マリナーズでは少なくとも、ギャメルが復帰する4月下旬まで先発出場に恵まれるチャンスが高い。この間の活躍がその後のシーズンを左右する。さらに言えば、来季以降の契約を他球団も含めて検討してもらうために、イチローにとっては後に引けない1カ月になる。

 過去、44歳で最も多くの試合に出場したのは、歴代通算最多安打記録を誇るピート・ローズで119試合だ。ローズはこの年(1985年)、405打数107安打46打点8盗塁。いずれも44歳の最多記録となる。この年に往年のスター打者、タイ・カッブの通算安打を抜き、4192安打を記録した。

 44歳での最多本塁打は5本、最高打率は.294であるが、これはいずれも日本でもロッテでプレーしたフリオ・フランコの記録だ。イチローにはこれらの数字を上回る可能性が大いにある。

 イチローのマリナーズ復帰は日本のファンにも歓迎され、安堵と期待の空気が流れている。だが、次の言葉を私は複雑な思いで聞いた。入団会見でイチローはこう語った。

 「いずれまた、このユニホームを着てプレーをしたいという気持ちが心のどこかに常にあったんですけど、それを自分から表現することはできませんでした。(中略)こういう形でシアトルのユニホームでプレーする機会をいただいたことは、2001年にメジャーリーグでプレーすることが決まった時の喜びとはまったく違う感情が生まれました。とてもハッピーです」

 日本球界復帰を期待する声も根強くあった。しかし、イチローの思いは当然のことかもしれないが、MLBにあった。イチローにとって故郷はもはやオリックスでも日本球界でもなく、マリナーズのあるシアトルだ。これを痛い思いで感じたファンはどれほどいただろう。

 それは、一度MLBの味を知ってしまったら、「MLBにとどまりたい」「一日でも長くメジャーリーガーでいたい」と思わせる魅力があるからだろう。一方、日本のプロ野球にはその魅力が薄い。そこをわれわれはもっと真剣に見つめ、日本のプロ野球を変える動きに向かわなければならない。

 今季からヤクルトに青木宣親、巨人に上原浩治、2人のメジャーリーガーが復帰した。

 「50歳まで現役は誤解、最低50歳」と語るイチローの言葉を深読みすれば、「メジャーで場所がなくなったら日本で」「日本の球界なら間違いなく歓迎されるだろう」との思いがあるかもしれない。

 同時に、その言葉からは「本当はメジャーでやりたい」「日本の球界にメジャー以上の魅力はない」との思いも察せられる。

 日本の球界関係者は、キャンプが始まる時期を過ぎてもなお「メジャーしか考えなかった」イチローの思いをもっと重く受け止めるべきではないだろうか。

ベンチで厳しい表情を見せるマリナーズのイチロー外野手(右端)
=2018年3月14日、米アリゾナ州ピオリア
ベンチで厳しい表情を見せるマリナーズのイチロー外野手(右端) =2018年3月14日、米アリゾナ州ピオリア 
 日本のプロ野球には魅力がない。日本が、戻って来たい場所でなく、仕方なく帰って来る場所でいいはずはない。日本のプロ野球は、メジャーを経験した選手たちから素直に学び、ビジネスや環境など、メジャーリーグにあって日本のプロ野球にないものをはっきり認識し、必要な変革に取り組むべきだろう。

 マリナーズでイチローが何年プレーできるか。それは日本球界がイチローを迎えて新たな挑戦をするまでの猶予期間ともいえる。44歳になったイチローをただ「凄い」と賛美するのでなく、日本プロ野球がイチローに「最後の活躍の場」に選んでもらえるよう、未来に向けて動き出す姿を見たい。