ただ、「漢江の奇跡」と称された経済発展が曲がり角に達し、韓国も低成長の時代に入ると、キリスト教の伸びは前述したように鈍化した。それは、新宗教に近いキリスト教から活力を奪うことにもなった。最近の韓国では、プロテスタントからカトリックに改宗する人間が増えているといわれるが、現世利益や病気治療ではない、社会的にも認知された宗教が求められるようになってきたのであろう。

 もう一つ、韓国の宗教の特徴は、経済界と結びつきやすいということがあげられる。韓国は依然として財閥社会で、「10大財閥」が力を持っていると言われるが、財閥が強いということは、経済構造が十分には近代化されていないことを意味する。だからこそ、財閥をめぐってさまざまな事件が起こるのである。

 セウォル号事件の際には、この船の実質的なオーナーは、兪炳彦(ユ・ビョンオン)という造船業や海運、遊覧船を経営するセモグループの前会長だとされたが、この人物は、同時に救援派(クウォンパ)という宗教団体の開祖であった。この団体の正式な名称はキリスト教福音浸礼会である。

 救援派はキリスト教の異端とも言われるが、プロテスタントの場合、バチカンのような世界的な組織があるわけではなく、正統と異端を区別する仕組みが存在しない。救援派のような新宗教に近いキリスト教の宗派は、韓国にいくらでも存在するのである。

 経済活動を実践しつつ、宗教活動も行う組織としては、世界基督教統一神霊協会がよく知られている。いわゆる「統一教会」のことだ。この組織は、世界平和統一家庭連合に名称が変更されている。

 日本の統一教会と言えば、勝共連合との結びつきもあり、政治的な宗教団体のイメージが強い。だからこそ、日本共産党やそのシンパと対立してきたわけだ。

 しかし、韓国では、むしろ財閥グループとしての性格が強い。経済活動は、宗教活動を支えるための資金集めの範囲には収まらず、むしろそちらの活動の方が中心であるようにも見える。少なくとも、日本の統一教会と韓国の統一教会は、かなり性格が違う組織なのだ。
2017年11月、旅客船セウォル号の船体の前で、記者会見する行方不明者の家族ら(聯合=共同)
2017年11月、旅客船セウォル号の船体の前で、記者会見する行方不明者の家族ら(聯合=共同)
 韓国のキリスト教は、「富者は神の祝福を受けている」と主張することによって、資本主義のイデオロギーを支持する役割を果たしたともいわれる。宗教には、信仰によって人々を結び付ける働きがあり、韓国の財閥や経済グループの中には、その点で宗教を利用してきた勢力もあったことになる。

 韓国では、キリスト教が庶民層をも引きつける生きた宗教であるがゆえに、経済や政治と結びついていきやすい。弾劾された朴槿恵元大統領も、キリスト教の影響も受けた新宗教の教祖とその娘と深い結びつきを持ったことが疑惑の一つの焦点になった。

 以上のように、韓国社会を見ていく上で、宗教とのかかわりということは、現在でも極めて重要な側面なのである。