また、流れを変えたダウンシーンでは、フック系の外のパンチを多用して、ドネアの意識を外側に散らしていた。そこから、アッパーで中を意識させておいて、最後はダウンに持ち込むボディ打ちに繋がった。繰り返すが、井上はまさに心技体がそろった「最強」にふさわしいボクサーであることを証明したといえよう。

 ところで、筆者は現役時代、井上と手合わせをする機会があった。そのときは、筆者が所属している帝拳ジムに出稽古にきたのだ。井上は高校生だったと思うが、当時からプロのジムでも「強い選手がいる」と噂になるような存在だった。

 実際に打ち合うスパーリングではなく、感覚をつかむためのマスボクシング(パンチを当てないスパーリング)だったため、井上の強さを充分に体感することはできなかった。だが、感覚的にはなるが、距離が遠くてパンチを当てさせない距離感は、当時から抜群のものを持っていたと思う。

 井上とスパーリングをした選手に話を聞けば、彼のパンチ力は、「ガードの上からでも効いた」などとの逸話がたくさんある。筆者もプロボクサーとして、一度本気で手合わせしておけばよかったと悔やまれてならない。

 今回の勝利で、井上はWBAスーパー、IBFのベルトを保持している。この階級には、他にもWBC王者のノルディーヌ・ウバーリ(フランス)や、今回のWBSSを棄権したテテといった強豪がいる。

 井上もこの階級に留まるようなので、両選手との対戦も気になるところだ。特にウバーリは、WBSS決勝と同日に行われたWBC世界バンタム級王座統一戦で、井上の弟で暫定王者の拓真(大橋)に勝利しており、今後の対戦候補として有力と言えるだろう。
WBC世界バンタム級王座統一戦の12ラウンドで、打ち合う井上拓真(左)とノルディーヌ・ウバーリ=2019年11月(今野顕撮影)
WBC世界バンタム級王座統一戦の12ラウンドで、打ち合う井上拓真(左)とノルディーヌ・ウバーリ=2019年11月(今野顕撮影)
 また、今後はアメリカの大手プロモーション会社と契約し、世界を舞台に闘っていくことになろう。「パウンド・フォー・パウンドランキング」(全階級で誰が一番強いか)でもトップ5に入っており、このランク入りは日本人ボクサーでは初の快挙で、井上の存在が日本ボクシング界を牽引していることはまちがいない。

 まずはけがの静養が第一だが、来年の春をメドに試合が組まれる可能性が高い。ぜひとも、ボクシングの本場アメリカで金字塔を打ち建ててほしい。