる前に備える必要があるが、果たしてどれだけの国が備えられるのだろうか。

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    感染症対策の第一人者が訴える、リスクを確実に下げる「一歩」

    、軽症者や無症状病原体保有者が自宅やホテルなどで療養する際にも重症化するリスクがあり、重症化した際の医療アクセスに関する体制作りが必須となる。感染リスクを下げるには 現在、全国の医療施設で院内感染が相次いで起こっている。院内感染は、医療従事者が新型コロナウイルス感染症の患者と判らず、診療や看護を行うために起こるものだ。今回の新型コロナ感染症では、無症状者病原体保有者が一定数存在しており、そのことが病院内における感染症対策を一層困難なものとしている。 さらに、新型コロナウイルスは鼻腔や口腔などの上気道だけでなく、気管・気管支や肺などの下気道、さらには、腸管、心臓など、人の体内のさまざまな器官や組織に感染し、しかも長期間定着生存する。それゆえ、唾液や喀痰(かくたん)のみならず、便などの体液などから長期間にわたってウイルスが排出されるため、感染を受けないためにも、医療従事者は長期にわたり徹底した感染予防に努めていく必要がある。 このように、新型コロナウイルス感染症にはさまざまな問題があるのは事実だが、一方で感染のリスクを確実に下げていくポイントがある。まず、政府の専門家会議が示した、密閉空間・密集・密接の、いわゆる「3密」となる環境や状況になることをいかに避けることができるか、にある。 もう一点、人との出会いを極力8割減らすとともに、常に接触感染予防のための「こまめな手洗い」や「手で触れやすい物や箇所の消毒」、飛沫(ひまつ)感染予防のための「密接した状況でのマスクの着用」や「ウイルス数を減らすための換気」を継続して行う。このような感染予防に関する四つの基本をいかに徹底していけるか、が重要なポイントとなる。 手洗いは感染予防の基本であり、2005年の英医学誌「ランセット」の報告では、手洗いのみで肺炎などの呼吸器疾患に感染するリスクを50%ほど防げる、とされている。手洗いとともに、新型コロナウイルスの侵入門戸となる顔面の鼻・口・眼に触れない行為、さらに手が触れやすいドアノブや手すり、机、コンピューター、スマートフォン、トイレなどの環境の消毒も感染予防のポイントとなる。 また、これまで主として咳(せき)などの呼吸器症状がある人へのマスク着用が推奨されていたが、米CDCや欧州CDCが相次いで外出時のマスク着用を推奨するなど、呼吸器症状のみならず、会話やおしゃべりなどを含めた1~2メートルの距離での飛沫感染防止にマスクは有用であるとの見解を示している。 そのため、人と会話したり、人混みに出る際は、マスクをすることで感染のリスクを確実に減らすことができる。さらに、会話などで生じるマイクロ飛沫の除去には換気が重要で、1~2時間に5~10分ほど窓を開けて空気の入れ替えをすることが重要である。NPBとJリーグが合同設置した第4回「新型コロナウイルス対策連絡会議」を終え、記者会見で話す専門家チーム座長の東北医科薬科大の賀来満夫特任教授(左)=2020年3月23日 新型コロナウイルス感染症に罹患(りかん)した患者が急増している現在、重症患者のためのベッド不足、そして院内感染の発生と、まさに医療崩壊が起こりつつある。そのため、私たちは今こそ行動変容が求められている。 国民一人ひとりが、手洗いやマスク着用、環境消毒、換気を生活の中の新たな習慣として感染予防に努める。さらに、3密を避け、人との出会いを少なくし、外出を控えることで、私たちはともに連携・協力し、新型コロナウイルス感染症の脅威に打ち勝つことができることを信じている。

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    入手困難な消毒用アルコール、高度数「酒」で考える解決の糸口

    とだ。しばらくは、一般消費者にアルコール製品が行き渡るのは難しいのかもしれない。 さらに悪いことに、医療施設でも入手が日ごとに厳しくなってきているようなのだ。 ある医師は「在庫はあるんですが、次にいつ入荷するかは分からない状況です。業者さんも手に入れるのは厳しいと言っています」と嘆く。医療用品の卸をしている業者も「大きな病院はともかく、個人医院は不足し始めている」と事情を打ち明けてくれた。 ドラッグストアなどでよく見かける消毒用エタノールの製造元大手、健栄製薬に話を聞くと、新型コロナウイルスの感染拡大が中国で始まった段階で増産を始め、今では通常時の3~4倍の出荷をしているとのことだ。それでもまだ間に合わないという。  厨房(ちゅうぼう)用の除菌アルコールで有名な「パストリーゼ77」の製造元、ドーバー酒造にも話を聞いた。こちらも24時間態勢で通常時の約3倍の量を生産しているにもかかわらず、まったく注文に追いついていないとのことだ。 同社営業推進課の担当者は、言いにくそうにこの製品がネットで高額で転売されていることも教えてくれた。フリーマーケットの大手サイトをチェックしてみると、転売価格は定価の4倍にもなっている。マスクはいち早く転売が禁止されたが、除菌アルコールの転売はそのまま続いているのである。 昨今は医療向けマスクの供給が問題になっているが、消毒用アルコールも無くなってしまえば、それこそ「医療崩壊」である。また、厚生労働省も新型コロナウイルスの予防には手洗いが必須とし、それができなければアルコール消毒を一般市民に求めている。これはマスク以上に問題なのではないだろうか。 日本国内のアルコール製造事業を管轄する、経済産業省の製造産業局素材産業課にこの件について聞くと「もちろん品不足は把握している」とのことだ。 消毒用アルコールは厚労省の管轄であると断ったうえで、新型コロナウイルスへの対応として令和2年度補正予算に「マスク・アルコール消毒液等生産設備導入補助事業」の項目が盛り込まれていることを説明してくれた。 マスクやアルコール消毒液の生産設備の導入に、中小企業へ補助金を出し、設備導入を促進しようとするものだ。生産設備導入にあたり、中小企業で75%、大企業でも66%の補助金が支払われるもので、かなり大がかりのものといえる。新型肺炎の影響でマスクやアルコール消毒の入荷がないことを伝える張り紙=2020年2月28日、相模原市(寺河内美奈撮影) しかし、新型コロナウイルスの騒動が始まってから間もなく3カ月目を迎えようとしている現在、マスクも消毒用アルコールも市場に出回らないばかりか、さらに店頭の商品は払底している。これから設備導入といっても、それはいつになるのか。そして実際に増産となり、医療従事者や一般消費者に行き渡るようになるものなのか。 マスクの場合、メーカーも設備拡充に二の足を踏んでいるという話もある。 もし、マスクの生産のための設備投資をしたとしても、今や新型コロナウイルスのパンデミックが終息しつつある中国で、再び生産が始まれば価格競争で対抗できるはずもない。そうすると、設備や製造ラインは途端に余剰のものとなる。この需要もいつまで続くかは分からない。そのために投資や人的リソースを投下するのはギャンブルだろう。これと同じことが消毒用アルコールにも言えるのではないか。酒造メーカーによる生産と課題 消毒用アルコールが手に入らなくなったということで、今注目を集めているのが酒造メーカーのアルコール製品だ。飲料の名目で高い度数のアルコール製品をつくり始め、すでに予約でいっぱいらしい。 お酒の世界では、ポーランド産のウオッカの「スピリタス」のように、高濃度のアルコールのものがある。スピリタスのアルコール度数は96度。これは工業用の無水エタノールの濃度99・5%とほぼ同じだ。 そのため、スピリタスが消毒用に使えるのではないか、ということで買い求められ、ついに日本国内では入手するのが難しくなっている。今ではオークションサイトにて、通常の流通価格の3倍程度で取引されているというのだから驚きだ。 しかし、ウオッカを消毒に使うのはあながち酔狂とも言えない。その昔の14世紀にペストが世界を席巻し、一説には世界人口の20%超の約1億人の死者が出たときがあった。 このとき、ポーランドだけはペストの被害が比較的少なかったといわれる。後年、この理由とされたのが、ウオッカを家庭の消毒剤や消臭剤として使っていたことにある。テーブルなどを拭くときにウオッカを用いていたり、消臭剤として脇の下などにつける習慣が広くポーランドにはあった。今でもポーランドでは、高濃度のウオッカを消毒のために使っているとのことだ。 もともと、ウオッカのような蒸留酒は「生命の水」と言われて、どちらかというと医療目的で進化していったものだから、当然といえば当然である。 酒造メーカーも普段製造するとき、蒸留器を調整してアルコール濃度を高めれば、さほど難しくなく医療に使える濃度のアルコールをつくることができる。第3類医薬品として医薬品医療機器等法(薬機法、旧薬事法)の認定を受けている消毒用アルコール(エタノール)の濃度は、76・9~81・4%(健栄製薬「消毒用エタノール」の場合)である。製造方法はほぼ同じなのだ。 そこで酒造メーカーがアルコールづくりに乗りだしたわけだ。もしかすると、これで昨今の消毒用アルコール不足を補えればよいかもしれない(最終ページ末尾に※注1)。 実際に、前出の除菌アルコールのメーカーであるドーバー酒造は、その名の通り、もともとは酒造メーカーだ。バーなどで必須のアイテムになっている、ゆずや桜、梅など、和のテイストのリキュールでバーテンダーにはよく知られている。さらにドーバー酒造は、実は「スピリッツ88」というアルコール度数が非常に高く、転用しようとすれば消毒用にもできる製品をつくっている。ドーバー酒造の神戸三田工場=2010年9月28日、兵庫県三田市 だが、実はここにいくつものハードルがある。 「こちらで製造している除菌アルコールの『パストリーゼ77』は、食品衛生法で定められた食品添加物ということになっています」と、前出のドーバー酒造営業推進課の担当者は言う。 つまり、これは食べ物としてつくられているのだ。それでも「除菌」のための製品となって、実際に全国のレストランなどで使われているのはなぜか。 「アルコール度数が77%なのでウイルスにも効くことは、厚労省がつくっているガイドラインにも記載されている通りです。けれど、薬機法がありますので、人体などにも使えるということは製品には標記してません」とのことだ。 これについては、日本のアルコール製造メーカーの団体である、一般社団法人アルコール協会によると「消毒用のアルコールは薬機法で定められたもので、それを順守しなければ問題である」という。 ちょっと混乱しそうなので整理してみよう。日本国内で消毒用アルコールをつくるにはまず、以下の五つの法規制をクリアしなければならない。しかも所管官庁は四つに横断している。・医薬品医療機器等法(厚労省)・食品衛生法(厚労省)・アルコール事業法(経産省)・酒税法(国税庁)・消防法と都道府県の条例(消防庁と各都道府県)消毒用アルコールの定義と法の壁 そもそも、まず「消毒用アルコール」とは何か。法的な定義にのっとれば、それは薬機法に定められた「医薬品」または「医薬部外品」のことだ。ドラッグストアに並べられた除菌製品で、「消毒」や「殺菌」という表現が書かれていれば、薬機法で認定された「医薬品」または「医薬部外品」となる。 これを製造するには許可が必要となり、それには有効性や安全性などに関する厳しい審査が必要だ。非常にハードルは高い。 この定義からすれば、前述のドーバー酒造の「パストリーゼ77」は、薬機法の認定はとられておらず、そうすると薬機法の分類によれば雑品扱いとなる。それがなんらかの除菌効果があるとしても、審査などはいらない。その代わり「消毒」や「殺菌」という言葉は使えない。そのため「除菌」と表示されているわけだ。 しかし、そこに高純度のアルコール分77%と記載されていれば、ウイルスに対して効果があると分かる人には分かる。ウイルスの殺菌に効果があり、手指消毒に適した濃度は一般に70~80%前後だからだ。ちなみに、米疾病予防管理センター(CDC)が推奨しているのは60%以上。世界保健機関(WHO)は60~80%には殺菌効果があるとしている。 するとアルコール濃度が60%未満のアルコール濃度の消毒製品は、たとえ薬機法の医薬部外品であろうと効果の期待薄ということになる(最終ページ末尾に※注2)。食品添加物と公称している「パストリーゼ77」は、その意味で薬機法の認定は受けていないが、キチンとしたウイルス殺菌に効果が見込めるということだ。 ここに、実はトリックのようなものがある。大手化学メーカーがつくっているような手指の「消毒」が公にうたわれた手指消毒製品でも、実はウイルスには効くことが期待できないものがあるのだ。 例えば、現在品薄状態の某大手メーカーの医薬部外品認定を受けた手指消毒剤の成分を見てみると、実はウイルスの殺菌効果があるほどアルコール濃度がない。そしてよく成分表をみてみると「溶剤」としてアルコールを使っているとの記載がある。 メーカーのサイトを調べると、初めてそこにアルコール濃度が60%未満であることが書いてある。これでは菌類などには効果があっても、ウイルスには効き目がない。 これがどういうことかと言えば、薬機法の「医薬部外品」の認可を取得したのは、ウイルスを消毒する製品というものではなく、その他の菌類のこと。 そして、その製品のウェブサイトや販売店向けの注意喚起文などを見ると、「消毒用のアルコール(エタノール)は含まれているが、アルコールが有効成分ということではないため、コロナウイルスの効果は確認できていない」というようなことが、消費者には極めて分かりにくいように書かれている。もちろんコロナウイルスだけに効かないだけではなく、ウイルス全般もダメだろう。 なお、このような消毒製品には、よくベンザルコニウム塩化物(第4級アンモニウム塩)が有効成分とされているが、これも細菌類には消毒効果があるものの、ウイルスに対する殺菌効果は現在までのところ疑問視されている(最終ページ末尾に※注3)。 大手メーカーまでもが、このような誤認を否定しないやり方で手指消毒剤として販売しているわけだから、中小のメーカーはもっとやりたい放題である。消費者としてだまされないようにウイルス対策のための手指消毒剤を選ぶとしたら、それが医薬部外品か雑品かにかかわらず、まずはアルコール濃度が60%以上かどうかが選ぶポイントである。写真はイメージ(gettyimages) なお、除菌や消毒などを効能にうたったキッチン用の製品で、独自の第三者機関に委託した調査をもとにコロナウイルスへの除菌効果を主張したメーカーもある。しかしこれは、あくまでもキッチン用であり、配合された成分の兼ね合いからも手指消毒に向かない。 また低濃度のアルコールでも長い時間作用させれば、ウイルスを不活性化することはできるという研究もある。ただこの場合も、手指をアルコールに30秒間ぬらしておかねばならないので、手指消毒には現実的とは言えないだろう。 さて、それでは酒造メーカーのような蒸留設備をすでに有している所がアルコール濃度を高めて製品化するのはどうか。酒造メーカーでなくとも、単にアルコール度数を60%以上の製品をつくってしまえばよいではないかとも、思える。高アルコール度数の酒は危険 そこで高いアルコール度数の酒と除菌アルコールを両方製造しているドーバー酒造に再度聞いてみる。すると、ここにも法律の縛りがあった。それは「消防法」である。 「消防法によってアルコール度数が高い製品は厳しく規制されています。例えば(除菌アルコールの)『パストリーゼ77』は、お酒と別ラインでつくっています。なぜなら消防法で定められた規定があるからで、製品はコンクリートが何十センチもある防爆施設内で、例えば静電気が起きないようにしたり、厳重な管理のうえで製造しなければならないのです」 なるほど。次に、これについて所轄官庁である消防庁に詳細を聞いてみた。 「アルコール度数60%以上の製品は、消防法で『危険物』とみなされます。ですので、それに定められた施設が必要です」 消防法ではアルコール濃度が高いため引火しやすいものを「危険物」として規定し、製造や流通には厳しい制限を課している。例えば耐火構造や消火設備、運搬や出荷時の積載方法、貯蔵所は壁までの距離やスペースまでもが規定されている。 これに違反すると最大懲役刑もある罰則となる。危険物と認定される基準には細かい付則もあるのだが、そのうちの一番のポイントがアルコール濃度60%以上の規定なのだ。 前述した令和2年度補正予算の「マスク・アルコール消毒液等生産設備導入補助事業」では、補助率は高いものの補助上限額が3千万円となっていたが、消防法の厳しい設備基準をクリアする危険物設備が必要となると、やはりおいそれと新規参入に乗り出すわけにはいかないだろう。もっぱら既存の事業者で、設備ノウハウと爆発物を取り扱うスペースがある所だけになる。 先ほど、アルコール濃度が薄くウイルス対策には効果が必ずしも証明されていない医薬部外品の手指消毒液の話をしたが、これもおそらくは、消防法のために製造や流通にかかるコストが高くなることを見越して、あえてアルコール濃度を低くし、その分コストを安くしているのではないだろうか。 ちなみに消毒液なみのアルコール濃度の酒をつくっている酒造メーカーは、この基準をクリアしているのだろうか。ちょっと怪しく思えてしまったのだが、このへんはやはり抜け道のようなものがあるらしい。 「危険物施設が必要になるのは、指定数量を超えたものになります。取扱量が400リットル未満であれば、この消防法の規定は受けません。ただし、火災予防条例令にもとづいて市町村の条例があるので、そちらにもよります」と消防庁の担当者は言う。 そうすると、在庫も含めて400リットルに抑えた製造をしていけば、ウイルス対策に使える高濃度なアルコールがつくれるということだ。もちろん、そのときは薬機法によって「消毒」とか「殺菌」という表現は使えない。 また、アルコール度数が90度を超えれば、今度はアルコール事業法に縛られるし、そこまで行かなくとも酒税法の縛りも受ける。こちらは酒造メーカーであればお手の物であろう。しかし、400リットルは、500ミリリットルの瓶で800本にしかならない。 それくらいの量しか取り扱いできないとなると、この新型コロナウイルスによるアルコール不足が解消するのには余興程度のものにしかならないのではないか。これでは大きな投資もできないだろう。健栄製薬の主力工場を視察する三重県の鈴木英敬知事(右)=2020年4月7日、三重県松阪市(三重県提供) いずれにしても、消毒用アルコールをキチンとした公的な推奨基準で製造するには、消防法がネックだということが分かった。ただ、これには引火や爆発の危険を回避するためにつくられた規制であり、これをどうこう言うのはお門違いだ。 この事情を踏まえたうえで、国がリーダーシップをとりつつ、消毒用アルコールを増産するというならば、まずは医療用とは別に国内にストックがあるであろう工業用アルコール(濃度90度以上)を転用していくという手もある。実際、消毒用アルコール不足のため、市場にはちらほらと純度の高い工業用アルコールが出回ってきている。 それがダメならば、なんらかのインセンティブをさらに与えて、企業の生産意欲を高めるしかない。 例えば、消毒用アルコールのトップメーカーである健栄製薬の医薬部外品アルコールも、ドーバー酒造の食品添加物のアルコールも、酒として発売していないのに、高い酒税の対象となっている。 これらの製品は、薬機法であったり消防法であったり、また食品衛生法など複数の法規制の下にあるというので、なんともな話である。この辺りを配慮することによって、少しでも消毒用アルコールの増産につながるのではないだろうか。アルコール消毒液の代替品とは ところで、冒頭街中の消毒液がアルコール不足のため代替製品になりつつあると述べた。これが何なのかというと、次亜塩素酸水であることが多い。 ただよく混同されるのだが、厚労省などでウイルス対策の消毒として推奨されている次亜塩素酸ナトリウムとは異なるので、注意が必要だ。 次亜塩素酸ナトリウムは、家庭にある除菌漂白剤と同じ成分のものだ。どちらかというと、塩素系漂白剤と言った方がなじみがあるかもしれない。こちらは、ウイルス殺菌の効果がすでに公的にも認められている。だが、漂白剤を使ったことのある人なら分かる通り、いくら薄めても直接肌に触れるようなものには適さない。 そこで登場したのが次亜塩素酸水である。 もともとは食品添加物から使われ始めた次亜塩素酸水は、次亜塩素酸ナトリウムのように取り扱いに注意が必要なものではない。そのため使い勝手がよく、直接肌に触れても濃度と製造方法によっては問題ない。次亜塩素酸水は食塩水を電気分解するだけでつくることができるので、それをつくるためには設備も簡単なものでできる。 これが除菌効果があるということで、加湿器から噴霧させ「空間除菌」効果を期待して使っている人もいる。中には病院のようなところも採用しているケースもあり、かなり一般的に広まっている。そればかりか、昨今のアルコール不足のため地方の行政組織までもが配布しているところがある。 ただ、次亜塩素酸水をめぐっては、さまざまな意見がある。友人の医療関係者は「全く信用してない」と一言であしらっている。似た成分である次亜塩素酸ナトリウムと比較した効果については、雑菌への除菌に同等の効果があったとのリポートがあるだけで、それ以上の検証はほとんどなされていない。 現状は、次亜塩素酸ナトリウムと似た物質であるから同じような効果があるだろう程度の、検証がなされているだけである。しかし、次亜塩素酸水の取扱業者などから「厚労省が殺菌性を認めた」という資料が出回っているほか、第三者機関による独自の調査などがあり、これが根拠とされている。写真はイメージ(gettyimages) しかし、これにようやく決着がつきそうだ。おそらく地方自治体までもが、次亜塩素酸水の効果をうたって住民に配布し始めたことが理由なのだろう。立憲民主党の早稲田夕季衆院議員が、これについて政府に問いただしたところ、4月10日の閣議にて「現時点では手指の消毒に活用することについての有効性が確認されていない」との答弁書が決定された。ところが、一転4月17日に、一部の電気分解で生成されたものについては手指消毒ができるとの見解が、経産省から出された。 ただし、これらの見解は「有効性が現時点では確認されていない」という注釈付きのものである。これから実証実験を行うということだ。つい先月くらいまでは効果に疑問とされてきたマスクまでもが、今では政府によって推奨されるようになった。信じるものは救われるかもしれない。 だが、次亜塩素酸水の効能を信じる人には、おっちょこちょいが多いのも事実である。 次亜塩素酸水と間違えて次亜塩素酸ナトリウムを噴霧するという危険な行為をする人もいれば、次亜塩素酸水と次亜塩素酸ナトリウムを間違えるばかりか、「次亜塩素酸ナトリウムを飲むと新型コロナウイルスに効く」という非常に危険なデマを流した宇都宮市議会の遠藤信一議員(NHKから国民を守る党)ような人もいる。 これを信じた、やはりNHKから国民を守る党の前田みか子氏が実際に飲んで、病院行きとなってしまったらしい。なんともはやである。 長くなったが、アルコール消毒液に関する結論としては、以下の通りだ。(1)まずは石けんでの手洗いを。それが無いならアルコールを使おう。(2)手指以外の消毒は、次亜塩素酸ナトリウム(漂白剤を希釈)で十分。(3)アルコールでの消毒は、それが「医薬部外品」であってもなくとも、アルコール度数が60~80%のものを。それ以下の濃度は自己責任で使用を。(4)このアルコール度数に近いお酒はその他の成分によりけりで消毒には使えるが、あくまでも自己責任での使用を。(5)消毒用アルコールの代替としての次亜塩素酸水は、電気分解でつくられたもの以外は、その効果が現時点では必ずしも公的に証明されていない。こちらも自己責任で使用するべきだ。 【※注1】政府も消毒用アルコール不足解消のために、さまざまな動きを見せている。4月10日に厚労省は「主に医療機関での消毒液の不足を解消するための特例措置」と断ったうえで、手指消毒用のアルコール以外の高濃度アルコールを医療機関などでの使用を認めた。これで酒も消毒用に転用可能というお墨付きがついた。 【※注2】4月10日付の北里大の発表によると、アルコール濃度が50%以下の「消毒」「除菌」製品でも新型コロナウイルスへの不活性効果が認められたとのことで、これを受けて、WHOやCDCの60%以上というアルコール濃度の基準については、厚労省から引き下げられる可能性がある。この場合、消防法の危険物扱いとならずに「消毒」「除菌」製品が市場に大量に流通できる可能性もある。 【※注3】経産省は、ベンザルコニウム塩化物を、「有効な可能性がある消毒方法」として、次亜塩素酸水とともに有効性の実証試験に入ると4月15日に発表した。今後に注目である。  (編集部より)一部追記などがあります。

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    新型コロナ禍、海外邦人の憂い

    世界に拡大した新型コロナウイルス禍は、日本も厳しいとはいえ、特に欧米各国で深刻さを増している。爆発的な感染と多数の死者、そして「ロックダウン」(都市封鎖)といった過酷な環境下でどう暮らしているのか。終息が見えない中、今回は欧米在住の日本人に、生々しい現地の様子や思いを綴ってもらった。

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    新型コロナ対策、マスクより必須なのは手袋か NYでは入手困難

    、手袋をしていることで、手に違和感を覚え、目や鼻、口を自然に触れにくくする効果もあるという。 理想は医療従事者のように使い捨てにすることだが、一般の人が何かに触るごとに手袋を取り替えるのは難しい。 国際医療福祉大学病院内科学予防医学センター教授の一石英一郎さんはこう話す。「だからこそ、ウールやニット素材よりもゴム製の手袋がいいのです。手袋を装着したまま、手を洗うことができる。こまめにアルコールや次亜塩素酸ナトリウムを薄めた溶液で手袋ごと洗い、清潔に保つことです」関連記事■日本人の習慣がコロナ感染回避か、靴脱ぐ・電車で無口ほか■【動画】志村けんさん、「オレの子供を産んでくれ」と頼んだ30代女性■首相ブレーン医師 コロナ感染でルール逸脱の“優遇入院”か■新型コロナ感染、注意すべき超初期症状は「頻呼吸」「結膜炎」■【動画】なぜコロナ感染者いないのか? 「自衛隊式」手洗い4ステップ

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    元厚労省検疫高官、日本の新型コロナ禍「最前線」に抱く危機感

