選手たちはシーズンオフに気力と体力を回復させて新シーズンに備えるが、開幕の数週間前にはトレーニングを再開する必要があるため、休暇をとれるのは11~12月の数週間、または、せいぜい1カ月しかない。

 しかも、男子は国別対抗戦、デビス杯の決勝トーナメントなどが昨年から11月に開催されるようになり、さらにオフ期間が短くなった。日程の厳しさと、選手の故障の因果関係を指摘する見方もある。仮にコロナ禍で消滅する大会が出てくれば、必然的に年間スケジュールの見直しが行われ、過密日程の改善につながるのではないか。

 短いスパンで見れば、コロナ禍で導入された暫定のランキング制度がツアーの様相を変えることが考えられる。世界ランキングは過去52週(約12カ月)の成績で決まり、獲得したランキングポイントは52週後に失効する。

 だが、暫定ランキングの制度では19年3月~20年12月の22カ月の成績から算出し、男子は獲得ポイント上位の18大会、女子は16大会を加算する。2年続けて同じ大会に出た場合は、成績の良い方がカウントされるようになっているので、今年同じ大会で昨年を上回る成績を収めれば、獲得ポイントがランキングに反映されることになる。したがって、前年大会より早く敗退してもポイントは減らないのだ。

 どの選手も、ポイントの失効には常に神経をすり減らしている。08年にツアー初優勝、ランキングを急上昇させた錦織も、優勝の直後に1年後のポイント失効への不安を口にしたほどだ。だが、失効を気にせず戦えるなら、重圧はぐんと軽くなる。

 「みんな、ノンプレッシャーでプレーすると思う。試合の雰囲気が変わる」と予想するのは西岡だ。失うものはない、浮上のチャンスと意気込む選手は少なくないだろう。

 また西岡は、敗色が濃くなって早々にあきらめる選手が出る可能性にも言及した。ツアー中断で選手が試合勘を失っていることも予想され、しばらくは少々荒れ模様の試合、番狂わせの多いスリリングな大会が増えそうだ。

 大坂は昨秋、東レ・パンパシフィック・オープンと中国オープンで優勝したが、今年は両大会とも開催中止が決まっている。優勝で得たポイントはそのまま残るため、全米や、9月27日に開幕する全仏オープン(例年は5~6月開催)での頑張り次第ではランキングを大きく上げる可能性がある。

 錦織は、故障を抱えながら粘り強く戦った昨季中盤戦での獲得ポイントが残るのが大きい。右ひじの故障で昨年の全米を最後にツアーを離脱、1年に及んだブランクは痛いが、公式戦から長く離れたのは他の選手も同様で、錦織にとっては長期離脱のハンディが消えたのと同じだ。8月16日に新型コロナ感染と復帰戦の欠場を公表したが、症状は極めて軽いという。
臨時病院として稼働したビリー・ジーン・キング・ナショナル・テニスセンター=2020年4月、ニューヨーク(ロイター=共同)
臨時病院として稼働したビリー・ジーン・キング・ナショナル・テニスセンター=2020年4月、ニューヨーク(ロイター=共同)
 新型コロナウイルス感染拡大が収まらないとして、四大大会に次ぐ格付けのマドリード・オープンの主催者は8月4日に開催中止を発表した。5月開催予定を9月に延期した末の、苦渋の決断だった。ツアーの先行きはいまだ不透明だが、まずは全米が無事に開催されることを祈りたい。

 全米の舞台は、ニューヨークのビリー・ジーン・キング・ナショナル・テニスセンター。同市の新型コロナウイルス感染拡大が最も深刻だった4月、臨時の医療施設として使われた施設である。