判決は、原告が「募集」に応じた労働者であると知っていたので、「強制労働の被害者」と認定した。なぜこのような無理な判決を下したのか。

 第一の理由は、文在寅(ムン・ジェイン)政権の支持率アップだ。文政権は、南北首脳会談が実現したのに、支持率低下を止められない苦境に直面している。経済状況が悪いからだ。もし「強制連行犠牲者」を敗訴にしたら、国民の怒りを買って、支持率はさらに下がるだけだ。

 判決の背後には、文大統領をはじめとする左派勢力の思いと戦略があった。判決が日韓関係に衝撃を与えることは当初から予想していたはずで、大統領府や政府、そして司法部は日本への対応を練ったはずだ。そうでなければ、韓国の官僚は無能としか言いようがない。

 判決は何を狙ったのか。「大統領支持率アップ」に加え、「日韓併合無効の確定」「日朝正常化の遅延」「日韓基本条約再交渉」「文大統領再選」―と見ていいだろう。一言で言うと、65年日韓基本条約の「ちゃぶ台返し」と、文大統領再選という二つの悪巧みだ。韓国大統領は、現憲法下では再選できないが、憲法改正すれば可能になる。

 それを裏付けるのが、李洛淵(イ・ナギョン)首相の発言と、韓国外務省の「日韓両国が知恵を出し合う」との、おためごかしのコメントだ。李首相は「司法府の判断を尊重する」と述べただけで、「司法の独立」とは言わなかった。

 韓国語で「司法の独立」と言うと、多くの韓国人がシラけ、鼻で笑われる経験を何度もした。司法が独立しているとは、韓国民は決して思っていないのだ。筆者もソウル特派員時代に、大統領府に判決内容を相談に来た裁判所長を目撃した。

 韓国民は、昔から「司法は権力の僕(しもべ)」と語ってきた。それでも今回の判決に、多数の国民が「スカッとした」思いを感じたのは間違いない。国民は「強制労働」「不法な植民地支配」「反人道的な不法行為」の言葉に満足する。大統領の意向が判決に反映されたと一般庶民は思うだろう。
2018年10月30日、韓国徴用工訴訟で新日鉄住金の上告を棄却した韓国最高裁大法廷(共同)
2018年10月30日、韓国徴用工訴訟で新日鉄住金の上告を棄却した韓国最高裁大法廷(共同)
 司法が独立していないと断じる根拠は大法院長官の経歴にある。金命洙(キム・ミョンス)長官の前職は、春川地方裁判所長であった。地裁の一所長が最高裁のトップに抜擢されたわけで、本来ありえない人事だ。金長官は、以前から「徴用工個人の請求権は消滅していない」との立場で知られていた。文大統領が同じ考えの裁判官を抜擢した、と考えるのが常識だろう。加えて、最高裁判事13人のうち7人が文大統領に任命されている。

 判決は「植民地支配の不法性」を強調した。日韓併合を「国際法違反で無効」とする主張を、最高裁が公式に認めたのである。