    共同通信社ヘリから) というのも、その体制の中には研究者はいても、最前線で直接患者に当たる医師などの医療関係者の姿が見えず、この体制で感染症対策はできるとは思えなかった。 そんな中で私は、2009年の新型インフルエンザ(H1N1)発生時を思い出していた。当時私は仙台市の副市長として対策にあたっていたが、そのとき、国は各地に発熱外来を作り、そこでトリアージを行い、隔離、収容、治療を実施するよう求めた。これまでの感染症との対応の違い 発熱外来での混乱や多くの人が集中することによる感染拡大を危惧し、仙台市ではかかりつけ医に最初のトリアージを頼み、その後の自宅隔離の指示や初期治療、高度の医療を必要とする感染者に対しては病院への誘導などをお願いすることとした。 地域医師会にも市長とともに訪れ、医療機関で必要な資材や薬剤の確実な提供を市が保証することを前提としたお願いをし、他地域とは違った体制で対策を進めた経験を思い出した。 当時は確かに、感染症に関しては新型コロナ感染症よりも知識や経験はあり、「タミフル」という武器も私たちは持っていた。しかし、現在はそれすらない中での対策であることから、高い困難を伴うのは確かである。とはいえ、最前線で実際に対峙している医師などの医療関係者の協力なしに、対応ができないのは間違いない。 日常的に感染症患者に対応している、かかりつけ医のような現場の医療関係者の先生方を支援しながら、先生方には診断、指導、治療、感染者の収容病院への誘導などに当たってもらい、収容病院では重篤な感染者の収容・治療に振り向けられる病室などの確保を行うこと、医療体制の維持が図られることが大切だ。 今回の国の感染症対策では、最前線で働く必要のある医療関係者、医師への優先的な資材の支援もなければ、医療体制、検査態勢の確立もされない中で進められていることに日本医師会は危機感を持ち、医療危機を訴えて国に緊急事態宣言と、医療崩壊につながらないような対応を求めた。医師会が医師による対策への関わりも明確にされない中での対応にいら立ち、立ちあがったと私は考えている。 一方、新型コロナ感染症自体を冷静に考える側面も欠けている。新型コロナ感染症では、ウイルスが手を介して口や鼻などの粘膜から取り込まれて感染し、鼻の奥の上咽頭で増殖する。そして新たな感染者となった人からは、ウイルスがくしゃみやせき、鼻水で排出され、周りの人々に拡げていく。そして鼻や咽頭の炎症がさらに下気道にも拡がると、肺炎を起こしたりする。 新型コロナ感染症では、上咽頭や鼻の粘膜にウイルスが多いために、時に嗅覚障害、味覚障害を起こすこともある。また、消化器にも症状が出て、下痢などを起こすことも少なくないので、便を介しての感染拡大も考える必要はある。 感染の形態はインフルエンザと同様であるが、インフルエンザより病原性や感染力は強い。新型コロナウイルスに感染しないためには、ウイルスを取り込まないことが大切であり、一般的に使われているマスクよりも手に付いたウイルスを洗い流すことが、有効な感染症対策になる。特に石鹸成分がウイルスを破壊することから、石鹸でのこまめな手洗いが有効になるが、水だけでも丁寧に洗えば効果的である。SARSの集団感染が発生し封鎖された北京市宣武区の工事現場=2003年5月3日 今回の武漢での新型コロナ感染症、かつて香港から世界に広がったSARSなどは、いずれも動物に由来する感染症と考えられている。いまだに野生動物を食する食習慣が残り、市場で一般的に野生動物が売買されている中国の現状が継続する限り、今後も同じように新たな感染症が生まれる可能性は高い。 そして、グローバル化が進むことも流行拡大には強く影響し、国際交流、インバウンド(訪日外国人客)の拡大、産業の過剰な海外依存などが感染拡大に影響しているところを考えると、国際間での関係も考えていく時代になっている。私たちはこのような世界の中で生きているということを、個々人が自覚しなければならない。

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    医療現場の悲鳴を聞けば、マスク寄贈は「焼け石に水」じゃない

    、まして歯科なら使い回せるわけがない。テレビや新聞などでも、新型コロナイウイルスの感染拡大の影響で、医療機関のマスク不足が報じられていた。ただ、そうしたニュースが出るたびに、マスクの増産なども報じられており、優先的に回っているだろう、と楽観視していた。 ところが、この友人の投稿だと、全くそんなことはない様子だった。ため息が出る。 ふと手元を見ると、私が自分用に買ったマスク1箱と1枚入り袋があった。箱の方は講演をした大学生協で買い求めた。1枚入り袋は、とあるスーパー銭湯で購入したものだ。 どちらもコロナ感染が広がり始めた2月上旬のことだ。前者は50枚入りで1千円程度。後者は1枚210円で「これが『プチぼったくり』か」と思いつつ、購入した気がする。 私が所持していたマスクはこのとき、それ以外にもざっと30枚ほど残っていた。箱入りのもの、袋入りのもの、それぞれ開封済みだった。※写真はイメージです(ゲッティイメージズ) 未開封であれば、個人用のものでも医療機関で使えるのであれば寄贈しよう、と考えたが、個人用と医療用、どう違うか分からない。そこで、この友人にフェイスブックで聞いてみた。「市販の個人用と医療用って何か違う?」「基本は同じ。医療用の方がまとめて買う分、安いかも」 だったら、躊躇(ちゅうちょ)することはない。「焼け石に水」だとしても ところで、この高校同期の友人、ものすごく仲が良いか、と言ったらそんなことはない。私が卒業した高校は中高一貫校であり、彼とは中高6年一緒だった。ただ、趣味や嗜好などは大きく違っていたし、中学時代には何度か泣かされた。 高校卒業後も、同窓会や同期の飲み会で、何回顔を合わせたっけ? という程度に過ぎない。最後に顔を合わせたのは、5年前だったか、10年前だったか、もっと前だったか…。 要するに、フェイスブックでも高校同期というだけでつながっているだけの、薄い人間関係に過ぎない。何か義理があるわけでもなく、それどころか、中学時代に泣かされた恨みすらある。 まあ、中学時代に泣かされたといっても、その前にろくでもないことを私が言っていた記憶がある。もっとも、何を言ったか、それは多くの人と同様、自分に都合の悪いことであり、ほぼきれいに忘れている。要するに五十歩百歩に過ぎない。 私とこの友人の関係がどうあれ、問題は、彼が勤務先の公立病院で診療部長という要職にある点だ。その要職にある同期が「歯科治療は先延ばしにすることを推奨」と書き込んでいる。彼が勤務する公立病院の歯科で手術や診療ができなければ、困る人は間違いなく多い。 私が51枚のマスクを寄贈しても、たかだか知れているだろう。多分、焼け石に水だろうけど、使ってもらえれば、手術や診療を受けられる人が10人か20人か、もっとか、それは分からないが、ともかく何人かは出てくるだろう。 手元に置いておくよりも、はるかに有効、と考えて彼の勤務先の病院に贈った。「君と君の同僚と患者の安全のために使ってください」とメモを添えて。2日後、病院に到着し、すぐ連絡があった。「こんなときなので、ありがたく活用させていただきます。オペ室でもマスク無くなって、手術すらピンチなの」※写真はイメージです(ゲッティイメージズ) よかった。「えー、こんなの、使えるわけないし」と言われたらどうしようか、心配だったからだ。 友人はフェイスブックにも書き込み、紹介してくれた。それはそれで面はゆいが、うれしくもある。医療従事者に感謝を 驚いたのは、この投稿へのコメント欄で、友人や別の同期(個人開業医)がこんなやり取りをしたことだ。「大きな借りができたね」「今度、接待する!」 いやいやいや、それは大げさだろう。私が寄贈したのは一等地の土地の権利証でもなければ、金の延べ棒でもない。彼がファンであるスポーツ選手やアイドル歌手のサイン色紙でもない。 購入価格で言えば、1200円程度。それに送料1120円を足して2千円ちょっとだ。すなわち、菓子折り1箱程度の金額に過ぎない。 それだって、友情を深めるには十分かもしれないが、平時なら「ありがとう」で終わりだろう。そもそも、平時なら、どの病院でもマスクはいくらでも入手できる。 それが、今は菓子折りどころか、金の延べ棒であるかのごとく、感謝される。それくらい、医療機関でもマスクが不足しているわけで、それを考えると、暗澹(あんたん)たる気持ちになってきた。 このやり取りをしていたのが3月26日。同日、東京都の外出自粛要請に合わせて、神奈川県の黒岩祐治知事も、県民に対して都内だけでなく県内の外出についても自粛を要請した。要請に合わせて、医療従事者を応援するという意味で、医療従事者を「コロナファイターズ」と呼ぶことを提案した。 この「コロナファイターズ」について、ネット上での評判は悪い。「ネーミングは死ぬほどダサい」「神奈川なら、ファイターズではなくベイスターズだろ」。 私も、ネーミングはもっと他になかったかと思うが、趣旨には賛同する。米国やイタリアでは、医療従事者への感謝の念を示すために、夕方になると、拍手するようにもなっているそうだ。私は、これもいい話だと思う。 一方で、新型ウイルス感染を発表した病院に批判や中傷が殺到する騒動も起きている。非公表とするよりよほど誠実なのに、だ。新型コロナウイルス感染症に関する共同メッセージについてテレビ会見を行う(上段左から)山梨県の長崎幸太郎知事、東京都の小池百合子知事、埼玉県の大野元裕知事、(下段左から)千葉県の森田健作知事、神奈川県の黒岩祐治知事。右奥は小池知事=2020年3月26日(萩原悠久人撮影) その病院の医師や看護師が子供を保育園に預けようとしたら断られる騒動も起きている。さらに、感染とは全く無関係の訪問看護の看護師が「コロナをばらまくな」と怒鳴られもした。 日本の感染者数は3月31日現在で1923人(クルーズ船を除く)。経済協力開発機構(OECD)加盟国の中では、36カ国中24位になる。下はバルト3国、フィンランド、ニュージーランドなど人口の少ない国ばかりだ。「医療崩壊」起こさないために 人口が千葉県船橋市とほぼ同じルクセンブルグが、日本よりも感染者数が多い(3月31日現在1988人)ことを考えれば、ぎりぎり抑えているといえる。 だが、それもこれも医療従事者の懸命な努力によるものだ。そして、その努力もある線を越えれば、イタリアやスペイン、米国などのような医療崩壊が現実となるかもしれない。 マスクを寄贈してから4日後、歯科医の友人とフェイスブックで連絡を取り合った。その一部を紹介したい。「マスクは、相変わらず、いやもっとひどくなり、今週から週に2枚の配給に…厚労省が昨日辺りに1万枚届けるという約束だったけど音沙汰なし。コロナ外来もやってて、コロナ患者を引き受けている、感染の最前線に、物資なし。ここはいつの第2次大戦末期ですか感。だんだんと配給制になり、その量も減り…で、先の対戦で負ける時もこんなだったのかなーと冗談が出る始末」「物はないのかもしれない。アメリカでも増産の話はたくさん出るけど余ってる話はまるで聞かないから、実際には行き届いてないのだと思う。けど、最前線に兵站を充実させない戦に勝ちはないよね。割とみんな諦めムードすら漂ってる」「東京の抑えが効くかどうかで、この先の地方に及ぶ第二波の高さが変わるのよ。NYみたいになると…もう崩壊確定。しかしそうなるとわかってても、すでに物資がないので、ラストダンジョン前にすでに何も手持ちがない、みたいな気分だよ」 医療崩壊を起こさないためにも、日本人一人ひとりの行動自粛などが求められる。さらに、医療従事者に感謝の念を伝えることも必要だろう。 その上で提案したいのだが、個人が所持しているマスクで未開封のものは最寄りの医療機関に寄付をしたらどうか。もちろん、各個人が自己を防衛できるだけの余裕があれば、の話だ。 それから、国や自治体はもっと医療機関にマスクを回すようにしてほしい。こうした話、確か2月あたりからずっと出ているが、今後はさらに強化すべきだ。極端な話、一般流通を止めてでも、医療機関に回してほしい。 感染者が急増しているイタリアやスペイン、それに米国など欧米諸国は当初、新型コロナウイルスについて楽観視していた。サッカーなどスポーツや各イベントなどは一切止めずにやり過ごそうとした。学校も通常通りだった。 その結果、欧米では感染者が増えただけでなく、マスクや人工呼吸器の不足を招く。医療従事者は過労を強いられ、彼らへの感染被害も広がっている。感染しなくても、人工呼吸器の不足により助けられる命を救えない、苦悩に追い込んでいる。 そして、パリ、ローマ、ロンドン、ニューヨークなど欧米諸国の大都市は次々と封鎖されている。今日のローマ、今日のニューヨークは明日の東京、明日の日本の姿でもある。出席者全員がマスクを着け行われた経済財政諮問会議で発言する安倍晋三首相(中央)=2020年3月31日(春名中撮影) そうならないためにも、国や自治体に対しては医療機関へのマスク供給を、篤志家や個人に対しては、最寄りの医療機関へのマスク寄贈を強く訴えたい。個人であれば、多少使い回してもいいではないか。医療機関に寄贈が集まりすぎてもいいではないか。腐るものでもあるまい。 もう一度、繰り返したい。医療機関にマスクを回そう。それが個人、地域、そして日本全体を守ることになる。

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    新型コロナ、安倍総理はあえて「有事の無策」で臨むしかない

    イルス感染の可能性がある人が病院に殺到する。高齢者や基礎疾患のある外来患者や入院している人や、医師や医療スタッフが感染する可能性がある。要するに、医療崩壊を起こすリスクは、あらゆる面で格段に高まってしまう。 実際、日本の約23倍のPCR検査を実施している韓国では、新型肺炎の感染者数が8900人を超え、死者も110人に達している。日本はクルーズ船「ダイヤモンド・プリンセス」の乗船者を除くと、国内発生は1089人、死者41人だ(いずれも3月21日現在)。韓国では、PCR検査を徹底的に実施したことが新型肺炎感染者を激増させる原因となってしまっていると考えられるのだ。 「ダイヤモンド・プリンセス」乗船者の感染拡大も、国内外から批判はされたが、一方で米国からは対応を感謝されている。要するに、厚労省などの官僚は、新型肺炎についてベストではないにせよ、ベターな対策を慎重に進めてきたといえる。 だが、3月13日に改正新型インフルエンザ等対策特別措置法が成立した。私権制限につながる緊急事態宣言を、安倍首相が行うことができるようになる。しかし、安倍首相が今までの対策をちゃぶ台返しして、独断で決めるということは、危険なことである。 全国一律休校の決断は、「結果オーライ」かもしれない。しかし、今後は、国民をパンデミック(世界的大流行)の危険に陥れる決断を、自分一人で決めてしまわないことを願いたい。 指導者は平和なときから謙虚に振る舞い、国民の信頼を積み上げておかなければならない。それは、「有事」の際にその「信頼」を消費して、国民には不満でも大事なことを決断しなければならないからだ。 一方、平和なときにいい気になって「傲慢(ごうまん)」に振る舞い、国民の信頼を失った指導者は「有事」に自らの信頼がないことに焦って、人気取りをやってしまう。それは間違いなく「亡国」への道である。新型コロナウイルスの感染拡大に備える改正特措法が可決、成立した参院本会議=2020年3月13日 安倍首相は、これまで国民の信頼を失う言動を繰り返した自らが、「有事」の際の「最大のリスク」であり、政府の「アキレス腱(けん)」となっていることを強く自覚することだ。決して焦らず、専門家の意見を聞き、慎重に行動することだ。 幸いなことに、日本政府の新型コロナウイルスへの対応は、それほど間違ったものではないように思える。今、安倍首相に求められるのは「何もせずに、現状を維持して危機が過ぎ去るのを待つ」という、最も難しい決断をすることではないだろうか。

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    新型コロナ禍を「世界戦争」にしてしまったWHOと中国の大罪

    、女性が87・32歳であり、男女ともに世界でトップクラスだ。※写真はイメージ(ゲッティイメージズ) 医療や製薬技術の向上が奏功しているとはいえ、特に高齢の男性については、若いころの喫煙率は高く、女性も受動喫煙のひどい時期を経た人たちだ。私自身はタバコを吸わないので、WHOが非喫煙者の権利を強調するのは理解できる。「怪我の巧妙」も だが、私は、むしろ喫煙を推奨した方が、将来的にメリットがあるのではないかとの逆の視点を持っている。具体的に詳述するとハレーションが大きいので、今回は割愛するが、これらの問題には、さまざまな利害関係が見え隠れしているのだ。 また、WHOに限った話ではないが、ある事象を検証する場合、研究者や専門家が、同等の知見を持っていたとして、「それはいいんじゃないですか?」や「それは、ダメじゃないですか?」 「それは、どちらでもいいんじゃないですか?」と、意見は分かれるものだ。 当たり前だが、複数の専門家が一つの結論にまとまるわけがない。つまり、世界に向けてアナウンスするWHOも結論など出るはずもなく、形骸化した組織ということである。WHOも中立機関として存在するなら、会議の一部始終公開を義務付けるなどの改革をすべきではないだろうか。 ところで、私は今回のコロナショックは、リーマンショック+東日本大震災÷2であると考える。理由は、グローバル経済のクラッシュと見えない恐怖が重なっているからだ。リーマンショックは純粋な金融危機だが、今回は危機でなく「停止」である。 世界は、経済停止からの金融危機が起こる。また、新型コロナウイルスの恐怖は東日本大震災の原発事故による放射能問題と同様に見えないリスクと同じだ。人々の購買意欲、外出意欲を抑えてしまう。 今、派遣業界では打ち切りの嵐だと聞いている。3月末に派遣切りが相次ぐ可能性が高い。また、今回の学校休校処置やイベント中止などは、不動産業界の危機や委託先の業績悪化、生産者の危機を招き、複合的に経済停止のショックはすべてに派生する。 とにかく、今回は安易に景気対策を打てない。自民党の景気対策は、良くも悪くも公共投資だが、いまやそれをやっても、資材が届かないだけでなく、人は密集状態で働けないからだ。 製造業はサプライチェーンが分断され、車は3月末で生産停止も加速するだろうし、中国向け自動車の輸出入もストップ、急速な経済クラッシュが起きる。 10~12月期の国内総生産(GDP)は年率換算でマイナス7・1%、個人消費は11%減少だったが、1~3月期は、個人商品は買い込みのかさ上げ分を除けば、パニック的な数字の低下が予測される。 ゆえに、今回の景気対策は、生活を守るということであり、私は給付金で対応するしかないと考える。給付額は、まずは低所得者やフリーランスに10万円、その後、全世帯に複数回給付しなければ効果が出ないだろう。改正新型インフルエンザ等対策特別措置法施行を受けた記者会見の冒頭、頭を下げる安倍晋三首相=2020年3月、首相官邸(代表撮影) その一方で、「怪我の功名」の一つは、医療費が抑制されていることだ。もう一つは、働き方改革を推進する中で、テレワークで十分仕事が回ることが証明できる点だ。ただ、これが明らかになると、ますますいらない人材が浮き彫りになるという、労働者サイドのデメリットになる可能性もある。 このように、今回の新型コロナウイルスによる損失は計り知れないが、その元凶にWHOという意味不明な機関や中国という国家の「大罪」があることについて、国際社会がもっと問題視するべきではないだろうか。

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    新型コロナ対中「情報戦」 懲りずに敗北を繰り返す気か

    山岡鉄秀(情報戦略アナリスト) 海外暮らしが長かった私の思考回路は、日本在住の今でも外から日本を眺める感覚のままだ。そして、海外在住者たちと毎日交信して情報提供を受けている。 そんな人たちが今、頭を抱えて落胆している。外から見ていて、日本の新型コロナウイルスへの対応が緩慢で後手に回り、「危機管理能力が非常に低い」という印象を世界に与え、国際的信用とイメージを著しく低下させてしまったからだ。 日本国内にいると、それがなかなか実感できないのが問題だ。つまりは、国際情報戦の大敗北だが、実はこれまで散々繰り返してきた「歴史戦」の敗北と同じ構造なのだ。「歴史」はあくまで過去の出来事だが、「新型コロナ」は今現在の問題だからより深刻である。 なぜ日本は性懲りもなく敗北を繰り返すのか。その答えは単純だ。自らの言動が外からどう見えるか、どう解釈されるか、誤解を防ぎ、好意的に解釈されるにはどうすべきか、といった発想がすっぽり抜け落ちているからだ。 島国で均一性の高い民族構成、単一言語など、恵まれた要素が国際性を育む上では障害になり得るのは理解できる。しかし、自らに欠けている思考回路を認識して会得する努力が不十分なのも確かで、国内でしか通用しない議論に時間を費やしてしまう癖が抜けない。 何より、日本政府は自国が五輪開催国であることを忘れてしまったのか。世界中から超一流のアスリートと大勢の観光客が押し寄せる五輪開催国に求められるのは、当然ながら高い危機管理能力だ。 だから、今回の新型コロナウイルス騒動では、日本政府は大げさなぐらいに他国に先んじて行動し、さまざまな施策を矢継ぎ早に講じる姿勢をことさら見せつけなくてはならなかった。ここで重要なのは、個別の施策にどの程度の効果があるかを考えて逡巡(しゅんじゅん)としてはならない、ということだ。 まず、できることはすべてやる。結果は後で検証すればよい。アクションファーストだ。そして走りながら考える。東京五輪マスコットの写真を撮るマスク姿の男性=2020年2月、東京都内(AP=共同) 全力を尽くした上で、たとえ今の状況に陥っても、日本への信頼は損なわれないが、理解不能な行動を重ねて感染国になり果てれば軽蔑と嘲笑の対象となる。そして、五輪を失う大失態にもつながりかねない。 最大の失敗はもちろん、中国からの入国を迅速かつ全面的にストップさせなかったことだ。求められる「政治家の仕事」 この点について、「入国制限は感染症対策としては効果がない。むしろ、ビジネスを損なうデメリットの方が大きくなる」という議論があった。ではなぜ、諸外国は早々に全面的入国禁止に踏み切ったのか。それは、この問題を「未知のウイルスに対する国家的危機管理の問題」と捉えたからだ。 初期段階での情報は限られている。従来のものとは根本的に異なる可能性が常にあり、過去の研究が直接役に立つとは限らない。 権威に弱い日本人は世界保健機関(WHO)や英医学誌「ランセット」などの論文を引き合いに出したがる。ただ、いくら真面目に分析されていても、その段階で入手できる限られたサンプルで最大限分かることを書いているにすぎない。 後から全く予期しなかった発見があって、前提が崩れるのはよくあることだ。現に、新型コロナウイルスにはいまだによく分からないことも多い。 したがって、初期段階の分析をベースに楽観論で応じたのは、危機管理として失策だった。まして今回のウイルスは渡り鳥が運んでくるのではなく、人から人への感染が明らかで、かつ発生源が明確だった。 さらに、潜伏期間でも感染力があるため、水際作戦が無力なのも早くから分かっていた。早期の全面入国制限が有効であり、不可欠であると判断するのは合理的だった。 ここで重要なポイントなのだが、私は専門家の意見を軽視してもよいと言っているのではない。専門家の意見も多様だ。悲観論も楽観論もあれば、それぞれの根拠もある。経済活動とのバランスももちろんある。 そうしたさまざまな情報を素早く吟味して、総合的に政治判断を下すことが国家として極めて重要である。それはまさしく政治家の仕事であり、その最高責任者は総理大臣だ。総合的な政治判断をせずして官僚に任せるのは無責任であり、政治家を養う意味がない。記者会見するWHOのテドロス事務局長=2020年2月24日、ジュネーブ(ロイター=共同) 例えば、専門家がこうアドバイスしたとしよう。 入国制限は初期段階なら効果が見込めるのですが、中国政府が1カ月以上も情報を隠蔽(いんぺい)しているうちに、日本に武漢からだけでも100万人近くが入国してしまいました。日本国内も既に相当汚染されていると推測されます。今から制限してもさしたる効果が望めません。つまり、汚れてしまった水に汚水を加えても大差ないということです。むしろ、入国制限することで経済的損失の方が大きくなってしまう可能性が高いといえるでしょう。 このアドバイスは、それ単体で見れば間違っているとは言えない。しかし、私なら2月25日に安倍首相に送った手紙にしたためたように、あえて全面入国禁止に踏み切る。「唐突」でもやむを得ず 米国、オーストラリア、シンガポールなどの主要国は中国人の入国全面禁止を決定している。日本だけ中途半端な制限にとどめてしまえば、日本は五輪開催国にもかかわらず、危機管理に真剣ではないという印象を与えることになる。その上で、感染者数が急速に増加する事態にでもなれば、完全に信頼を失ってしまう。 既に中国が団体旅行を禁止したことで、日本に入国する中国人の数は減少していたが、そのビジネスを守るために他国のビジネスを全て失い、五輪開催まで危うくなる可能性がある。目先の利得のために中長期的な大損害を被(こうむ)ることは避けなければならない。 たとえ結果として同じ状況に陥っても、全力を尽くす決意を示したか、中途半端な姿勢に終始したかでは世界に与える印象が全く違ってしまう。したがって、中国の全地域からの入国を禁ずるという総合的政治判断を迅速に下すべきだった。 この観点からは、「実際に入国している中国人の人数は少ない、感染者の数はさらに少ないと推測されるから問題ない」といった議論は意味を成さない。世界はそんなことに関心を払わないからだ。「日本はいつまでも中国に国を開いて、感染拡大を許している国だ」としか思われないのである。 そういう国に遊びに行きたい外国人はいない。理屈ではない。印象なのだ。海外では、日本人が中国人だと思われて差別されるケースが出ていたが、日本への渡航を禁止したり、日本人の入国を制限する国が増えるにつれて、最近では日本人であることで差別されるケースが出てきた。簡単にレイシズム(人種差別主義)に結びついてしまうほど感覚的、感情的なものなのだ。もちろん、そのような国に虎の子の「オリンピックアスリート」を送りたい国はない。 果たして、日本はどのような経緯をたどったか。2月26日、安倍晋三首相は人が大勢集まるイベントの自粛や延期を、27日にも全国の公立小中高学校の休校などを含む感染拡大阻止行動を国民に要請した。 現在の日本はアウトブレイク(流行)直前の武漢そっくりであり、このままでは武漢と同様の状況に陥る可能性もあるという。それを阻止する最後のチャンスが2週間程度の全国的な活動停止というわけだ。新型コロナウイルス感染症対策本部会合で発言する安倍首相。中国、韓国からの入国者に指定場所での2週間待機を要請すると表明した=2020年3月5日 当然ながら、「唐突過ぎる」という批判を呼んでいるが、私はやむを得ないと思う。ここまできたら、それぐらいやるしかない。武漢と同じ状況に陥ったら完全にジ・エンドだ。 だが、強い違和感はある。初期段階の楽観論は何だったのだろう。インフルエンザと同じように対処すれば十分だという話は何だったのだろうか。手洗いとうがいで対処できるはずではなかったのか。気が付けば「尻に火」 楽観論を広めて国民に「慌てるな」と言い、目先の中国人観光ビジネスを守っておいて、今になって1億総開店休業しろと言うのか。まるで下手な戦闘を重ねた揚げ句に「本土決戦」「一億玉砕」を迫った旧軍部のようではないか。 今ごろになって、ウイルスの本当の危険性を悟ったのか。危機管理としては「下策」のそしりは免れない。初期段階で全力を尽くしていれば、このような事態は避けられたかもしれない。 予想される経済的損失は中国インバウンド(外国人訪日客)どころの話ではない。あの中国がだてに1千万都市を完全封鎖するわけがないではないか。備蓄のマスクや防護服を送っている間に、気が付けば自分の尻に火が付いてしまった。 そして驚くべきことに、全国民に自己犠牲を強いながら、中国からの入国を全面禁止しなかった。これは人数の多寡の問題ではなく、道義的な問題だ。こんな理不尽な仕打ちを受けてもメディアも野党も攻撃せず、暴動も起きない国は日本ぐらいのものだろう。 さらに驚くべきは中国の態度だ。日本と韓国が「中国忖度」を続けるうちに、山東省威海市と北京市が逆に日韓からの入国者全員を14日間隔離するという措置を打ち出した。今や危険なホットスポット(高感染地域)は日韓に移り、他国に感染を拡大させるリスクも中国より高いと言わんばかりだ。 それでいて、中国は日韓への支援を惜しまないという。中国の電子商取引(EC)最大手、アリババグループ創業者の馬雲(ジャック・マー)氏は、日本に100万枚のマスクを送ると表明した。もちろん、巧妙に計算された情報戦だ。今や、世界に迷惑をかける「厄介者」は、日本、韓国、イタリア、イランなどで、中国は慈愛の精神で助ける側に回った「正義の国」というわけだ。 日本の経済的凋落(ちょうらく)は周知の事実だったが、それでも日本は勤勉で、危機管理能力が高い国だと信じられていた。しかし、今回の一件で、実は危機管理能力が極めて低く、中国の属国化した国だとの印象を広げてしまった。国民の命よりも中国の意向を優先したのだ。 この情報戦大敗の構造は、南京大虐殺や慰安婦性奴隷、朝鮮人労働者強制連行の諸問題と全く同じだ。世界がどう受け止めるか、どのような印象を持つか、自国に有利に導くにはどうするべきかを常に考慮して総合的政治判断を下し、即時実行する能力が欠落しているのだ。そして、そんなことには頓着せず、中国にとことん媚びる人間が政権の中枢や霞が関に侵入している。新型コロナウイルス感染拡大の影響で閑散とする成田空港の出発ロビー=2020年3月6日 今から少しでも挽回するためには、中国と韓国からの入国者に2週間の待機を要請するだけではなく、中韓からの入国を全面的に制限すべきだ。 そして、GDP(国内総生産)を大幅に落としてでも日本列島を「開店休業」状態にするからには、たとえ世界がパンデミックに陥っても感染者数と死亡者数を低く抑え、時期をずらしてでも五輪開催を実現することだ。世界の目にはっきりと見えるアクションで結果を出す、それしかないと断言する。

