韓国の文在寅(ムン・ジェイン)大統領は9月9日、曺国(チョ・クグ)前大統領府民情首席秘書官を法相に任命した。韓国の国会では、大統領の指名した閣僚候補に対する人事聴聞会を開くことはできても、就任を完全に拒否する権限がない。独裁的で非民主的なシステムだ。

 三権分立の米国では、議会に閣僚任命を拒否する権限がある。民主主義には、自由選挙で選ばれた役職にしか権限を与えない、という思想がある。だから、米国では選挙で選ばれない閣僚は、議会の承認なしには就任できない。

 この基準から考えれば、韓国では三権分立は機能していない。大統領は強大な権限を有し、側近には権力型の不正腐敗が絶えない。韓国の政治学は、この現象を「権威主義政治」「権力型腐敗」と呼ぶ。

 新しい法相は家族の大学不正入学や不正投資に加え、本人の修士論文盗作疑惑を指摘された。疑惑の解明や、議会で決議の無いまま閣僚を任命したことは、民主主義の原則に反する。日本は議院内閣制なので、基本的には選挙で選ばれた議員から閣僚が任命される。

 韓国では、『韓国人』『韓国人とは何か』『韓国の現住所』など、韓国人のアイデンティティーを探す出版物や新聞連載が人気だった。この背景には、韓国の正統性と韓国人のアイデンティティーを探す「終わりのない旅」がある。

 やや否定的に表現すると「韓国人のアイデンティティー喪失」だ。だからこそ、「反日」が手っ取り早い「アイデンティティー探し」になる。

 韓国の儒教文化で最も大切な価値観に据えられるのが、正統性である。韓国は1945年の独立から、国家の正統性の根拠作りに悩んだ。

 北朝鮮のように「日本帝国主義に勝利した英雄」はいなかった。中国で結成された大韓民国臨時政府を正統性の根拠にしたが、参加した人々の思いと勇気は理解しても、組織の実態は必ずしも褒められたものではなかった、と多くの人は知っていた。
ソウルの国会で開かれた聴聞会で宣誓する曺国氏=2019年9月6日(聯合=共同)
ソウルの国会で開かれた聴聞会で宣誓する曺国氏=2019年9月6日(聯合=共同)
 それゆえ、当時の若者や知識層は北朝鮮の持つ正統性に魅力を感じた。北朝鮮を支持すれば投獄されるので、新聞記者やキリスト教会の司祭や牧師に身を隠し生き残った。

 これが今に続く、独立後の「進歩派」「革新派」と呼ばれる韓国左派の源流である。韓国の左派勢力の誕生は「アイデンティティー探し」の一面にもあったのだ。