V9のメンバーを見てみよう。1番柴田勲はセンバツ優勝チーム(法政二)のエース投手、花形ではあったが、巨人では打者に転向。二軍で一から鍛え直し、足を生かし、スイッチ・ヒッターになって不動のトップ・バッターとなった。

 2番の土井正三(立教大)あるいは高田繁(明大)はいずれも六大学のスター選手。だが土井などは“いぶし銀”のタイプ。立大では3番打者ではあったが、4年間で打率2割4分5厘、ホームラン0。ドラフト導入前年の入団だが、ドラフト制があったら1位で指名したかどうかわからない。

 3番王もセンバツ優勝投手だが、入団後に打者転向。最初は「王は王でも三振王」とやじられていた。他球団から荒川博を専属コーチとして引っ張り、王を育てることを任務としたのは有名な話。そのような発想と大胆さ、育てる覚悟がV9の陰にあった。

 ショートの黒江も荒川道場で花開いた苦労人と言われる。同じショートの河埜和正(八幡浜工業)は実際にドラフト6位入団。淡口憲治(三田学園)は3位、小林繁(由良育英)は6位、関本四十四(糸魚川商工高)は10位。V9を彩った選手たちは決してドラフト上位の素材ではなかった。

 ずっとV9を支え続けた捕手の森昌彦(岐阜)は巨人にテスト入団した選手だ。

チームメートに肩車されてガッツポーズする早実の清宮幸太郎内野手
=2017年10月226日、東京都国分寺市の早実高(撮影・大橋純人)
チームメートに肩車されてガッツポーズする清宮幸太郎内野手
=2017年10月26日、東京都国分寺市の早実高(撮影・大橋純人)
 ドラフト廃止を提言すると、再び契約金高騰あるいは裏金の危険性などを指摘する声が上がるだろうが、自由競争にしつつ契約金に上限を設け、また獲得選手の人数や契約金総額を制限するなど、やり方はいくらでもある。裏金のようなルール違反をしないのは、当たり前の前提だ。破ることを前提にしたのでは何も改革できないし、そのような業界ならそもそも自滅は明らかだ。

 素朴に思う。7球団競合ということは、清宮幸太郎は、今年の高校生野手の中で最も高い評価を得、それにふさわしい才能を持ち努力を重ねてきた。その選手の意志や希望が最も叶いにくい現実はおかしくないだろうか。「それなりの評価」の方が、選手と球団の意志がつながりやすい。スポーツの世界で、そんなおかしいことはない。「戦力均衡」の旗印の下に、2位以降は最下位球団から順に指名する「ウェーバー制」が採用されたのも、私はずっとおかしいと感じている。

 スポーツの世界では、勝利者にご褒美が与えられるのが普通のことで、敗者が真っ先に最大の恩恵を受けること自体が不思議だと思うのだが、これはむしろ暴論のように言われる。大きな評価を受ける選手が、何らかの問題があるから最下位に沈んだ組織に強制的に入れられるのは、もう終わりにすべきだ。勝てなかった球団は、自分たちの根本的な課題や欠点を把握し、解消することで翌年以降の戦いに臨むべきであって、有望新人獲得に頼った強化策では組織の本質は変わらずに放置され続けてしまう。