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    バイデン、サンダース、トランプ「コロナリスク」が直撃するのは誰か

    前嶋和弘(上智大総合グローバル学部教授) 11月の米大統領選に向けた民主党の候補指名争いは、3月3日の「スーパーチューズデー」の結果、事前の各種世論調査で劣勢だったバイデン前副大統領が14州中、10州を抑えて形勢を大きく変えた。米ニューヨーク・タイムズ紙は、4日の社説で「死の淵からよみがえった奇跡」ともてはやす。 確かに潮目が変わった感がある。10日に開かれた6州の予備選・党員集会で、バイデン氏が重要州のミシガンなど3州で勝利を確実にした。さらには、世論調査を見ると、17日のオハイオ、フロリダなど4州での戦いでも、多くの州で今度は選挙戦を優位に進めている。 ただ、この情勢の変化とともに今後の大統領選の流れを大きく左右しかねないワイルドカードへの注目が集まっている。世界を震撼(しんかん)させている「新型コロナウイルス(COVID-19)」というカードだ。 新型コロナウイルス問題は米国の場合、日本よりも約1カ月遅れで大きな社会問題となっている。初期段階まで、感染がワシントン州などの西海岸の一部州に限られ、感染者も中国への渡航歴がある人たちばかりだった。そのため、感染の深刻化に対する懸念は、日本から見れば、だいぶ遅れていたともいえる。 状況が変化したのは、カリフォルニア州で中国への渡航歴がない感染者が確認された2月26日だった。さらに、その後はニューヨークなどの東海岸などにも広がっていった。 一部の大学では、授業をオンライン形式にするなどの対応が進んでいる。テキサス州オースティンで、3月13~22日に行われる予定だった音楽祭や映画祭などの大規模イベント「サウス・バイ・サウス・ウエスト(SXSW)も中止になった。2020年2月、米南部サウスカロライナ州チャールストンで行われた民主党討論会で発言するサンダース上院議員(左)とバイデン前副大統領(ロイター=共同) 一種の社会的パニック状態に突入しつつあるのも、日本と似ている。ワシントンやニューヨークの友人によると、消毒用アルコールがどの店でも売り切れているという。 買い占めは一部の食料品にも及んでいる。実際の感染状況以上に、消費者心理は日本と同じようなオーバーリアクション状態になりつつある。利用された「トランプ叩き」 3月8日(米時間)現在、米国での感染は33州、532人になり、死者も21人となった。日本の10日正午現在の感染者数514人、死者9人を既に超えている。数を単純に比較すべきではないかもしれないが、今や「日米逆転」の状況になっている。 この社会的パニック状態が米国で「政治化」しつつあるのだ。新型コロナウイルス対策については、スーパーチューズデー直前から「トランプ政権の対応が悪い」など、民主党候補にとって格好の「トランプ叩き」の材料になっていた。特に、「米疾病対策センター(CDC)の予算をトランプ政権が削減した」というのが、各候補による政権非難の常套句(じょうとうく)になっていた。 「CDCの予算をトランプ政権が削減」したかどうか、実際には微妙だ。政府全体の予算見直しの中、トランプ政権は毎年の予算教書で、CDCの予算削減を要求し続けてはいる。 ただ、議会側の反発もあり、他の多くの政府予算と同じように、ここ数年のCDCの予算はほとんど変わっていない。2020年会計年度(2020年10月~21年9月)は77億ドル(約8千億円)と感染症対策を専門に担う司令塔の組織が不在の日本から見るとかなり潤沢な額である。2020年10月からの2021年会計年度に向けた予算教書でも、今のところ7億ドルほど減額要求となっているが、議会の本格審議はこれからである。 一方、トランプ大統領にとっては、景気にも大きな影響があるため、的確な対応をアピールしなければならない。二転三転した後、7日、CDCに乗り込んで記者会見したのもその一環である。 記者会見を見たが、「感染者数が増えるのは、それだけ検査を含めた対策をしっかりやっているからだ」というレッドフィールド所長の横で、トランプ氏は念を押すように「しっかりやっているんだ」と妙に強調していた。その言葉からは、逆に今後の感染拡大に対する世論の反応をかなり気にしているのが明らかだった。2020年3月6日、米疾病対策センター(CDC)のレッドフィールド所長(右)の隣で記者団に語るトランプ大統領=アトランタ(Hyosub Shin/Atlanta Journal―Constitution提供・AP=共同) 新型コロナウイルスの感染拡大は急務であるため、トランプ政権と議会が協力して、3月6日にはワクチンの開発や企業の支援などに充てる費用として、83億ドルというCDCの年間予算を上回る規模の緊急対策法を成立させている。緊急性から考えれば当然かもしれないが、社会的パニック状態が予算そのものの大きさも「政治化」させているといえる。 実際の感染そのものが、今後の大統領選自体にも、今後大きな影響を与えていくのは必至だ。各種政治イベントは選挙の年には欠かせないが、そのイベントが感染源となりかねないからだ。選挙に直結する「あの問題」 3月7日、既に首都ワシントンでも感染が確認されており、政治の中枢に影響が及ばないか懸念が出ている。前日には、2月末にワシントン近郊で開催された全米最大の保守団体「米国保守連合」(ACU)の年次総会、CPAC(保守政治行動会議)に感染者がいたことも判明した。 この保守系の一大イベントには、スピーカーなどとして、トランプ氏やペンス副大統領、閣僚、ホワイトハウス高官らが多数出席していたが、接触の機会はなかった。また、同じように感染者が確認されたイスラエル支持のロビー団体、米国イスラエル公共問題委員会(AIPAC)にも、ペンス氏やポンペオ国務長官、連邦議員ら多数が参加していた。 もし、大統領が感染してしまえば、政治そのものが動かなくなる。これは民主党側の候補者も同じことだ。 そして、選挙により直結する「今後の選挙集会はどうなるのか」という議論まで広がっている。トランプ氏は8日現在、選挙集会の日程を変えないことを宣言はしているものの、今後はどうなるか予想できない。 選挙への影響は、まず民主党の指名候補争いに影響が出てくるかもしれない。重症化しやすい高齢者に感染が広がるようなイメージが付いた場合、その勢いが、「若者に強い」サンダース上院議員よりも、「高齢者に強い」バイデン氏に影響をもたらす可能性すらある。また、集会を減らす形での投票となった場合、民主党側の「反トランプ」の士気も全く高まりづらいだろう。 さらに、民主党も共和党も、夏の党大会を開催できない前代未聞の事態も考えられる。その際は、オンラインで投票するようなことになれば、不正アクセス対策というコンピューターの「ウイルス」対策も急務になってしまう。 共和党への影響は、トランプ氏の支持率の源泉が好景気にある以上、新型コロナウイルスが景気に与えるダメージが何よりも懸念される。2020年3月10日、新型コロナウイルスのため、サンダース米上院議員がオハイオ州クリーブランドの施設で予定していた選挙集会の中止を伝える案内(ゲッティ=共同) 的確な対応を進めることができず、感染者が増え続ける事態が一定期間続けば、景気は停滞し、再選もおぼつかなくなってしまう。ただ今後、感染者が急激に減少し、株価も回復した場合、「新型コロナを撃退した大統領」として、政権側に有利になることは必至だ。 「新型コロナウイルス」という米大統領選の行方を左右しかねない「ワイルドカード」には、さらなる注視が必要だ。

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    ワイドショー発コロナパニックで現実となる「破滅博士」の予言

    を見る側を不安にさせる。 何より感染者数の総数「だけ」に注目するのは適切ではない。病状に応じて適切な医療サービスを提供できているか否かが、より重要だろう。社会的な防疫政策が上手に機能しているかどうかも重要である。その意味では、死亡者数(3月8日で6人)や重篤な患者の推移(低位推移)、回復者数(3月8日で80人と増加傾向)、新規感染者数の動向などを重視すべきだ。記者会見中に額を押さえるWHOのテドロス事務局長=2020年2月28日(ロイター=共同) あくまで現段階であるが、日本の感染症介入政策は「後手後手」という批判にもかかわらず、かなり健闘しているのではないだろうか。少なくとも、WHOは懸念すべき国に日本を含めていない。 「後手後手」批判の代表例とされる中国への「水際対策」にしても、日本は世界に先駆ける形で、武漢というホットゾーンからの入国制限を採っている。その意味で、日本の水際対策を全面否定するような動きには異論を唱えたい。 次に挙げたいのが、「検査や医療を過剰に要求する報道」だ。言うまでもなく、医療資源は有限である。設備や医療スタッフには各国とも限りがある。医療資源「制約」はどこへ行った この医療資源をいかに安定的に維持できるかが、今回の新型コロナウイルス問題でもクローズアップされている。だが、ワイドショーやニュース番組では、医療資源の制約を無視したような「医者」や「専門家」たちが多く出演している。 特に、新型コロナウイルスを高精度で検出するPCR検査の実施数が多ければ多いほどいい、という論調がワイドショーを支配している。この発想がいかに医療資源を浪費し、最悪、医療崩壊に至る危険性を秘めているかは、感染症専門医の忽那賢志氏による解説を参照されたい。 PCR検査は優れた検査法だが、万能ではない。偽陰性や偽陽性の問題が発生するからだ。忽那氏は一つの推論として、東京都民1千万人にPCR検査を受けさせた場合、1320人の真の感染者が見逃され(偽陰性)、その10倍の1万人の偽陽性が発生するとしている。 つまり、この1万人がただの風邪にもかかわらず、感染症指定医療機関に隔離されて治療されることになってしまう。ちなみに、平成29年医療施設調査によると、全国の感染症病床は1876床にしかすぎないことは、大正大の高原正之客員教授の指摘を参照すれば分かることだ。 つまり、どんどん検査すればいいわけではないことが、この簡単な例でも分かる。無制限な検査は、医療資源の制約を徐々に厳しくし、やがて医療崩壊につながる。具体的には、現場でさばききれないほど病院に殺到する武漢の人たちの映像などをイメージすればいい。 今の政府方針は、相談・受診の目安を(1)風邪の症状や37・5度以上の発熱が4日以上続く、(2)強いだるさや息苦しさがある、としている。これも、発表された当初はワイドショーなどで批判する向きが強かった。 しかし、これは大勢の患者が病院に殺到するのを避けるための基準であることは明瞭である。ちなみに、個人的な経験だが、最近持病があるために、かかりつけの大きめの病院に行ってみると、驚くほど閑散としていた。患者が病院に集中することによるリスクを、日本の人たちが合理的に判断した結果でもあるだろう。新型コロナウイルスの検査に使われる装置(岐阜県保健環境研究所提供) それでも、ワイドショーでは、いまだにPCR検査を受ければ受けるほどいい、という主張が根強く、日本の医療システムの直接的な脅威となっている。日本のマスコミがパニックを生み出すことに寄与するとしたら、看過できない。 ワイドショーの中には、政府があえて検査をしないかのような「陰謀論」を語るコメンテーターを好んで出演させているようだ。これも視聴者の不安な心理を煽っているのだろう。「政府vsマスコミ」 最後に「政府vsマスコミ」の問題を取り上げたい。新型コロナウイルス問題をめぐるワイドショーや新聞などの報道姿勢については、しばしばインターネットとの対比で語られていた。 個人的には、現在はテレビのワイドショーの大半とニュース番組は見ない方がいいかもしれないと思っている。ドラッグストアやスーパーからトイレットペーパーやティッシュペーパーが消えた映像や写真が大量に流されると、合理的な行動としても感情的な行動としても、人は大挙してトイレットペーパーなどを買いに走るだろう。このような群集心理を煽る効果がある。 さらに、最近では、政府とマスコミの間で報道をめぐる「論争」が生じている。厚生労働省が一部メディアに会員制交流サイト(SNS)上で行った反論だが、内容は次のようなものだ。 一部報道で「新型のコロナであるため、感染が新しいウイルスであり、私たちには基礎的な免疫がなく、普通のインフルエンザよりもかかりやすい。」との指摘がありました。新しいウイルスのため基礎免疫はありませんが、普通のインフルエンザよりかかりやすいということにはなりませんし、そのようなエビデンスはありません。また、3月3日に世界保健機関(WHO)は、新型コロナウイルスの特徴について、中国で得たデータを踏まえ、季節性インフルエンザと比べて感染力は高くないとの見解を示しています。 このような政府の公的言論としての姿勢は評価したい。まだ試行段階であるが、マスコミが事実と異なるニュースで社会的不安を煽るようであれば、当然の対処だといえる。 ワイドショーなどのテレビ報道、そして新聞報道の在り方がこれからも厳しく問われるだろう。それはいいことだ。 今まで、この「権力」はあまりにもデタラメでありすぎた。政府の公的言論を含めて、国民の討議の中で、その「権力」によるデタラメな報道が検証されるべきである。これは「言論弾圧」などとはまったく異なる。新型コロナウイルスに関して会見する加藤勝信厚労相と厚生労働省のロゴマーク=2020年2月20日(宮崎瑞穂撮影) 3月9日現在、新型コロナウイルスの欧米への感染拡大が、死亡者数と感染者数の増加、そのスピードを見ても深刻化している。それが世界経済の先行きに濃い暗雲をもたらしている。東京株もついに2万円台を大きく割ってしまった。 現状で利用できる代表的な経済予測を確認しておきたい。経済協力開発機構(OECD)の基本シナリオでは、2020年の世界経済は従来の成長率2・9%から2・4%に減速、さらに、ドミノシナリオでは1・5%にまで経済成長率が落ち込む。また、「破滅博士」の異名を持つ米ニューヨーク大のヌリエル・ルービニ教授の予測はドミノシナリオとほぼ同じレベルである。リセッション入りは確実 日本経済への影響だが、OECD基本シナリオの予測では、経済成長率が19年0・7%から20年0・2%と、従来予測(0・6%)から0・4ポイント減速する。ドミノシナリオでは、日本個別は不明だが、基本シナリオの3倍のインパクトと考えればマイナス0・6%ほどに落ち込む。 「破滅博士」は、日本とイタリアのリセッション(景気後退)まで予測している。このリセッション入りは確実だろう。 日本経済がドミノシナリオ通りに、マイナス成長に落ち込んだ場合、補正予算ベースで最低でも6兆円超は必要になる。これでも、それ以前の消費増税と景気後退効果は払拭(ふっしょく)できないのだ。 払拭するためには、さらなる財政政策と金融政策の協調が必要である。この点については前回も指摘したので参照されたい。 OECDでも「破滅博士」でも、基本シナリオ通りなら、20年第1四半期で新型コロナウイルスの経済的影響が終息することが必要である。第2四半期(2020年4~6月)、第3四半期(同7~9月)まで、北半球(日本では特に環太平洋地域)での世界総需要の動向がカギを握る。ここが落ち込むとその深度に応じて、ドミノシナリオが真実味を帯びてくるだろう。 仮に世界景気が思ったほど失速しなくても、日本が経済政策で「無策」を採用すれば、日本だけが深刻な不況に直面するだろう。内閣官房参与でイェール大の浜田宏一名誉教授は、最近の論文で「財政政策の機動性を十分に生かせ」と提言している。 既に中国、韓国など海外からの観光客の急減に加え、風評被害ともいえるコロナショックに見舞われている業態も出始めた。非正規雇用を中心に雇い止めの動きが加速する懸念も強い。2020年3月9日、2万円を割り込んだ日経平均株価の終値と1ドル=102円台の円相場を示すボード 経済評論家の上念司氏は、文化放送「おはよう寺ちゃん活動中」やツイッターで「予備費2700億円とかショボい事言ってるからだよ。あと、本予算通らないと補正予算議論できないなんて手続き論は市場では通用しないのさ」と発言したが、筆者も激しく賛同する。政府が早急に補正予算を打ち出すことが重要だ。日銀も緊急政策決定会合を開くべきだ。 ワイドショーの煽るパニックも恐ろしいが、政府と日銀の無策が生み出す経済不況も恐ろしいものだ。日本は今、この二つの脅威に直面している。

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    新型ウイルス退治に必死の文在寅を「怨念」は決して赦さない

    重村智計(東京通信大教授) 韓国で新型コロナウイルス(COVID-19)の感染が拡大している。政府批判の高まりを受け、政局も不透明さを増している。 このままでは、4月に行われる総選挙で、与党「共に民主党」は第1党の地位を失い、文在寅(ムン・ジェイン)政権がレームダック(死に体)化しかねない。韓国社会と政界混乱の背景には、日本人には分からない宗教事情と地域対立、そして政治文化が隠されている。 「天変地異は支配者に徳がないからだ」と受け止めるのが韓国の儒教的価値観だ。近代化によって相当変化していても、庶民の素朴な感情は変わらない。 この価値観も相まって、政府の対策遅れと中国への「忖度(そんたく)」が批判を呼んでいる。皮肉なことに、日本の対応を評価する声まで出ていたが、日本政府が韓国からの入国を抑制するため、9日から発給済み査証(ビザ)の効力停止を発表したことで、状況が変わりそうだ。 2月25日、文在寅大統領が感染源とされる新興宗教団体「新天地イエス教会」や、病院のある南東部の大邱(テグ)市を突然訪問した。大邱は元々朴槿恵(パク・クネ)前大統領の地盤で、父の故朴正煕(パク・チョンヒ)元大統領を絶対的に支持する保守派の拠点であるため、「反文感情」の強い地域とされる。それゆえ、何もしなければ「見捨てた」「差別だ」とすぐに批判される。 大邱を「封鎖する」と発言した与党報道官が、たちまちクビになったことでもお分かりだろう。先述のように、大邱のある慶尚北道(キョンサンプクト)は、文大統領に反発する保守派の支持者が占めている。報道官の発言は、慶尚道と対立する全羅道(チョルラド)勢力と左派の陰謀だ、と受け取られるからだ。2019年9月、ソウルで開かれた保守派の集会で横断幕を掲げる男性。幕には朴槿恵前大統領(右)や父親の朴正熙元大統領(左)が描かれている(共同) 韓国では、朴父娘や盧泰愚(ノ・テウ)元大統領を輩出した慶尚北道と、左派勢力の地盤とされ、故金大中(キム・デジュン)元大統領の出身地の全羅道の対立が今も続く。左派勢力にとっては、慶尚北道という「保守の牙城」を崩さなければ、4月の総選挙と2022年の次期大統領選を優位に進めることは難しい。その思惑もあってか、文大統領は大邱を訪問したが、かえって「遅すぎる」との批判も出ている。 韓国での新型コロナウイルス感染は主に「新天地教会」の教会に通う信者の間で拡大している。教会は中国の武漢市で伝道していたことを明らかにしている。 韓国の報道によると、この教会は、教祖が「キリストの生まれ変わり」を自称し、多くの信者を集めたという。「新天地教会」も日本で知られる世界平和統一家庭連合(旧統一教会)も韓国の正統キリスト教界からは異端の存在だ。新興団体が狙う「宗教観」 韓国のプロテスタントは、キリスト教長老派とイエス教長老派が二大勢力である。キリスト教長老派は、かつて民主化運動や反体制運動の中心勢力となった。一方、イエス教長老派は保守的だという。信者はイエス教長老派の方が多いとされる。 ただ、韓国のキリスト教ではこの2教派のほかに、正統教会から異端視される新興団体も多くの信者を抱えている。過去にも問題を起こした新興団体は数万人から10万人もの信徒を抱えていた。 韓国では「献金の多い信徒が天国に行ける」といった思いがある。新興勢力は、この宗教理解を巧みに利用し、韓国人に「教祖は神様と話ができる」「教祖はキリストの甦り」と教導することで信徒を増やしていった。 さらには「誰が天国に行けるかは、教祖様と神様の相談次第だ。だから献金しなさい」といった教えが語られるから、教会には多くの資金が集まる。 韓国庶民の宗教は、李王朝時代から続く「ムーダン(巫堂)」と呼ばれるシャーマニズム(巫女の預言、加持祈禱(かじきとう))が今も生きている。この伝統と宗教感情をも利用し、教会は信者数を拡大させていった。「教祖が神様と話ができる」という呼びかけは、シャーマニズムが息づく朝鮮半島の宗教文化では受け入れられやすいのである。 感染源とされる「新天地教会」は海外伝道にも力を入れており、武漢や米国の首都ワシントン、アフリカのウガンダ、内モンゴルなどに教会支部を設置しているという。ただ、新型コロナウイルス感染が韓国内で問題視され始めると、協会のホームページから「武漢」の名前が消えた。 中国のキリスト教は当局支配下の組織として「三自愛国教会」や「天主教愛国会」などに限られ、指導部は外国団体の伝道を認めない。そのため、「新天地教会」には秘密集会で布教していた可能性が浮上する。 つまり、教会関係者や幹部が昨年末まで武漢を行き来するうちに感染し、信者にも広がった疑いがある。それでも、韓国政府とメディアは、この問題を追及していなかった。だが、3月に入って、ソウル市が教祖ら幹部を殺人、傷害、感染病の予防などに関する違反などの疑いで検察に告発し、教祖はようやくひざまずいて謝罪した。2020年3月、韓国北部の京畿道加平郡の教団施設周辺で記者会見し、謝罪する新天地イエス教会の李萬熙教主(聯合=共同) 韓国の宗教団体はお金持ちである。特に、新興キリスト教団体には毎年数十億円から100億円単位の献金が入ってくる。 その資金を海外布教に投資していると宣伝する。韓国当局はマネーロンダリング(資金洗浄)を疑っているが、手が出せないのが現実だ。「日本の期待」は甘くない 海外でマネーロンダリングされた資金は、別の海外口座やタックスヘイブン(租税回避地)の口座に転送される。その後、密かに韓国に還流され、政治献金や教祖個人の目的や投資などに使われる。資金調査を行った当局者や取材に当たった記者は脅されたり、危険な目に遭わされたりした。 韓国での報道や当局の説明でも、教会と武漢の関係について言及されることはなく、闇に包まれたままだ。韓国内では、新型コロナウイルスは「武漢にある軍の研究施設が発生源」とのインターネット情報が拡散し、多くの市民が話題にしている。 日本には、コロナウイルス対策に失敗し、文政権が崩壊するとの期待が少なからずある。だが、韓国の政治はかなり複雑で、韓流(はんりゅう)ドラマで描かれるような陰謀劇が渦巻くため、そう簡単な話ではない。 また、韓国の保守勢力が合流して新党を立ち上げたことへの期待も語られるが、そんなに甘くはない。左派勢力が陰謀とスキャンダルを準備しているからだ。 なんと言っても、韓国は「和解と赦(ゆる)しの政治」ではない。保守勢力は底流に、朴槿恵前大統領に忠誠を誓う勢力と大統領弾劾に賛成した反朴槿恵勢力が感情対立を続けている。 もし、朴前大統領が大政治家としての思想と決断力の持ち主で、獄中から「反朴派を赦す」と宣言すれば、保守は大同団結ができる。「赦し」の政治と思想を実行すれば、偉大な政治家として歴史に残るのに、言わない。恨みと怒りを抑えられないのである。 女性政治家の限界というべきか、「嫌いであっても、政治的には協力する」という大局が見えない。だから、「韓国の未来と国民のために赦しの政治を行う」と言えず、朴前大統領を説得する長老や政治家もいない。韓国政治の伝統的な悲劇である。2020年3月1日、ソウル市内で開かれた三・一独立運動の式典で演説する韓国の文在寅大統領(共同) 日韓に横たわる歴史認識問題でも分かるように、韓国には「赦し」の思想がない。聖書は「キリストがあなたの罪を赦したように、人の罪を赦しなさい」と教えるが、なぜか韓国のキリスト教には神の「赦し」の神学と信仰がない。 「韓国のガンジー」と呼ばれた思想家の咸錫憲(ハム・ソクホン)が、国民を思う指導者や政治家の不在から、韓国民を「悲劇の民族」と呼んだのも無理からぬ話なのである。

