Jリーガーやプロ野球の投手、ラグビー代表に北米プロアイスホッケー(NHL)選手など、白血病を乗り越えて復帰したアスリートが数多くいます。彼らは、発症から約1~2年後で戻っています。それゆえ確約は決してできませんが、復帰は間違いなく不可能ではありません。

 今回の公表を受けて、報道では「頑張れ」「東京五輪までに治して」「白血病に負けるな」「応援している」というトーンが主体でした。私もその一人ではあります。でも、一部には、彼女にそのような言葉を掛けるのは「親切の押し売り」ではないかという意見も存在することを紹介したいと思います。

 普通に「頑張れ」と表明することが、「応援している自分に酔っているだけで彼女にいらないストレスをかけている」という意見があります。多発性骨髄腫を患う写真家の幡野広志さんや、米在住のがん研究者、大須賀覚さんからも注意喚起がされています。とても難しい話であり、簡単に解決はできません。

 以前、幡野さんと話したときに、医師が考えた「最善」の治療と、その治療のためには副作用も我慢しろという、患者への「強制」の問題を指摘されました。二つの強制が、医師と患者の間で解釈に大きなずれが生じ、ジレンマとなっているというのです。

 確かに、患者一人ひとりの気持ちに寄り添って治療を模索することは、大切だと理解しています。とはいえ、医療の非常識や間違った知識を強制されることに対して、私はどうしても寛容になれません。

 実際の臨床でも、医療的におかしな処置であっても、患者の価値観を重視し希望に沿えるよう努めますが、「医療的にはおかしい」と患者には明確に伝えています。医療者として、患者の希望に全て寄り添い、対応することが全部正しいわけではないと考えているからです。

 また、マスコミが報じる白血病の「完治」という言葉に対して、「自分の白血病は完治してないのに、マスコミが『白血病が完治する』というのはおかしい」という意見も見かけました。つまり、「40~50%が絶対に完治する」と報じることに問題があるというのです。実際、直接対話した患者からも「『完治する』という言葉はおかしい。『運が良ければ完治する』と言わなければ」と指摘されたことがあります。

 背景には、発症前の状態に100%回復するイメージを「完治」に抱く患者と、完全寛解状態が5年以上続き、病気再発も命を落とすこともないことを「完治」とする血液内科の定義に隔たりがあるからです。私も血液内科医として「完治」の定義に従っている以上、この指摘は受け入れなければいけません。
2018年8月、パンパシフィック選手権の公式練習で、外国選手と談笑する池江璃花子選手(左)=東京辰巳国際水泳場
2018年8月、パンパシフィック選手権の公式練習で、外国選手と談笑する池江璃花子選手(左)=東京辰巳国際水泳場
 もちろん家族に対しては、少し厳し目に説明しています。しかし、まだ治療前で、状態もわからない患者に「完治しないかもしれない」という否定的なことを私は伝えたくはありません。患者が治療に前向きになれば、治療成績は向上するからです。

 実際、池江選手と同じ18歳で白血病を発症した女優の吉井怜さんも、「一緒に乗り越えよう」という医師の言葉に元気付けられたことを述べています。たとえ確率的にあまり高くなくても、「完治する」という希望を前面に出すことは間違いではないと、医療者として考えています。