その半面、韓国政府は「反共」を韓国人のアイデンティティーとして強調してきた。一般の国民は、朝鮮戦争の「犠牲者」としての北朝鮮への恨みが、アイデンティティーになった。だが、冷戦崩壊と世代交代により、このアイデンティティーがすっかり色あせてしまった。

 韓国社会では、日本に協力した「植民地世代」と、戦後生まれの「解放世代」「ハングル世代」の世代間対立と葛藤が繰り返された。この世代間対立は、今もなお激しく続いている。

 「独裁支持世代対民主化世代」「維新世代対民生学連世代」「386世代」など、世代間対立を表現する多くのスローガンが創られた。これらの言葉の背後には、正しいアイデンティティー探しの「病理」が隠れていた。

 文政権を支えるアイデンティティーは、「朴正煕(パク・チョンヒ)政権の否定」と、1965年に締結された「日韓基本条約の破棄」の理論である。娘の朴槿恵(パク・クネ)前大統領を権力腐敗の象徴として徹底的にいじめ、自分たちの正統性とアイデンティティーを確立しようとしたのも当然だ。

 だから、徴用工判決と慰安婦問題が、日韓基本条約を見直し、65年体制を破棄する戦略と運動を盛り上げる突破口になると思っている。だが、日本メディアのソウル特派員は、誰もこの「悪だくみ」を指摘しようとしない。

 韓国の政治混乱と日韓関係悪化の背後には、「儒教的正統性」の混乱とアイデンティティー喪失という「韓国病」がある。このリアルを見落として、韓国政治は語れない。

 朝日新聞の記者だった田中明さんは日本における韓国研究の権威者であり、慰安婦問題での一時的な「金配り解決」を痛烈に批判したが、日本政府は耳を貸さなかった。また、アジア女性基金の発足当時の理事には、韓国語もできず、韓国人の心も知らない人たちが選ばれたにもかかわらず、田中さんを理事にすることもなかった。

 この反省を踏まえれば、安倍政権の「国際法(条約)に従うべき」という主張は正しい。日本政府の政策立案者たちは、韓国の主張の背景にある政治文化の病巣と、国民のアイデンティティー喪失という病理を全く理解せず、放置し続けた。これからは「日韓友好」や「対話」の美名に騙されてはいけない。
2018年11月、ソウルの中心街で開かれた北朝鮮の金正恩朝鮮労働党委員長の来訪を呼び掛ける集会。南北首脳会談の写真が展示された(共同)
2018年11月、ソウルの中心街で開かれた北朝鮮の金正恩朝鮮労働党委員長の来訪を呼び掛ける集会。南北首脳会談の写真が展示された(共同)
 国家同士の対話と友好は、相手を尊重しながら、徹底した対立と論争を続け、違いを乗り越え妥協できるとの「覚悟」から生まれる。相手の主張を何でも受け入れるのは、友好ではない。

 日韓民衆の自由往来が実現してから、わずか30年しかたっていない。歴史の時間尺度から考えれば、日本側には「遠くて遠い関係」というリアルな認識が必要だ。当然短時間で解決する問題ではなく、時間のかかる息の長い隣国関係だとの理解を求めたい。