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    新型ウイルスでもビクともしない習近平「盤石」政権にはワケがある

    く農村を視察して回っているのはそのためだ。紅二代から授かった使命でもある。 感染問題が長引き、十分な医療を受けられない貧困層の生活や健康、生命が脅かされる状態になれば、そのときこそ政権の是非が問われる。だからこそ多少の荒療治をしてでも、それを食い止めなければならない。習氏はそこを見ているし、心ある中国ウオッチャーもやはりそこに目を向けなければならない。

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    身動き取れない、脆弱「感染列島」

    感染が広がる新型コロナウイルスについて、政府が矢継ぎ早に対策を打ち出しているが、混乱は収まらない。終息への正念場と分かっていても不安が消えないのは、感染リスクだけではなく、政府の「後手後手」感が拭えないからだ。感染症の恐怖に直面し、政治まで身動きできなかったとでも言うのだろうか。

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    舛添要一だから言える、新型ウイルス「厚生労働相」ここが危ない

    の肩書のある者に限って採用するという権威主義的な方策を採った。しかし、私は感染症がはやっていた関西の医療現場で対応している若い医師たちの意見を聞くことにした。今果たすべき「大臣の役割」 官邸がチームAなら、私の方はチームBである。そのチームには、今回クルーズ船「ダイヤモンド・プリンセス」の内情をユーチューブで公開した感染症専門医、神戸大の岩田健太郎教授も入っていた。結局、やはり現場の意見の方が正しく、私はそちらを採用して、対応に成果を上げることができたのである。 安倍長期政権の下で、野党が弱く、官僚は官邸に忖度し、批判的な意見など無視される状況では、2009年のように広く意見を求める、つまり「万機公論に決すべし」というのは不可能になってしまった。そこで、数多くの感染症専門家がテレビに出て、それぞれの見解を述べ、どの説が正しいか分からず、国民は不安になっているのである。加藤厚労相は自らのリーダーシップで広範な意見を聞き、政策立案に生かす必要がある。 第二に、従来の官僚機構とは別の大臣直属のチームを持つことである。私が大臣のときは、まず袋小路に入った年金記録問題を解決するために、各省、そして民間から優秀な人々を集めたチームを作った。 そして、このチームに社会保険庁への立ち入り調査をなどの権限を付与した。その結果、社保庁の不正やミスが次々と明らかになったのである。このようなチームを作ることを官僚は嫌がるが、人事権を握っているのは大臣であることを忘れてはならない。 また、年金記録問題のときは、政権党である自民党が国民から厳しい批判を受け、党でも07年の参院選前にチームを作って対応に当たっていた。私は、そのメンバーだったので、その流れで第1次安倍内閣の厚労相に就任したのである。 今回の新型肺炎対応に当たっては、厚労省にも自民党にも、そのような独立した強力なチームが作られたという話は広く国民には知らされていない。 第三は、徹底した情報公開である。官僚は情報を隠したがる。それを吐き出させるのが大臣の役割である。 新型インフルエンザのときは、大臣の私自らが会見して、毎日のように国民に情報を伝えた。例えば、医療現場から上がってくる患者情報を分析し、新型インフルエンザの症例の特徴、つまり発熱や咳(せき)、痰(たん)などのデータを図表化して国民に伝えたのである。しかし、今回は、すでに950人も感染者が国内で発生しているのに、症例の詳細なデータがあまり出ていない。新型コロナウイルスの国内流行に備える政府の基本方針に関する記者会見で、手元に視線を落とす加藤厚労相=2020年2月、厚労省 また、「ダイヤモンド・プリンセス」の乗客・乗員の国籍別人数、年齢、性別などのデータが広く公開されなかった。その数を国民が知ったのは、各国がチャーター機を派遣して自国を帰国させたときである。最初からこれをもっと世界に知らせていれば、国際世論がクルーズ船対策の改善を求める声を上げていたであろう。 官僚機構を動かすのは政治家の役割である。その意味で安倍内閣、とりわけ加藤厚労相の責任は極めて重いと言わざるをえない。

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    新型コロナ禍で正念場の日本、米国に学ぶべき非常事態時の「覚悟」

    していた。 しかし、それは幼児による薬の誤飲を防ぐための措置であった。大国でありながら貧者がまともな医療を受けることができぬアメリカではあるが、「国民の命」を守ることにおいて周到な準備と配慮を怠らず、それを徹底している一面がある。そのためなら大胆ともいえる政治決断をためらうことなく行う国でもある。 新型コロナウイルスに対する日本政府の対応を見ていて、9・11のテロに際してのアメリカ政府の決断を想起せざるを得なかった。今回の出来事を9・11に準(なぞら)えるのは大げさ過ぎる、同列に扱うのは不適当との意見は当然あるだろう。 しかし、両者は、非常時に際し「国民の命」を守るため、全ての責任を背負った政治決断が求められている点では同じである。日本はいかなる準備と覚悟を持っているのか、それが試されている。新型コロナウイルス対策本部の会合で発言する安倍晋三首相。左は加藤隆信厚労相=2020年2月、首相官邸 冒頭に述べた「覚悟」は、政権担当者はもとより、与党だけでなく野党政治家にも、国政だけではなく地方政治においても問われている。政治に携わる者は、その立場を越え、国や地方問わず肝に銘じておく必要がある。 対外関係を配慮し過ぎて、あるいは関係機関の調整と了解に傾注するあまり、あるいは揚げ足取りにしか見えない低劣な批判への対応に時間を奪われるあまり、然るべきときに、然るべき決断ができず、結果として弥縫(びぼう)策に終始する日本政治の弱点が露呈しないことを願うばかりである。

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    台湾が新型コロナの感染拡大を抑制できている理由

    拡大防止に一役買っている。台湾は国民皆保険制度で、誰もがICチップ入りの保険証を持つ。個人の番号は、医療保険や身分証明書など公的書類に共通で、海外渡航や治療履歴がすぐに分かる。2月21日 台北市内で記者会見する台湾の陳時中衛生福利部長(田中靖人撮影) 隔離を免れようとしても困難だ。湖北省などに滞在していた台湾人は、発熱などがあれば直ちに隔離される。密かに台湾に戻っても、当局が捕まえにくるそうだ。法務部調査局など台湾の情報機関が、スマートフォンを経由して個人の動向を詳しく把握しているとのうわさもある。末端行政機関で日本の町内会ぐらいの規模を管轄する「里」も、住民の動向に目を光らせている。国民管理は日本より厳しい。台湾はイメージほどヤワな国家ではない。 このほか、今年1月の台湾総統選で蔡英文総統が圧勝し、中国当局が嫌がらせのため、中国人の台湾観光旅行を規制していたことも、かえって幸いだった。この見方は、反政権側の国民もしぶしぶ認めている。国民党の対立候補、韓国瑜氏は観光を含む中国との交流強化を訴えていた。ある市民は「韓氏が当選して、中国の観光客が押し寄せていたら、今ごろどうなっていたか」と話している。 なおSARSは重症化すると肺に後遺症が残り、治癒後も激しい運動ができなくるという知識も、台湾人に共有されている。新型コロナウイルス肺炎も同じという。男性医師は「インフルエンザと同じと思うのは禁物」と話している。いのうえ・ゆうすけ 1963年東京生まれ。早稲田大学法学部卒。天津南開大学へ留学経験あり。共同通信記者、時事通信上海支局勤務、衆院議員政策秘書などを経て現在に至る。

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    ペスト、赤痢菌… 北里柴三郎ら日本人研究者の戦いの歴史

     今回の新型コロナウイルスに限らず、人類はさまざまな感染症と戦ってきた。14世紀の欧州で猛威を振るったペストの致死率は60~90%にも及び、当時の欧州人口の半数にあたる数千万人が死亡したと推計されている。 この病原体との闘いに大きな貢献をしたのが日本人研究者たちだ。 19世紀末から20世紀初頭にかけて日本でもペストの流行が幾度も起きた。明治政府はその対策として、破傷風菌研究の世界的権威・北里柴三郎に白羽の矢を立てた。 ペストが蔓延していた香港に派遣された北里は、助手や他の研究者が感染して倒れるなか、世界で初めてペスト菌を発見するという偉業を成し遂げた。 有史以来7度のパンデミック(感染爆発)を引き起こしたコレラの撲滅に大きな貢献をしたのも北里だ。世界初のコレラ血清療法を確立したうえ、1916年にはコレラワクチンも完成。数十万人に接種された。志賀潔(医学博士、細菌学者、脳科学者) 19世紀末に、結核やコレラなどの原因菌が次々に発見されるなか、正体がつかめないままだったのが赤痢菌である。日本では1897年に大流行し、9万人が感染。致死率は25%に達した。この赤痢菌を世界で初めて発見したのが、北里から直接指導を受けた志賀潔だ。 北里から赤痢の病原菌探索を指示されると、志賀は下宿を引き払い、研究室に住み込んだ。日々、感染の危険に晒されながらも患者の便を顕微鏡で粘り強く調べ続け、発見に至ったのである。 20世紀初頭、野口英世は南米で蔓延していた黄熱病の研究に人生を捧げた。貧しい出自ながら勉学に没頭し、最期は自身も黄熱病に感染して命を落とした野口の生き様は、伝記として読み継がれ、多くの後継者を生んだ。『まんが医学の歴史』の著者で、いばらきレディースクリニック院長の茨木保氏は、日本人研究者の貢献をこう評価する。「感染症の新しい治療法を確立したという意味では、『血清療法』を開発した北里柴三郎、病原体を直接叩く『化学療法』で梅毒の特効薬サルバルサンを発見した秦佐八郎の業績が光ります」 感染症の医学史に名を刻んだ日本人研究者の志は、いま最前線で戦う者にも時を超えて受け継がれる。関連記事■努力の人・野口英世は遊郭入り浸り 留学費用で放蕩三昧■ノーベル賞で万能薬イメージ、がん免疫治療薬の注意点■中国で豚コレラ蔓延、マフィアが感染豚を転売し荒稼ぎ■東京五輪 マラソン以外でも「開催地変更」を要求される懸念■新型肺炎でマスク「転売ヤー」が出現 定価の3倍で取引も

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    コロナショック直撃、救えるのは日銀の「非公式見解」しかない

    田中秀臣(上武大学ビジネス情報学部教授) 新型コロナウイルス(COVID-19)感染の影響が、経済的にも社会的にも拡大し始めている。経済的な影響は、昨年からの経済動向を分析すると、3段階の局面が重要になっている。 一つ目は、日本経済が米中貿易戦争などの影響で2018年秋から減速傾向を見せ始め、19年には明らかに景気下降局面入りになった。このタイミングで、10月に消費税率10%引き上げが政治的な思惑を優先する形で導入された。 二つ目は、消費増税が政府の対応策をほぼ無効化し、消費や設備投資、輸入など日本の購買力を直撃し、その影響が現段階まで持続している。その状況で今回、新型コロナウイルスによる経済的な影響が国内外で発生している。 三つ目の局面は今後の状況にかかっている。それは、「景気下降局面」プラス「消費増税」プラス「新型コロナウイルス」の「三重苦」がいったいいつまで持続するかだ。 この三重苦の中で、比較的短期に終息しそうと思われているのが、新型コロナウイルスの経済的ショックだろう。ここでは、中国、日本、そして世界における本格的感染の終息宣言が、世界保健機関(WHO)や各国政府などから早期に出されるケースを想定している。その場合でも、本格的な感染がいつ終わるかによって、日本経済には深刻なダメージが待ち受けている。 もちろん、それは今夏の東京五輪・パラリンピックの開催をめぐるものだ。中でも、嘉悦大の高橋洋一教授は最も悲観的な予測を提示している。 高橋氏によれば、国際オリンピック委員会(IOC)が開催するか否かの判断時期を5月中に設定する場合、WHOの終息宣言は少なくとも5月下旬がリミットになるが、それまでに本当に終息するかどうか微妙だ、という。もし、東京で開催しないと決定されれば、その経済的影響は計り知れないというものだ。下げ幅が一時1000円を超えて急落した日経平均株価を示すモニター=2020年2月25日午前、東京・八重洲 ただ、高橋氏の「悲観シナリオ」はあくまで一定の前提の上での話であることに注意が必要だろう。WHOや各国政府の終息宣言がいつ出されるか、まだ全く不確定な話でしかないからだ。 五輪やサッカーのワールドカップといったスポーツのビッグイベントの経済効果を、よく言われるようにインバウンド(外国人観光客)消費の増加や公共事業による経済浮揚効果に限定するのは、正しくはない。ビッグイベントに伴うインフラ整備は、開催までにそのほとんどの「経済効果」を使い切っている。あとは、その既存設備がどのように活用され、社会資本として機能していくかだけになる。「三重苦」への経済対策は インバウンド消費も直接面だけを見るのは妥当ではない。五輪などの一時的な観光客増を嫌って、人々が他国や地域に観光に出掛けるかもしれないし、違う形態の消費におカネを使うかもしれない。つまり、混雑効果を考慮しなくてはいけなくなる。 ある実証研究では、五輪の経済効果は、開催国の国際的な信頼性を上昇させることで輸出が増加する効果として現れるという。他方で、五輪などのビッグイベント自体の経済効果よりも、金融政策などのコントロールがうまくいっている方が重要だ、という実証もある。 仮に、高橋氏の悲観シナリオが不幸にして成立してしまえば、日本の「国際的信頼」は毀損(きそん)され、輸出にも影響を及ぼすかもしれない。他方で、増加が見込まれるインバウンド消費や五輪を当て込んだ国内消費や投資などは大幅に失われる。 今回の新型コロナウイルス問題以前に提起されていた東京五輪による経済効果の各種推計を読み解くと、既に2020年は各種インフラ整備への支出はほぼ終わっているため、キャンセル効果は大きくない。インバウンド消費が3~4兆円、国内消費も1兆円程度が失われる。 ただ、本当に「失われる」かどうかは分からない。先ほど簡単に例示したが、五輪の混雑を忌避する観光客の消費増が国内外から発生するかもしれない。もっとも、これも新型コロナウイルスの風評被害がゼロであるという前提に立っている。 新型コロナウイルスの感染拡大が収まらないことで、五輪が中止になれば、日本の「国際的な信頼」が毀損されるだろう。「観光立国」というブランド(があるとして)も大きく低下するかもしれない。 いずれにせよ、上述の悲観シナリオの当否は取りあえず別にしても、「景気下降局面」プラス「消費増税」プラス「新型コロナウイルス」の「三重苦」に対応する経済政策が必要になる。現在の国会で審議されている補正予算だけでは不十分だ。都庁で行われた記者会見で新型肺炎の東京五輪に対する影響について説明する東京都の小池百合子知事=2020年1月31日 では、どのくらいの規模が必要だろうか。現在、審議中の補正予算案は4兆3千億円程度でしかない。これではおそらく「三重苦」の「景気下降局面」プラス「消費増税」、二つの悪影響の、それも3分の2程度しか打ち消すことができないだろう。 やや粗い計算になるが、公表されている日本銀行の需給ギャップ(国内総生産=GDP=ギャップ)推計を利用してみよう。 日本経済の潜在GDP(資本や労働が完全利用されている水準のGDP)と約530兆円ある現実のGDPとの開きは、2019年の第3四半期でプラス1・02%と3四半期連続で悪化していた。この状況に「消費増税ショック」がのしかかるが、14年の増税並みと仮定すると、日銀推計のGDPギャップはおそらくマイナス域に限りなく接近するか、場合によっては小幅マイナスになるだろう。消費増税ショック再び? 「マイナスといっても、小幅だからいいじゃないか」という話ではない。次期日銀審議委員に決まったエコノミストの安達誠司氏が以前指摘していたが、日本経済がデフレ脱却に最も近づいたころが2018年秋ぐらいまでだ。その時期の日銀推計のGDPギャップは2%超だったが、この水準(以上)を目指さなくてはいけないからだ。 仮に、新型コロナウイルスの経済的影響を14年の消費増税ショック並みと見れば、上述の「三重苦」でGDPギャップは最悪マイナス1%近くまで落ち込む。要するに、消費増税が半年足らずの間に2度やってくるようなものだ。 これを打ち消すには、現状の19年補正予算4兆3千億円に加え、6兆円以上の新たな補正予算が必要になるだろう。さらに2018年秋レベルのデフレ脱却可能な水準にまで引き上げるには、さらに6兆円以上の補正予算が求められる。新型コロナウイルスの影響次第だが、補正予算ベースで総額16兆円規模になる。 これらは粗い計算ではあるが、一つの目安ぐらいにはなるだろう。「デフレ脱却を後回しにして、取りあえず経済を『三重苦』から脱却させろ」というせっかちな(愚かな?)要求ならば、10兆円程度になる。新たな補正予算には6兆円超が確実に必要というわけだ。 日銀の政策委員会にはいわゆるリフレ派が3人いる。現状では、若田部昌澄(まさずみ)副総裁と片岡剛士審議委員、そして原田泰審議委員だ。原田氏に代わり、3月26日からは安達氏が委員に就任する。 政策委では、金融政策決定会合で反対票を投じる片岡氏と原田氏がしばしば注目される。しかし、両氏以上に重要なのが、若田部氏の「隠れたメッセージ」を解読することだ。 総裁、副総裁2人から成る執行部は意思統一を強く求められるため、日銀の「公式見解」とずれる内容をなかなか言いにくい。だが実は、若田部氏は読む人がしっかりと読めばわかる大胆な提案を、講演や記者会見で発言している。青森市で記者会見する日銀の若田部昌澄副総裁=2020年6月 最近の講演では、やはり彼が政府と日銀の協調を提起しているところがツボである。黒田総裁なら、しなびたミカンの皮程度のことしか言わないものだ。 日本銀行が大規模金融緩和を継続するもとで、経済情勢に対応して機動的に財政政策が運営されることは、金融緩和と財政刺激の相乗作用を高め、景気刺激効果をより強力なものにすると考えています。一般に、政府が国債増発を通じて政府支出を増加させると、長めの市場金利に上昇圧力が加わり、これが次第に民間投資などを抑制するメカニズムが働きます。これに対して、政府支出が拡大するもとでも、中央銀行が市場金利の上昇を抑制すれば、民間投資などへのマイナスの影響は限られ、景気刺激効果の強まりが期待できるということです。若田部昌澄「最近の金融経済情勢と金融政策運営」2020.02.05 若田部氏のメッセージを実行する、このことが何よりも求められるのである。

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    新型コロナウイルスと向き合うための「危機管理の鉄則」

    への情報提供(リスク・コミュニケーション)(3)感染症の蔓延防止に関する措置(セキュリティー)(4)医療の提供体制の確保のための総合調整(ロジスティクス)(5)国民生活や国民経済の安定に関する措置(セキュリティー・ロジスティクス) この五つの基本計画はこの新型コロナウイルス対策においても踏襲される。パンデミック対策のカギ これらのインテリジェンス、リスク・コミュニケーション、ロジスティクス、セキュリティーの四つの活動も、特に感染症のパンデミック対策では、そのスピードが勝負の鍵となる。素早い判断と、素早い手続き、素早い指揮命令と、現場における素早い対応によって、感染拡大の規模を最小化することが可能になる。 医学的な判断や国際状況を見極める態度は重要だ。ただ、そのためにじっくり見極める時間を取ることで、対応が遅れて感染が広がるという対策上のミスを防がなくてはならないのが、感染症のパンデミック対策である。 感染症が国内に入ることを防止する水際対策も、決して万全なものではなく、感染症の国内流入を防ぐことはできない。この水際対策も機能的には時間稼ぎであり、国内に感染症が入ってくるのを極力遅らせること、流入する感染者の数を極力少なくすることにより、感染拡大スピードを遅らせることが目的である。この感染拡大スピードを遅らせることで、その間に国内の対策を進める時間的猶予を作り出すという、時間との戦いである。 危機管理の鉄則は、「最悪の事態を想定する」ということであり、「空振り三振はしても、見逃し三振はするな」という態度である。つまり、新型ウイルスなどの感染症パンデミック対策においても、常に最悪の事態を想定し、過剰な対応策となったとしても、空振り三振を恐れず、対策の一手を先行して打つということが求められる。それが政治責任であり、政治判断である。 感染症のパンデミック対策においては、社会全体の市民や組織の協力体制が不可欠である。そのためには、自治体はどのような対応を採るべきか、企業は社員に対してどう対応すべきか、学校は生徒に対してどう指示すべきか、市民一人一人はどのような対応策をとるべきなのか、積極的な広報を展開する必要がある。 それを平常時に実施するのがリスク・コミュニケーションという活動であり、それを危機発生後に行うのがクライシス・コミュニケーションである。 国家を挙げた危機である感染症パンデミック対策であれば、重要な役割を果たすのが政府とメディアである。こうしたクライシス・コミュニケーションの過程では、(1)政府から自治体への指示(2)政府からメディア各社へのリリースや会見(3)政府から国民に向けた広報、が積極的に展開されなければならない。中国・武漢から29日にチャーター機で帰国した日本人3人の新型コロナウイルス感染が確認され、会見する厚労省の担当者=2020年1月30日(寺河内美奈撮影) 政府が直接市民に向けて発信できるメディアも、インターネット、会員制交流サイト(SNS)の時代を迎えて増加した。こうしたネットやSNSを最大限に活用した感染症対策の社会教育をより積極的に展開せねばならない。 そのためには、新しい感染症に対応したリスク・コンテンツの拡充と、それを市民に分かりやすく伝える政府や官庁のリスク・コミュニケーターの育成が必要である。連日テレビや新聞で報道される感染症関連のニュースも、社会教育においては極めて重要であり、こうした従来のテレビや新聞などのマスメディアを通じて、市民は感染症の実態や対処法を学ぶことができる。 こうしたテレビのニュース番組やワイドショー、情報番組を社会教育の手段として有効活用するためには、政府や官庁から、メディア各社への積極的なプレスリリース、記者会見や、リスク・コミュニケーターの派遣を展開することが必要不可欠である。「人権」と「人命」 ここで国民世論における「不安」と「安心」のバランスを考慮した積極的な広報が求められる。危機に際して、「不安を煽ってパニックになるのではないか」ということを恐れ、公的機関の広報が消極的になるケースが発生する。 むしろ、それは逆であり、情報を積極的に発信して社会教育することにより、市民の不安を払しょくし、安心をもたらして合理的で冷静な対応行動をとることが可能となる、という側面があることを忘れてはならない。 新型コロナウイルスが指定感染症と定められたことにより、感染が確認された場合には患者に入院勧告し、従わなかった場合には強制入院させることが可能となる。職場に出勤させない就業規制も可能である。 感染症のパンデミックで日本政府が在留邦人の保護のために政府チャーター機を派遣したのは歴史上初めてのことである。こうして、武漢からの在留邦人を乗せたチャーター機が帰国したが、帰国した邦人への検査態勢と対応措置、新型肺炎に感染した邦人患者への措置には課題が残った。 その課題は、アウトブレイクした外国都市からの在留邦人が帰国した場合、今回のような新型感染症の検査の強制的実施の問題、検査結果を問わず潜伏期間を含めた一定期間の隔離実施の問題など多岐にわたる。指定感染症を定めるタイミングや、それに間に合わない初動における対処には、まだグレーゾーンが残っている。そのためには感染症法や検疫法、新型インフルエンザ等対策特別措置法などのさまざまな法律の間の整合性を再検討しなければならない。 こうした人権問題に関わる事例をクリアする法制度の構築と、それを社会で議論し、合意形成していく民主主義的なリスク・コミュニケーションの過程が、平常時に求められる。 危機管理の普遍的な課題である、「安全・安心」と「自由・人権」の対立、トレードオフの問題を感染症パンデミック対策でも検討せねばならない。中国・武漢から羽田空港に到着した日本政府のチャーター機。手前は待機する救急隊員=2020年1月29日 今後、さまざまな新型の感染症に対してワクチンを開発する取り組みが始まるが、ワクチンの開発がパンデミックの過程において間に合った場合でも、その数量の限られたワクチンを誰から摂取するか、医療関係者、子供、高齢者、一般成人など接種の優先順位の検討と決定が必要となる。どの地域の、どの自治体から摂取を始めるか、どのような場所でどのような方法で接種を行うか、徹底した議論と合意形成が求められる。 こうした命の優先順位ともいえる機微な課題を、最大限、人権に配慮しながらも、パンデミックの被害を最小限化し、人命を優先するために、冷静に決断しなければならない事態が訪れている。 こうした議論と合意形成のために、市民に対する情報提供や情報公開は不可欠であると同時に、それを担うメディアの役割も重大である。これが危機管理におけるリスク・コミュニケーションの意義であり、現在の新型コロナウイルス肺炎の対策に必要なことも、この社会全体を巻き込んだリスク・コミュニケーションなのである。

