こうした感情は容易に、社会に対する不満と結びつく。朴槿惠(パク・クネ)政権下では大統領と特殊な繋がりを持つ人物の娘に対するさまざまな優遇措置が、同政権下における「特権層の不正」を象徴するものとして、若年層の大きな怒りを呼んだ。そこには分かりやすい「特権」があり、その「特権」への批判が存在した。

 そして、現在の文在寅政権下においては、彼らが怒りをぶつける「特権」の一つが、兵役との関連で理解されている。つまり、ここでは徴兵制の下での、政府関係者子息への優遇が、やはり同様の「特権層の不正」の表れである、と見なされている。

 これは、この社会においては兵役が一種の「ペナルティー」として理解されてしまっており、ペナルティーの回避が「利益」だと見なされていることを意味している。だからこそ実際人々は、これを回避するために努力する。

 グローバル化が進み、国際社会での競争が激化する中、兵役の負担はさらに大きなものとなって表れる。兵役の義務は、これを有さない他国の人々との競争において、ハンディキャップとしてしか現れないからである。

 だからこそ、彼らは時に外国国籍を取得し、進んで韓国国籍を離脱する行為をすら選択する。なぜなら「韓国人である事を放棄する」ことこそが、苦役であり、ハンディキャップである兵役を逃れる最も確実な手段だからである。

 これらの点を理解して初めて、韓国におけるオリンピックのメダリストへの兵役免除や、最近の法改正で新たに導入された、韓国の男性音楽グループ「BTS(防弾少年団)」のメンバーらを念頭に置いた「文化勲章などを受けたアーティスト」に対する兵役延期制度の意味が分かる。韓国において兵役は大きな「ペナルティー」として認識されている。それゆえ「ペナルティー」の免除が、大きな「褒賞」として機能することになっているのである。
BTSのメンバー=2019年12月、米カリフォルニア州(AP=共同)
BTSのメンバー=2019年12月、米カリフォルニア州(AP=共同)
 もちろん、韓国にとって徴兵制は北朝鮮との間の軍事的緊張関係に対応し、自衛隊の2倍を大きく超える60万人以上もの軍隊を維持するための重要な制度的柱となっている。

 しかしながら、これは徴兵制が、この社会において兵役への肯定的な感情を広めることに寄与しているか、といえばそうではない。徴兵制は、戦時における死傷の可能性を大きく超えた、キャリアパス上の大きな負担として現れており、国際的競争が激化する中この負担はますます大きなものとなっている。

 だからこそ人々は時にこれを回避するために、国籍離脱、つまり「国を捨てる」ことすら選択する。それは韓国社会において、徴兵制が社会からエリート層を離脱させ、「韓国国民」であることへの否定的認識を広める役割を果たしていると言える。それは徴兵制がこの国において、国民としての団結をむしろ妨げる方向で機能していることを意味している。

 「思考実験」として徴兵制について考えるのは、確かに興味深い。しかしながら、その「実験」を真摯に行うためには、現実に実施されている徴兵制の下で、各国でどのような事態が進行しているかについて、より真摯な検討が行われなければならない。

 そうでなければ、その議論はどこまでも「興味本位」で、「学者の思い付き」のレベルを出ることはない。そして何よりもそれこそが、真に軍隊、そして国家や国民について真剣に考えることだと思うのだが、いかがだろうか。(文中敬称略)