「トリプルスリー」が今年の流行語大賞に選ばれた。
打率3割、30本塁打、30盗塁を同じシーズンに達成すること。長いプロ野球の歴史の中で、昨季までわずか8人しか果たしていないトリプルスリーを、今季はセ・リーグで山田哲人(東京ヤクルトスワローズ)、パ・リーグで柳田悠岐(ソフトバンクホークス)が達成した。二人同時達成は65年ぶり。65年前の1950年、岩本義行(松竹ロビンス)、別当薫(毎日オリオンズ)が達成している。

「あと1本」と言えば、長嶋茂雄もそのひとり。すでに各所で紹介されているとおり、入団1年目に長嶋は29本塁打、37盗塁、打率.305の成績を残している。しかも、本当は30本を打っていた。シーズン終盤、「幻」となった28号を打った際に一塁ベースを踏み忘れ、アウトになった。それさえなければ、長嶋もトリプルスリー達成者になっていた。

ソフトバンク・柳田悠岐 =10月25日、甲子園球場
(撮影・山田俊介)
トリプルスリーという言い方は、野球界でも“通”は使っていたが、それほどみんなが知っている言葉ではなかった。それが今年、一気に“流行語大賞”に選ばれるほど常識的な言葉になった。
野球に関わるひとりとして、この“流行”は今後の野球界にとって大きな意義を持つ、将来が楽しみだと感じている。“トリプルスリー”を目指す流れが野球界の新潮流になれば、間違いなく野球は面白くなる、レベルアップするだろう。
ここ数年、野球界で選手個人を評価する場合、打者なら「ホームランの数」、投手なら「スピードガンの数字」を重視する傾向が続いていた。スカウトがドラフト候補を探すとき、メディアが注目選手を語るとき、それらが最もわかりやすいバロメーターに使われるようになって久しい。本当はそれだけでなく、足の速さ、肩の強さ、守備力など、他の要素も検討材料には違いないが、真っ先に語られるのが「通算本塁打数」と「最速スピード」だから、どうしても、選手も指導者ともその数字を気にする。