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    アベノミクスにもよく効く「パンデミック」の教訓

    者が81人、患者数は2744人になり、世界中では3千人に迫る規模で増加している。武漢市当局者の発言や医療従事者の証言によれば、市内ではさらに1千人規模で感染者が増える可能性があり、感染力自体も高まっている。 既に日本でも患者が確認されており、今後も社会的な防疫体制の強化が必要だ。日本政府はチャーター機を手配するなどして、武漢からの邦人の全員帰国を実現しようとしている。 ただ、新型コロナウイルスに関して、これまでの日本政府の広報体制は十分なものとはいえない。画像を参照してほしいが、27日早朝の厚生労働省のホームページには、季節性のインフルエンザに対する注意喚起程度しかない、といっていい状況だ。参考として紹介している国立感染症研究所の情報も、単なるコロナウイルスの種別解説しか記載がない。 他方で、インターネット上では、国内外の報道や医療関係者の具体的な発言を無数に確認することができる。もちろん、その中には虚偽の伝聞や、過剰な煽りも多い。 日本政府の情報発信のレベルの低さは、すなわち危機管理力の決定的な遅れだ。社会的な疫病対策には、病そのものへの対応と同時に、社会的な不安を抑制する仕組みも必要だろう。その点で、日本政府の情報発信はまさに稚拙以外の何物でもない。 NHKでは、世界保健機関(WHO)の発表を紹介し、ウイルスの感染力が患者1人から2・5人(以前は1・4人)に拡大していること、致死率は3%であることを伝えている。感染力や致死率は、2003年に流行した重症急性呼吸器症候群(SARS)に比べれば格段に低い。ただし、多くの医療関係者は、人から人に感染していく中での変異を懸念する声も多い。 昨夏大きな注目が集まった日韓の輸出管理問題では、当時の経済産業相だった自民党の世耕弘成参院幹事長が積極的にツイッターでマスメディアの報道の問題点や、制度自体の詳細を解説して、国民の誤解を防ぐ役割を果たしてきた。河野太郎防衛相も、外相時代から始めた外交・防衛活動を現職まで続けることで、リアルタイムに政府の取り組みを知らせることに成功したといえる。 だが、今回の件では、加藤勝信厚労相の積極性は皆無だ。上述の通り、厚労省の広報もネット時代に対応できておらず、全くダメだ。車両の通行が制限され閑散とする中国・武漢市内=2020年1月26日(共同) 繰り返すが、社会的な防疫体制に、今はネットによる情報発信が極めて重要だ。その意味で、政府の現時点の対応は稚拙なものである。 最近の報道では、SARSとの比較が目立つが、新型ウイルスの猛威によって世界中で多くの人命が損なわれたのは、約1世紀中では1918年のインフルエンザのパンデミック(世界的大流行)だろう。そのときの経験から学べる教訓は多い。パンデミックの「教訓」 米歴史学者、アルフレッド・W・クロスビー氏の『史上最悪のインフルエンザ』(みすず書房)や、最近惜しくも亡くなられた歴史学者の速水融氏『日本を襲ったスペイン・インフルエンザ』(藤原書房)で、当時世界的規模で流行したことが実証的に明らかになりつつある。当時、日本では45万人、米国でも67万5千人、全世界では推計4千万人の死者が出た。 交通網の整備や人口の集中度合いなどが、致死率を高めることにつながった。現代は、1918年当時とは比較にならないほど都市化と国際的な人的交流の発展が進み、新型感染症の脅威はさらに高まっている。なお、ウイルスの基礎知識やパンデミックの定義など初歩的な解説としては、BBCの動画ニュースを参考にするといいだろう。 18年のインフルエンザと今回を比べる上で、ミシシッピ大のトマス・A・ガレット教授の論文「パンデミック経済学:1918年インフルエンザと今日の含意」(2008年)がいまだに役立つ。ガレット氏の論文を参考にして、重要な論点を列挙しておく。1)1918年のケースでは、都市部と地方で致死率に大きな違いがあり、都市部の方が致死率は高かった。しかし今日では、交通網の整備などで都市部と地方での有意な違いはないかもしれない。2)18年当時では、低所得階層で特に致死率が高かった。今回の武漢のケースでも貧困層が最も高い罹患(りかん)のリスクに直面しているとの指摘もある。3)18年当時では、都市部住民は比較的医療サービスを受けやすい環境にあったが、医療サービスの供給を過度に超える需要が存在することで、かえってインフルエンザの集団発生に貢献してしまった。例えば、狭い医療空間の中での患者や医療関係者が直面する場合である。報道によれば、武漢の一部の医療機関では、患者たちの過密する状況があるようだ。4)18年当時では、保険に加入していた人たちは経済的負担をある程度回避できたが、この保険でも低所得者層には致死率の面で、高所得者層に比べて不利だった。医療保険は正常財であり、所得が大きければより購買量が増える財だからだ。5)18年当時では、米国のフィラデルフィアとセントルイスは対照的だった。前者はカーニバルで多くの人が特定地域に密集し、全米で最もインフルエンザの脅威に晒された。対して、セントルイスでは地域を早急に封鎖することで、インフルエンザの波及を食い止めた。春節中の国外旅行を事実上禁止した中国政府の動きはこの教訓からいって妥当だったかもしれない。武漢などの「都市封鎖」もこのときの経験を参照したのかもしれない。 過去の教訓として重要なのは、ガレット氏が「パンデミックの経済学」で述べているように、公的機関の協調だ。これら政府の協調が失敗しないためには、人々の公的機関の情報に対する信頼性が何よりも鍵になる。 ただし、経済成長率や人権抑圧の状況でもそうだったように、中国政府が提供する情報は多くの人たちに疑問視されてきた。この信頼性の欠如が、今回の新型コロナウイルスの事例でもネックになりそうだ。日本政府の情報発信の問題については先に述べた通りである。 安倍晋三政権の危機管理能力が残念な点は、新型コロナウイルス対応への情報発信だけではない。経済問題に関しても深刻である。核心にあるのが、消費増税による悪影響を低く見積もる姿勢だ。これは政府だけではなく、日本銀行を含めた体質でもある。 先日閉幕した世界経済フォーラム(WEF)年次総会(ダボス会議)の記者会見の席で、日銀の黒田東彦(はるひこ)総裁が、2019年10~12月までの経済成長率がマイナスになるとの見方を示した。国内総生産(GDP)統計(速報値)自体は2月17日に公表される予定だ。マイナス成長の主因は相次いで日本に上陸した大型台風の影響だという。金融政策決定会合後の会見で質問する記者を指名する日銀の黒田東彦総裁=2020年1月21日(酒巻俊介撮影) 大型台風の影響が深刻で今も爪痕が残ることは理解できる。だが、それは10月に集中していたはずだ。同じく10月に実施された黒田氏の発言は、消費税率10%引き上げの影響をできるだけ大きく見せないように終始しているように思えた。これは悪質な欺瞞である。 岩田規久男前副総裁は『日銀日記』(筑摩書房)の中で、黒田氏が14年の消費税率8%引き上げの最大の功労者=戦犯であると指摘している。岩田氏も同僚であったので、慎重な書き方ではあるが、一読すれば趣旨は明瞭だ。防疫も経済も協調なし? 日銀による金融緩和政策の効果を大きく削いでしまったのは、金融政策の責任者である黒田氏自身にあった。財務省出身という黒田氏のキャリアが、消費増税を推進するスタンスに大きな影響を与えているのだろう。 ここで、金融緩和政策と消費増税の関係を比喩的に説明しよう。大胆な金融緩和政策を採用する「アベノミクス」以前は、駅前のロータリーをそれなりの速いスピードでぐるぐる回るだけでしかなかった。 これは金融緩和に否定的な人たちがよく用いる形容であるが、「マネーをじゃぶじゃぶ」しても、デフレ停滞から一向に脱することができなかったことを意味している。つまり、どんなにスピードを上げても駅前のロータリーから出られないのだ。 アベノミクスはこの政策スタンスとは違う。まず目的地を設定して、高速道に乗って近くのリゾート地に向かうことを決めている。それがインフレ目標2%であり、目標を通じた雇用や経済成長の安定化だった。車は当初は高速道を80キロくらいのスピードで順調に運転していた。これが2013年終わりまでのアベノミクスの根幹である金融緩和政策の姿だ。 だが、2014年4月の消費増税は、高速道で同じスピードのまま猛烈な向かい風に当たることになる。当然にアクセルを踏む力が同じままであれば、速度は大幅にダウンする。 ただし、とりあえず進むことは進んでいる。雇用の持続的改善の主因は、目的地を見据えた緩和の継続にある。これを「アベノミクスは史上最悪の緊縮政策」「消費増税で日本経済ハルマゲドン」論者たちが見落としていることだ。 もちろん、強烈な向かい風があれば、アクセルを踏み込んで80キロに上げればいいのだが、そもそも、消費増税という向かい風を政府自らが起こす必要はないはずだ。ところが、今回の増税でもその手法を採用している。 防疫体制もそうだが、国民の生命は経済政策によっても保障されている。その経済政策の点から、政府と日銀は国民に対して、長期停滞という深刻な病に再び陥ることを強要しているともいえる。新型コロナウイルスに関連した感染症対策に関する関係閣僚会議で発言する安倍晋三首相。手前は加藤勝信厚労相=2020年1月24日(春名中撮影) 新型の感染症対策には、公的機関の協調が必要であり、その核は公的機関の発信する情報の信頼性にあると指摘した。経済対策でも同じことだ。 黒田総裁や政府からは消費増税の悪影響をできるだけ過小に見せかける発言しか聞こえてこない。これでは、国民の信頼を得ることはできないだろう。まずは、安倍首相自らがインフレ目標2%へのコミット(関与)を再度強調することが必要であろう。

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    この先も相次ぐ「中国発」新型コロナウイルスの潜在的な脅威

    上昌広(医療ガバナンス研究所理事長) 中国の武漢市で新型コロナウイルスの感染が確認された。この記事を書いている1月19日現在、判明していることは以下だ。 中国国内の患者数の合計は62人。このうち、8人が重症と判断され、2人が亡くなっている。1人は進行した肝疾患を抱えた61歳の男性。ウイルス感染が基礎疾患を悪化させた可能性が高い。もう1人は69歳の男性で、基礎疾患の有無は明らかではない。 中国国外で診断されたのは2人だ。1人は1月12日にタイで診断された61歳の男性。武漢からの旅行者で、5日に発症していた。もう1人は30代の日本人だ。16日に報告された。6日に武漢から帰国し、同日に医療機関を受診した。10日に入院し、15日に軽快、退院している。 では、このウイルスの毒性は、どの程度だろうか。2003年3月に中国広東省から広まった重症急性呼吸器症候群(SARS)の致死率は9・6%、13年5月にサウジアラビアで発生した中東呼吸器症候群(MERS)は34・4%だった。いずれも今回と同じコロナウイルスだが、現時点では、このようなウイルスよりは毒性は低いと考えられている。 ただ、これはなんとも言えないと思う。もし、69歳の死亡例が健常人であれば、楽観視できない。重症と言われている8人の全てが亡くなれば、致死率はSARSを上回る。 次の問題は感染力だ。注目すべきは、中国国内で診断された62人の多くが武漢の海鮮市場で働いていたことだ。この中に妻も感染したケースが含まれる。この妻は海鮮市場に出入りしていないから、職場と家族内で一気に拡散したという見方もできるし、感染している動物と接触すると容易に感染するが、家族内での感染が少ないことを考慮すれば、人から人への感染リスクは高くないのかもしれない。新型コロナウイルスが原因とみられる肺炎患者が多く出た中国湖北省武漢市内の海鮮市場(共同) ちなみに、タイと日本の患者は、この市場との接触はない。感染経路は不明だが、彼らが普通の会社員であれば、感染動物と接触し、うつった可能性は低いだろう。以上の事実は、ヒト・ヒト感染を起こす可能性を示唆している。 現在、厚生労働省や有識者の多くが「過剰に心配する必要はない」と主張している。そして、国民の多くが、毒性も感染力も低いと考えている。私は、このような希望的な観測には賛同できない。 そもそも計64人の感染者のうち、8人が重症化したのだから、毒性はそれなりに強いだろう。彼らの多くは市場で働いていた現役世代だ。介護施設に入っているような高齢者ではない。免疫を持っていない状態で罹患すれば、かなりの確率で重症化しそうだ。現状は「患者が置き去り」 ただ、私は現時点では危険とも安全とも言えないと考えている。このまま収束する可能性もあれば、将来的に大流行する可能性も否定できない。現時点で「過剰に心配する必要がない」のは、発症から時間が経っていないため、まだ拡散されていないからだ。感染者と接触する可能性は低いため、その意味でインフルエンザの方がはるかに「危険」だが、このことが新型ウイルスについて何も心配しないでいいと保証するものではない。 現に英インペリアル・カレッジ・ロンドンの研究者たちは、武漢市内の感染者は推計で既に1723人にのぼると報告した。上海や深圳でも疑い例の存在が報じられている。 では、どうすればいいのか。私は正確な情報を世界でシェアすることだと思う。まずは遺伝子配列のデータを一刻も早く公開することだ。世界中の専門家が様々な意見を学術論文という形で述べるだろう。また、医療現場でやるべきは、正確に診断することだ。そのためには医療現場、特に最初に受診する開業医に診断手段を提供しなければならない。 具体的には、彼らが普段使っている検査会社に普通にオーダーずれば、結果がすぐに返ってくるようにすることだ。国立感染症研究所に申し込み、サンプルを自分で送るようでは、多忙な医師は対応できない。 専門家の中には、後日、保存された血清などを用いて、疫学的な調査をすればいいという人もいるだろうが、これでは患者が置き去りだ。医療機関を受診する患者の中には「新型ウイルスにかかっているのではないか」と悩む人もいるだろう。彼らの不安に全く対応していない。政府や専門家がやるべきことは、国民と医療現場を統制することでなく、彼らを支援することだ。 これは2009年の新型インフルエンザ流行の反省だ。このときもそして現在も、厚労省は新型ウイルスの流入を水際で食い止めるといい、メディアもこの方針に疑問を呈さない。 数カ月間かけて世界を旅する大航海時代ならいざ知らず、現在、こんなことは不可能だ。日本と中国は飛行機でわずか数時間の距離で、潜伏期間の患者はどんな方法を使っても食い止められないからだ。新型のウイルス性肺炎患者が国内で初めて確認されたことについて記者会見する厚労省の担当者=2020年1月 09年の新型インフルエンザ流行の際には、最初に診断された症例は神戸の住民で、海外渡航歴はなかった。地元の医師が感染を疑い、特別に検査したところ感染が判明した。当時、厚労省は検査する患者の基準を定めており、この患者は厚労省の基準を満たしていなかった。熱意ある医師が何とか関係機関と調整して、検査をしてもらったのだ。 その後、新型インフルエンザが国内で大流行したのは、ご存じの通りだ。今回、この教訓は活かされるのだろうか。ここまでは、その兆候はない。 なぜ、やらないのだろうか。もし、財源が必要なら、加藤勝信厚労相や安倍晋三総理に正確な状況と費用を説明して、リーダーシップを発揮してもらうことだ。せっかく、検査体制を整備しても、もし流行しなかった場合は、カネは無駄になる。それはそれでいいではないか。国民の命がかかっているのだから。必要なのは「患者目線」の対応 この問題は今回の流行だけに限らない。新型ウイルスに対する危機管理体制を確立するのは、日本にとって喫緊の課題だ。なぜなら、今後も中国発の新型ウイルスが出現し続けるからだ。この問題は、今こそ議論すべきだ。 新しいウイルスは突然なにもないところから生まれてくるわけではない。多くは動物に感染するウイルスで、何らかの突然変異が生じ、動物からヒトに感染するようになる。そして、さらに変異が生じ、ヒトからヒトに感染するようになる。 例えば「はしか」は、元はウシやイヌの感染症だ。家畜化の過程でヒトの感染症へと変異した。ヒトのみに感染する天然痘は、元は齧歯(げっし)類のポックスウイルスから進化したと考えられている。人類社会が発展し、ネズミと「共生」するようになったため、ヒトに感染する変異体が生まれた。 現在、新型ウイルスが最も生まれやすいのは中国だ。二つの理由がある。一つは中国には大量の家畜が存在することだ。2017年に世界で9億6700万頭のブタが飼育されていたが、このうちの45%は中国だ。2位のアメリカの7・6%を大きく引き離して断トツのトップだ。 ニワトリは全世界で228億羽飼育されているが、21・3%が中国だ。これも2位のインドネシアの9・5%を大きく引き離す。もう一つの問題は飼育場所が人間の生活圏と近接し、家畜を生きたまま販売する習慣があることだ。 この点は以前から危険性が指摘されてきた。『サイエンティフィック・アメリカン』誌の編集長を務めたフレッド・グテル氏は著書『人類が絶滅する6つのシナリオ』の中で、「食肉用の動物を生きたまま販売する」伝統を紹介している。新型のウイルス性肺炎について注意喚起するポスターが掲示された成田空港検疫所を通過する中国湖北省武漢市からの到着客=2020年1月16日 例えば、「広東省の市場では、ニワトリが一羽ずつ入ったかごがいくつも積み上げられているのが普通」という感じだ。このような家畜は狭いところで、密集して生活しており、一旦感染症が流行すると、容易に伝搬する。そして、消費者や労働者にもうつる。これが中国から新型ウイルスが生まれ続ける理由だ。今後も状況は変わらないだろう。 中国は日本の隣国だ。われわれは、今回のような事態を繰り返し経験し続ける。今こそ、患者目線で現実的な対応を議論すべきだ。

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    医学博士の直言「加熱式タバコなら安全」なんてもう言わせない

    田淵貴大(医師・医学博士)(内外出版社『新型タバコの本当のリスク』より) 日本全国のコンビニエンスストアには、タバコ会社が作った加熱式タバコの広告看板が立ち並び、加熱式タバコのパンフレットがあふれている。 ご存知だろうか、これが、世界の中で、日本だけで起きている現象だということを。2014年に日本とイタリアの一部の都市限定で加熱式タバコ、アイコス(IQOS)の販売が開始され、2016年に世界で初めて日本が全国的にアイコスを販売している国となった。 そして、2016年10月時点で日本がアイコスの世界シェアの96%を占めた。ほとんど全てのアイコスは、ここ日本で使われている。すなわち、日本が新しいタバコ、新型タバコ、加熱式タバコの実験場になっているのだ。 加熱式タバコに関する情報は、タバコ会社が提供するものしか出回っていない。そのため、多くの人はタバコ会社の言うことをそのままに受け止めてしまっている。実は、タバコ会社は意図的に、加熱式タバコには害がないと誤解させるようなプロモーション活動を行っている。 それで、多くの人がまじめな顔で、「加熱式タバコにはほとんど害がないんですよね?」とか「加熱式タバコなら子どもの前で吸っても安全ですよね?」などと筆者に質問を寄せてくる。あまりにも多くの人が誤解させられている事態に筆者はショックを受けた。 これまでの加熱式タバコに関する情報のほとんどは、タバコ産業が発表したものだ。「このタバコの新製品は、今までのタバコ製品と違ってクリーンで害が少ない」と。このタバコ会社からのメッセージは、決して目新しいものではない。タバコ会社は、これまでもずっとタバコを少し改変しては、同じメッセージを繰り返し発表してきた。過去には、タールの少ないタバコが発売された。人々はタールの少ないタバコのほうが安全だと信じたが、タールの少ないタバコも従来のタバコと害は変わらなかったのだ。「glo」の記者説明会で発表するブリティッシュ・アメリカン・タバコ・ジャパンのロベルタ・パラツェッティ社長=2017年5月30日午後、東京都千代田区 現在のところ、アイコスやプルーム・テック(PloomTECH)といった加熱式タバコ製品が今までのタバコ製品よりも害が少ないという証拠はない。それどころか、加熱式タバコから出る有害物質など加熱式タバコの有害性に関して科学的に吟味された学術論文が次々に発表されてきているのだ。徐々に、加熱式タバコについて判断を下すための資料、科学的根拠、疫学データ等の情報が集まってきている。社会は成熟してきている。 筆者の子ども時代や社会人になったばかりの頃の社会と比べて、現在の日本社会はルールや規範がより整い、成熟してきていると感じている。他人のタバコの煙を吸わされることによる健康被害の問題、すなわち受動喫煙の問題についても社会は一歩一歩改善してきている。 子どもの頃に乗った新幹線の自由席は、タバコの煙が充満していて、煙たく、喉がイガイガして気持ち悪くなり、目も痛くなり、つらかった記憶がある。今でも一部、喫煙車両が運行されているが、禁煙の車両を選べば、タバコの煙に悩まされることは格段に少なくなった。まだまだ受動喫煙の対策は不十分だという声があちこちから聞こえてきそうだが、2018年には改正健康増進法が可決され、日本社会も受動喫煙を防止する社会へと確実に舵(かじ)をきっているのである。新型タバコのウソ そんな中で、日本では新型タバコ問題が突如として現れた。タバコ問題に取り組んできていた我々が一切関知しない状態で、新型タバコである加熱式タバコのプルームおよびアイコスが日本で発売されたのである。単にタバコ会社は、新しいタバコの銘柄の発売を開始するのと同じように、いつも通りに財務省に加熱式タバコの発売を申請し、承認されただけなのだ。 しかしその時点では、その加熱式タバコは世界中のどの国でもまだ発売されていない、紙巻タバコとはかなり違ったタイプのタバコであり、おそらく誰にもそれを簡単に許可すべきか否か判断はつかないはずのものであった。それでも日本では簡単に発売が開始されている。 発売の承認にあたり、何らかの議論があったという話さえ聞こえてこなかった。おそらく今までにも販売されたことのある電子式のタバコ製品の一種ということで、簡単に認可されたのだろう。今までの電子式のタバコ製品と同様に、たいして売れない、と考えられたのかもしれない。 ところが、今回の新型タバコはブレークした。これには財務省も驚いたことだろう。加熱式タバコではたばこ税の計算方法もうまくバランスがとられていなかった。売れるとなると税収の面で大きな違いが出てくる。すぐに税制は変更され、加熱式タバコという新しいカテゴリーが作られた。 成熟してきていた日本社会にあって、突如として出てきた新型タバコ、タバコ会社も加熱式タバコがブレークするとは予想していなかったかもしれない。それは加熱式タバコのブレーク当初、しばらく品薄状態が続いたことからもわかる。 新しい未知の問題に対して、我々はどのように取り組むべきなのか?誰も予想していなかった事態である。 この日本での事態を受けて、加熱式タバコを禁止した国もある。しかし、日本は世界で初めて加熱式タバコの販売を許可した国であり、今更すぐに禁止とはできない。加熱式タバコ(電子タバコ)。左からグロー(glo)、アイコス(IQOS)、プルーム・テック(Ploom TECH)=2018年6月8日、東京(早坂洋祐撮影) 個人としても、社会としても、国としても、新型タバコと向き合わなければならない。もうすでに新型タバコは日本で社会に浸透しつつあるのだ。新型タバコにはメリットもデメリットもありそうだ。新型タバコ問題に限らず、世の中の問題のほとんどは、あるかないかのゼロイチではなく、程度の問題である。新型タバコに対してどのように対応するべきなのか、情報も経験も、議論も足りない。 現在、世の中に出回っている新型タバコに関する情報は、タバコ会社の息がかかったものばかりだ。テレビ、新聞、雑誌、コンビニやタバコ店の看板、ありとあらゆるメディアで宣伝、広告、販売促進活動が積極的に展開されている。タバコ会社は、あたかも病気になるリスクが低いかのように伝わる広告メッセージを意図的に広めている。そのため、多くの人は、新型タバコにはほとんど害がないと誤解しているようだ。 まずは、それは誤解だと伝えておきたい。たぶち・たかひろ 医師・医学博士。大阪国際がんセンターがん対策センター疫学統計部副部長。昭和51年、岡山県生まれ。岡山大医学部卒。血液内科臨床医を経て、大阪大学大学院で医学博士取得。専門は公衆衛生学・疫学。平成29年、後藤喜代子・ポールブルダリ科学賞受賞。現在、主にタバコ対策および健康格差の研究に従事。

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    アメトーーク!から始まった加熱式タバコの「人体実験」

