「伸びてホップする」「途中からボールが見えた」といった表現を対戦した打者たちはしている。ところが、大谷の球は球速表示的には驚異的な数字だし、確かに速いけれど「見える」のだろう。見えるから、当てようと思えば何とかなる。広島の打者たちも、ソフトバンク戦の投球から、打てる手応えを持って打席に入り、投球に合わせるのでなく、先に仕掛ける感覚で打ちに行って見事に捉えた。それでも大谷のボールにソフトバンク戦と同程度の球威があればそう簡単には打てないはずだが、球速もいまひとつ、スライダーの安定感にも欠けていたため、大谷自身が自信を持って投げ込めない感じに見えた。

広島・黒田博樹から二塁打を放つ日本ハム・大谷翔平=10月25日、札幌ドーム
広島・黒田博樹から二塁打を放つ日本ハム・大谷翔平=10月25日、札幌ドーム
 そこではっきりしたのは、低めのスライダーがビシビシとコントロールされたら打者たちは手も足も出ないが、スライダーがばらつき、打者が「余裕を持って低めのボールを見極めることが出来たら、大谷は攻略できる」という方程式だ。調子がよくて、そのような不安を一切感じることなくスイスイ投げたら大谷のペースだが、少しでも不安がよぎる兆候があれば、広島にも勝機が見える。

 このように分析して、ひとつ浮かび上がったことがある。もし大谷がメジャーリーグに行き、二刀流ではなくどちらかに絞るとすれば、投手か打者かという究極の選択に迫られる。これまでは、打者も捨てがたいが、あれだけの球速を誇る投手は滅多にいないから、やはり投手だろうと漠然と感じる人が多かったのではないか。だが、日本シリーズ、ことに黒田投手との対決で、大谷の格別な才能が投打どちらにあるか、はっきりしたように思う。

 投手としては、球速こそ速いが、藤川球児、江夏豊のような稀有な球質を持っているわけではない。むしろ打者として、日米の打者たちを翻弄し続けてきた黒田投手を逆に手玉に取るだけの天性の間合いを持っている。マウンドに上がれば140キロ台後半のスピードボールを投げることのできるイチロー選手がまったく投手としての可能性を追わなかった要因もそこにあるのではないか。大谷は身長こそイチローよりはるかに恵まれ、「投手向き」のようにも見えるが、そうばかりではないかもしれない。

 シリーズが7戦までもつれたら、投手・黒田対打者・大谷だけでなく、投手・大谷対広島打線というダブル対決が見られる可能性もある。そこで改めて、大谷の投打の可能性を占うこともできるだろう。

 打者としての不安があるとすれば、上から叩いて楽々と遠くへ飛ばす打ち方をまだ感覚的に掴んでいない感じだろうか。長身の左打者は、長打力も持ちながらなぜか強打者でなく「巧打者」になっていく傾向がある。山本功児しかり、駒田しかり。大谷がそうなるようではつまらない。大きなスケールの打者になってくれるか、それ占う意味でも、日本シリーズの大詰めがますます楽しみだ。