サッカーを熱烈に愛し、論じる人たちが解任を是とする根拠の一つに、「結果が出なければいつ解任されても仕方がない。それがサッカーの世界基準だ」という思い込みがある。たとえ親善試合であろうと「今がダメならダメ」だという。果たしてそうだろうか。

 ハリルホジッチ氏は、前任のアギーレ監督が過去の八百長関与の疑いで解任された後の2015年3月、代表監督に就任した。日本サッカー協会が、そしてサポーターたちがハリルホジッチ監督に求めた使命は、2018年のW杯ロシア大会への出場権獲得と本大会での上位進出、そして日本が世界に肩を並べる強豪になる道筋を拓くこと。主にこの3つだったのではないか。

 その使命の一つをハリルホジッチ氏は果たした。次は「本大会での躍進」であって、本大会前の親善試合の勝利ではなかっただろう。だが、昨年12月の東アジアE-1選手権で韓国に大敗し、3月のヨーロッパ遠征でも1敗1引き分けに終わると、一気に解任論に傾いた。これは「勝てなければ解任は当然」という誤った世界基準を後ろ盾に、いかにも正当な決断であるかのように仕組まれた「クーデター」だと、ハリルホジッチ氏が感じるのも当然だろう。

 田嶋会長は、ハリルホジッチ氏を斬って主力選手を取ったようにも見える。田嶋会長はなぜか協会の先輩役員たちに引き立てられ、若いころから「未来の会長」の座を約束されたようなエリート街道を歩んで来た。指導畑にいたこともあるが、現場での実績はそれほどない。言うなれば、「サッカー政治」の階段を上ってきたような人物である。どうせロシア大会後にはいなくなるハリルホジッチ氏と、今後も自分の支持者であってほしい代表の主力選手、どちらの歓心を買うのが賢明か。そんな判断で導いた決断のように感じなくもない。
サッカー日本代表のハリルホジッチ監督(当時)とサッカー協会の田嶋幸三会長
サッカー日本代表のハリルホジッチ監督(当時)と日本サッカー協会の田嶋幸三会長=2016年4月
 もし勝負師であるならば、オーストラリア戦で見せた「ハリルマジック」を信じ、次なるマジックをゾクゾクしながら見守るだろう。そして、賢明な国際人であり社会人であれば、相手に特段の非がないのに一方的な解任を言い渡すような、野蛮な決断はできないだろう。

 周到な準備を重ね、本大会に向けて仕込んだマジックのふたを開けて見せようと、ワクワクしていたハリルホジッチ氏のもくろみを、無粋な保身とつまらない常識論のために台無しにしたのである。

 いま日本のサッカーがつまらないのは、とかくサッカーの常識や戦術論を振りかざす左脳人間たちが幅を利かせていることに起因する。欧州サッカーを見れば誰だって一目瞭然、魅了される芸術性を何より信奉していない、才気なき競技になっているからだ。

 サッカーは、天才たちの芸術であるからこそ美しく、魅力的でもある。もし、後任の西野朗監督率いる日本代表が、火事場の馬鹿力的な効果を得て、それなりの結果を残したとしても、そこに再現性はないし、ましてや芸術性は低い。ハリルホジッチ氏の電撃解任が日本サッカーの悲劇にならないことを願うばかりである。