    田淵貴大(医師・医学博士)(内外出版社『新型タバコの本当のリスク』より) 皆さんは新型タバコにどのくらい関心を持っているだろうか? 人々が何にどの程度関心を持っているのかを知るための1つの指標としてグーグル(Google)検索ボリュームというものがある。現在の日本では約90%の人がインターネットにアクセスすることができ、そのうちの約60%の人がグーグル検索を使用している。 グーグル社が無料で提供しているグーグル・トレンド(GoogleTrends)というサービスを利用すれば、世界中の人々がグーグル検索でどんなキーワードをどれだけ、いつからいつの間に検索したのか時系列でグーグル検索ボリュームのデータを得ることができる。 グーグル検索ボリュームは指定した条件下(キーワード、期間、国などの地域)において最も多い検索数を100として計算される数値である。例えば、「サッカー」というキーワードを入力し、「過去5年間」という期間、「日本」という地域を指定すると、図表1-5のようなグラフが得られる。 日本で2018年6月24日~30日の1週間において「サッカー」の検索数が最も多く、検索ボリュームの数値が100であった。2014年6月と2018年6月に高いスパイクが認められ、ちょうどサッカーのワールドカップが開催された時期と一致しているとわかる。図表1-5 Google Trendsによる検索例 サッカーワールドカップが開催されると人々のサッカーへの関心が高まり、「サッカー」というキーワードを普段よりも多くグーグル検索で検索しているのである。このようにグーグル・トレンドのデータは、世界の、あるいは日本の人々がどんなキーワードに関心を示しているのかを知るための指標にできる。 日本国内でどれだけ「アイコス(IQOS)」や「グロー(glo)」といった単語が検索されていたのか筆者が調べたグーグル・トレンドの結果を示す。日本での2013~2017年における検索数(検索ボリューム)の推移を示したのが図表1-6である。図表1-6 Google Trends:新型タバコの検索ボリュームの推移 ここでは日本語と英語など複数のキーワードを統合した数値としている。例えば、アイコスは日本語の「アイコス」と英語の「IQOS」を合算している。2016年4月にアイコスの検索数が爆発的に増加していた。その時、何があったのだろうか? なんと、2016年4月28日に放送された人気テレビ番組「アメトーーク!」で「最新!芸人タバコ事情」と題して加熱式タバコ、アイコスが紹介されていたのである。「アメトーーク!」は午後11時過ぎからの放送だが、非常に人気のある番組で視聴率も高い。これまでにも「アメトーーク!」で紹介された電化製品などの新製品がちまたで売り切れになるなどの事象が起きていた。アメトーーク!の裏事情? 「アメトーーク!」で人気芸人たちが自分たちがなぜアイコスを使うようになったのか?どんなふうにアイコスを使っているのか?アイコスや喫煙にまつわるエピソードが面白おかしく伝えられたのだ。 筆者も「アメトーーク!」が好きで、いつも必ず録画して見ていたため、この出来事にもすぐに気付いた。そしてその回の「アメトーーク!」の放送により日本でのアイコスへの関心が高められた事実を調査し、論文にまとめ出版したのである。 今回の知見は、テレビといったメディアが人々に与える影響は非常に大きいことをあらためて認識させられる出来事であった。2016年4月を境にして、アイコスの検索数が激的に増え、4月以降も他の新型タバコ製品と比べて検索数は高く維持されたままだ。 実は、番組内で新型タバコの中でもアイコスだけが取り上げられた。アイコスはちょうど番組が放送される直前の2016年4月18日に、12都道府県限定販売から全国47都道府県での販売へと拡大されたばかりというタイミングだった(番組の収録はそれ以前に行われている)。 2016年4月時点ではグローは販売されておらず、プルーム・テックも全国展開されていなかったため、単純に最もよく知られていたアイコスだけが取り上げられたのかもしれない(図表17)。 その回の「アメトーーク!」でアイコスが紹介された背景には何らかの事情があったのだろうか?図表1-7 加熱式タバコの販売年表 それは筆者にはわからない。電話で問い合わせた番組の関係者によるとタバコ会社からの資金提供はないとのことであった。 どれだけの日本人が新型タバコを使っているのだろうか?2015~2018年にかけて日本在住の15~69歳の男女を対象としてインターネット調査を実施した。楽天リサーチ(現・楽天インサイト株式会社)という調査会社に登録された日本全国の約250万人の中から、アンケート調査の回答者がランダムに選択され、インターネット経由で調査票が回答者に届けられた。 2015年1~2月に実施された最初の調査では、日本全国の15~69歳(2015年1月時点)の男女の回答者数が約9000人に達した段階で調査を終了した。回答者約9000人のうち、回答に矛盾や不正があると考えられた者のデータを除外し、有効回答者8240人についてデータ分析を実施した。2016年以降も毎年、同じ回答者に対して繰り返しアンケート調査が実施された。日本は「実験場」 調査では、新型タバコを含めタバコの使用実態を知るため、それぞれのタバコ製品について次のように質問した。「あなたは、直近30日以内に、それぞれのタバコ製品を吸ったり、使ったりしましたか?」 選択肢は「使わなかった(吸わなかった)」もしくは「使った(吸った)」の2択である。一般にタバコの使用状況が調査される場合には、30日以内に使用したことをもって「現在使用」と定義し、30日以上止やめていることをもって「タバコを止めた(禁煙した、あるいは過去喫煙)」と定義されることが多い。 結果をみてみよう。2015~2017年にかけて、加熱式タバコを30日以内に使用(現在使用)している人の割合は、アイコスでは2015年に0・3%であったのが、2017年には3・6%に増えていた(図表1-8)。 実にこの2年間で10倍以上に増えたわけだ。プルーム・テックや電子タバコの使用者も徐々に増えてきているが、これらの新型タバコ製品と比べると、アイコスだけが突出して増加していた。図表1-8 成人日本人の新型タバコ使用率の推移 日本人成人の3・6%もの多くの人がアイコスを使っていたのである。2017年の調査時点での調査対象者の年齢は17~71歳であった。日本の17~71歳の人口約8600万人から換算すると、日本のアイコス使用者はおよそ310万人と推計された。この調査だけで日本全体のアイコスの使用状況を完全に把握できるとは考えないが、この数字は他の調査会社による推定値やタバコ会社が販売実績データから算出した人数とほぼ一致した。日本だけがアイコスの実験場になっている 加熱式タバコ、アイコスは、2014年に日本とイタリアで販売が開始され、2019年には世界の30ヶ国以上で販売されている(図表113)。日本を除く多くの国では、アイコスの販売は一部の都市に限定されている。2016年4月、日本は世界で初めてアイコスが全国的に販売される国となった。2016年の4月から10月にかけて、日本のタバコ市場におけるアイコス専用スティックのシェアは1・6%から4・9%へと急増した(図表1-14)。図表1-14 日本のアイコス用スティックのシェアの推移 英国の調査会社ユーロモニター・インターナショナルによると、全世界での加熱式タバコや電子タバコの市場規模は合計で2016年には120億ドル(約1兆3000億円)に達したという。同データによると、2016年10月時点で、アイコスの販売世界シェアの96%を日本が占めていたのである。すなわち、アイコスはほとんど全て日本人が使用していると言っても過言ではない。アイコスには一体どんな害があるのかが明らかになっていない中、世界で日本だけがアイコスの実験場となったのである。たぶち・たかひろ 医師・医学博士。大阪国際がんセンターがん対策センター疫学統計部副部長。昭和51年、岡山県生まれ。岡山大医学部卒。血液内科臨床医を経て、大阪大学大学院で医学博士取得。専門は公衆衛生学・疫学。平成29年、後藤喜代子・ポールブルダリ科学賞受賞。現在、主にタバコ対策および健康格差の研究に従事。

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    三原じゅん子手記「がん公表、私の思い」

    日本人の死因トップは依然がんである。2人に1人が罹患するとされ、関心が高いだけに著名人の相次ぐ「がん公表」は反響も大きい。こうした中、10年前、報道によってがん公表に至った元女優で参院議員の三原じゅん子氏がiRONNAに手記を寄せた。誰もが当事者になり得るがんだが、著名人の公表にどう向き合うべきか。

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    三原じゅん子手記「著名人のがん公表、私はこう思う」

    はイメージです(GettyImages) 今では放射線療法や科学療法も著しく進化していますし、ゲノム医療や創薬の発展により、がんは治る病気となりつつあります。しかし安易に自己判断や油断はせずに、しっかり検診と体調管理に努めることが大切です。人生100年時代、そして女性活躍時代に向けてまい進していきましょう。■ 池江璃花子「白血病」親切の押し売りが患者を悩ませる■ 小林麻央さんの闘病が共感されても日本で「がん告知」が進まない理由■ がんはいずれ「理想の死に方」になる

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    葛藤の末に選んだ「がん公表」に色眼鏡なんていらない

    9年2月、競泳の池江璃花子選手が白血病と診断されたことを報じる東京・有楽町の街頭テレビ ここ数十年の医療の進歩により、小児がん(0〜14歳)の70〜80%が治るようになったと言われる背景があり、特に10代、20代の若い世代については、小児に準じる形で治療のスケジュールを組み立てる場合があるというのだ。「心のつえ」はどこに AYA世代のがんは情報も少なく、同じ種類のがんを経験した患者同士で繋がり合いたいというニーズもある。同世代でないと分かり合えない生活上の悩みもある。がんを特別視せず、「必要な人が必要な人とつながっていく手段の一つとして『公表』もありだよね」とフラットに考える人が増えれば、著名人であっても、一般人であっても、もっと安心してがんのことを打ち明けられるようになるだろう。 堀ちえみさんが公表した舌がんを含む「口腔(こうくう)・咽頭がん」は、罹患者数が全がんの約2・3%(国立がん研究センター2018年のがん統計予測)にすぎない。希少がんの患者にとっては、術後の「日常」の発信もまた、大事な情報源になる。 3月9日に堀さんが更新したブログでは、舌がんの手術後に食べ物の嚥下(えんげ、飲み込み)の訓練をする模様をこう記している。 人参ゼリーは、つるんとしているので、舌がもたついているうちに、口の中でどこかにいってしまいます。(中略)右奥の残っている舌が、とても健気でね… もたつく新しい舌を、一生懸命に引っ張ってゼリーを追いかけて。そしてゴール(喉元へ)に向かって、シュート!(中略)これから嚥下の練習は毎食ごとにあります。楽しみながら乗り切っていきたいと思います。 堀さんは舌がんの進行度がステージ4であることも公表しているが、人生の真ん中には暮らしがあり、悩みも笑いもあり、進行がんという色メガネが不要であるということが、じかに、ポジティブに伝わってくる。 もちろん、がん患者本人の発信だからといって、あらゆる患者が分かり合えるわけではない。情報の押し付けは、相手への迷惑になることもある。堀ちえみのブログ「hori-day」 私が望ましいと感じるのは、先にがんを経験した人から後に続く人への「心のつえ」となるような情報が、手を伸ばせばあちこちに、ポン、ポンとさりげなく置かれているような社会だ。その情報を取りたい人が取ればいい。 今は、個人が情報を発信しやすく、自分が「心のつえ」を得た経験を「誰か」に届けることができる時代だ。発信する人の有名無名を問わず、実名と匿名のどちらにせよ、「がんを公表する社会」の最大のメリットは、そこにあるのではないか。 だからこそ、問われるべきなのは、がんの当事者の善意により公開された情報を引用したり、転用したりする側の、情報モラルなのだと思う。■ 池江璃花子「白血病」親切の押し売りが患者を悩ませる■ 小林麻央さんの闘病が共感されても日本で「がん告知」が進まない理由■ がんはいずれ「理想の死に方」になる

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    「がん公表」患者へのエールを歪める心理バイアス

    れやすいがんではなく、より深刻な病期の「がん」に罹患したケースを想定しています。有名人に群がる「詐欺医療」 昨年8月、代表作『ちびまる子ちゃん』とともに皆に愛されながら、この世を去られた漫画家、さくらももこさんのように、自身のがんを公表することなく、最期まで黙して人生を全うされる生き方もあります。もちろん、当事者の心理や気持ちについては推し量ることができませんので、個々人の公表の是非について意見を述べるつもりはありません。 ひと昔前までは、医者が「がんであることを本人に告げないでほしい」と家族に切望され、患者本人にはがんであることが伏せられたまま、最期まで手術や抗がん剤治療が施されていた時代がありました。しかし、今はインフォームド・コンセント(十分な説明と同意)が当たり前です。 それに、医療者側の営為が医学的コレクトネス(適切性)の追求に終始するあまり、かえって患者との対話が不足し、患者の幸福にそれほど寄与できていない可能性もあります。そのような昨今、がんであることを知った有名人が自ら公表することにより、支持者からのエールで孤独感や精神的苦痛から少しでも解放されたり、前向きに生きるためのモチベーションを保ち続けられる効果は少なくないでしょう。 一方で、有名人のがん公表は、良きにつけあしきにつけ、個人のプライバシーを越え、大きな影響力を与えてしまうこともあります。また、有名人の病気に対するリテラシー(情報判断能力)や、施されている医療レベルも見て取れることもあるはずです。 そうなると「なぜあのような手術を選択してしまったのだろうか」「インチキ免疫療法だと理解して受けているのだろうか」「非常に辛そうな印象だが、緩和ケアはしっかりされているのだろうか」「怪しい食事療法に妄信的過ぎないか」と思い至ることだって十分考えられます。 しかし、そのようなことを言外に示しただけでも、「本人が納得して下した判断だから、外野から言うのはやめるべきだ」「個人の人生に、後からケチをつけるな」などと、負の感情論が引き起こされ、批判を受けることも少なくありません。ゆえに、ある種の医学情報として公にすることの影響力に関して、有名人は自覚的であってもよいと、個人的には思います。 有名人のように経済的な余裕があるからこそ、「隠れた特別な治療があれば、高額な費用を払ってでも頼りたい」気持ちが募ることもあるでしょう。確かに行動経済学から見れば、「上手な秘訣(ひけつ)」を求めてしまう心理バイアス(偏り)について一定の理解を示すこともできます。※写真はイメージです(ゲッティイメージズ) ただ、詐欺的医療ビジネスに関わる人たちは、リテラシー欠如というポイントを突いて、有名人に必死で近寄ろうとします。そして、いつしかエセ医学の広告塔の役割を果たす人までも出てしまうわけです。 そのような、いわゆる「がん克服ビジネス」「生き証人ビジネス」に加担している有名人の話には批判的にとらえた方がよさそうです。サプリメント、青汁などの栄養食品や、食事療法、漢方、インチキ免疫療法、高濃度ビタミンC、点滴療法といったものに「がん免疫力」の効能を強調した場合は要注意といえるでしょう。メディアを動かす「世間の性」 改めて、今回のテーマについて考察するとき、常に意識しておくべきことがあります。それは、有名人のようにスポットライトを浴びることもなく、厳粛なリアルを受け入れながら、同じがんと明るく向き合っている患者さんが、社会には数え切れないほど多くいることです。 歌舞伎役者、市川海老蔵さんの妻の小林麻央さんが、自身が乳がんであることを公表されたときのエピソードは記憶に新しいことでしょう。治癒の難しいがんを背負いながらも、愛する夫、子供、家族のために、1日でも長く、自分らしく生きたいと希求する表現の数々がブログに綴られました。それらは、同じ病気と日々向き合っている、多くの患者さんたちにとっても、大きな勇気や希望となっていたのは間違いありません。 しかし、残念な問題も生じました。有名人が病気になると、世間には、より詳細なプライバシーを知りたい欲求にかられる性(さが)があります。それががんであれば、なおさらの話です。メディアの方も、世間の欲求に応えようと、必死で情報を先取りすべく行動します。 麻央さんの場合でも、ブログでのがん公表以来、どこの病院でどのような治療を受けているか報じようと、メディアが躍起になって麻央さんや家族を追いかけ回しました。揚げ句には、生命予後を勘ぐるような記事までも出てくる始末です。 結局のところ、有名人のがんを報道するメディア側の深層に、がんへの偏見や先入観があるようにみえます。こうして、がんは「死をイメージさせる暗くて怖い特別な病気」のように映るわけです。 一方で、お茶の間の視聴者も、ワイドショーで報じられる有名人のセンセーショナルながん公表に、感情だけを面白おかしくかき立てられ、思考が停滞しているのではないでしょうか。そうなれば、がんに関する考えも論理的ではなく、半ば直感的にしか及ばないことも少なくありません。そのような「ヒューリスティック」と呼ばれる心理バイアスに巧みにつけ込むことで、有名人ががんで死去した途端、さまざまなエピソードを上手に利用して「がんは放置するに限る」というエセ思想の流布に成功した人物さえいました。妻の小林麻央さんが乳がんで1年8カ月間闘病していることを公表した歌舞伎俳優の市川海老蔵=2016年6月(蔵賢斗撮影) がんは、生涯において2人に1人が罹患するリスクを抱えている「国民病」の様相を呈しています。裏を返せば、がんがそれだけ身近な出来事であることを意味します。何も、昨今増えている有名人のがん公表を特別扱いするような話ではないのです。 ワイドショーから流れてくる有名人の「物語」に、一時的に感情的になるのはもちろん自由です。でも、自身や家族にがんというリアルが訪れた際、どのようなリテラシーを育み、どのように振る舞えるか、そちらの方が重要ではないでしょうか。皆さんには、一人一人ががんのことを真摯(しんし)に考える契機となれば幸いです。■ 池江璃花子「白血病」親切の押し売りが患者を悩ませる■ 小林麻央さんの闘病が共感されても日本で「がん告知」が進まない理由■ がんはいずれ「理想の死に方」になる

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    「がん免疫療法」の闇、高額なのに効果不明瞭の実態

    いました。貯蓄はすべてなくなりました」 そう語るのは、免疫療法をはじめとした標準治療外の治療を複数の医療機関で受けたにもかかわらず、卵巣がんが進行した林紀子さん(仮名・60歳)だ。ある病院では、治療を受ける前に「何があっても当院を訴えません」という誓約書にサインさせられたという。林さんは現在、標準治療である抗がん剤治療を受けている。先進医療を外れた治療 「私のところにも、こうした治療に高額の費用を支払うも効果が出ず、セカンドオピニオンを求めに来る患者が多い」と日本医科大学武蔵小杉病院腫瘍内科教授の勝俣範之氏は語る。こうした声は、今回取材した複数のがん専門医からも耳にした。彼らは一様に「もっと早く来てくれていれば抗がん剤も効いたかもしれないと思うとやりきれない気持ちになる」と嘆く。免疫療法に通った患者の中には、「お金が払えなくなった途端に放置され、相談も聞いてもらえなくなった」という人も多いという。  免疫療法は、現段階で効果が認められていないだけで、将来には効果が認められるかもしれない。それを提供して何が悪いのか? そう思う人もいるかもしれない。事実、免疫療法を提供する病院やクリニックのホームページでは、「現段階ではまだ効果が認められていないが、標準治療で治らなかった患者のために」「がん治療をあきらめない」といった表現がよく見られる。 だが、本当に患者のためならば、その治療が将来、科学的に効果が認められることを目指した取り組みを行うべきではないか。例えば、国が定めた一定の条件を備えた医療機関では、新しい試験的な医療技術を、将来の保険適用を視野に入れ、国が承認する「先進医療」という形で提供される。 また、新しい治療法や薬の候補が標準治療として認められ、広く普及することを目指した研究として、臨床研究法に則った適切なモニタリングや監査を経て行われる「臨床研究」という仕組みがある。効果が認められていない治療を提供するのであれば、このような枠組みに沿ってデータを積み上げながら行うべきだろう。 自由診療で免疫療法を提供する某クリニック主催のセミナーで、自由診療ではなく、臨床研究で行うべきではないかと質問をしたところ、「できれば臨床試験でやりたいとは思っているが、必要な資金が足りず実施できない」という答えが返ってきた。 埼玉医科大学国際医療センター婦人科腫瘍科教授の藤原恵一氏は「高額の治療費をとっているのなら、それらを基金として研究を行い、データを積み重ねればいい。それをしないのであれば、効果があることを証明する自信がないと受け取られても仕方がない」と指摘する。 質の高い専門的ながん医療の提供を行う病院として厚生労働省から認可された病院を「がん診療連携拠点病院」(以下、がん拠点病院)というが、「がん拠点病院の中にも、先進医療から外れた形で免疫療法を提供している病院がある」(若尾氏)というから驚きだ。 あるがん拠点病院のホームページ(9月7日現在)を見ると、「新規に活性化自己リンパ球移入療法を希望する患者には、先進医療A(以下、先進A)の取り扱いは終了しており、自由診療の取り扱いで先進Aと同じ療法で治療を行う」という内容の記載(17年2月14日付)がある。厚生労働省の指示により先進Aから(より厳格な対応が求められる)先進Bへの変更手続きを行うことになり、先進Aを新規希望者に提供することができなくなった。そこで、希望者に対し、全く同じ治療を自由診療で提供している。 がん拠点病院を指定する検討会でも、免疫療法の取り扱いは問題視されている。下の表は、今年の1月12日に行われた、「第12回がん診療連携拠点病院等の指定に関する検討会」の議事録からの抜粋だ。(出所)2017年1月12日の第12回がん診療連携拠点病院等の指定に関する検討会・議事録 (注)新規指定を申請した埼玉県(上尾中央総合病院)の提供する免疫療法に対する発言抜粋 上尾中央総合病院(埼玉県上尾市)のホームページで「樹状細胞ワクチン療法を200万円の自費診療で提供」と表示されていることなどから、自由診療として免疫療法を行っている点が問題視され、地域のがん診療を担う病院として推薦されることに疑義が呈された。ネット上の情報の波に飲まれる こうした免疫療法を提供する医療機関、そしてそれを受ける患者が後をたたないのはなぜなのだろうか。卵巣がん体験者の会スマイリー代表の片木美穂氏によれば、「これ以上できる治療法はないと医師に言われた患者が、何か他に方法はないものかとインターネットや口コミなどで手だてを探そうとし、結果的に免疫療法にたどりつく」という。 標準治療外の治療法に計800万円を費やした先述の林さんは「インターネットや書店でがん治療に関する情報を調べると、『抗がん剤は効かない』といったような標準治療を否定する情報がたくさんあり、それを信じてしまった」と当時の心境を語る。 インターネットで、「がん 治療」と打ち込み検索すると、免疫療法に関する情報が大量に出てくる。こうした情報は国立がん研究センターが提供している科学的にエビデンスのあるものから、個人の体験談までさまざまだ。 現在、医療広告に関しては、医療法に基づく医療広告ガイドラインにより掲載ルールが定められている。例えば、客観的事実であることを証明できない広告や、虚偽・誇大な広告などは禁止されている。今年の6月の医療法改正(1年以内に施行)により医療機関のホームページも医療広告に該当することになった。 活用したいのが厚生労働省が8月24日から始めた『医療機関ネットパトロール』だ。医療機関のウェブサイトにうそや大げさな表示がないかどうかを監視し、問題があれば是正を求める。一般の人々も、専用の窓口に通報することができる。 しかし、これまでもルールから逸脱した医療広告についての問い合わせ窓口を各自治体の保健所が担い、問題のある医療機関に指導を行う体制が組まれていたが、実際は、「保健所によっては、対応できる人員にも限りがあり、効果的に機能していなかった」(インターネット医療協議会事務局長の三谷博明氏)。実効的なものになるかどうかは行政がいかに取り締まれるかにかかっている。 根本的には、科学的に効果の認められていない治療法を、先進医療や臨床研究としてデータを積み上げる形でなく自由診療で提供することに対し、何かしらの条件を設けるなどの仕組みが必要ではないか。この点について、厚生労働省医政局総務課保健医療技術調整官の木下栄作氏は、「高度な専門知識を有した医師によって適切な診療が行われることが大前提。国としては、衛生面など最低限度の規制は行うが、診療内容に関して一律に規制を行うようなことは現実的ではない」と語る。その前提が崩れているという認識はないのだろうか。 問題の解決にはまだまだ時間がかかりそうだ。全国がん患者団体連合会理事の桜井なおみ氏は「本来、効果の認められていない治療を受けるときには担当医に相談しセカンドオピニオンを受けることが一番だが、多くの患者が担当医に気をつかい、それをためらう」と、医師と患者との意思疎通の難しさについても指摘する。 「がんを治したい」と願い、さまざまな治療を受ける患者の気持ちは否定できない。しかし残念ながら、短期的には患者自身で自衛することが必要だ。がん治療に関する正しい情報は、国立がん研究センターが運営する「がん情報サービス」を見たり、無料で相談に乗ってもらえるがん相談支援センターも活用できる。免疫療法を本当に将来の患者に役立てたい者だけが提供を続けられるような仕組みにしていかなければならない。

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    樹木希林さん、貴重な「遺言講演」の知られざる中身

