柿沢未途(衆院議員)

 2月1日、「中国海警法」が施行された。NHKのニュース報道では、「海上警備にあたる海警局に武器使用を認める法律が施行」と表現されており、他のマスコミ報道も「海警局に武器使用を認める」という点を強調しているが、これはそのように要約できる内容の法律ではない。

 海警法は、中国の国内法ではあるが、実際は国際法を無視して領海の外側に位置する接続水域、排他的経済水域(EEZ)、そして大陸棚を勝手に350カイリまで延長し、そこまでを事実上中国の領海と見なすような一方的宣言をしているに等しいとんでもない法律だ。本法律では、これら海域を事実上の中国領海=国家管轄海域(海洋国土)とし、その海域を守るために中国海警局は他国の公船を排除するために武力行使に及んでもいいことになっているのだ。

 ことの本質は中国が勝手に「事実上の領海=国家管轄海域(海洋国土)を宣言して、それを守る」と言っている点にある。国内法でそう決まった以上、海警局は行政組織たるもの、法律で決まったことを実行しなければならない。中国海警局にとって、東シナ海や南シナ海の接続水域、EEZ、大陸棚を他国の領域侵害から守るのは、法律上の義務となる。やらなければ担当者は自らの立場が危うくなる。彼らは必死で「守りに」くるだろう。左遷やクビがかかっているのだから。

 言うまでもなく、国連海洋法条約では沿岸国の主権が及ぶ範囲は領海(12カイリ)までであり、その外側の接続水域(24カイリ)、EEZの200カイリに主権は認められていない。

 接続水域では出入国管理や通関などの国内法適用、EEZでは資源探査や環境調査などの管轄権が認められているだけである。

 それを勝手に「国家管轄海域(海洋国土)」と名付けて、その海域で中国の主権や管轄権が侵害されていると見なせば、「他国の公船(例えば日本の海保巡視船)の航行を武器使用により排除できる」と海警法では定めている。国際法の初歩を学んだ大学生なら誰でも分かる、明らかな国際法違反である。

 もちろん中国が大学生レベルの国際法の知識を持っていないはずはないし、中国は国連海洋法条約を普通に批准している。そのため、それに違反する国内法を制定・施行するのは当然意図的だ。

 その意図の1つは間違いなく尖閣諸島にあり、海警法が「接続水域」における管制権を行使し、強制的措置をとることを海警局に認めている点からも明らかである。東シナ海にしろ南シナ海にしろ、中国が接続水域の実効支配による実益があるのは当面は尖閣諸島しかない。
尖閣諸島(沖縄県石垣市)の領海に侵入した中国海警局の船(海警1305)。船の前方に砲らしきものを搭載している=2019年8月、海上保安庁提供
尖閣諸島(沖縄県石垣市)の領海に侵入した中国海警局の船(海警1305)。船の前方に砲らしきものを搭載している=2019年8月、海上保安庁提供
 「接続水域」であるがゆえに、この海域には日本の主権も及ばない。つまり日本が国連海洋法条約を順守するならば、日本が中国の公船に強制的措置をとることもできない。しかも日本の主権が及ばない領域であるがゆえに、「日本の施政下にある領域」とされている日米安全保障条約第5条の防衛義務の範囲外でもある。

 米国のジョー・バイデン大統領に「尖閣諸島は日米安保の適用範囲」と明言されて安心していても、「接続水域」にはその保障が及ばないことになる。