昨年10月にウィーンで行われた非公認レースでは、キプチョゲが「超厚底」ともいえるプロトタイプのシューズで42・195キロを1時間59分40秒で走破している。ソールを厚くすることで、エネルギーリターン(反発力)を高めているのだ。

 では、ナイキの厚底シューズにどのような「制限」が加えられるのか。英国メディアの中でも論調が異なっていて明確ではないが、ソールの「厚さ」が規制されるか否かという問題になるだろう。

 ソールを厚くすることでエネルギーリターンを増やすことができたとしても、その分、シューズは重くなり、安定感も失われていく。ソールを厚くすれば、速く走れるという単純なものではない。ナイキの厚底シューズは企業努力の賜物(たまもの)だ。

 もし、ソールの厚さに制限が加えられることになり、これ以上「厚さ」を増すことができなければ、この2~3年に起きたような好記録の連発はなくなるだろう。メーカーは数年後を見据えて商品の開発をしており、突発的な「ルール変更」は大きな損害になる。

 各メーカーがどのようなコンセプトで商品を作っているかは、メーカーが発表するまで分からない。ワールドアスレチックスは大手メーカーにヒアリングした上で、新規則を定める必要があるだろう。

 今回の騒動は、12年前に競泳界で起きた英スピード社の高速水着「レーザー・レーサー」のときと似ている。レーザー・レーサーはその後、使用禁止となったが、多くの種目で当時樹立された記録を上回っている。
「超厚底」シューズを履いて、特別レースで非公認ながら、マラソン史上初となる2時間切りを達成した男子マラソン世界記録保持者のエリウド・キプチョゲ=2019年10月、オーストリア・ウィーン(ロイター=共同)
「超厚底」シューズを履いて、特別レースで非公認ながら、マラソン史上初となる2時間切りを達成した男子マラソン世界記録保持者のエリウド・キプチョゲ=2019年10月、オーストリア・ウィーン(ロイター=共同)
 アスリートたちのスピードアップはテクノロジーの発展とともにある。厚底シューズが「制限」されることになったとしても、そのルール内でシューズは進化して、これからも記録はどんどん短縮されていくだろう。

 ただし、アスリートたちがトップレベルでいられる期間は長くない。素晴らしいギアがあるならば、それを生かして、最大限のパフォーマンスを発揮したいと考えているアスリートたちは多い。彼らのささやかな願いは届くのだろうか。