     昨年9月に亡くなった樹木希林さん(享年75)の「言葉」を綴った本がベストセラーとなっている。しかし彼女はメディアから言葉を求められても、「それは依存症というものよ、あなた。自分で考えてよ」「そんなこと話して私に何の得があるの」と突き放すこともしばしば。そのため講演を引き受けることはほとんどなかったという。 そんななか発表された貴重な記録が、DVDつき書籍『樹木希林 ある日の遺言 食べるのも日常 死ぬのも日常』(小学館)だ。 2016年10月29日、静岡市で開催された「樹木希林の遺言」という約1時間の講演は、旧知のテレビ・プロデューサー、田川一郎氏(80)によって実現したものだ。田川氏が話す。「その内容は、希林さんの人生観や死生観がしっかり語られ、病気になった人を勇気づける素晴らしいものでした。映画館で公開しようと希林さんに相談したのですが、彼女は“映画館ねぇ、そこは監督さんが必死に作った作品を上映する場所でしょう”と。実現には至りませんでした。 ところが、希林さんは逝ってしまった。このまま埋もれさせてしまうのはもったいない。そこで娘の也哉子さんに相談したんです。そしたら“母の話を聴いてみたい、と言ってくださる方がいるのであればいいのかもしれませんね”と言ってもらえました」“向こう側”を想像して 古い留袖を自ら仕立て直した黒い衣装で現われた希林さんは、軽妙なジョークを挟みながら、観衆を独特な世界観に引き込んでいく。身振り手振りを交え、時にステージを歩き回る姿は、まるで独り芝居かのようだ。 希林さんが話し始めたのは、2004年に乳がんが発覚した時のことだった。手術のため、タイのプーケットでの映画の撮影をキャンセルする。ところが滞在するはずだったその日に、多数の犠牲者を出したスマトラ島沖地震の津波が、彼の地を襲ったのだという。映画「万引き家族」の完成披露試写会舞台あいさつに出席した樹木希林さん=2018年4月(山田俊介撮影)「(手術の前に)そういうものにぶつかってたわけ。だから、いずれにしても人間はスレスレのところで生きてるんだなっていうふうに感じるわけです。 だから逆に乳がんの手術した時に、もう何があっても、御の字。何かそこで吹っ切れたって覚悟が決まったっていうか、そういう時から、その私のがんの生活、始まったんです」 希林さんは「死」について考えるのは決して悲観的なことではないとも語る。「健康な人も一度自分が、向こう側へ行くということを想像してみるといいと思うんですね。そうすると、つまんない欲だとか、金銭欲だとか、名誉欲だとか、いろんな欲がありますよね。そうしたものからね、離れていくんです」驚きのタロット占い 希林さんがお土産やプレゼントを徹底して受け取らず、一度手にしたものは常に最後まで使い切っていたことはよく知られている。「モノを拒否するってことは、逆にエネルギーが要るのね。だけどしていかないとね、もう片付かないの。(中略、モノは)多けりゃいいというもんじゃないのね。私はモノに対して執着を捨てたときに、ただ捨てるんじゃなくて、モノの冥利も考えて、どう活かすかってことを考える」 冥利とは仏教用語で、仏が与える利益、恩恵のこと。人生もモノも「十分に活かしきること」を考えるのが希林流なのだ。驚きのタロット占い 講演が一際盛り上がったのは、希林さんが夫・内田裕也さん(享年79)について語った場面だった。 娘の也哉子さんがイギリスでタロット占いをしてもらった時のことだ。母親の病気、そしてその後に残されるかもしれない父親について心配していると聞くと、占い師はこう答えたという。「『あ、大丈夫ですよ、お父さんはお母さんが死ぬときに首根っこ捕まえて一緒に連れて行きますから。グーッと連れて行きますから』って、そう言ったんですって。私それ聞いてね、それはいいね、それは安心だね、別にタロット占いを信用してるワケじゃないけど、ほっとしちゃったんですよね。それで夫が機嫌の良いときに話したんですよ。そしたら(裕也さんは)真剣な顔をして『お前な、頼むから一人で行ってくれ』って(笑い)」 このときは笑い話だったが、占い師の“予言”通り、内田裕也さんは今年3月、妻の後を追うようにこの世を去った。2人の因縁を感じさせるエピソードだ。 そして希林さんは、夫についてこうも語った。「すごくいいヤツでね、あの夫じゃなかったらば、こんな面白い人生はなかったと思います」 結婚わずか1年半で別居。夫の生き様に苦しめられたこともある。しかしそれでも、希林さんは夫との出会いを徹底して面白がったのだ。紹介したのはDVDの内容のほんの一部。これ以外にも深く頷かされる言葉を数多く聴ける。関連記事■宮沢りえ、安藤サクラ 希林さん告別式での喪服姿■内田裕也さん“内縁妻”と本木夫婦が「お別れ会」巡り衝突■樹木希林さんの金言、「男にも響く言葉」5選■樹木希林さん がん発症から14年、生き抜いた秘密■樹木希林、西城秀樹に魯山人の器とともに送った直筆のお礼状

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    食道がん併発の堀ちえみ 夫の前向きな対応で公表決意か

    んになりやすい体質といえます。定期的に検査を受け、とにかく早期発見に努めることが大切です」(内科医で医療ガバナンス研究所の上昌広さん)取材に応じる(左から)松本伊代、堀ちえみ、早見優=2016年10月、東京都内 舌がんのリハビリ中での新たながん発覚は身体的にも大きな負担になるはずだが、堀はあくまで前向きだ。「ご主人が“このタイミングで検査を受けて見つかったのは運がよかった”とポジティブな対応をしてくれたことで、一時期は落ち込んでいた堀さん自身も気持ちを転換できて今回の公表に至ったようです」(前出・堀の知人) 堀は食道がんを公表したブログを《また癌が見つかったけど、それでも自分の身体が愛おしいです。いろいろな病気を経験してきましたが、全て無意味ではないと思っています。頑張ります!》と締めくくっている。 舌がん発覚後も、一時は面会謝絶状態ながらカラオケや義母の病院付き添いなど奇跡的な回復を見せていた堀。今回も家族一丸で乗り越えていく。関連記事■アクセス数断トツ! 堀ちえみ「決意のグラビア」未公開写真■5児の母・堀ちえみ 24年ぶり決意のグラビアで魅せた肢体■堀ちえみ 新恋人と出会うため犬を連れてウロウロしていた■頻繁に渡韓の堀ちえみ レーザー整形と舌がんに関係あるか■堀ちえみが82年組同窓会を希望、明菜への連絡係は小泉今日子

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    池江璃花子「白血病」親切の押し売りが患者を悩ませる

     確かに、患者一人ひとりの気持ちに寄り添って治療を模索することは、大切だと理解しています。とはいえ、医療の非常識や間違った知識を強制されることに対して、私はどうしても寛容になれません。 実際の臨床でも、医療的におかしな処置であっても、患者の価値観を重視し希望に沿えるよう努めますが、「医療的にはおかしい」と患者には明確に伝えています。医療者として、患者の希望に全て寄り添い、対応することが全部正しいわけではないと考えているからです。 また、マスコミが報じる白血病の「完治」という言葉に対して、「自分の白血病は完治してないのに、マスコミが『白血病が完治する』というのはおかしい」という意見も見かけました。つまり、「40~50%が絶対に完治する」と報じることに問題があるというのです。実際、直接対話した患者からも「『完治する』という言葉はおかしい。『運が良ければ完治する』と言わなければ」と指摘されたことがあります。 背景には、発症前の状態に100%回復するイメージを「完治」に抱く患者と、完全寛解状態が5年以上続き、病気再発も命を落とすこともないことを「完治」とする血液内科の定義に隔たりがあるからです。私も血液内科医として「完治」の定義に従っている以上、この指摘は受け入れなければいけません。2018年8月、パンパシフィック選手権の公式練習で、外国選手と談笑する池江璃花子選手(左)=東京辰巳国際水泳場 もちろん家族に対しては、少し厳し目に説明しています。しかし、まだ治療前で、状態もわからない患者に「完治しないかもしれない」という否定的なことを私は伝えたくはありません。患者が治療に前向きになれば、治療成績は向上するからです。 実際、池江選手と同じ18歳で白血病を発症した女優の吉井怜さんも、「一緒に乗り越えよう」という医師の言葉に元気付けられたことを述べています。たとえ確率的にあまり高くなくても、「完治する」という希望を前面に出すことは間違いではないと、医療者として考えています。■ 「窃盗症と拒食の心理」元マラソン女王が陥ったアスリート魂の限界■ 神童から金メダリストへ 萩野公介に見る「天才」の育て方■ 競泳日本を圧勝させた「攻め」から「待ち」への転換コーチング

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    中国「ゲノム編集」ベビーは許されるか

    中国広東省の南方科技大の賀建奎・元副教授がゲノム編集で遺伝子を改変した受精卵を使い、世界で初めて双子の女児を誕生させた。倫理面や安全性への懸念が広がる中、研究者の功名心や利益目的との報道も出て、まさに批判一辺倒である。負の側面ばかりが注目されるゲノム研究。本当に議論の余地もないのか。

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    ゲノム双子「カリスマ研究者」を潰せない中国当局の戸惑い

    富坂聰(ジャーナリスト、拓殖大学海外事情研究所教授) さすがは中国、そんなことまでやっちゃうのか! 第一報に接した日本の読者のほとんどは、そんな感想を抱いたに違いない。 2018年11月26日、世界を駆け巡った「エイズウイルス(HIV)の免疫を持つ双子誕生」のニュースは衝撃だった。中国の研究者で、南方科技大学の賀建奎(が・けんけい)副教授は、生物の細胞が持つ全遺伝情報(ゲノム)の中で、狙った遺伝子を自由自在に改変する「ゲノム編集」技術を使うことで父親のHIVが細胞に入らないようにした双子の女児、ルルとナナを誕生させたと発表した。 ゲノム編集を人間に施すことは、技術的には可能であっても、安全性に加えて倫理の点からも課題は多く、「越えてはならない一線」と広く認識されてきた。その倫理の壁をやすやすと飛び越えてしまった中国の研究者に対して、世界から非難が集中した。 早い段階で、当事者である賀氏にインタビューし、記事を配信したAP通信は、各国の主要な研究者がそろって否定的な見解を示したことを紹介した。日本の反応も同様で、12月4日には「日本ゲノム編集学会」が「倫理規範上も大きな問題で国際的な指針にも違反した行為に強い懸念を表明する」という声明を出した。 こうした反応は、むしろ織り込み済みだったようにも思えるのだが、興味深かったのは、発表当初から中国のメディアまでが否定的なニュアンスで扱ったことだ。 AP通信の記事を受けた『環球時報』などは「中国人による驚愕(きょうがく)の実験に 外国メディアもショック!」(ウェブ版、11月26日付)の記事の中で、世界各国からさまざまな問題が指摘されていることを紹介した。それだけでなく、わざわざ広東省衛生健康委員会と深圳(しんせん)市医学倫理専門家委員会が、それぞれ組織を挙げてこの問題を調査し、後日その結果を公表すると宣した公告を載せたのである。中央政府が賀氏に対する調査を省政府に指示したとされる。中国深圳にある南方科技大=2018年11月(共同) 賀氏の所属する南方科技大も「(研究は)大学外で報告なく行われたことで、倫理と学問的規範に違反している」との声明を発表。中国を代表する科学者122人も連名で賀氏を批判した。当局「戸惑い」のワケ 『環球時報』は、いわゆる「左派系」(日本でいう「右派」)に分類されるメディアで、外国に対する厳しい論調が持ち味の国際情報紙だ。もし、賀氏の研究が誇るべき成果であれば、外国の反応や他の国内メディアの反応がどうであれ、その功績を称揚する論陣を張ったはずだ。賀氏の研究成果は、まさに四面楚歌(そか)という展開になったのである。 あるメディア関係者は「こうした場合、次に考えられるのは賀氏が公表した研究が虚偽であったと発表されることや、何らかのトラブルで彼が逮捕される展開です」と話す。 ニュースが拡散した直後には「実際に誕生した嬰児(えいじ)が公開されていない」といった批判も多く、どの研究者も「もし本当なら…」という断りを入れていたことが印象的であった。また、騒動から約1週間後に報じた香港紙は、賀氏が大学当局から軟禁されているというショッキングな記事を掲載した。世界から脚光を浴びた賀氏の周りに、暗雲が立ち込めるようであった。 本来であれば、中国でお決まりの「消息不明」から「逮捕」という流れに向かっていくことになる。だが、発覚当初、当局はそのつもりではなかったらしい。 「実は、今回の騒動で戸惑っているのは当局の方だったのです。研究者や専門機関からの反応は確かにネガティブなものが目立つのですが、国民の賀氏への支持は極めて高いのです。海外の反応は気にしつつも、何が何でも彼を処分するといった雰囲気ではありませんでした」 困惑ぶりをこう振り返った党機関紙の記者がさらに続ける。「そもそも賀氏は、この騒動が起きる前から有名な研究者です。米国でも実績を残したことから、中国の未来を担う一人と目されています。特に中国が国として力を入れていこうとしている最先端の分野を担い、同時に会社も8社ほど立ち上げている『若者のカリスマ』ですから。最初から、彼に対して『潰し』ありきの選択はできなかったのでしょう」 AP通信のインタビューの中で、賀氏は「私の責任は重大だと感じている。単に、初めてのケースというだけでなく、彼女を一つの成功例としていかなければならい」と語り、「もし予想外の副作用が出た場合は、その痛みを共有して全責任を負う」と語っていた。折しも、同じ11月末に中国のエイズ感染者が85万人に達したと報じられたのは、何かの因縁だろうか。2018年11月、香港で開かれた国際会議で講演する中国・南方科技大の賀建奎副教授(共同) 2019年に入って、広東省当局の調査結果が公表され、双子誕生のみならず、別の女性1人も妊娠中であることを確認した。賀氏の行為も「自らの名誉と利益のため」と断罪され、立件に向けて公安機関に送致されると、国営新華社通信が報じた。当局の認定により、お決まりの方向に進むことは避けられなくなったのである。■ ファーウェイ敵視にも動じない中国「祖流我放」の冷めた感覚■ 「習近平独裁」を中国人はなぜ歓迎するのか■ ファン・ビンビン巨額脱税、中国当局が狙い撃つ人気女優の利用価値

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    「ゲノム双子誕生」中国を批判、周回遅れの日本が言える立場か

    上昌広(医療ガバナンス研究所理事長)  ゲノム編集の在り方が世間の関心を集めている。きっかけは昨年11月、中国南方科技大学の賀建奎(が・けんけい)副教授が、世界で初めてゲノム編集で遺伝子を改変した双子の赤ちゃんを作り出したと発表したことだった。 この行為の妥当性については、既に多くの意見が寄せられている。日本でも報道され、ご存じの方も多いだろう。だが、多くの日本のメディアは、中国の研究者を倫理的側面から批判した。一方で西側先進国の科学研究に一刻も早く追いつこうとした中国の焦りを指摘した報道もある。 私は、一連の報道は妥当だと考える。ただ、今回の件では、中国を批判するだけでいいのだろうかと疑問に思う。私は今こそ、ゲノム編集技術の基礎となる「ゲノム研究」の在り方について議論すべきだと考えるが、そのような指摘は残念ながら皆無である。 ゲノム研究を推し進める原動力は、個別化医療の推進だ。個別化医療とは、主にがんの診療分野で、がんのゲノム情報に基づき治療法を変更することである。この診断・治療法が普及すれば、多くのがん患者が正確に診断され、適切な治療を受けられるようになる。副作用を減らし、より高い治療効果も期待できる。 近年、個別化医療が急速に進歩した理由はゲノムシーケンス(DNAの配列決定)技術の急速な発達にある。1990年に米国が主導して始まったヒトゲノム計画の完遂には、13年の歳月と30億ドルの予算を要したが、最近では数時間、1千ドル程度で解読することが可能になった。 近年は中国企業なども積極的に参入し、競争が激しい。コストは半額以下になるとも言われる。今回、問題となったゲノム修復技術は、その背景を知れば見方が変わってくる。 このような技術革新は、医療業界のパワー・ポリティクス(力の政治)に影響を与えた。具体的には製薬企業や検査メーカーが仕切る領域にIT企業が参入するようになった。最初の標的は遺伝子ビジネスだった。米国では「23andMe」をはじめとした複数の遺伝子検査会社が、DTC(消費者への直接販売)による遺伝子検査を始めた。ちなみに、同社の株主はグーグル創業者の妻である。 また、わが国でもDeNA社が、2014年8月から同様のサービスを開始した。このサービスを利用すれば、唾液を採取して検査会社に送るだけで、がんや糖尿病などにかかるリスクや、肥満や薄毛の体質などが解析できる。費用は検査項目によって異なるが、おおよそ1~3万円だ。 このような成果は当然ながら、がん医療にも応用できる。※写真はイメージ(ゲッティ・イメージズ) 2014年には米国で「マイ・パスウェイ試験」という多施設共同臨床研究が始まった。この臨床研究では、手術や細胞の一部を切り取って調べる「生検」などで患者から採取したがん組織を用いて、「HER2」「EGFR」「BRAF」「ヘッジホッグシグナル伝達系遺伝子」という4種類の遺伝子の変異を調べた。そして、遺伝子の変異の状況に併せて、分子標的治療薬「トラスツズマブ」や「ベムラフェニブ」などの投与を決めた。難病治癒に貢献 個別化医療の進歩は、これだけではない。特定の遺伝子だけでなく、すべてのゲノム配列を分析し、難病の診断や治療に役立てようという動きも始まっている。 例えば、米国のニコラス・ヴォルカー君という4歳児のケースだ。がんではないが、診断・治療の過程が興味深いのでご紹介したい。ヴォルカー君は、出生時より下痢、血便などの腸炎を繰り返していた。さまざまな病院を受診したが、「原因不明の難病」として対症的に治療されただけだった。 2009年、米ウィスコンシン医科大学の研究者たちは、ヴォルカー君の全エクソーム解析(全遺伝子解析)を行い、腸を細菌の攻撃から守る働きに関係していると考えられている「XIAP遺伝子」の変異であることを突き止めた。腸炎の原因は先天性の免疫異常だったのである。 ヴォルカー君は臍帯血(さいたいけつ)移植を受け、その後病気は治癒した。全遺伝子解析を受けていなければ、「原因不明の難病」として、遅かれ早かれ命を落としていただろう。 ヴォルカー君は全遺伝子解析が救命した世界初の症例として注目を集めた。米紙「ミルウォーキー・ジャーナル・センティネル」の取材班は2010年12月にこのニュースを報じ、翌年ピューリッツァー賞を受賞した。 では、日本の状況はどうだろうか。昨年12月、厚生労働省の薬事・食品衛生審議会医療機器・体外診断薬部会は、シスメックス社が承認申請していた遺伝子変異解析キット「オンコガイドNCCオンコパネルシステム」の承認を了承した。 これは、同社が国立がん研究センターと共同で、がんに関する複数の遺伝子を一括で調べる「パネル検査」(パネルシーケンス)だ。※写真はイメージ(ゲッティ・イメージズ) もう一つ、中外製薬が米ファウンデーション・メディシン社から導入した「FoundationOneCDxがんゲノムプロファイル」という同様の検査も承認が了承された。パネル検査が保険適用になれば、多くのがん患者が遺伝子検査を受け、その結果に基づいた効果の高い抗がん剤治療を受けられるようになる。 しかしながら、今回の承認では、使用は一部の施設に限定され、受診のハードルは高い。対象患者が原発不明がん、標準治療のない希少がん、標準治療が終了または終了が見込まれる「固形がん」で全身状態が日常生活に支障のないレベルの元気な患者という条件がつく。全ての患者が遺伝子パネル検査を受けられるわけではない。 以上の通り、わが国はパネル検査がようやく始まったところだが、果たしてパネル検査だけで十分と言えるだろうか。周回遅れの日本 前出の米ウィスコンシン医大の研究チームで、全遺伝子シーケンスにより発見された約5千の変異を半年間かけて、XIAP遺伝子の変異が原因であることを突き止めたのは、リズ・ワーシー氏だ。 同氏は2017年3月に東大医科学研究所を訪れ、講演している。彼の講演に参加した井元清哉・東大医科研教授は「(冒頭に紹介したパネルシークエンスも全ゲノムシークエンスも)両方をやっている彼らが、全ゲノムシーケンスを推奨していたのは示唆に富みました」という。 実は、パネルシーケンスは、半分以上の関連遺伝子を見逃してしまうことが分かっている。全ての遺伝子を解析できる全ゲノムシーケンスや全遺伝子シーケンスと、特定の遺伝子だけを解析するパネルシーケンスのポテンシャルの差は明らかである。 世界では、ゲノムにとどまらず、全クリプトーム(全転写産物、RNAのこと)解析の臨床応用が始まっている。昨年12月、米ニューヨークゲノムセンターは、全ゲノム解析と全トランスクリプトーム解析を組み合わせたサービスを開始すると発表した。 一方で、パネルシーケンスがようやく承認される見通しとなったわが国は、世界の最先端から「周回遅れ」と言っていい。遺伝子修復ベビーが批判を浴びた中国は、この分野で最先端を走っている。今後、この差はますます広がるだろう。その理由は二つある。 まずは、個別化医療の推進に必須な「情報工学者」の不足である。今や世界のゲノム研究を推し進めるのは、医師ではなく情報工学者だ。 既に知られた遺伝子変異に対しては、それに対する治療法も決まっており、どの医師でも判断できる。しかし、それ以外の遺伝子変異が見つかった場合にどう対処するのか、医師だけでは判断できない。その遺伝子の役割、変異によって引き起こされる病態について、あらゆる論文データを検討しなければならないからだ。 わが国のゲノム研究の中心は、理化学研究所と東大医科学研究所のチームだ。現在のリーダーは情報工学者である宮野悟・東大医科研ヒトゲノム解析センター長だが、2013年には従来の治療が効かない白血病患者の全遺伝子を解読し、IBMの人工知能ワトソン(質問応答システム)を用いて、患者に最適な治療法を提案した。※写真はイメージ(ゲッティ・イメージズ) この患者の治療は劇的に反応した。これは「人工知能が救命した最初の患者」として報じられたが、このプロジェクトをリードしたのが宮野教授である。前出の井元教授の上司でもある。宮野教授は九州大を卒業した数学者であり、井元教授も九大を卒業した統計家だ。 2人とも医師ではない。今後、個別化医療の研究を進めるには、情報工学の専門家と医師が協同しなければならない。ところが、医学部や医学系研究所における情報工学者のポストは圧倒的に少ない。財政難の国立大学で、医学部に情報工学者のポストを新設するのは難しい。医学部と情報系の学部の交流を加速させるしかないが、昨今の不祥事をみても明らかなように医学部は閉鎖的だ。現状では難しいと言わざるを得ない。変わるがん治療のパラダイム むろん、政治リーダーの見識も不可欠である。米国でがんの個別化医療を推進したのは、バラク・オバマ前大統領だ。彼は自らが主導した2016年度予算で、約2億1500万ドルを「プレシジョンメディスン(精密医療)」に投資した。これはがんの撲滅を目指す「ムーンショット計画」の一環だ。 「プレシジョンメディスン」とは、ゲノム情報などに基づき、最適な治療方法を最適なタイミングで提供することだ。個別化医療の発展形である。特定のがんに対して、特定の抗がん剤をパッケージで投与する従来型の「標準療法」とは対極の考え方である。 個別化医療にとって重要なのは、患者の状況を正確に把握することに尽きる。その一つががんのゲノム情報だが、もう一つは病状及び治療効果の判定だ。この点で注目すべきは「リキッドバイオプシー」という新規技術である。 リキッドバイオプシーとは、血液などの体液のサンプルを用いて、診断や治療効果の判定を行う手法である。ゲノム解析を行うことも可能だ。従来の生検と比べて、はるかに低い侵襲で大きなデータを入手できる。また、患者の状態によっては手術や生検ができないケースも多々あるが、血液検査であれば誰でも簡単にできる。 ただ、この方法には高度な技術を要する。血液中を循環する腫瘍細胞及び腫瘍細胞由来のDNAなどの物質は、ごくわずかだからだ。腫瘍細胞の場合、通常1ミリリットルの血液中に10細胞以下しか存在しない。 とはいえ、世界中の企業が現在、技術開発にしのぎを削っている。既にいくつかの興味深い研究成果も報告されている。 米ジョンズ・ホプキンス大の研究者たちは、昨年1月に米科学誌『サイエンス』に自らが開発した「CancerSEEK」と呼ばれるリキッドバイオプシーの研究成果を公表した。この研究では、一般的な8つのがんを対象に検査を行ったところ、卵巣がんでの診断率は98%だった。臨床応用は近いかもしれない。ただ一方で、乳がんでは40%を下回ったという。 この技術は開発途上だが、企業側の鼻息は荒い。技術開発の筆頭を走るのは、米シリコンバレーのグレイル社だ。ゲノムシークエンス最大手、イルミナ社から2016年に独立した。同社は「2019年までに最初のリキッドバイオプシーを実現する」と宣言している。 この見解に懐疑的な関係者も多いが、遅くとも数年の間に、この技術は臨床応用されるだろう。そうなれば、ゲノム情報に基づく個別化医療だけでなく、がん治療後の再発のスクリーニング(選別)や、がん検診にも応用が期待できる。現在のがん治療のパラダイム(認識の枠組み)が大きく変わることになる。※写真はイメージ(ゲッティ・イメージズ) がんは多くの先進国で死因の首位を占め、関心を集めている。がんの診断・治療法の開発は、ゲノム研究の進歩とともに日進月歩だ。中国での遺伝子修復ベビーの誕生も、このような流れの一環として理解すべきだろう。この領域では米中がヘゲモニー(主導的地位)を握りつつある。 一方、わが国は米中と比べ「周回遅れ」になりつつある。遺伝子修復ベビーの誕生に関しては、中国を批判するだけでなく、その背景にあるゲノム研究の進歩を理解し、前向きに議論しなければならない。■夢のがん治療薬は国を滅ぼす? ボロ儲け製薬企業の「暴走」を阻止せよ■がんはいずれ「理想の死に方」になる■カネではタフな研究者は育たない 日本人がノーベル賞を取れる理由

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    遺伝子治療の最前線、「クリスパー・キャス9」の衝撃

    最大の発明と称される「クリスパー・キャス・ナイン」の技術の素晴らしさは認められているが、遺伝子治療を医療現場で応用するとなると、解決すべき課題が山積している。そうしたなかで遺伝子治療を実用化に近づけようと、日本でも研究が進められている。 東京大学大学院の生物科学専攻の濡木理(ぬれきおさむ)教授は「『クリスパー・キャス・ナイン』は素晴らしい技術だが、臨床現場では使い勝手が悪い部分がある。いまの『キャス・ナイン』(酵素たんぱく質)は大きすぎて、『クリスパー』(遺伝子配列)を修復したい遺伝子まで運ぶのが難しいので、これを小型化して遺伝子の編集作業を自在にコントロールできる『ミニ・キャスナイン』ができないか研究をしている。この技術が遺伝子治療に幅広く使えるようになれば大きく飛躍できる」と期待する。1億円を超える世界最高薬価 都心から電車に2時間ほど乗った栃木県下野市にある自治医科大学。広いキャンパスの一角にある研究棟ビルの中でブタが十数頭飼育されている。濡木教授は自治医大の再生医学研究部の花園豊教授と連携して、開発した新技術をブタを使って試している。人間に用いるのと同じX線透視装置や手術支援ロボットを備えた手術室もある。 花園教授は「マウスだと小さすぎて、必ずしも正確なデータが得られないが、ブタは人間とサイズや生理学的特徴がよく似ているので、臨床に役立つ結果が得られる。ブタを用いてのこれだけの医療設備があるところはほかにない」と話す。現在、遺伝子の変異によって起きるとされる難病SCID(X連鎖重症複合免疫不全症)の治療がゲノム編集でできないか研究中で、ブタで成功すれば人間による臨床に移り、実用化の可能性が高まる。 いままでFDAが承認した遺伝子治療は、昨年末に承認した網膜ジストロフィーのケースも含めて変異した遺伝子はそのままにしておいて、正常な遺伝子を体内に導入する手法だ。だが、「クリスパー・キャス・ナイン」を使えば、変異遺伝子に狙いを定めて修復ができる。正常な遺伝子を入れる手法の場合、入れた位置が悪かったりして白血病などの副作用を起こすリスクがあるといわれている。 それに比べ、遺伝子を修復する方法は、そうしたリスクが低く、安全性が高い点が指摘されている。「人体の設計図」を意図的に変更することになる遺伝子編集は、安全性を抜きにして実用化はできない。 「クリスパー・キャス・ナイン」のゲノム編集技術は、難病の治療に使われようとしているが、日本人の2人に1人がなるとされる、がんの治療につながるかというと、そう簡単ではない。なぜなら、がん患者は多くの場合、いくつもの遺伝子が変異を起こしているケースが多く、どの遺伝子の変異が、がんの発症につながっているのか識別するのがいまの医療技術では難しいという。このため、いまのところゲノム編集技術は、一つの遺伝子の変異によって発症しているとみられる病気の治療に応用されようとしている。 実際の遺伝子治療はようやく緒についたところだ。17年7月までに全世界で約2400件もの遺伝子治療の臨床研究が行われてきたという。しかし、販売が承認された治療製剤はわずか10件で、日本での承認はない。 開発が順調に進展しなかった理由は、リスクの見極めの難しさにある。いままでの化学薬剤とは異なり、一度遺伝子を改変すると、長期にわたり人体に影響を及ぼす。欧州ではその副作用で白血病を発症し、被験者が死亡した悲劇もあった。 そのため、数年以上の緻密な安全性評価が必要となり、さらに規制を厳格にしたことで研究マインドは冷えていった。しかしこの教訓は生かされ、この数年、欧米でより安全な遺伝子治療の承認が相次いでいる。そこに新しい技術であるゲノム編集が加わり、熱い視線が集まっている。自治医科大学の実験室(写真・WEDGE) 北海道大学の石井哲也・安全衛生本部教授は、開発費用と保険適用の問題を喚起する。「欧米で承認された遺伝子治療製剤は、患者一人あたり数千万円以上と軒並み高額で、中には1億円以上と世界最高薬価を記録した製剤もある。国からみれば高額薬の登場は財政上の問題だ。しかし、患者数が少なく、真に有効な治療法がなかった希少疾病に対する遺伝子治療製剤でさえ国の健康保険でカバーしないなら、それは国民皆保険制度の趣旨から外れる」と指摘する。実際、英国は希少疾病に対する遺伝子治療は保険対象とする見通しだ。 それだけに承認する側の厚労省としては慎重にならざるを得ない。しかし、これをあまりにも厳しくし過ぎると、製剤を開発する側の意欲をそぐことになり、そのバランスが難しい。同省ではがんや難病の治療に遺伝子治療を役立てようと、治療のガイドラインの見直し作業を進めている。目をつけるベンチャーファンド また、がん患者の遺伝子情報に基づいて最適な治療薬を選ぶ「がんゲノム医療」を4月から全国規模で行うことになり、同省は3月27日に100の病院を指定した。手術、抗がん剤、放射線など従来の治療法では効果がなかった希少がん患者などに対して、遺伝子を調べ、臨床研究の結果で適した薬があれば投与、治療する。 ゲノム編集技術は、いま実用化に向けて世界の研究者がしのぎを削っている。米国では一昨年あたりから多くのベンチャーファンドがこの技術の実用化でひとヤマ当てようと、技術の開発に巨額の資金をつぎ込んでいる。ゲノム編集が実用化されると、難病やがんの治療だけでなく、美容やアンチエイジングへの応用も期待されている。 また動植物の遺伝子編集により、人間にとって効率的な食料生産ができるようになるなど、将来的にはマーケットが大きく広がる可能性がある。このため、バイオベンチャーの多いボストンやサンフランシスコでは、先物買いによる遺伝子治療への投資がブームになり、新規上場により資金調達する企業も多い。 濡木教授はこの開発を加速するために、16年1月に産学連携のベンチャーEDIGENE(エディジーン、東京都中央区、森田晴彦社長)を設立。ボストンにもオフィスを構え、米国の研究者をスカウトして遺伝子治療技術の実用化を急ごうとしている。そのためには開発資金が必要で、製薬、化学会社などから16億円の資金を集めることに成功した。日本の製薬会社やベンチャーキャピタルはこれまで、こうしたベンチャーに対して資金を提供することに消極的だった。 しかし、ゲノム編集技術の進化から遺伝子治療実現の期待が高まってきているため、積極的に資金を提供しようとする動きも出始めている。昨年12月、先端医療分野を将来の事業の柱と位置付ける富士フイルムがエディジーンに対して4億7000万円の出資を決定、思い切った先行投資に踏み切った。 同社はこれまで培ってきた高度なナノ技術を活用し、有効成分を効率的に患部に届けて薬効を高めるリポソーム製剤の技術を、遺伝子治療の開発に役立てたいとしている。 中国では15年の時点で医療関係者の間でタブー視されてきた人間の生殖細胞の遺伝子編集を行い、世界の医療関係者のひんしゅくを買った。この分野は米国と中国で先陣争いをしており、科学雑誌「Nature」(16年11月24日付)はその模様を1950年代の旧ソ連の人工衛星開発競争に例えて、「スプートニクVer2」と揶揄している。米国では既にエイズ治療にゲノム編集技術を使っているが、中国はさらに先に進んで、肺がんの治療にこの技術を使っているという。遺伝子(ゲノム)をピンポイントで操作できるのがゲノム編集の特徴(ゲッティイメージズ) 一方、日本はこの分野の論文数や特許件数では大きく出遅れている。日本の製薬会社は、リスクを恐れずに果敢に挑戦してもらいたい。また厚労省もこうした新薬を開発するチャレンジに対しては、15年から新薬の審査期間を通常の半分の6カ月に短縮する「先駆け審査指定制度」を導入、世界レベルの開発競争に負けないように対応しようとしている。 こうした官民の努力が成果を挙げることができれば、日本も遺伝子治療の最先端分野の競争の仲間に入ることができ、将来、大きな果実を得ることができるかもしれない。なかにし・とおる 経済ジャーナリスト。1948年岡山県生まれ。72年共同通信社に入社。88年から91年までニューヨーク特派員、経済分野を取材し、編集委員を経て2010年に退社。現在は経済ジャーナリスト。著書は「ジャパンマネーの奔流―ニューヨーク・東京・ロンドンの24時間」(1987年、ダイヤモンド社)、「日本買い 外資は何を狙っているか」(2005年、PHP研究所)など。

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    中国でブタの臓器のヒトへの移植が秒読み 2年後に実現か

    間にブタの臓器を移植する手術が2年後の2019年までに、中国政府によって許可される見通しであることが医療関係者の証言で分かった。ブタの臓器は人間のそれと機能や大きさがほとんど同じであることが分かっているそうで、これまでもブタの臓器をサルやヒヒに移植し、成功した実験例が報告されているという。 ただ、ブタの体内には人間に対して毒性があるウイルスが存在することが分かっており、中国の医療関係機関では、そのウイルスを持たないクローンブタの増殖実験を繰り返しているという。中国青年報などが報じた。 ブタの臓器移植について、医療関係者の間では世界的に関心が高い。なぜならば、心臓や肺、肝臓などの臓器に深刻な疾患を持つ患者は多く、米国では今年8月現在、11万7000人の移植待機者がおり、ドナー不足から毎日22人の命が奪われているという。 とくに、中国の場合、2010年から2016年までの7年間で10万人以上の患者に人間の臓器が移植されてきたが、移植待機者は毎年、150万人にも上っているという。 中国では2015年まで、死亡した服役囚の臓器が摘出され、移植されてきたが、同年以降、服役囚の臓器の移植は基本的に禁止されており、近年、中国の医療関係者の間で、ブタなどの臓器移植研究への関心が高まりを見せている。すでに、陝西省の第4軍病院や上海、北京、広東省の病院が合同で、国家プロジェクトとして研究を進めている。※写真はイメージです(ゲッティイメージズ) ブタの臓器の人間への移植については、日本やアメリカ、欧州各国でも研究されており、これまで動物実験が繰り返されてきた。そのなかでも、中国では研究が進んでおり、ブタの角膜の人間への移植手術が行われており、成功例が報告されている。 ただ、角膜の場合、血液がごく少量で、ブタの体内にあるウイルスが人間に感染する危険性が少ないことから、ほとんど問題はないが、心臓などの臓器には血液を介在して人間に毒性を持つウイルスが侵入することも考えられるだけに、現段階では、各国もブタの臓器の移植手術には慎重な姿勢を示している。 中国や米国では手術の実現を目指し、遺伝子操作でウイルスを無毒化したブタを誕生させ、そのブタのクローンブタを生産する実験に成功している。同紙は第4軍病院の関係者の話として、「ブタの臓器の移植は秒読みで、2年後の2019年には政府から許可がおりる見通しだ」と報じている。また、同紙は米国の研究者の話も紹介し、「ブタの心臓や肺などが人間に移植可能となれば、多くの命を救うことができるようになり、動物の組織を人体で利用するという、異種間移植への道が開かれることになる」との見通しを伝えている。関連記事■ 米での臓器移植金額、高騰させ日本人の渡航移植避ける思惑も■ 中国渡航の臓器移植500~1500万円 後ろめたかった人は2割■ キューバ 臓器移植技術高い上脳死状態の移植を大多数が承諾■ 6才未満の子供からの臓器移植 難しかった理由を医師解説■ 6才未満の子供の臓器移植について賛成派と反対派の意見紹介

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    麻生氏「医療費あほらしい」は暴論か

    る。3年ぶりに解放されたジャーナリスト、安田純平さんに対してもそうだったが、不摂生で病気になった人の医療費負担をめぐり「あほらしい」と指摘した麻生太郎財務相の発言もまた物議を醸した。麻生氏の発言は暴論か、それとも一理あるのか。

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    医療費は控除から手当へ、麻生氏「あほらしい」発言は一理ある

    で病院の世話になったことはほとんどない」と前置きした上で、「『自分で飲み倒して、運動も全然しない人の医療費を、健康に努力している俺が払うのはあほらしい、やってられん』と言った先輩がいた。いいこと言うなと思って聞いていた」と述べた。 この発言に対しては、各方面から批判の声が高まっている。「誰も好き好んで病気になっているわけではない」「健康保険制度の趣旨を理解していない」というような反論である。 麻生氏は「生まれつきもあるので、一概に言うのは簡単な話ではない」と記者会見の中で「弁明」はしているが、彼特有の、トランプ的な率直かつ上品とは言いがたい表現が批判に輪を掛けている。あるいは、麻生氏に対しては「のれんに腕押し」で、何を言っても無駄だという諦めも広がっている。 確かに、表現は適切でないかもしれないが、麻生氏の言っていることにも一理はある。そのような考え方は、米国、特に共和党支持者の間では一般的であり、麻生氏が米国の政治家なら拍手喝采されたであろう。それは、公的な健康保険制度を充実させようとするオバマケアに対する批判が、なぜ強いかを考えるとよく分かる。 「代表なくして課税なし」という原則が米独立戦争の理念であり、米国人は税金の徴収、使途について厳しく監視する。自分のできることは自分で行い、政府の役割をできるだけ小さくして税金を最小限にするというのが平均的な米国市民の考え方である。その結果は、小さな政府であり、夜警国家である。※写真はイメージです(ゲッティイメージズ) 私は、米国の建国の基礎は「銃とキリスト教」だと考えているが、大都市はともかく、地方では、保安官を雇わなくても、自らの銃で家族やコミュニティーを守っていくという発想が今なお健在である。 もちろん、現代では緊迫する国際関係の中で、外交や防衛などに巨額の予算が必要である。しかしながら、米国は連邦国家であり、各州はいわば独立国家であるため、各人の生活に関わることは州や市町村レベルで処理することになっている。日本の考え方は欧州型 将来起こり得る病気やけがに対しては、各人が民間の保険会社と契約して備えをする。これが普通の考え方であり、日本のような国民皆保険制度を積極的に導入することに賛成の米国人はあまりいない。 まさに「天は自ら助く者を助く」であって、麻生氏が言うように、「なぜ不摂生して病気になった者の面倒などみる必要があるのか」というわけである。もちろん、格差の拡大とともに、保険料の支払いもできない貧困層が拡大しており、彼らをどう救うかという問題は大きな政治問題となっている。 米国では、慈善事業(チャリティー)や寄付の文化が定着しているが、公的な救済制度がなくても、それが大きな貢献をしていることを忘れてはならない。米マイクロソフト創業者のビル・ゲイツ氏が典型的だが、成功して大富豪となった者は、寄付という形で利益を社会に還元する。米国の企業家、富裕層の友人たちと話をすると、必ず慈善事業をどうするかというテーマが出てくる。 例えば、米国の私学は授業料が高い。それでも、成績優秀で品行方正であれば、卒業生で成功した先輩たちが奨学金制度を作り、毎年多額の寄付をしているので、学生はその恩恵にあずかることができる。 欧州では少し事情が違う。移民が形成した「新興国アメリカ」と違って、伝統社会である。社会主義といえば、マルクスやレーニンの名が浮かぶかもしれないが、元祖社会主義は、サン・シモンに代表されるようにフランスである。そのフランス社会主義の理念とは、医療や教育の分野が貧富の格差に影響されてはならないというものである。 他の欧州諸国もほぼ同様であり、ドイツのビスマルクは、19世紀後半に全国民強制加入の社会保険制度を作り上げている。最近は極右の台頭で凋落(ちょうらく)したが、長い間、欧州では社会民主党が政権を担ってきたことを忘れてはならない。ドイツの「鉄血宰相」ビルマルク(ゲッティイメージズ) 日本は米国型ではなく、欧州型である。国民皆保険や国民皆年金を廃止し、米国のように、個人で民間の保険会社と契約することに賛成する日本人はほとんどいないと思う。しかし、医療費の無駄遣いについては、厳しく点検し、制度の不断の見直しが不可欠である。 昨年度の医療費は42・2兆円にも上っている。国の予算が約100兆円なので、その額の大きさがよく分かる。別の比較をすれば、トランプ大統領が怒っている米国の対中貿易赤字も同額である。発想と制度の転換を 私が厚生労働大臣のときも、伸び続ける医療費抑制のために、さまざまな政策を動員してきたし、今もその努力は続けられている。後発医薬品(ジェネリック医薬品)の活用、定額支払い制度の導入、自己負担分の拡大、高額療養費制度の見直しなどである。 笑い話で言われるように、かつては「元気なときは喫茶店やサロンに行く気分で病院に行く、病気になったら寝込んで病院に行かない」「リハビリと称してマッサージ代わりに使っている」といった無駄遣いの指摘が多かったが、これも最近では相当に改善されている。私も股関節手術後にリハビリに通ったが、マッサージ代わりに使っている高齢者はほとんどいなかった。 医療費の抑制は全国民の課題である。日本人の平均寿命は、男性が81・09歳、女性が87・26歳であるが、健康寿命は男性が72・14歳、女性が74・79歳である。 問題は健康寿命、つまり自立した生活を送れる期間であり、これを伸ばさなければならない。そのためには、麻生氏が言うように、摂生し、適度な運動をし、生活習慣病の予防を図ることが肝要である。 もう一つ、発想と制度の転換を提案しておきたい。今は、医療費がかかると、税金から控除される対象になる。つまり、節税のためには医療費を使ったほうが得をする気がするのである。これが控除という制度の問題であり、健康手当という形で支給する仕組みに変えるのも一つの手である。 かつて、企業や団体が主管する健康保険組合では一定期間、例えば1年間病院の世話にならないと、ご褒美として報奨金を支払う制度があったが、それと同じ発想である。つまり、控除ではなく、皆に健康手当として、月に例えば3千円支給する。2009年5月、新型インフルエンザ対策本部であいさつする麻生太郎首相。左は舛添要一厚生労働相(酒巻俊介撮影) それを使って健康のための活動を積極的に行ってもらう。そして健康保険を1年間使わなかった人には、ボーナスとして1万円を支給するといった政策である。 「控除から手当へ」という制度は、民主党政権下で子ども手当が導入されたが、民主党政権の説明の拙劣さと政権運営のまずさから、あまり評判はよくなかった。しかし、医療費控除から健康手当へという発想の転換は、麻生氏の期待にも応えるものと思っている。

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    麻生さん、病気に「自己責任論」を持ち出すのはやっぱり酷です

    ンター副部長) 麻生太郎財務相が10月23日に行った閣議後の記者会見の内容が波紋を広げている。 予防医療推進に関する質問に対し「『自分で飲み倒して運動も全然しない(で病気になった)人の医療費を健康に努力している俺が払うのはあほらしい、やってられん』と言っていた先輩がいた。良いことを言うなと思って聞いていた」と答えたというもの。記者から自身の考えを問われると「生まれつきもあるので、一概に言うのは簡単な話ではない」と補足説明した。 麻生氏の同様の発言は、実は今回が初めてではない。内閣総理大臣在任中の2008年11月の経済財政諮問会議では「67、68歳になって同窓会に行くと、よぼよぼしている、医者にやたらかかっている者がいる。(中略)たらたら飲んで、食べて、何もしない人の分の金を何で私が払うんだ」と発言している。 2013年4月の都内会合でも「食いたいだけ食って、飲みたいだけ飲んで糖尿になって病院に入るやつの医療費は俺たちが払っているんだから、公平じゃない」と発言。いずれも健康の維持に努力している人とそうでない人での医療費に関する不公平感を述べたものであるが、一部が「病気になるのは本人の自己責任」と受けとられたことから議論になった。 折しも、中東で監禁、釈放されたフリージャーナリストの安田純平氏に自己責任論が噴出しているが、病気も自己責任なのか。そこには一概にそうとはいえない事情が隠れている。 2015年度の国民医療費は42兆3644億円で、前年度から約1兆5000億円増加し過去最大となった。政府の推計によるとこの額は2040年度には68兆5000億円まで膨らむ見通しである。その理由としては高齢化に加え、新薬の薬価が高騰していることが挙げられる。閣議終了後、記者団の質問に答える麻生太郎副総理兼財務相=2018年9月、首相官邸(春名中撮影) ノーベル賞で話題となったオプジーボは画期的ながん治療薬であるが、当初の薬価は1瓶(100mg)あたり約73万円。体重60キロの患者が1年間使用すると、なんと年額3500万円にも及ぶものだった。 相次ぐ高額な新薬に対し、財務省は10月9日の財政制度等審議会で、経済性に応じて公的医療保険の適用外にすることも検討するという、かなり突っ込んだ改革案を示している。同改革案には予防医療に関して「予防医療による経費節減効果は明らかでない」とも示されている。 予防医療医療費削減と思われがちだが、実は予防医療のうち医療費抑制に有効なのは約2割しかないとの報告がある。予防で病気の発症を遅らせても、いずれは何らかの病気になり医療費がかかる、つまり予防医療はかかる医療費を先送りにしているにすぎないというわけだ。予防医療のメリットはむしろ、医療費削減ではなく健康長寿にあると思った方がよい。寿命の延長により家族や友人と過ごせる期間が延びることは経済では語ることができない。「きれいな長谷川豊」論争 さらに、その間に就労が可能であれば社会活動に伴う税収増にも寄与しうる。安倍政権は、予防医療による健康長寿と高齢者雇用の拡大を社会保障改革の柱としている。予防医療の推進は医療費削減ではなく、健康長寿とそれによる社会生産性向上を目的として議論すべきである。 この問題で思い出されるのは2016年のフリーアナウンサー、長谷川豊氏による「自業自得の人工透析患者なんて、全員実費負担にさせよ!無理だと泣くならそのまま殺せ!」というブログ記事である。本件に対してはあっという間に批判が殺到し、人工透析患者の偏見につながるとして全国腎臓病協議会も抗議文を出すに至り、結果として長谷川氏は当時の全ての番組を降板することになった。 結論から言うと、病気に自己責任論を持ち込むのは無理がある。なぜなら、危険を伴う地域への渡航と異なり、自ら進んで病気なる人は誰もいない。そして、生活習慣の努力の程度は、線引きが事実上不可能だからである。病気は複合的な要因で生じるため、遺伝や社会環境など個人ではどうしようもない部分があり、自助努力だけで防ぐことはできない。 一方で、過度の飲酒や喫煙、運動不足で自堕落な生活をしていても病気にならない人もいる。病気に対する自己責任論を突き詰めると、国民皆保険制度の崩壊につながってしまう。その先の未来がどうなるかはアメリカの医療をみれば明らかであろう。 予防医療の目的を純粋に健康長寿とした場合、健康意識や健(検)診受診率の向上を目指すにはどうしたらよいのであろうか。「2020年以降の経済財政構想小委員会」のまとめを発表する自民党の小泉進次郎氏=2016年10月、東京・永田町の自民党本部(斎藤良雄撮影) 一つが健康状態のいい人や健康管理に努力している人を優遇するというやり方である。民間保険ではリスク細分型保険というカテゴリーの商品がすでに定着している。非喫煙者を対象としたノンスモーカー割引は、ニコチンを検出する唾液検査をクリアすることが条件で、保険を契約する際に通常の保険料の10~30%の割引を受けることができる。 第一生命は健康診断割引特約として健康診断書などを提出するだけで保険料を割引し、体格指数(BMI)18以上27以下、血圧が最低85mmHg未満かつ最高130mmHg未満、40歳以上ではHbA1c5・5%以下といった良好な健康状態の人はさらに割引になる商品を開始した。民間保険は加入が任意なので、このような方法でなんら問題はないが、公的保険に関してはかつて議論が巻き起こった。 小泉進次郎衆議院議員らが2016年10月に雇用や社会保障に関する政策提言の中に取り入れた「健康ゴールド免許」制度である。この制度はIT技術を活用することで、個人ごとに健(検)診履歴などを把握し、健康管理に取り組んできた人へ「健康ゴールド免許」を付与し、病気になったときの自己負担割合を3割から2割に減免するというもの。しかし、発表直後から賛否が巻き起こり、否定派からは「きれいな長谷川豊」と言われ、その後すっかり話題に上らなくなってしまった。進次郎が失敗したワケ 自助を促す趣旨には賛同できるが、努力だけではどうしようもない部分まで含むスキームが悪かったのだろう。このような健(検)診や健康管理に一生懸命取り組んでいる人への優遇は一見有効に見えるが、実際は限界がある。事実、特定健診を受けない人は、高年齢、低学歴、低所得の人が多く、病気になったときのことまで考える余裕がない。自己負担の減免の恩恵を受けられるのは結局のところ、普段からスポーツジムで汗を流して健康管理ができる富裕層ということになる。 それでは、健(検)診を受けない健康意識の低い人たちを振り向かせるにはどうしたらよいのであろうか。まずは、マイナンバーを活用し、健(検)診受診と判定結果による治療介入の有無をしっかり把握することである。未受診者や要治療者にははがきによる個別勧奨を積極的に行う。インセンティブには健康マイレージが良いだろう。 NTTドコモでは自治体向けにスマホと歩数計、リストデバイスを用いてウオーキングや特定健診の受診、自らの健康管理の程度に応じてポイントがたまる健康マイレージサービスを行っている。ポイントに応じて景品と交換できる仕組みである。 宮崎県木城町は、国民健康保険と後期高齢者医療の被保険者を対象にした健康マイレージを行っている。特定健診や各種がん検診などの受診でポイントがたまり、町内の登録店舗で利用できる商品券と交換できる。町内経済の活性化も狙えて一石二鳥だ。 貧富や教育などの社会的要因に対するアプローチも重要である。例えば、タバコ代を上げると低所得者層ほど禁煙するというデータがある。小中学生に対する予防医療教育も将来的な健康格差の縮小につながるだろう。健(検)診を受診できる日を選択する機会を増やすことも有効だ。福岡市健康づくりサポートセンターの健(検)診は、土曜、日曜、祝日にも実施している。さらに、月に1度は平日の夜間にも実施しており、仕事帰りの利用にも対応している。 がん検診の受診率上昇には韓国の政策が参考になる。胃がんを例にとると、韓国の胃がんの検診受診率はなんと70%を超えているそうだ。その要因は、住民登録番号を利用したデータ管理、保健所による個別受診勧奨、検診料は健康保険でカバーされ健康保険料下位50%は本人負担ゼロ、指定を受けた医療機関であれば全国どこでも受診可能、という徹底したものだ。「県コバトン健康マイレージ」事業で使用する歩数計と読み取り機器=2017年4月4日、埼玉県(菅野真沙美撮影) さらに公的がん検診で発見されたがんには治療費の補助も行われる。ここまでやるには予算もそれなりに必要だが、本気で受診率の上昇を目指すのであればこれくらいの対策が必要ということだ。 麻生氏は冒頭の発言の際、予防医療の必要性についての理解も示したが、予防医療の推進は医療費削減どころか、さらにお金がかかることもある。医療費の議論は別にして、健康長寿のための予防医療を効率的に推進する政策を期待したい。